かつて魔法少女と悪は敵対していた。 深森白夜
悪の参謀ミラは今日も敵対している魔法少女深森白夜との関係性に困っていた。
「私は悪の組織の参謀。魔法少女を倒すべき存在。なのに、なのにぃ……」
ミラは白夜に恋心を抱いていた。けれど、自分でそれを素直に認めることができない。そして仮に認めることができたとしても、悪の参謀と魔法少女は戦わなければならない間柄。ミラが自分の恋に積極的になることは絶対にない。とは、ならなかった。
「今日のスイーツは何が良いだろうか? カロリーが明らかに足りていない気がするから、糖分多めのケーキ類の方が良いだろうか?」
白夜にスイーツやプレゼントを貢ぐ毎日を送っていた。本人はその意図について考えない様にしていたが、傍目にはどう見ても好きな女子に貢いでいる片想い中の男だった。
結局ミラは悪の参謀としての任務と白夜への恋心に板挟みになりながら悩ましい日々を送っていた。けれど、真面目一辺倒だった男は恋を知って生きるのが楽しくなっていた。
だが、そんな彼に突如試練が訪れた。
「魔法少女を生け捕りにした、だとっ!?」
白夜が戦闘員たちとの戦闘の最中に貧血を起こして戦闘不能に陥り、組織に囚われたという報告だった。
貢ぎ物に情熱を注いでいた片想い男は一瞬にして目の色を変えた。
「私がすぐに向かうっ! 誰もグラスハピネスに触らせるなっ!」
大声で下知を出しながら足早に白夜が囚われている牢獄へと向かった。
他の幹部に先を越されてしまえば、どんな拷問を受けるか分からない。どんないやらしい目に遭わされるか分からない。その結果白夜がどれだけ傷つくのか分からない。
だからミラは幹部の誰よりも早く白夜の元に辿り着き、自分の監視下に置く必要があった。
ミラは牢屋の前に到着した。だが、考えなしに入ることはできない。牢屋には監視カメラが幾つも設置されており、迂闊な言動を取れば、自分と白夜の関係を怪しまれてしまう。
故に入る前に筋書きを書いておく必要があった。
「……魔法少女は残された魔力を暴発させて牢獄内を眩い光で包み込んでその隙に逃げ出した」
ミラの手の中には他の幹部とその部下たちが使う閃光弾が握られていた。
白夜の力だけで逃げられないのは分かっている。ならば、他の幹部に自分の関与を気付かれないまま逃走をサポートするのみだった。
作戦を確かめたところで扉を潜り牢屋内へと入って行く。
「入るぞ」
カメラが幾台も設置された牢獄へと足を踏み入れた。
「あっ、参謀さん」
両手を前で拘束されている白夜は入ってきたミラを見て嬉しそうな表情を浮かべた。
魔法少女の笑みは悪の参謀をドキッと胸を高鳴らせた。だが、監視カメラが無数にある環境で白夜がミラにほほ笑むのは色々な意味で危険だった。
「……早く“逃亡”させなければ」
ミラは決意を新たにする。だが、逃がす前に確かめておくべきことはあった。
「貧血で倒れたと聞いたが……今、体調はどうなんだ?」
カメラを意識して険しい表情を浮かべながら白夜の体調を気遣った。そして同時に白夜が自力で脱出できるのか確かめていた。
「…………お腹が空いた状態でいることには慣れていますから。きっと平気です」
「…………アレコレ考えていないでホールケーキを渡しておくべきだった」
ミラは険しい表情のまま嘆いた。悪の参謀の予想通りに魔法少女はカロリーが足りていなかった。牢屋を抜け出したとしても、安全圏まで無事に逃げられるか怪しかった。だが、これ以上拘束を続けても状況が悪化するだけなのは目に見えていた。
「うん? 何だそれは? 新たな魔法かっ!?」
「えっ?」
白夜も驚く中でミラは独り芝居を続けた。
「なっ、何をするっ!? まだ、そんな力が……うわぁあああああああああぁっ!?」
ミラは他幹部の閃光弾を思い切り床に叩きつけた。
次の瞬間、まばゆい光が室内を包み込んでカメラを駄目にした。
「…………今の内に逃げろ、早く」
拘束を解きながらミラは少女に耳打ちした。
「えっ? でも……」
「私が倒したいのは最強の敵だ。お腹が減って力が出せない魔法少女を倒してどうなる?」
「わっ、分かりました」
ミラは軽く頭を下げると牢屋を出て行った。
閃光が止んだのはそれから10秒後だった。カメラが回復するのを待ってミラは怒りの表情を浮かべた。
「新魔法かと思えば、我が組織の閃光弾を使った目くらましだったではないかっ! 備品管理がなってないではないかっ!」
ミラは他幹部に責任を擦り付けながらしばらくの間喚き散らした。
魔法少女逃亡の責任を他幹部に擦り付けるのに成功したミラは今度は急いで悪の組織のアジトを出て行った。
「深森白夜は空腹状態で果たして家まで辿り着けたのか?」
白夜が自宅へ向かうであろうルートを追跡していった。そして、彼女の家の近くの児童公園の茂みの中で少女を発見することになってしまった。
「いたっ!」
白夜は仰向けに倒れていた。だが、その服装は普通ではなかった。
「はっ、はっ、裸……だとぉっ!?」
白夜は素っ裸の状態で芝生に仰向けに寝ていた。
「にゅっ、入浴か、着替えの最中に魔法少女に変身したので、空腹で変身が解けてしまったら全裸になってしまった。そういうことか……」
ミラは白夜の姿を見ない様に目を瞑りながら自分の上着を少女の身体に被せた。
「とにかく、こんな場所に彼女を置いてはいけないっ!」
上着で裸を隠した少女をお姫さま抱っこして全速力で公園から抜け出る。悪の参謀の全力モードだった。
白夜が借りているアパートに辿り着き彼女を布団に寝かせる。そしてすぐさま家を出てケーキ屋に向かい、大量のスイーツを購入。再び部屋に戻ってちゃぶ台の上と冷蔵庫の中に収納しておいた。
「……まったく、世話が掛かる」
愚痴りながらも嬉しそうな表情を浮かべてミラは今度こそ白夜の部屋を後にした。
そして先ほどの公園まで戻って来たところでようやく緊張もほぐれてきた。そして、今まで気を張って考えないようにしていたことをふと思い出した。
「…………私はここで、深森白夜の裸を……ブフッ!?」
白夜の裸を思い出してミラは鼻血を噴き出して仰向けに倒れた。
こうして魔法少女と悪の参謀は共に貧血で倒れて引き分けという珍しい結果を迎えたのだった。