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姫始め

執務室の前で、司令官がノックをする。

本来はその部屋の主であるはずの、司令官が、だ。


「どうぞ」

中からの返答を聞いた司令官が、ドアを開けて中に入っていく。


…少しあって、私もそれに続く。

出来るだけ司令官の背に隠れる様に。

視線を足元に落としたままなのは、履き慣れない草履のせいではなかった。


「…思っていたよりも早かったな。初詣はどうだったね?」

入って真正面にある、司令官の机。

そこに座っていた男がゆっくりと腰を上げながら問いかける。


「いやぁ、人がすごく多くて疲れました…!本当はもう少しゆっくり回りたかったのですが……人波に押し出される様にして、お参りだけ済ませて来ました。それに、あまり元帥をお待たせしても悪いな、と思って」


「なぁに、気にすることは無い。普段は鎮守府に詰めっぱなしで、行事ごとなど参加出来ないだろう?暇を持て余した爺に、留守番くらいさせてくれ」

そう言って男は笑い、続ける。


「…ゆっくりしたいなら、もう少し留守番しても良いが。どうするね?」

「いえ、普段は行けない初詣に行けただけで満足です。」

「…ふむ、遠慮せんでも良いのだが。…そうか」

男は肩をすくめてから、机に置いてあった帽子を取り、しっかりと被った。


「留守中の数時間、特に異常なし。故に引き継ぎもこれと言ってない」

「ありがとうございます!」

「うむ、では通常通り、業務に戻り給え」

「はい!」


「……」


「…と言っても、君はここからがまた、忙しいのだがな。」

司令官と真面目な顔で向き合った男だったが、ふっと息を吐き、意地の悪そうな表情をして笑った。


それと同時に、執務室のドアが大きな音を立てて開いた。

続いて、ぞろぞろと艦娘達が入ってくる。どうやら中の様子を見計らっていた様だ。

「明けましておめでとー」

「提督あけおめー」

「司令官お年玉頂戴ー」

「提督ー、酒飲も~ぜ~!」

皆、口々に思い思いの言葉を喋りながら寄ってたかって司令官に群がっていく。

一瞬にして執務室はパンク状態だ。

戦艦から海防艦まで、ほぼ全ての艦種の艦娘がいる、中には酒気を帯びている者もちらほら。


鎮守府には相当数の人が在籍している。

広い府内では、数日顔を合わせない艦娘がいる事もざらだが、こと元旦に置いては違う。


新年の挨拶の為にほとんど全ての艦娘が、司令官の元へやって来る。

もちろん挨拶は口実で、お年玉をせがまれたり、一升瓶を持って酒盛りを始めたり、普段関わりの薄い艦娘達もここぞとばかりに絡みに来るのだ。


年明けは例外なくどの鎮守府でも、司令官が一日中、挨拶回りと普段の甲斐性不足の返済に奔走する日になっている。


全員からもみくちゃにされて、助けを求めるような司令官の手だけがちらりと見える。そんな状況の中で一人、あっけに取られていると、背後に気配がした。


気配の主は、分かりきっていた。

そして想像通りの声でぼそりと、耳元にささやかれる。


「落ち着いたら、抜け出して私の部屋に。…あぁ、服はそのままの方が良いな」

ぽんと、肩を叩いて、楽しそうに男は部屋を出ていった。



……



しばらく、司令官が中にいるであろう人集りを、何も考えずにぼーっと見ていた。

まるで、ホームコメディの一幕の様なそれを。



……



………



神社で願った思いは、その日のうちに踏みにじられた。




いつもご支援ありがとうございます!

なんか予定よりすごく遅くなった…すみません。

一応着物を描いたつもりなんですが、浴衣に見えちゃうかな。

知識不足で柄とか帯の構造だったり、場にそぐわない物になってたらすみません。



新年の明けたということで、早速元帥も筆始めで挨拶。

去年も"お世話"になりましたが、今年もヨロシクするつもりですね。


今月はあと3回更新予定です。

ではでは、またー。

姫始め 姫始め

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