奨学金を受給される条件が変わってしまい、生徒会長として大きな実績を挙げることが必須となってしまった白銀兄妹夫婦。中でも中等部生徒会は権限が元から少ない為に圭は圧倒的に不利な環境にあった。
萌葉や御行との話し合った結果、秀知院学園中等部生徒会として大きなイベントを半年の任期内に開催することは不可能と判断。代わりに圭は秀知院学園中等部生徒会として参加できるイベントを探し始めたのだった。
「中学生が、生徒会の名前を出しながら出場できる世間的に認知されてるイベントなんて全然ないよ~っ! どうしたら良いの……」
圭が生徒会長に就任して約1か月ほどが経った6月初めのある日の放課後の生徒会室。事務仕事をこなしながら現役生徒会長は嘆いていた。
圭なりにこの1か月、イベントについては様々に調査して問い合わせもしてみた。だが、秀知院学園があるおひざ元の港区では、次の選挙までに実施される適当なイベントがなかった。正確には個人単位で参加できるイベントは数多くあったが、秀知院学院、或いはその生徒会の看板を背負って参加できる行事はなかった。中学生、まだ義務教育という点も不利に働いていた。港区以外にも範囲を広げて探ってみたが、今度は何故秀知院の生徒会が地元以外のイベントに参加するのか圭自身説明ができなかった。秀知院が今まで外部との交流に消極的だったことがハードルを高くしていた。
圭は八方塞がりの状況に陥っていた。だが、この問題に取り組んでいたのは圭だけではなかった。
「圭ちゃん、失礼するよ」
「ああ~♪ 御行さまが中等部の生徒会室を訪れるなんて♡ オフィスラブが……NTRが始まる予感っ♡ 14歳妊娠は避けられない~♡」
兄夫が生徒会室に入ってきた。その後ろには副会長で、御行との不倫を目論んでいる藤原萌葉もいた。2人は興奮した面持ちだった。後者に至っては変な目的で興奮していたが。
「お兄ちゃん、中学の生徒会室まで一体どうしたの?」
圭が知る限り、御行が中等部の生徒会室を訪れるのは初めてのことだった。それどころか高校からの編入世である御行は中等部の敷地に足を踏み入れたことがほとんどない。それだけに驚きだった。
「圭ちゃんたちに出てもらう手ごろというか、唯一のイベントを見つけたぞ」
「本当っ!?」
圭は勢いよく立ち上がって驚きの声を発した。机の上から書類の束が落ちて行ったが、気にしている場合ではなかった。
「私が、高等部の生徒会室に出向いて御行さまに進言したのよ♪」
「ああっ、萌葉くんの意見が丁度俺が考えていたことと一致していたんでね。もうこれしかないと思ったんだ」
2人は興奮していた。萌葉は御行を見て涎を垂らしていたが。
萌葉がわざわざ高等部の生徒会を訪れたのは御行へのポイント稼ぎの為。それは分かっており、腹立たしかったが、今は御行の持ってきた案件の方が大事だった。
「…………それで、私は何をしたら良いの?」
「正確には私たち、だな。ソロだと生徒会って感じにならないから駄目だな。萌葉くんとユニットを組んでもらうぞ」
「ソロだと駄目? 萌葉とユニット?」
圭の頭に混乱が広がる。
「愛しの御行さまに頼まれた以上、この藤原萌葉。一肌も二肌も脱いでご覧に入れます♪ この場で脱いで全てを晒すのも無問題です♡」
萌葉が喋る度に圭は苛立ちを感じていた。けれど、やはり構っている場合ではなかった。
「それで、おにぃは私と萌葉に何をさせるつもりなの?」
妹妻の問いに対して兄夫は親指を立てながら笑顔で答えてみせた。
「圭ちゃんと萌葉くんにはスクールアイドルになって、秀知院学園の芸術面での名を天下に轟かしてもらうぞ」
「スクールアイドルっ!?」
完璧に予想外の提案がなされて圭は面食らったのだった。
***
「圭ちゃんは俺と萌葉くんからの提案が気に入らないのかな?」
「気に入らないっていうか……私、目立つの好きじゃないし」
帰宅後、圭は御行と共に入浴していた。
「生徒会長をやってるだけでも目立ち過ぎて頭がおかしくなりそうなのに。アイドルをやれだなんて……」
圭は身体を洗いながら震わせていた。
「アイドルじゃなくてスクールアイドル。学校公認の非営利活動だからプロアイドルとは違うさ」
「活動内容は同じでしょうがっ! 人前でフリフリな衣装着て歌って踊るのが嫌だって言ってるのよぉっ!」
圭はアイドルとなって大勢の観衆の前で歌って踊っている自分を想像して恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった。
「圭ちゃんの気持ちも分かる。だが、スクールアイドルは近年ネームバリューが下りつつある秀知院が多方面での才能を天下に知らしめる為に学校側が認めた正式な活動なんだっ!」
御行はドヤ顔をしてみせた。
兄夫はこの1か月間、妹嫁に内緒で学園理事長をはじめとする学園運営陣と話合いを進めていた。御行にとってラッキーだったのは、秀知院が下って行くネームバリューに危機感を抱いていたことだった。
日本の国力、経済力、世界的な影響力の低下に伴い秀知院の地位も低下していた。古い体制、成金がしがみ付きたがる場所と揶揄されることも増えた。高等部の入学試験の偏差値は77だが、若干名しか取らないのでは学校としての進路実績には大きな変化がない。内部進学者が多く、T大合格者は少ない為に進学校でありながら進学校とみなされない風潮も強い。明治の開校以来独自の教育スタンスを取ってきたが、バブル崩壊後はそれが裏目に出ることも多くなっている。従来の貴族階級子弟の高級教育機関という印象に加えて新しいイメージを掲げることが大きな問題となっていた。御行からの提案は、生徒の自主性がなければ成り立たないスクールアイドル活動は、学園側にとっても令和の秀知院の新しい側面を見せるのに魅力的だった。
「学校公認って……おにぃ、私に内緒でそんな交渉してたの」
「途中でリークしたら圭ちゃん、絶対に邪魔するだろ」
御行は朗らかに笑っていた。
「認められた後だって、私が嫌がってやらないかもしれないでしょっ!」
「やるさ、圭ちゃんは」
兄は自信を持って答えた。
「だって圭ちゃんは秀知院学園中等部に通うことを気に入っている。好きだからこそ生徒会長にもなった。そんな圭ちゃんならスクールアイドルにだって絶対になってくれるさ」
御行の目はとても澄んでいた。真っ直ぐに圭を見つめていた。
「…………私がスクールアイドルになっただけじゃ。秀知院の名を轟かせることはできないんだけどなあ」
圭はスクールアイドルをやることに積極的な異議は唱えなくなっていた。
だが、不安は最初に話を聞いた時よりも大きくなっていた。
つづく