「では次、赤木くん」
「…………」
気付けば薄暗がりの中にいた。雑多で真っ白な部屋。棚に入りきらなかった資料や書籍が、所狭しと積み重なって空間を圧迫してる。そのせいか、なんだか息苦しい。
「……赤木くん?」
「…………」
小さく唸る機械の駆動音が、鼓膜を上滑りしている。プロジェクターから放たれた淡い光が時折明滅して、途切れ途切れながら視界が暗闇になる。なんだろう、眩暈みたいだ。雨の日のあの、空がひび割れたような声が響いて――。
「――おい、赤木」
「あ……いって」
脳天に痛みが走る。誰かに叩かれたらしい。我に返った途端、覗き込んできた坂東先輩の顔つきを見て、瞬時に状況を把握した。慌てて自分の資料をひん掴んだところで、教授の強面がこちらを睨みつける。
「大丈夫かな、赤木くん」
「あ、は、はい」
声を裏返らせながら立ち上がれば、全員の視線がこちらに集まってきた。心なしか笑いも聞こえる。半笑いで誤魔化すも、居心地の悪さは背筋を撫で回してきて。発表の場に立つと、その違和感は更に強みを増して。
「では、よろしく」
教授の合図で、俺は資料を開く。教授は相変わらずよく分からない表情だったが、坂東先輩はどこか険しい眼差しでこちらを見据えていた。
「えーと、それでは……」
たどたどしくも口を開く。薄暗がりの中、淡い光で目が眩んでいく。資料を捲る度、言葉を発す度、視界が歪んでいく。やがて誰の顔も見えなくなって、ただひとり世界に取り残されていく。
「そんで……あの」
段々と、脳裏にある言葉も尽きてきて。懸命に絞り出そうにも、どうしても狼の声が思考回路を遮ってくる。去っていく夏が、残り香を捨てていったあの日。騒がしい雨足の、疎らな駅前の広場で、俺の耳を劈いたあの声が……今も、まだ。
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