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枡久野恭(ますくのきょー)
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SS 俺いも 2024長編13 連絡


SS 俺いも 2024長編13 連絡


「どうも桐乃はあやせや加奈子といった表の友達には連絡を時々取っているらしい」


 GWが明けた週の土曜日の夜。バイトから帰ってきて、一緒に入浴中の京介がもたらした情報は瑠璃を二重の意味で混乱させたのだった。


「アメリカにいる桐乃が日本の友達と連絡を取っている? 何故、貴方がそれを知っているのかしら?」




 京介がもたらした情報は瑠璃が知る1周目の桐乃のスポーツ留学の記憶とは随分と異なるものだった。

 サザエさん時空に嵌っている瑠璃だが、過去に桐乃がスポーツ留学でアメリカに旅立ったのは最初の1周目だけだった。その1周目で桐乃の留学は順調とはとても言えないものだった。ストイックに自分を追い込み過ぎた。大好きなエロゲーは全て置いて行き、走りで結果を出すまではと日本の誰とも、家族にも親友にも連絡を取らなかった。その結果、ますます自分を追い込んでしまった。




 最後にはオタグッズの全てを処分する様に京介に連絡を一度だけ寄越してきた。それで京介がアメリカに渡り桐乃を連れ戻した。その際に、動揺していた京介を元気付けたのが瑠璃だった。瑠璃が初めて京介の頬にキスをしたという思い出の波乱イベントでもあった。

 だからこそ瑠璃の記憶に強く残り、1周目との違いを消化しきれないでいた。


「ああ。桐乃がアメリカに渡ってしばらくは連絡がなかったらしいんだが。新学期を迎えてから急に連絡が来て。それからSNSの学校友達グループに1週間に1度ぐらいの頻度で生存報告が届くようになったらしいぞ」

「…………ということは、桐乃は競争で誰かに勝ったということかしらね。コンディションが良かったのか、それとも、1周目みたいには自分を追い込み過ぎなかったのか」


 瑠璃は思案顔になって以前の時間軸のことを詳細に思い出していた。

 桐乃はスポーツ留学生同士の1対1の競争で誰かに勝つまで日本の誰にも連絡を取らないと決めていた。そして勝てなかったので本当に誰とも連絡を取らなかった。だから、今桐乃があやせたちと連絡を取っているということは、桐乃はタイマンレースに勝利したことを意味しているのだと瑠璃は解釈した。

 

「そして、学校の友人には連絡をしても、私や京介たち家族や沙織には連絡を入れていない。日本と連絡を取っていることを私たちには知られたくない。そういうことなのね」


 大きなため息が漏れ出た。

 この時間軸の桐乃が瑠璃と京介の結婚を快く思っていなかったことは義理の両親から聞いている。高坂家や裏の友人に連絡を入れないのは、自分たちと繋がりたくないのだろうと推測するのは簡単だった。


「それで、何故貴方が新垣あやせから情報を得たのかしら?」


 あやせの存在は瑠璃にとって面倒なものだった。殺人も厭わない狂信的な京介ストーカー。妻である瑠璃にとってはこの上なく危険で鬱陶しい存在だった。だが、あやせとも今回の時間軸はほとんど接することがなかった。


「ああ、GWのメッセでのイベントの格ゲー大会表彰式で再会しただろ。それから、あやせの方から声を掛けてくれるようになったんだよ」




 京介は深く考えている様子もなくあやせが再び絡んでくるようになったこと楽し気に述べていた。


「……GWのゲーム研究会イベントが眠れる大蛇を呼び起こすことになるなんて。偶然とはいえ、眠れる大蛇を呼び起こしてしまったわね」


 大きなため息を吐き出すしかなかった。

 これまでの時間軸と異なり、今回は様々な面で違いが生じている。また、ゲーム研究会部長として振る舞わねばならず、瑠璃にとっては心身ともに負担が大きい。それに加えてあやせの動向にも気を配らないといけない。瑠璃にとっては頭の痛い話だった。


「まあ、桐乃は俺たちへの連絡は拒否しているにしてもだ。あやせたちには連絡を取っているということは、それなりに元気にやっているということだ」

「でしょうね」


 天井を見上げる。湯気で曇って見えた。


「私が知っているスポーツ留学時と比べて、今回の桐乃はそこまで追い詰められているわけではなさそう。ということは……この件、前回と同じように短期間で解決したりはしないということね」


 心理的に追い詰められた桐乃が隠れたSOSを発信してこなかったら。京介も義父も危機感をもって早急にアメリカまで義妹を連れ戻そうと動くこともなかった。

 桐乃のメンタルが一定以上の水準で保たれていることは望ましい。けれど、スポーツ留学に打ち込める環境にあるということは日本には帰ってこないことを意味する。桐乃に避けられている瑠璃にとっては痛し痒しな状況だった。


「ほんと、困った状況だわ」




 歯痒い想いは積もるもののどうしようもない。とりあえずは静観することを決めた瑠璃。だが、いつまでもその静観は続けられないのだった。


つづく



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