SS ブレンド・S 日向夏帆 誕生日2024
8月12日、友達以上恋人未満な間柄にある秋月紅葉と日向夏帆は2人で海水浴場を訪れていた。
元々は喫茶スティーレの店員みんなで遊びに来る予定だったが、桜ノ宮苺香たちが気を利かせた結果、秋月と夏帆の2人きりでの海水浴となったのだった。8月12日は夏帆の17歳の誕生日で、誕生日デートのお膳立てだった。
「秋月くぅ~ん♪ 早くこっちにおいでよ~♪ 水が冷たくて気持ち良いよぉ~♪」
真夏の海に夏帆のテンションは上がっていた。
夏帆は快活な言動とは裏腹にかなりのインドア派だった。休みの日は一日中家の中でゲームに明け暮れたい。けれど、それでも目の前に海や山を見ればテンションが上がってはしゃぎ出すぐらいのアウトドア精神を持ち合わせていた。
「……ああ、元気だな」
対する秋月の方は海を見てもテンションが上がらない根っからのインドア派だった。自分から夏の海に行くなんて展開は考えられなかった。だからこそ、苺香たちは嵌める形で夏帆に海デートをプレゼントしたのだった。
「ほらほら、砂浜の上で突っ立ってないでこっちにおいでよ~♪」
「おいっ、引っ張るなっ! 胸が、腕に当たっちまうだろうが……」
「そんなこといちいち気にしないって♪ だって、海なんだもん♪」
なかなか海に入ろうとしない秋月の腕を夏帆が引っ張る。
夏帆は別にスキンシップを積極的にするタイプのキャラではない。スティーレでのツンデレ営業を除けば、知らない男とは話すのも実は苦手。けれど、気を許した相手とは距離感がやたら近くなる。胸が当たるとか彼女にとって大した問題ではなかった。
けれど、夏帆の認識とは別にそのスキンシップにはやはり問題があった。
引っ張られた秋月の腕はスリングショットと呼ばれる布面積が少ない過激な水着の胸の部分をずらしてしまった。
「…………あっ」
秋月の目に飛び込んできたのは夏帆の生の乳房。その頂点にある桜色の突起だった。
ラッキースケベで夏帆の生乳を見てしまったことは以前にもある。だが、恋人関係にない秋月にとって夏帆の胸を見てしまうインパクトは計り知れないほどに大きかった。
「俺は……百合好き男子なんだぁああああああああああああああぁっ!!」
秋月は青い海に向かって自分のアイデンティティを大声で叫んでみせた。
「秋月くん? 急に、どうしちゃったの?」
夏帆も秋月の様子がおかしいことに気付いた。彼が急に自分から目を逸らしたことも。
その理由について確かめてみることにした。そして気が付いた。
「えぇええええええぇっ!? いつの間にか、水着ズレちゃってるぅうううううぅっ!?」
夏帆はようやく水着がズレてしまっていることに気付いたのだった。
「うううっ。これはさすがに恥ずかしいよぉ……」
慌てて水着を直したが後の祭りだった。
水着を直す間、秋月はひたすら沖の方を眺め続けたのだった。
「だけどさ。おっぱい見られちゃったのが秋月くんで良かったよぉ」
水着を直してからの夏帆の一言は秋月の耳を疑わせるものだった。
「何言ってるんだ、お前? 俺だって男だぞ……」
「だって、私……秋月くんのお嫁さんになるってもう決めてるから」
夏帆はごく自然な口調で断言してみせた。
「旦那さまにおっぱい見られたって別に普通のことでしょ。だから問題なしってね♪」
「いやっ! 問題大ありだろっ!? 何で、俺と結婚することになってるんだよっ!?」
リアル女子とのコミュニケーションにめっぽう弱い秋月は大いにテンパっていた。
指を差しながら喋る度に唾が口から飛んでいた。
「だって、私のゲーム好きやインドア趣向をちゃんと理解してくれる男の人なんてそうそういないよ。ガチゲーマーな女の子なんて引かれることばっかりだもん」
「まあ、確かにな。単なるゲーム好きなら話も合うが、ガチになるとな……」
秋月は夏帆のゲームへの深すぎる終着ぶりを思い出しながら頷いてみせた。夏帆は男が好きなモノを理解してくれるといいうレベルではなく、男をドン引きさせるゲーマーだった。秋月自身が重度なゲーマーで、同じ職場の同僚であるからこそ受け入れられる。そう言った点を夏帆はちゃんと理解していた。
「私は自分の性格をよく知ってるから。色んな男の人と仲良くなって、その中から結婚相手を選ぶとか器用なことはできないよ。だから、私のことをちゃんと分かってくれている秋月くんのところにお嫁に行くって決めてるんだよ♪」
夏帆は満面の笑みを浮かべながら再び断言してみせたのだった。
「それに、秋月くんは料理人として独り立ちしている社会人だし。今日お嫁に行っても私は全然路頭に迷わないよ♡」
自分の進路にはかなり迷いと焦りがある夏帆にとっては既に社会人として身分が確立している秋月はポイントがとても高かった。
「…………俺は、女子高生を嫁に貰ったりはしないぞ」
真っ赤になった俯いた秋月から零れた一言は聞き取れないぐらいに小声だった。けれど、秋月に注目していた夏帆には聞こえていた。
「じゃあ、学校辞めて今日お嫁に行っちゃおうかな♪」
「…………俺は、最終学歴高卒以上じゃないと嫁に貰わんからな……」
「なら、後1年半は経たないとお嫁に行けない訳か。ちょっと、残念♡」
夏帆は秋月の手を握ってみせた。
秋月はビクッと身体を震わせたが、手を離したりはしなかった。
2人はそのまましばらく青い海を眺め続けたのだった。