くノ一城崩し・第二話
Added 2019-05-01 18:46:13 +0000 UTC(ここは……) 混濁した意識が戻るにつれて、視界もはっきりとしてくる。 行燈が灯っていて、屋内には影が差していた。座敷のようだ。 (拙者は、一体……) 昨夜は城で宴があった。君主である尾本が地方の豪族を平らげたことを祝した宴だ。烏賀城は夜通しい火が焚かれ、宴は豪奢を極めた。 武者達は大いに飲み、笑った。尾本も上機嫌でその様子を眺めていた。煌びやかな城内には、芸者も呼ばれ、宴に華を添えていた。 (拙者もしたたかに飲み、そして……) 昨夜から一体どれくらい経ったのか分からなかった。記憶を呼び起こそうとしてみるが、頭部がぼうっとする。 「お目覚めかしら」 女の声がした。その方を向くと、着物で着飾った女が立っていた。行燈の灯りが女に影を投げかけている。 「そ、そなた……」 女には見覚えがあった。確か宴に参加していた芸妓の一人だ。 「ふふ、こんなところで眠ってしまうなんて、相当ご酩酊でしたわね。阿久津様」 女は嗤った。華やかで妖しい嗤いだった。 「うう、こ、ここは……」 阿久津は辛うじてそう言った。意識は次第にはっきりとしてきている。 阿久津は尾本の家臣で、烏賀城に詰める武者だった。武士といっても、城の護衛が主で武術よりは学者肌の人物である。先代烏賀城の城主より引き続き尾本に仕えたのは、彼等阿久津の一族が堅牢な城塞と呼ばれる烏賀城を築城したからに他ならない。城の防備は全て阿久津が代々心得ているのだ。 急峻な崖に発つ城への道は、見晴しの利く平野から山への一つしかない。守るには易いが、そこを塞がれれば籠城を余儀なくされる。しかし、それも見越して、城にはある仕掛けがあった。そしてそれを知るのは阿久津の一族だけなのである。 「おやおや、まだ酔いが醒めませぬか」 女はくすくすと嗤った。 阿久津の記憶が甦ってくる。 そうだ、宴の夜、宴もたけなわになり、尾本も寝所に下がった後、自分はいつの間にかこの芸妓に酌をされつつ酒を飲んでいた。宴の喧騒はまだ続いていた。 芸妓は美しく、酒は美味だった。芸妓の華やかは着物の袖がふわりと阿久津に触れる度、芳香が鼻孔を擽る。蕾のような唇が阿久津の名を呼ぶと夢心地になった。 二杯、三杯と数えきれぬくらいに呑んだ。 すると、芸妓が徳利を下ろして立ち上がる。 何処に行くのじゃと問えば、そろそろお休みになられた方がと答えた。 うむと頷いて立ち上がろうとしたが、酔いの為足元が覚束ない。何度か転びそうになりながらも、芸妓に支えられ、宴の場を後にする。誰も阿久津が去ったことには気づいていないようだった。 芸妓に支えられながら廊下を歩く。着物越しに女の温もりが伝わって来る。酔いも手伝って、くらくらとしてきた。 名を尋ねると、お蓮と答えた。お蓮は温かく、よい匂いがする。着物で隠れてはいるが、胸元も豊満なのが分かった。 阿久津の陽物が擡げてくる。酒精は精力を萎えさせるというが、芸妓に触れて、男の中が疼き始めていた。 何処かの座敷に通された。自分の部屋だったのかもしれないが、雰囲気が違う。しかしそこには布団が敷かれ、寝支度が整えられている。 二人が座敷に入ると、お蓮は襖を閉じた。 そして、それから……。 目の前のお蓮が妖しく嗤う。 「ふふ、思い出されましたか、わたくしとの……」 阿久津の心の蔵が高鳴り、ふつふつと血潮が沸き立ち始めた。 座敷に通されて、酩酊していた阿久津は布団の上に座り込んだ。 その前に、お蓮が控えるように座る。 「ああ、お蓮、と申したな」 「はい、阿久津様。では、ゆっくりお休みなさいませ、わたくしは宴の番がございます」 そうして低頭する。 「まあ、待て」 立ち去ろうとするお蓮を、阿久津は引き止めた。 酔ってはいたが、意識はまだ明るい。 「そなた、素晴らしい芸妓じゃ。そしてその器量もよし」 「どうも嬉しゅう存じます」 しなしなとお蓮は額づく。 「そなたのような芸妓が殿の宴に呼ばれるのは当然のことじゃ」 「いえ、尾本様のお城に呼ばれる等、身に余る光栄でございます」 「殿は豪のお人、いずれや近隣だけでなく、遠方すらも平定なさる。その拠点がここ烏賀城じゃ」 「はい」 「拙者はこの城の建築に関わった一族。この城のことなら知り尽くしておる。その拙者が留守の間はここをお守り申し上げておるのじゃから、どんな遠征でも、殿はご安心して出掛けられるものよ」 「まあ、阿久津様は凄いお方なのですね」 美しい芸妓の感嘆に気を良くして、阿久津は雄弁になった。 そして話題が途切れると、阿久津は座った目でお蓮を見据え、 「ところでそなた、売るのは芸だけか」 とあけすけに訊いた。 お蓮は恥じらったように、袖で顔を隠し、 「畏れ多くも阿久津様、そのようなことは……」 と濁して返す。 そんなお蓮の生娘のような仕草は、阿久津を喜ばせる。 「いや、そなたは大変美しい。どうじゃ、拙者の側室となってくれぬか」 「まあ、そんな……」 驚いたように、お蓮は目を見開く。 阿久津にも妻子がいた。しかし側室を持ったことはなかった。妻子は城ではなく、城下にある町の屋敷に暮らしている。ここのところ戦続きで、城の守護を任されている阿久津は城を離れることが出来なかった。妻にも随分と会っていない。 そして、女とも特に縁がなかった。女郎を買ったこともない真面目一徹の阿久津が、こんなにも饒舌に芸妓を口説こうとしたことは酔いの所為ばかりであろうか。 「阿久津様、わたくしは戻らなければ、姐様方に叱られてしまいます」 お蓮はそれでも出ていこうとする。芸妓の一座には拙者から話しておくと阿久津は言って聞かない。 「阿久津様、わたくしは芸は売っても色は売らぬ、そういう道で過ごして参りました。どうかお許しいただきとう存じます」 お蓮は幾度も断っても、阿久津の執心は変わらなかった。 「拙者もそなたをカネにあかしてものにしたいとは思わぬ。そなたの美しさに心底惚れたのじゃ。不自由はさせぬ覚悟じゃ。一夜の夢とは言わぬ。拙者の側室となってくれ」 まさに平伏する思いで、阿久津は言った。 すっと、お蓮は立ち上がる。 やはり行ってしまうのか、阿久津は涙を押し殺して、お蓮を見上げた。 そして驚愕する。 何とお蓮は、その場で帯を解きはじめたのだ。 ぱさりと、着物が畳に落ちた。 そこには白い襦袢姿の女が立っていた。 行燈の灯りに浮かび、この世のものならぬ美しさを湛えている。 「おお……」 阿久津は感嘆の念で呟いた。 豊満な胸と括れた腰の輪郭がより露わになっていた。 お蓮は座り直し、 「今宵だけでございますよ」 と手を着いて言った。 「ああ、それでもよい。お蓮……」 いそいそとまるで戦支度とは反対に衣を脱ぎ、褌も取り去って、阿久津は裸形になった。 陽物は既に怒張している。 「まあ、全て脱いでしまわれるなんて……」 お蓮は布団の上の阿久津に近づき、その身体が冷めぬよう抱き締めた。 「おお、温いのう、お蓮は……」 強く抱き返し、阿久津はお蓮の身体を香りを堪能する。鼻孔が膨らみ、女の匂いを吸いこもうとする。 「阿久津様には根負けいたしました。そこまでのお覚悟がおありならよろしいでしょう、わたくしの床の芸、存分に堪能下さいまし……」 お蓮は阿久津の口を吸う。 「むむっ……」 「ンンっ、ちゅ、くちゅちゅう……」 それだけで妻しか女を知らぬ男は陶然となってしまう。 お蓮が口を離すと、二人の間に唾液の銀の糸が引かれ、ぷつりと切れた。 「ふふ、阿久津様のお顔、お酒を召した時よりも真っ赤です」 その言葉に阿久津は更に赤面する。 まるでどちらが生娘か分からない様だ。 「わたくしも芸妓なれば、床の芸も手抜かりはいたしませぬ。今宵、奥方のことはお忘れになって、女の良さを存分にその身で味わいなさいませ」 お蓮は襦袢も肌蹴さた。 二つの肉の毬が阿久津の目を打つ。 白い、玉のような肌だ。宴の場で舞いを舞った為かほんのり上気していた。 艶やかな女の姿に、阿久津は一瞬気後れする。しかし、陽物はますます膨らみ、腰の辺りに情欲の火が点るのを抑えられない。 「阿久津様のその長槍、わたくしの城門を見事攻め開けることが出来ますでしょうか」 女はしどけなくその場に寝そべった。 仰向けになっても、双乳は形を崩すことはない。 白い腹が、ひくひくと波打つ。 蕾のような唇がふっと、息を吐いた。 甘い香りが立ち上る。 女子の吐息とは、かくも芳しきものか……。 阿久津はゆっくりと女に近づくと、その顔を覗き込むようにし、そして覆い被さった。 そして二つの肉毬の片方、桜色の突起を覆うように吸い付く。 「まあ、お乳に吸い付くなんて、まるで赤子でございますわね」 赤子をあやすように、女の手は阿久津の後頭部を愛撫した。 「ううン……。そうですわ。舌で、そう、お乳のお豆を転がすように、あぁンっ」 女の嬌声が阿久津の耳朶を打つ。 一心不乱に、阿久津は乳を吸い、乳首を舐めた。 怒張して腹に付きそうな陰茎は、女の膝に当たっている。 女が膝を動かして、陰茎を軽く扱いた。ぬるりとした感触があり、先走りの液が女の白い脚を汚す。 「ふふ、すっかり赤子に戻られましたか。剛の武士様も女子の前では一等素直になられるものですわ」 両手で阿久津の頬を挟み込み、更にその口に乳房を宛がう。男の顏が豊乳に埋もれてしまいそうだ。それと同時に、陰茎の裏筋も膝で撫で上げていく。 酒気よりも強烈な色香に、阿久津はすっかり酔っていた。 まるで本当の赤子をあやすように、女は阿久津を手玉に取っている。 「ふふ、お乳に夢中になるのもよろしいですが、そろそろ阿久津様の長槍、先が濡れてきましたよ。さあ、城攻めの準備をなさいませ」 お蓮は男の顏を乳房から離す。ぽんという音と共に、阿久津の口が乳首から取れた。乳輪が赤く痕になっている。 男の顏もますます上記して赤く染まり、猿のようだ。 「女子の乳の心地良さは格別。殿方がこれを自在に吸い、揉み、捏ね回したいのは何歳になっても同じですわ。でも……」 お蓮は視線を下に落とす。 そして片手を怒張した陰茎に添えた。 「女の下の華もそれはそれは心地良いものでございますわよ」 視線を阿久津の顏に戻す。 その蠱惑的な眼差しに魅入られて、阿久津は覆い被さっている相手の女が、光っているかのように錯覚した。 美しい、そして、何と淫らな女子だろう。 まるで桃源郷にいるという天女のようだ。 「さあ、女子の門をお開きくださいませ」 蕾のような唇が、男を誘う。 「阿久津様の槍で、一息に突き開けるのです」 襦袢の裾を肌蹴させ、女は脚の付け根を露わにする。 そこには蜜の滴る女の華、女芯門が桃色の裂け目を引いている。 ごくり、と阿久津は唾液を飲み込む。 「阿久津様の剛勇の槍、わたくしの中へと見事挿し入れてくださいませ」 その視線が、声が、吐息が、そして柔肌が、女子の全てが妖艶に阿久津を女陰へと誘った。 女の手に従って、阿久津は亀頭の先端を裂け目に宛がう。 「そのまま、一息に」 女の声に励まされ、阿久津は腰を突き出した。 ぬるりとした感触と共に、一瞬の停滞の後、陰茎は徐々に滑るように膣内へと挿入される。 「あぁンっ、いいですわ。さすが阿久津様、女の城は攻めるに限りますでしょう」 お蓮は嬌声を上げた。 「おふっ、ああっ、お、おれんどの、そなたは、こんなに……」 「ふふ、いいでしょう、女子の中は」 膣襞が陰茎を扱き上げる。まるで蠢く蜜壺に浸したかのような甘美で強烈な快感が阿久津を襲った。今まで感じたことのない未知の快楽に阿久津の身体は過敏に反応する。 「さあ、我慢は毒ですのよ。己の欲望のまま、お蓮に下さいませ」 「ああああっっ、お、お蓮どのおおっっ」 膣内の感触に耐え切れず、敏感に怒張した陰茎は精を噴き出させた。 「ああっ、阿久津様の、出ておりますわ……」 陶然としたように、お蓮は言う。 たった一度目の射精であるにも関わらず、強烈な快美感に続いて、甘美な酩酊感が阿久津を襲った。どんな美酒も敵わない、誠の美酒こそが女子だった。 酒を飲みなれていない者が容易く酒に酔うように、女子を余り知らない男もまた、容易く女子に酔うのだ。 今の阿久津のように……。 「ふふ、女子の城には、城門の中に思わぬ伏兵がいたようですわね」 「あううっ、うぐうううっっ」 まだ射精を続けている阿久津を見上げながら、お蓮は嗤った。 仰け反るように上体を反らせて、阿久津は最後の一滴まで注ぎ込もうとしている。 子胤が次々にお蓮の中に噴き出していく。 「女の城は迷い城、一度虜となったら出ること叶いません。ゆめ御油断なきよう……」 そんな女の声も遠くに聞こえ始め、阿久津の視界は白濁から暗黒へと次第に変転して、身を焼くような快楽と浮遊するような酩酊の内に、次第に意識を手放していった。 「ふふ、これぞ媚術・女酔い」 微かにお蓮の声が酔いの回った阿久津の耳に響いた。