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ある質屋の策略 ②

闇金とかで、借金漬けになったり、お金が返せなくなったりして、風俗に売られる、みたいな話は聞いたことがあった。 だが、鈴木さんは首を振る。 「さすがに、うら若き女性にそのような無茶はさせられません。ただ、まとまった金額を用意するだけの『質』を能登様が提供できない以上、これは能登様自身が、一時的にでも『質』になる必要がございます」 「そ、そういうものですか」 「そういうものですね」 絶対違うと思うのだけど、まあ、この話を聞くのも何回目ということで、少しずつ私の頭も理解してきた。 「ええと、つまり、私がどうにかしてモノに化けて、実際に使われたら、その対価として……みたいな話ですか?」 「おっしゃる通りです。当店は先払いが原則ですので、それ以上の請求をすることはありません。働きぶりに応じて、できるかぎりのことをさせていただきます。今回でしたら……そうですね。ま、少なくとも、お金の心配はなくなるでしょう」 「……」 要するに、ちょっと変わったバイトみたいなものですよ。と、鈴木さんは笑う。 「信用できないとは思いますが、ご安心ください。こちらの紙にサインをいただいて、あとは一晩、普通に過ごしていただければ、明日の朝には、あなたはこの店で、商品として棚に並んでおりますので」 「そ、そんなことが……」 「嘘だと思うなら構いません。その場合でも、きちんと援助はさせていただきます。さあ、能登様。どうしますか?」 「……」 私は少しだけ考えて、 「……安全性とか、危険性の問題は、ないんですよね?」 「もちろん補償いたします。心配でしたら、信頼のおけるご友人に、このことをお話しいただいても構いません」 ここまで言うのであれば、相当な自信があるのだろう。 若干モノになるという言葉の表現に、それなりの恐怖を覚えたのは事実だったが、 「や、やります。せっかくのご厚意なので」 と、このよくわからない取引に、応じることにしたのである。 「……失敗だったかなあ」 私は結局頭を抱えながら帰宅して。お風呂に入って、戸締りだけはしっかりして、ベッドに潜る。 「これでほんとに、朝起きたら何かになってたり、するのかなあ」 どう考えても現実的じゃないし、科学的じゃない、はずだ。 だが、あの鈴木さんが嘘をつくような人にも、あまり見えず。 「……寝て考えるか」 複雑なことを考える余裕もなく、私はそのまま、静かに寝息を立て始めた。 「能登様。起きてください。能登様」 (……? 鈴木さん?) ゆっさゆっさと、揺れる振動がこちらにまで伝わってくる。 (……あれ? 地震ですか? いや……え? 声が出ない⁈) 驚いた私は、起き上がろうとした。が、身体の自由がまるで効かない。 縛られたような感触さえないのに、身体がピクリとも動かないのだ。 (ひっ……い、嫌っ、なにこれっ、誰かっ、助けてっ、こ、怖いっ!) 相変わらず私が声を出せぬまま、混乱のさなかにいたところで、 「落ち着いてください、能登様。お約束通りになっただけです」 (えっ……) いわれてみて、私はハッとした。 確かに先日、モノになって扱われるという契約を承諾はしたが、まさか本当にこんなことになるなんて、考えてもいなかったのだ。 (じゃ、じゃあ、私、本当に今……) 「ええ、そういうことです。能登様には、変身をしていただきました」 にこりと笑う鈴木さんの笑みは、いつもと変わらない。 だが、私はといえば、平静など保っていられるはずもなかった。 (変身って、私今何になってるんですか!) 鈴木さんを問い詰める、が、どういうわけか、彼は初めて、若干引いたような顔をして。 「いえ、それはまあ、聞かない方がよいかもしれないですね……」 (はあ⁈) 「いえ、まあ、大丈夫です。少なくとも、悪い未来にはならないかと思いますし、男性に乱暴されたり、そういう無茶苦茶なことにはならないと約束いたしますので……ええ、だいじょうぶですよ」 (ちょっと、どうしてそっぽを向くんですか!) 私が文句を言おうにも、私を手に取っていたらしい鈴木さんは、当たり前のように準備を整えていて。 「じゃあ、お願いします。向こうでお客さんがお待ちなので」 (えっ……きゃああああっ!) なにを言うまでもなく、そこで私は、すとん、と、視界が真っ暗に染まった。 今思えば、袋詰めされたものが、宅配ボックスにでも入ったんじゃないだろうか。


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