SS わんだふるぷりきゅあ! 犬飼こむぎ、猫屋敷ユキ 兎山悟メガネバリーン事件
猫屋敷まゆは実家の店の方針もあってキュアスタを始めることにした。
だがSNS慣れしていない彼女にとっていきなり投稿者側に回ることはハードルが高過ぎた。しかも、店の宣伝も兼ねている以上、投稿作品が人気を博さなければ意味がない。バズることを自分の使命に据えてしまったことでまゆはより強いプレッシャーを感じていた。
「ゆっ、ゆっ、ユキ……どうしよう? どんな写真を撮ったら人気が出るんだろうっ!?」
撮影場所である児童公園に到着してまゆは愛猫をしゃがみ込んで見つめながら全身を震わせていた。プレッシャーに圧し潰されそうになっていた。
「まゆちゃん、大丈夫?」
「猫屋敷さん、こういう時はまず深呼吸して気分を落ち着けようよ」
「お菓子食べる? ほねっこならあるよ」
撮影の応援に来ていた犬飼いろは、こむぎ、兎山悟にも緊張は明らかだった。みんながまゆを心配していた。
猫屋敷ユキは大きくため息を吐いてからこの状況を打開できる最善の策を脳内で模索し始めた。その答えはすぐに出た。
「被写体はこの私よ。人気が出ない訳がないじゃない」
ユキは人間の姿に変身してみせた。
「でっ、でも、どんな写真を撮れば良いのか、全然思い浮かばないで……」
「被写体は私。ポーズもこの私に任せなさい」
ユキは胸を叩いてみせた。
そして数日前に閲覧したpixivというサイトで美少女のどんな姿とポーズが大人気だったのか思い出してみせた。後は実行するだけだった。
「脱衣っ!」
ユキは大きな声を張り上げると着ていた衣服を躊躇なく脱ぎ始めてしまった。
「ゆっ、ユキぃいいいいぃっ!? 一体、何をしているのぉっ!?」
まゆの制止も聞かずに服を、そして下着を脱ぎ捨ててしまう。
全裸になったまゆは、pixivで閲覧した裸の美少女のポーズを真似してみせた。
「私は猫なんだもの。裸でいることに何ら問題はないわよね♪」
ウィンクまでサービスするおまけ付きで。
「ゆっ、ゆっ、ユキぃいいいいいいいいいいいぃっ!?」
まゆは混乱の最中で目をグルグル回すばかりだった。
「さあ、まゆ。どんどん撮って頂戴♪ 私のセクシーポーズを取れば、キュアスタでバズることは間違いないわね」
「えぇえええええええぇっ!? そんな、むっ、むっ、無理だってぇええええぇっ!?」
まゆはテンパってしまい動けない。撮影することも、ユキに服を着るように促すこともできずに目を回している。
そんな最中、はじめに大きなリアクションを見せたのは応援組の方だった。
「メガネ……バリ~ンっ!!」
硬質プラスチックが砕け散る音がした。それと同時に空に向かって赤い噴水が吹き上がった。そしてワンテンポ遅れて少年が勢いよく土の地面に倒れ伏す大きな音が鳴り響いた。
「あああああぁっ!? 悟くんの本体のメガネがバリ~ンしちゃったよぉおおおおぉっ!」
悟の隣に居たいろはが状況を分析しながら叫んだ。
少年は突然見てしまった金髪美少女の裸というラッキースケベ発生のハプニングに心が耐えられなかった。メガネが砕け散るほどの衝撃を受けて斃れてしまった。
「本体であるメガネを失ったままだと悟くんは生き返らない。メガネを、持ってこないと」
悟と付き合いが長いいろはは緊急時の対処法を知っていた。メガネがないと悟の身体は魂が抜けたままで意識が戻らない。
「そうだっ! 確か、うちの病院の待合室に貸し出し用の老眼鏡があった筈。アレを掛ければとりあえず生き返ってくれるっ!」
いろはは自宅でやっている動物病院の待合室に向かってダッシュを開始した。
全裸のユキや混乱しているまゆ、ユキに絡もうとしているこむぎを気にしてる余裕はなかった。
放っておかれる形となった3人だったが、こむぎが抱き着いて来るのをユキは煩わしく思っていた。
「鬱陶しいから離れなさい」
「ヤダっ♪」
「私はこれから撮影で忙しいの。邪魔しないで」
「だったら、こむぎも一緒に撮影する~♪」
こむぎはユキに構ってもらいたくて必死だった。犬としての習性が猫を相手にしたくて仕方なかった。
「なら、あなたも脱ぎなさい」
「うん、分かった~♪」
ユキに言われ、いろはがいなかったのでこむぎは衣服をごくあっさりと脱ぎ捨ててしまった。
「裸になったよ~♪」
元が犬なので服を脱ぐことに特に抵抗はなかった。
「こっ、こっ、こむぎちゃんまで裸にぃいいいいいいいいいぃっ!?」
動揺したのは人間の方だった。
まゆの混乱はますます拍車が掛かって、まともに会話することもできなくなっていた。
「悟くんっ! メガネの代わり、持ってきたよっ!」
息を切らしながらも全力疾走を続けたいろはが公園に戻って来た。
少女は全裸になっている愛犬少女に気付かないまま鼻血の海の中心に倒れ込んでいる悟を抱き起こした。そして持ってきた百均の老眼鏡を少年に掛けさせたのだった。
「あっ、アレ? 僕は一体……?」
メガネを得たことで悟は魂を体に引き戻すことに成功。上半身を起こしてみせた。
だが、その視界に映ったのは裸の美少女になったこむぎの姿だった。
「あっ♪ 悟が目を覚ました~♪ こむぎもニャンフルエンサー目指すよ~♪」
「こむぎちゃんも裸ぁあああああああああああぁっ!? メガネバリ~ンっ!?」
掛けたばかりの老眼鏡が砕け散り、悟は再び鼻血の海に沈んだのだった。
「悟くぅ~んっ! 返事をしてっ! ええええっ!? 息をしてないよぉおおおおおおおおおおぉっ!」
完全に沈黙した悟を前にいろはは大いに焦った。
そんないろはの狼狽ぶりをこむぎは物珍し気に眺めていた。
「…………ユキ、人間形態の裸の写真は、刺激が強すぎるから、なし、ね……それ以前にアカウント削除されちゃうから……」
「分かったわ」
ユキは人間から白猫へと変身を遂げた。
「こむぎ、あなたも犬に戻りなさい」
「わかったワン♪」
こむぎもまたパピヨンへと姿を変えた。
こうして公園は、鼻血の海に倒れた元メガネ少年、少女2人とそのペット2匹の組み合わせに変わった。そして、とりあえずの静寂を取り戻したのだった。
「ここが、兎山悟がメガネバリ~ンして倒れたという現場か。酷い量の血痕が残ってやがるな」
数時間後、事件を聞き付けてメガネの少年探偵が児童公園を訪れていた。
地面の一角が赤黒く染まっていた。少年はそれが土に血液が染み込んだものだとすぐに見抜いていた。
「関係者からの聞き込みに拠れば、兎山悟はキュアスタ撮影の見学をしていて、鼻血を吹いてメガネバリ~ンを2度も体験したらしい。一体、どんな過激なエロ撮影をしていたんだ?」
少年探偵はちょっとドキドキしながら、事件の当事者の一人である、新人投稿者猫屋敷まゆのアップした写真を確かめることにした。そこに写っていたのは……
「メスの白猫とメスのパピヨン犬じゃねえかっ!」
猫と犬が公園内で遊んでいる様子だった。
人間を写した写真は1枚もなかった。
「ということは……兎山悟は、犬猫の撮影風景に性的に興奮してメガネバリ~ンに至ったということかっ! とんだケモナーじゃねえかぁああああああああああぁっ!」
メガネの名探偵は“真実”に辿り着いて絶叫したという。
彼の推理はある意味では間違っていなかった。