アラサーのセンパイは若返ってもかわいい 前編
Added 2024-04-20 05:00:00 +0000 UTC「久しぶりに来たけど……センパイのアパート」 センパイとは、結構長い付き合いである。 大学のころ、同じサークルに所属していて、さっぱりしているようで中身は純情なその性格が、ギャップというか、ぐっと来たのを覚えている。 正直頭でいえば僕のほうが良い気がしたが、彼女には我、というものがしっかりと備わっていた。 なんていうのかな。芯が強いというか、自分という人間を気迫にせずに、とにかくやりたいことに全力になれるあの感じに近い。 好きだった人に全力で告白して、頑張った割にはあっさり降られて、物陰で鳴いている姿を見ると、ああ、頑張ったんだなあと、他人ごとみたいな感想を抱いたのを覚えている。 一生懸命でかっこいい、自慢のセンパイといっていい。 実際僕は、そんな先輩から多くを学んだ。あきらめない大切さとか、自分の感情に正直に生きることとか、やりたいことをやりたいときにやることが、どれだけ楽しいのか、とか。 「だからまあ、先輩と同じ会社がいいなと思って、わざわざ同じところに入社したんだけど……うん。まあブラックじゃないだけましな方か」 ホワイトとはあまりいいがたいが、ブラックといえるほどひどい会社ではない。まあ、僕の能力的にはもう少し上に行くこともできたのだが、まあ、なってしまったものは仕方がない。 ……さて。 そんな感じで同じ会社、同じ職場にまで乗り込むことに成功した僕だ。 センパイも最初はぎょっとしていたけど、最近は慣れたようで、ぞんざいながらも僕とはそれなりに上手にかかわれている。 ……だったのだが。 「笠原君……北尾さんがまだ出社してないんだけど……心当たりある?」 「……え? ほんとですか?」 「……うん。今まで無遅刻無欠勤だったし、そういう不義理を働く人じゃないからさ」 「それはまあ、そうですね」 いうまでもなく、先輩はまじめな性分である。 時々自暴自棄になったりするタイプではあるけれど、休むなら休むと、連絡の一つくらいはよこすはずだ。 「センパイとは長い付き合いですけど、今まで時間に遅れてきたことはないはずですよ? 大学のころだって……」 「あーうん。君と北尾さんの話はもう十分聞いたから……でも、うーん、どうしたものか……」 「どうしたものかって……僕が呼んできますよっ」 「そういうと思った……まあ、一番親しい君に任せるべきだよなあ……有給は残ってるね? 何かあったらちゃんと連絡するんだよ?」 「了解っす!」 そうして僕は今現在、アパートの前にいて、ピンポーン、と、インターホンを指の腹で押した。 「先ぱーいっ、僕ですよ僕。 開けてください どこか具合でも悪いんですかー?」 「……」 返事がない。 だが、想定済みだ。 僕は小さく息を吸って、覚悟を決めるように、 「せんぱい、二十秒だけ待ちます。二十秒立って鍵が開かないのなら、僕はこの鍛えぬいた身体能力をもってして、あなたのアパートのドアを力づくで……」 と、言いかけたところで、 「……危険なことするな、ほんと、お前はどうして……」 小さい声だが、それははっきりと聞こえた。 「何だ……とりあえず生きてはいるんですね。心配したんですよ」 「……それは、悪かったよ。会社にも連絡してない。でも、勘弁してくれ。今の私には、そんな気力もない」 「……?」 らしくもなく弱気な発言。 これだけでも普段のセンパイらしくはなかったけれど、僕が一番違和感を覚えたのは、別のところだった。 そう。 「それはそれとしてセンパイ。センパイの声、なんかかわいくなりました?」 「……っ」 ドアの向こうで、息をのむような音がした。どうやら、何かの地雷を踏みぬいたらしい。 「や、やっぱり今日は、帰ってくれ……」 「……ほんとに、どうしたんです?」 「や、だから……」 鍵が開いた音はしたというのに、しかしドアの向こうのセンパイは、顔を見せてくれない。 ただ、そこで満足するわけにもいかず、僕は強引に、先輩の部屋にずんずんと入っていって…… 「どうしたんですか先輩……え?」 しかしそこで、ようやく、事態の深刻さを理解したのだ。 「や、だ、だから……」 なにせ、僕が目の当たりにしたのは、僕がさんざん見てきたどのセンパイとも違う…… 「中学生、いや、小学生くらいか……?」 「い、いうなぁ……私だって、何が何だかさっぱりなのに……」 明らかに幼い姿に若返っていた、先輩を見て、僕はしばらく呆然とした。