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竜人との姫初め 前編

一月二日。正月から一日たった、二日目。 のんびりするのが最適解とさえ言われるこの日に、しかし俺はせわしなく働いていた。 怠け者の節句働きと揶揄されるかもしれないが、毎日毎日勉強とバイトにいそしんでいるはずの俺だ。 年末年始くらいはゆっくりしたいというのに……やはりというか、今年も俺の人生は、朝っぱらから大騒ぎなのだろう。 と、言ってる間に目的地に着いた。 ピンポーン。 「おばさん、あけましておめでとうございます」 「あら、高貴くん。おめでとうね」 いつものようにインターホンを鳴らすと、やはりというか、おばさんが出てくる。 俺の家からわずか三つ隣の家。ある意味で、昔から慣れ親しんだ家だ。 「ごめんなさいね。麻衣がまた呼びだしたんでしょう」 「アハハ……」 大正解だ。さすがは母親。 俺の幼馴染……というか、付き合ったり別れたりを繰り返しているあいつ、麻衣は、それはもう、高飛車で傲慢で、そのくせだらしがない。ほんとに、嫁の貰い手がないとさえ思われる存在だ。こんな性格だというのにそれなりにもてるのは、それなりに見た目がいいのと、周りに対する演技力……つまるところ、外面がいいからだろう。 ……反面、自身の家族とか、付き合いの長い俺とかには、何の躊躇もなく迷惑を吹っ掛けてくるわけだが。 「あの子ったら、新年早々何かやらかしたみたいで……部屋から一歩も出てこないのよ。午後からは親戚も集まるっていうのに……お年玉だって……」 「……なるほど」 今更ながらというか、今の言葉を聞いて、麻衣の狙いが分かった。わかってしまった。 「午前中に問題を解決して、きちんと午後にはお年玉をもらいたいってことっすかねえ」 「多分そうだと思うわ」 二人して、深い深いため息をついて。 「私たちは親戚たちを迎えに行くし、午前中は絶対に帰ってこないわ。だから、あの子のこと、よろしく頼むわね」 「は、はあ……」 「絶対に、帰ってこないからね」 「……」 ……おばさんが何を言いたいのかは、わかってもわからなかったふりをしておこう。 「……さて」 中島家の皆様を盛大にお見送りした後、俺は重い足取りで二階への階段を上がり、何の変哲もないドアをノックする。 「おい、来たぞ。開けろ」 「……」 「麻衣、いるんだろ。お前は全く。新年から何をやらかしたのかは知らないけど。何とかしてやるから開けろって」 「……」 返事がない。 「おーい、おーい!」 そして、根気強く声をかけてみると、 「……帰って」 弱弱しくも、かすかに声が聞こえた。 ちょっぴり安心したが、同時にイライラもしてくる。 「おいこら。お前が朝っぱらから『高貴……助けて』なんて意味深な連絡入れたから、持ち一つだけ食ってきたんだぞ! 今日一日は何も考えずにだらだらするって決めてたのに、お前のせいで呼び出されることになったんだからな!」 怒りのままに扉を開けようとすると、ガチャリ、と音が鳴った。どうやら、鍵を開けてくれたらしい。 だが、俺が戸を引こうとすると、泣きそうなほどの、か細い声が聞こえてきて。 「……入ってもいいけど……嫌いにならないで」 「……わかったから。入るぞ」 らしくもない態度から、よほど厄介な何かが起きたのだなとは、理解した。 だが、だからと言ってここで引き下がるわけにはいかない。問題が起きているのなら、余計に早く介入するべきだ。 だから俺は、何の躊躇もなくドアを開けて、部屋に飛び込んで― 「ううっ、高貴っ、見、見ないでぇ……」 「……なるほど」 そして、毛布にくるまりながらも、ちらちらとこちらを見る麻衣を見て、俺は納得してしまった。 普段の気の強そうな雰囲気はそのまま、しかし、そのしなやかな指、手足はどこへやら。 毛布をかぶっていようが、見え隠れするその手と顔は、どう考えても人間のそれではなく。 どちらかといえば、アニメや漫画の世界で見るような、別の種族。 うろこに覆われた爬虫類特有の姿と、小さな毛布には収まりきらなかったのか、はみ出してしまっている尻尾。 「そ、そうか……それはまあ、びっくりするよな……」 「ううっ……」 よしよし、と、毛布ごしに麻衣の頭をなでる。 その姿は、ドラゴンと人が混ざったような、竜人、リザードマンとでも呼ぶべき、そんな姿だった。 「……落ち着いたか?」 「う、うん……」 ……ここまでしゅんとした麻衣を見るのも久しぶりだ。どうやら相当参ってしまっているらしい。わからなくはないけど。 「しっかしまあ、いくら今年が辰年だからって……まさかドラゴンになるとは……」 「私だって知らないわよう……」 なんでも、朝起きたらこうなっていたのだとか。なかなかにかわいそうな話である。 「よくよく見ると体のサイズもおっきくなってるし、毛布にくるまってたのって……」 「うん、服が入らなくて……強引に着ようとしたら破けちゃいそうだし……」 「そ、そうだな……」 目が覚めたらこの姿で、誰かに助けを呼ぶわけにもいかず、何とかという思いで俺に連絡を入れたのだそうだ。 つき合ったり別れたりを繰り返して、今は元カレの立場に甘んじてはいるけれど、そう言われると、悪い気はしない。 ただまあ……うん。 こんな姿とは言え、涙ながらに俺に抱き着いてくるとなると、何というかその……ドキドキしたり、しなかったりするわけで……うろこに覆われた体なのに、その、胸のほうははっきりと女性のそれを自己主張していて。 「……心当たりがあるとすれば……初詣のおみくじだよな」 「……うん」 なにせ、昨日二人でふらりと訪れた神社では、確かに奇妙なことが書かれてはいたのだ。 『明日の午前、あなたの身に劇的な変化が起きるでしょう。午後には治ってるから安心してね♡』 ふざけたおみくじもあったものだが、これを見る限り事実らしい。


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