歯ブラシの屈辱 中編
Added 2024-04-06 05:00:00 +0000 UTC「はい、答えは簡単。俺の異能力でお前が歯ブラシに変えられて、持ち運ばれてるってだけだ」 はい、おしまい。と、笑いながら大通りを歩いていると、手元の歯ブラシから抗議の声が上がる。 (な、なんですかこれ! 私の体、どうなって……ひいっ!) 「ほら、何度も見せただろ? もう一回見せてやろうか?」 近くの窓ガラスに映る俺と、ただ何物でもない普通の歯ブラシが一つ。 (う、嘘……ひゃあっ、わ、私、歯ブラシになってるのっ、いやああっ……!) 俺がガラスに映る歯ブラシの持ち手をなぞると、美クリ、と、歯ブラシがよがり。そして、歯ブラシになっているであろう、女の喘ぎ声が俺の頭に響く。 「……この俺が、お前ごときの体で釣れると思ったか? バカにするな」 (ひいいっ! ま、待ってっ、そこさわらないでっ、あっ、ああっ!) ツンツンと歯ブラシの持ち手をいじりながら、俺は毅然とした態度で言ってやった。 「悪いことを当たり前のようにして、自分の体を打って当たり前に逃げおおせる。そんな生き方ばかりしてきて、誰からも咎められなかったのか。可愛そうなやつだな。だが、俺は違うぞ」 (あっ、ああっ、や、やめっ……!) ビクンビクンと痙攣する歯ブラシ。当然だ。人間の体とは、感覚からして違う。女性としていかに抱かれ慣れていようが、未知の快楽の前ではみな平等だ。 「なんでもやるって言ったのはお前だからな。言質は取った。そんでもって、今のお前はただの歯ブラシ。人でない以上、人権もない」 (な、何がっ、あっ、あっ……) ツンツンといじめているから、絶え間なく変な声が上がってくる。 だが、これはあくまで軽いジョブ。 いたずらの指を止めて、本命の一言を、俺は言ってやる。 「俺の手がなければ、お前は人間に戻れない。もしも俺がお前をその辺のごみ箱に捨てちまえば……どうなるかな?」 (っ!) その言葉に、歯ブラシとなった女が、凍り付いたように見えた。 まあ、ようやく自分の置かれた立場に気づいた、と言ってもいいだろう。 (お、お願い! 戻して、もとにもどして!) 必死に懇願する女性。敬語がとれているあたり、上っ面モードというか、余裕の類が完全に消え失せているらしい。 実際声だけでもそれなりに良い部類だし、元の姿ならばいつもの美貌でどうにかなったのだろうが…… 「さっきみたいに誘惑するにも、その姿でお前、俺をどう誘惑する気だ?」 (そ、それは……) 頭がいいわけではないらしい。返す言葉がなくて、とうとう黙り込んでしまった。 ……まあいいや。 (……え? やっ、やんっ! な、なにするの⁈ ああんっ!) 指で持ち手のところをくいくいとにぎったりしてやると、甘い声を上げてはくる。おそらく、体中をまさぐられているのに近いのだろう。人間とは構造から違うので、しいて言えばの話だが。 「うっせえ。言い訳はするし、下手な取引はするし。お前は明らかに人の道を踏み外してる。そんな奴は人間をやめたくらいがちょうどいいんだ。一生モノとして使われて、使い物にならなくなったら燃えないゴミとして捨ててやるから、覚悟しろ!」 (い、いやっ、そんなの嫌よ! お、おねがいっ、お願いだから私を元に戻して! 人間に戻ったら、あなたに抱かれてあげるから……むぐうっ⁈) 「うるさい。んっ」 最後まで言い終わることはなかった。俺が口に放り込んだからだ。 せっかく歯ブラシになってもらったのだ。せっかくだから、有効活用しようじゃないか。 俺は何の躊躇もなく、歯ブラシを口に含み、そのまま歯を磨き始める。昼飯は食ってないから実は案外きれいなものだが、まあ、こいつにはいい薬になるだろう。 当然、歯ブラシと化していたこいつからは、阿鼻叫喚の悲鳴が上がった。 (やっ、やめてっ! 口の中に入れないでっ! いやっ、おねがいっ、やめてえっ! あ、あんっ!) 本来の使われ方をしているからだろうか。悲鳴の中にも喘ぎ声が聞こえてくるのが新鮮である。 「まあ、安心しろ。それなりに清潔に扱ってやるよ。だが、当面お前は俺の歯ブラシだ。その汚れ切った精神をもって、俺の口の中を清潔に保てよ。あっはっは」 (じょ、冗談じゃないわ! 早くここから出してっ、嫌っ、汚いのはいやあっ、はやくもとにもどしてっ、あ、やっ、あんっ、そ、そんな、乱暴に、使わないで……んあっ……) 抵抗しようにも、歯ブラシとしての本能に抗えないのか、俺の口の中で扱われるたびに、甘い声が混じってしまうらしい。 そんな様子を見ながら、俺は今日も帰路につくのだった。