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トラックのお仕事 前編

運送業界は、いつだって人手不足に悩んでいる。 物流の問題を解決するために、常日頃から様々な手段を用いて、お客様の元へ、てきぱき性格に荷物を運ぶのだ。 「あーもう、忙しい忙しい。ったく、もう少し給料上げてほしいなあ」 そんなことをぼやいてみたところで、私の給料明細が増えることはない。 社長に文句の一つでも言ってやりたいところだが、あいにくここからでは距離が離れすぎている。文句をつけたいときに限ってずいぶん遠くに来ていたりするのは、運送業あるあるだ。 「……うわ。もう夕方か……明日の朝までにはこばないとな。これ」 一応言っておくと、私は本来、働き者のほうである。 そんな私が、ちょっとお昼寝をしただけだというのに、結構なタイムロスになってしまっていたらしい。 明日の朝までという余裕のあるタイムスケジュールだったが、こういう時にさぼってしまうのは私の悪い癖かもしれないなあ。 仕事人として、社会人として、常識と倫理をわきまえた行動を心掛けないといけない。 「つーわけで後輩ちゃん。今日は初めてのお仕事だとは思うけど。協力してね」 「……ううっ、ほ、ほんとにやるんですかあ? こんなの、普通の運送業じゃないですよっ」 「まあ、うちは特殊だからねえ」 私が声をかけると、先ほどまで一緒にお昼寝をかましていた後輩ちゃんは、途端にいやそうな顔をした。 まあ、気持ちはわからなくもないが、それでも私は先輩として、後輩ちゃんを何とかなだめる。 彼女の言いたいこともわからなくはないのだ。 実際うちの会社のやり方はおかしいし、人件費に飽き足らず、いろんなところの経費を削ろうとするのは、本当にしょうもないことだとは思う。 それはそれとして、こんな生意気な後輩ちゃんが、これからすごい目に合うんだと思うと、すごくドキドキわくわくするわけで…… 「さて、時間だ。後輩ちゃん。覚悟はできたかなー?」 「……はい、いつでもどうぞ」 まるで元気がなかったが、了承が得られた。 と、いうわけで、私は目の前の仕事帰りの後輩ちゃんの頭に、コショウのような小瓶を振りかけて― 「よしっ、準備オッケー!」 夜間の配達業。それは、時間との闘いであると同時に、自身との戦いでもある。 時間通りに配送することはもちろん、安全運転を心掛け、万が一にでもけががないように、細心の注意を心掛けなければならないのだ。 トラックに荷物も積んだことだし、あとは運転して、明日の朝までに目的地へ。 そして、車一つもなかったはずの駐車場には、いつの間にか一つのトラックが。 荷物はすでに積み込んであって、あとは目的地まで運転するだけである。 にしても…… 「ふふん。後輩ちゃんも、こんなおっきくてごつい体になっちゃって……」 「~~~~~~~!」 「あははっ、ごめんごめん」 トラックが大きく揺れる。どうやら物申したいところがあるらしい。 試しにラジオのスイッチをオンにしてみると、案の定、文句のような声が聞こえてきた。 『女の子にごついとか言わないでくださいっ! すごく傷つきます!』 うん。可愛い声がラジオから聞こえてくる。 さっきまでニコニコしてたかわいい子が、こんな姿になれば、そりゃまあ、傷つくのかもしれない。 「えー。でも、ほんとにおっきくて立派なトラックになったのに―」 『ううっ……どうして私、こんなことに……』 「どうしてって言われても、これが仕事だし」 『運送業は了承しましたけど、まさか運送するトラックになる仕事なんて聞いてないですようっ!』 ……まあ、そうだね。気持ちはわかる。 うちの会社は普通の運送会社だが、いかんせん、お金があまりない。 かといって、ブラック化といわれれば、同業者に比べれば、給料も休みもそれなりにまかなえている。 それを可能にしているのが、この、社長が通販で手に入れた怪しげなコショウ瓶。 これを社員の頭に振りかけてくしゃみをさせると、あら不思議。自動的に大型のトラックに変身してくれるというわけ。 ……説明しておいてなんだけど、私としても意味は分からないなあ。 「まあ、うだうだしてもしょうがないよ。ほら、落ち着いて落ち着いて」 そう言いながら、私はトラックの正面に手を置いて、後輩ちゃんを慰めようとした。 だが…… 『せ、先輩……や、やだっ、ど、どこ触って……あっ……んっ……』 「……あ、そうだった。ごめん」 どうやら、人間の体でいうところの、デリケートな部分を触ってしまったらしい。 私も初めて変身したとき、同じ目にあわされたからよくわかる。 「それに、変身したては敏感だからねえ。ちなみにだけど、走り出したらもっとすごいから、楽しみにしておいてね」 そういうと、私はドアを開けて、中に乗り込む。 『はあんっ、あっ、やっ、そんなっ、乱暴にしないでっ、そ、そこはっ、んッ……敏感だからっ……だめぇっ』 「……」 吐息とともに聞こえてくる甘い声に、私まで変な気分になりそうだった。


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