NokiMo
hinaga
hinaga

fanbox


あいつとシェアハウス 50 ~序盤拡張公開~

「今からお前のこと、犯すから」


「は……?」


「……なーんつって」


 飄々とお道化る狼が、夕焼けには不釣り合いなほどだった。意味分からん、という顔でそいつを見れば、傍らから俺がここに来たときに着ていた服を取り出し、持ち前のニヤケ面を返してくる。


「とりあえず着替えとけ。汗だくじゃ嫌だろ」


「ああ……って、はぐらかすなよ。なんだ、さっきの」


「別に。ただそういう設定にしようかなってだけ」


「設定……」


 訝る俺の目の前に、梓馬はすっと端末を差し出してきた。送信済みのメッセージ欄には、『やっちまってもいいよな?』の文言。宛て先はどうやら、悟と泰利のようで。


「……んだよこれ」


「まあまあ、後のお楽しみっつーアレ」


 楽しげに語る梓馬は、端末をひらひらとさせながら笑う。


「こんだけ煽りゃ、流石のアホ面も慌てんだろ」


「ホントに上手くいくのかよ、それ」


「おいおい、忘れてくれちゃ困るぜ」


 あくまで疑念を抱く俺に、狼は自信たっぷりな面相で放った。


「梓馬くん、エスパーなんで」




     ◆




 目が覚めると、朝だった。半開きの瞼のまま、鈍い上体を持ち上げようとするも、上手いこと起き上がれない。淡い光の中、ぼやけた意識をなんとか揺り戻す。


 身体は動かなかったが、首は回せるらしかった。見慣れた天井、見飽きた部屋。だけど、久しぶりの光景。そのうち段々と頭が冴えてきて、ようやく腹をまさぐる手に気付く。


 寝息と、少し汗ばんだ匂い。時折、耳元を嗅ぐようにマズルが微動してきて、こそばゆさで頬が疼いた。喜びと、安穏。長らく味わっていなかった感覚のせいか、現実味がない。


 柔らかな日差しが眩しくて。俺を抱きかかえる腕が優しくて。なんかまだ、夢の透き間でも漂ってるみたいで。高揚感と、心地よさとで、胸がいっぱいになって。


「…………」


 ホントに、夢なんじゃなかろうか。温もりの先にあるものは、実は全部幻かなんかで。あの日から続く空白の延長線上で、都合のいい空想に浸ってるだけなんじゃ。


 背後では変わらず、深い寝息が続いている。寒気が鼻のてっぺんを撫でる度、抱き寄せてくる腕の力。後頭部をくすぐる呼吸。何度も夢に見た体温、匂い、感触。それらが一度に、しかもこんなにも傍にあることが、とにかく胡散臭くて。夢の端っこにいるみたいで。


「…………」


 意を決して振り返る。頬に当たる朝日。伸びかけの毛並。涙でゴワついた目元。口を半分開けたままの、寝顔。


 布団からどうにか腕を取り出して、頬をつつく。その度に頬が歪んで、射した光が色んな形状に移ろっていく。たまにむにゃむにゃと口角も動くせいで、余計にぼやけた光になって。


 それを見てふと、笑みが零れた。アホな面だなぁ、ホント。昨日の晩のこととか、もしかして忘れてるんじゃねえかってぐらいの、そういう間の抜けた表情。久々に見るせいか、なおさら新鮮に思える。


 ……でもだからこそ、現実だった。夢でも幻でもない朝。最も近くにあって、最も遠くにあった存在が、間違いなく隣にいる。



□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 先行公開はここまでとなります。

 全編については後日の投稿をお待ちください。


 ※全編では先行公開と描写の差異がある可能性があります。

  あらかじめご了承ください。


 ※今回のヘッダー画像はアモウさんに

  以前描いていただいたものを使用しております。

あいつとシェアハウス 50 ~序盤拡張公開~

Related Creators