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枡久野恭(ますくのきょー)
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SS わんだふるぷりきゅあ! 蟹江 略奪愛



SS わんだふるぷりきゅあ! 蟹江 略奪愛


「公式サイトのキャラクター紹介に載っていながら、下の名前がない。番組最初期にはいろはちゃんや兎山くんとの絡みもちょくちょくあったけど、まゆちゃん、ユキちゃんが転校してきてからは学校シーンでもほとんど出番がない。大熊ちゃんには大熊牧場を舞台にしたお話があったけど、あたしには見せ場が今まで一つもない。今のあたし、完璧にモブに落ちちゃってるよ~っ!」




 わんにゃん中学にゃんわん組在籍のJC蟹江(フルネーム不明)は帰宅したばかりの自室で深く深く悩んでいた。

 『わんだふるぷりきゅあ!』開始時期にはキャラクター紹介があるクラスメイトということで準レギュラーになれるのではないかと期待していた。事実、2年1組にはじめは犬飼いろはと兎山悟しかレギュラーキャラがおらず、蟹江は絡み放題だった。

 だが、犬飼こむぎ、猫屋敷まゆ、猫屋敷ユキが転校してきたことで話は大きく変わってしまった。プリキュア+悟でグループが形成されてしまい、学校内シーンでも彼女たちだけで話が回るようになった。蟹江や他のクラスメイトはいろはたちに絡むシーンがほとんどなくなってしまった。話を進行させる為のヒントを与える役回りは皆無になった。

 それでも、蟹江の親友である大熊(フルネーム不明)は、大熊牧場の牧場主の娘ということでスポットライトが当たる回があった。動物の世話をすることの苦労と喜びをいろはたちに示した。

 けれど、蟹江にはいまだスポットが当たる機会が一度も訪れていない。出番は減っていく一方で、今ではクラスメイトのモブと変わらないところまで扱いが下っていた。

 けれど蟹江はこのまま終わってしまうことを良しとはしなかった。時期的に見て、レギュラーキャラ入りする最後のチャンスを窺っていた。


「メェメェのうっかりミスだったとはいえ、兎山くんはいろはちゃんに告白した。いろはちゃんはどう返事するのか戸惑っている。今こそ、あたしが割って入ってレギュラーキャラの座を掴む千載一遇の好機っ!」


 悟がいろはに長年の想いを告げた(間接、不本意)ことにより、2人とその周囲の人間関係は急速な変化の刻を迎えようとしていた。主役たちに大きな心の乱れが生じている今こそ蟹江にとっては最大のチャンスに違いなかった。


「いろはちゃんが告白の返事をする前に兎山くんを横から奪っちゃえば……あたしに注目が集まるよね♪」


 略奪愛。それが蟹江がレギュラー入りする為の最後の策だった。


「まあ、相手が貧弱坊やな兎山くんってのはちょっとアレだけど。でも、レギュラーキャラになれる方が大事に決まってるもんっ!」


 蟹江は別に悟のことが異性として興味がある訳ではなかった。番組の初期には、シャイで女子とまともに喋れない悟をからかうポジションだった。

 けれど、最新の話で悟は実はモテモテで、女子から時々告白されていたが全部断っていたという設定が追加された。それが悟いろ好きのまゆの乙女心に火を点けて、悟からいろはへの愛の告白という流れを作った。

 モブに落ちてしまった蟹江としてもこのビッグウェーブに乗るしかない。悟といろはが結ばれてしまう前に強烈な横やりを入れる。それこそが、スポットを強烈に浴びる為に必要なことだと少女は考えたのだった。


「兎山くんの気持ちはいろはちゃんでカッチカチに固まっている。いろはちゃんも兎山くんのことを特別の目で見ていることは誰だって分かる。普通に考えたら割り込む余地なんてない」





 悟といろはの仲は盤石で介入する余地はない。自分でそう断じながらも蟹江は不敵に笑っていた。


「だけど、兎山くんは思春期の男の子っ! いろはちゃんより先に既成事実さえ作ってしまえば、幾らだって奪ってしまうことは可能っ! 愛はなくても付き合えるっ!」


 蟹江は制服を豪快に脱ぎ捨てていく。

 下着さえも全部外して完全な裸になってみせた。


「兎山くんが如何に奥手だろうと……同級生美少女が裸で迫ればガオガオな野獣と化す筈♪ 男なんてみんなチョロインなんだからっ♪」




 鏡に自分の裸を映してみせる蟹江は自信満々だった。

 少女は別にスタイルに恵まれているわけではない。顔に関しては結構自信がある。アイドルになれるかもと密かに思っている。けれど、スタイルに関しては普通の同年代女子よりも少し小柄で貧乳気味だった。

 だが、胸が足りなかろうと関係ない。思春期男子にとっては、美少女クラスメイトの裸。その一言で全てを超越することができる。そう読んでいた。


「裸で抱き着いてほっぺにチュッとしてあげれば……兎山くんはあたしの魅力に嵌って恋人になることを認める筈。躊躇するようなら、男の責任をくすぐって、強制的に恋人になることを認めさせてやるんだから」




 水も漏らさぬ二段構え。蟹江は己の策に絶対の自信を持っていた。それは奥手で、けれど異性に興味が強くあって、責任感がとても強い。そんな悟にはハニートラップが有効だという見立ては間違ってはいない。そう思えた。

 だが、少女にとって重要なのは特に好きな訳でもない悟と付き合うことではなかった。


「あたしが兎山くんと付き合い始めれば、兎山くんのことを特別に想っているいろはちゃんは黙っていられない。あたしに憎しみをぶつけて、悟くんを奪い返す逆略奪愛が発生する筈♪」


 悟を盗られたいろはからのリアクション。それこそが彼女の真の狙いだった。

 仮に悟と付き合ったところで、彼女の出番が大幅に増えるわけではない。プリキュアであるいろはと絡んでこそスポットが当たる。故に平穏無事な男女交際など意味はなく、いろはが嫉妬に駆られて行動を起こしてこそ蟹江にとって初めて有意義になるのだった。


「怒りのあまり女王さまと化したいろはちゃんに捕まりたいっ♪」




 捕まりたいと口に出す蟹江の呼吸はとても荒く乱れて頬は赤く染まっていた。


「いろはちゃんに拘束されて身動きが取れない状態で、泥棒猫って罵られたいっ! いろはちゃん的には泥棒犬っ? あたしのキャラ的には泥棒蟹っ? ハァハァハァ」


 蟹江の瞳には♡が浮かんでいた。

 少女には人には言えないちょっと特殊な性癖があった。


「いろはちゃんに罵られながら鞭で叩かれたい♪ ううん、男を取りあう仲なんだからビンタの応酬したい。いっぱいいっぱい叩かれたい♡」


 蟹江は妄想に暴走していた。

 お気に入りの少女に叩かれたい、虐められたいというドMな願望を彼女は胸に秘めて培っていた。男相手よりも女相手の方が性的に興奮する。それもまた蟹江という少女の隠れた性癖だった。


「あたしはいろはちゃんにどんなに可愛がられ……虐められても兎山くんと別れると言わない。業を煮やしたいろはちゃんは、あたしを本格的に監禁してペットとして扱う様になるの♪」



 

 蟹江の妄想はいろはのキャラから大きく外れて大爆発していた。


「室内ペットにされたあたしは世間的には行方不明。いろはちゃんは素知らぬ顔で学校に通い、あたしがいなくて落ち込む悟くんを優しく慰めながら急接近。あああっ、あたしを中心に物語が加速するぅ~~っ♡」


 蟹江の妄想爆発は連鎖して止まらない。少女は自分が中心に展開される物語に酔い痴れていた。それがプリキュアにはあまりにも似つかわしくない過激ティーンズラブ路線になっていることも忘れて。


「あたしの本当の時代は……これからだぁああああああああああああぁっ♡」


 右手を振り上げて喜びと興奮に露にする蟹江。

 物事は頭の中だけで計画を立てている時が一番楽しい。

 蟹江は悪女レギュラーを夢見て人生を謳歌しているのだった。



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