SS かぐや様 2024石ミコ 藤原先輩
「石上くんは一体何をそんなに思い詰めているんですか? 頼れる先輩であるこの私にど~んと話しちゃってください♪」
「藤原先輩……」
6月はじめのある日の放課後。サザエさん時空に巻き込まれてしまったせいで恋人関係がなかったことにされてしまい、状況的にどうにも詰んでしまっていた僕に声を掛けて来たのは意外にも藤原先輩だった。
こう言っては何だけど、今回の事態に一番役に立たないと思っていたのは藤原先輩だった。理由は……アホな人だから。大事なことに気付かない、気付いても斜め下の解釈を施してしまう人。そんな風に考えていた。
でも、違った。
頼みの綱にしていた会長並びに四宮先輩は恋愛頭脳戦に忙し過ぎて僕にまるで関心を示さなかった。
僕が知っている前の時間軸の2人は最初からラブラブカップル。四宮先輩はミコと共謀して生徒会室をラブホ代わりに使うような恋愛脳、いや、エロ脳な人だった。
なのに今回の2人は、僕とミコ同様に結ばれていない。お互いに意識はしていても付き合うまでには至らず、代わりにマウントだけは確保しようと恋愛頭脳戦に燃えている。前回と全然違う。
そして僕とミコとの違いと言えば、僕たちが微妙な距離感が少しも縮まらないまま2か月以上の時を無為に過ごしたのに対して、会長たちは接近しようと足掻いている。恋愛に動いているのかいないのかが大きな差だった。
何にせよ、会長と四宮先輩が自分の恋にやたら忙しく、僕が放置されたのは非常によろしくなかった。頼れる先輩にヘルプを求めることができず、時間を浪費していた。
会長たちが結ばれるまで待つしかない。そんな諦念の気持ちが湧き掛けていた時に声を掛けて来たのが藤原先輩だった。
「お気持ちはありがたいんですが……藤原先輩に話しても解決が難しいというか……」
「話してくれないと、石上くんが何に悩んでいるのかこちらには分かりません。ダメ元で話してみせてください」
藤原先輩は大きなおっぱいを叩いて揺らしてみせた。
サザエさん時空に関する話は誰に話してみせたところで理解できるものじゃない。現実と漫画の区別がついていないと呆れられるだけ。
でも、誰にも相談できず息苦しい状態が続いていた僕は……誰かに聞いてもらいというのも本当のことだった。
「実は、ですね……」
僕はできる限り嚙み砕いてみせながら藤原先輩に僕とミコに起きたことを話してみせた。
「…………石上くん、リアルと漫画、いえ、妄想を見事に混同しちゃってますね♪」
僕の話を聞き終えた藤原先輩はとても良い笑顔で妄想と断じてみせた。
「まあ、そう考えるのが当然ですよね……」
胸にグサッとくる返答ではあった。でも、予想通りの反応ではあった。
そして、藤原先輩は普段から僕を馬鹿にしてくるのでそれに慣れてしまい、思ったほどのダメージとはならなかった。
「犬猿の仲の風紀委員と前世は恋仲でえっちまでしちゃってる関係とか……青年誌のラブコメ漫画ですか?」
「前世じゃなくて、前の時間軸なんですけど……」
「風紀委員は石上くんだけでなく私にとっても敵なんです。その敵とよりによってえっちしちゃう仲設定とか……どう考えても漫画じゃないですか」
藤原先輩は僕とミコの間に起きたことを漫画の中のことだと言い切っている。
テーブルゲーム部の奇行で風紀委員に目を付けられている藤原先輩にとって、敵の少女と結ばれるのはラブコメの世界の出来事でしかないのだろう。
「いや、ラブコメ漫画の設定じゃなくて、現実の話なんですけど……」
「石上くんがラブコメ漫画妄想から抜け出られなくなっていることはよく分かりました」
藤原先輩は大きく頷いている。やはり、この人は相談相手としては不適切……
「でも、それなら話はとても簡単です。解決方法なんて一つです♪」
「へっ?」
「石上くんがラブコメ漫画の世界にいるのなら、その主人公をなぞるだけです」
「なぞる?」
僕が言葉をおうむ返しにすると藤原先輩はニヤッと笑ってみせた。
「その風紀委員の女の子をゲットするまでアプローチし続けるまでです♪」
大きな胸を張ってみせる先輩の一言に再び胸がグサッとした。
藤原先輩なのに、とても大切なことを言われてしまった。
僕が目を逸らし続けていることを、指摘されてしまった。
「もし仮に石上くんの言葉に1%でも真実があるのなら。風紀委員の子も石上くんにほんの僅かでも好感度があるってことです。押して押して押しまくれば、案外チョロインな面を見せて靡いてくれるんじゃないですか?」
この時間軸ではミコのことを良く知らない藤原先輩は好き勝手言ってくれている。
でも、強く押せば何とかなってしまうチョロインだっていうのは僕も同意するところだ。
微妙な関係がどうとか言っていないで押しまくるのが正解ってのは、藤原先輩の言う通りだった。
「…………藤原先輩の言う通りです。僕はラブコメ漫画の主人公になって愛しのヒロインの為に手を伸ばし続けるべきなんですね」
藤原先輩に大事なことを諭されてしまったことは正直釈然としない。
でも、僕のちっぽけなプライドに拘って、こんな大事なアドバイスから目を逸らすなんてできるわけがない。
「もし、風紀委員の子が石上くんのことを少しでも好いているのなら……きっと、上手くいきますよ」
藤原先輩の笑顔はいつになく優しいものに思えた。
「全てが石上くんの妄想で好感度が0だったら……ストーキングの罪で捕まる未来が待っているんでしょうけどね♪」
「藤原先輩……」
オチを付けずにはいられない。ある意味で期待を裏切らない人だった。
だけど、藤原先輩のおかげで僕が何をしなければならないのか。3か月近く悩んできた問題にようやく光明が差してきたのだった。