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枡久野恭(ますくのきょー)
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SS かぐや様 2024石ミコ 完敗と戦果


SS かぐや様 2024石ミコ 完敗と戦果


 ミコは両親との関係が上手く行っていないことに深く悩み思い詰めていた。それは彼女の両親が悪い人だからではなく眩し過ぎる人だから。ミコはその眩しさに幼い頃は疑問を抱かなかった。両親の様にあろうとして努力を続けた。

でも、思春期を迎えて……おそらくは僕と恋人同士になった辺りからそれが崩れた。ミコはその眩しさを苦痛に思うようになった。彼女にとっては初めての反抗期を迎え、彼女、いや、彼女たちは関係修復ができなかった。前の時間軸でミコが僕の部屋に住み、実家に戻ろうとはしなかったのも両親とのすれ違いが根底にあったことは間違いない。

 そして今回の時間軸で、僕との恋人関係がなかったことになったミコは僕の部屋には住まなかった。両親と接する時間が前の時間軸と比べて増えたのだろう。その結果、両親とのギクシャクが増してしまい、今日という日に限界を迎えた。そういうことなんだと思う。

 だから僕はミコの両親と会って話をする道を選んだ。前の時間軸、ラブラブ絶頂だった時にも遂に選ばなかった行動だ。無謀であることは重々承知していた。相手は信念を持った正しい大人で、僕は小狡いだけの子どもだ。理屈屋だが理屈では勝てず、社会的なポジションでのマウント合戦ではもっと勝てない。でも、負けると分かっていても挑まない訳にはいかなかった。ミコの泣き顔をこれ以上見ていられなかったから。



「…………石上って随分無茶をするよね」




 ミコの両親との会談を終えて彼女の家近くの児童公園に来ていた。ミコは呆れた声を出していた。でも、その身体はベンチに座る僕にピッタリとくっ付いて寄り添っていた。


「漫画の主人公みたいに情熱だけでどうにかなると甘い期待を抱いていたわけだけど……やっぱり無茶だった」


 論戦は僕の完敗だった。

 世界の正義の為に戦い続けるミコの両親は話術の巧者でもあった。そうでなければ戦い続けるなんて出来る筈がない。分かっていたことだった。

 彼らは僕の述べることを頭ごなしには否定しなかった。一定程度受け入れた。でも、譲らない一線は鮮明に有しており、その線引きは、僕やミコから見れば息苦しいものに他ならなかった。幾ら言葉を述べてもその線は決して譲らない。そもそも向こうの方が正義であり規範に則っているのだから当たり前だ。でも、それが苦しいし、脱力感を覚えさせられる。ミコが両親との対話を拒否していった理由が僕にもよく分かった。


「でも、石上が言ってくれたおかげで……スカッとした」


 ミコは僕に向かって微笑みかけてくれた。

 両親との論戦は僕の完敗だった。でも、一矢報いることぐらいはできた。それは、ミコの両親の立っている土台があまりにも歪だったから。

 彼らは世界を少しでも良くしようと戦い続けている。弱者の側に立って強者と戦い続ける正義の味方。でも、だからからか、あまりにも禁欲的というか、我慢し続けることを当然視し過ぎていた。そうしないと弱者側に真の意味で立ったとは言えないとかそんな理由だと思う。両親が自分の正義を実行するために我慢するのは別に勝手だ。でも、ミコにまでその禁欲、我慢を当然のこととして受け入れろという姿勢は絶対におかしい。ミコはその当然のせいで追い詰められてしまった。だから、その点を突いた。


『ミコを、自分の娘を、自分たちの正義実行の為の道具として使うなっ!』


 完敗した話し合いの中で、唯一僕の言葉が相手に突き刺さった部分だった。

 その台詞を聞いた後、ミコは僕の手を取って家を出てこの公園まで導いたのだった。


「石上の言葉を聞いて私、決めたの♪」


 ミコの声はとても弾んでいた。図書館にいた時の今にも消えてしまいそうなか弱く苦しい声とはまるで違っていた。続きを促したくなる声色だった。


「何を?」


 僕がトスを返すとミコは満面の笑みを浮かべ、そして言った。


「悪い子になるって♪」




 意外、というかむしろ予想通りの答えだった。

 正しい両親の教えに従うのが苦痛なら悪い子になるしかない。自然な反応ではあった。


「ミコの不良か。どんな感じになるかちょっと見てみたいね」

「不良じゃなくて悪い子」


 ミコは首を横に振ってみせた。不良と悪い子。僕には同じに聞こえるが、彼女の中では別物らしい。


「で、ミコは悪い子になって何をするつもりなの?」


 悪い子になったミコが何を始めようというのか。興味はあった。

 彼女はごくアッサリと僕の問いに答えてみせた。


「つるむ」

「誰と?」


 ミコはニヤッと不敵な笑みを浮かべてみせると僕の腕を取ってみせた。


「正義の使徒に愚かにも歯向かった悪い少年と♪」


 ミコがギュッと力を込めた。幼い顔に似合わない大きな胸が僕の腕に押し付けられた。


「悪友から、始めましょ♪」

「僕は悪い子決定なんだ」


 思わず笑ってしまった。

 ミコのご両親との対決は完敗だった。でも、ミコを元気にすることはできたのだから十分すぎる程の戦果はあった。僕はこの結果に大きな満足感を覚えたのだった。

 こうして、この日を境に僕とミコの新しい関係がまた始まったのだった。








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