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家庭教師 ①

ピンポーン。 インターホンを鳴らすと、中から妙齢の人妻が出迎える。 「すいません。家庭教師の斉木です」 『はーい、今開けますね』 母親の雰囲気はどことなく優しそうで、身なりからしても、かなり上品。 家の雰囲気に見合った、優雅な気品を感じ取れる。 彼女はこちらに恭しく一礼して。 「先生、本日も沙良のこと、よろしくお願いしますね」 「はい、お任せください」 出迎えられた側の男、斉木という男。スーツをきちんと決めて眼鏡をかけた、長身の優男は、優しそうな顔を浮かべ、玄関から階段へ。夫人に案内されたまま部屋の前へ向かう。 「沙良、先生がいらっしゃったわよー」 「っ! は、はーい」 コンコンとノックをしながら、夫人が声をかけると、扉の向こうからぎこちない声が返ってきた。 そして、十秒と少し。 ドアが開いて、中から出てきたのは、人形のようにかわいらしい小柄な少女。 彼女は先生の顔を一瞥して。 「ほ、本日もよろしくお願いします……」 まるで、何かに縋るかのように、挨拶をする。 「きちんと勉強して、いい大学に行くのよ」 「は、はーいママ。じゃあ先生」 「はい、それでは奥様。授業を始めますので」 優しく人妻に一礼した先生は、丁寧に部屋の扉を閉めて。 「さあ、始めましょうか。沙良さん……いいえ、先生?」 「……ううっ」 顔を真っ赤にする女性の前で、にこやかに微笑んだ。 沙良の部屋の内装は、この一か月間、何一つ変わっていない。 部屋が汚れた様子もなく、机の上もきれいに整頓されたままだ。 それはまぎれもない母親の方針であり、また、勉強環境を整えているのは褒められたことなのだろうが…… 「それにしても、私の演技、うまくなりましたね。先生?」 眼鏡をかけた優男は、少女に向けて、笑いながら話しかける。授業開始から五分。参考書のページは一枚も開いていない。 「身も心も女の子になっちゃいました?」 「そ、そんなこと……っ」 恥ずかしそうに顔をそらす少女に、先生は……否、沙良は。 「でも、しょうがないですよね。入れ替わってから一か月たったんですから。部屋もきれいにしててくれて、言葉遣いも私のものそっくり。大事にしてくれて、うれしいですよ」 「さ、沙良さん……いい加減、元に戻してよ……」 「ふふん、ダメですよっ。もう少しこのままで。私の体で恥ずかしがる先生を、もっともっと味わうんですっ」 笑いながら沙良の頭を……一か月前まで自分の頭だったそれをなでて。先生……先生の姿をした沙良は笑った。 家庭教師の男と、生徒の沙良。この二人が入れ替わったのはちょうど一か月前。 入れ替わりなどというのはまず意図的に起こせたものではなく。フィクションなどの世界でも、頭をぶつけただとか、そういう突然の、突発的な事件においてもたらされるものだ。まあ、現実においてそんなことで入れ替わっても困るので、意図的でもそうでなくても、起きることはまずない。 だが、 「まさか、私が適当に試してみたおまじないで……両想いの二人を入れ替えるおまじないで入れ替わっちゃうなんてねー。先生、私のこと好きだったんですね。あはは、ロリコンの変態だったんだー」 「ご、ごめん……」 申し訳なさそうに顔を下げる沙良。もとい先生。 しかし沙良は、そんな自身の姿を見て、嬉しそうに、 「怒ってないですよ。先生がいいなって思ったのも事実だし。先生が手を出せないヘタレだってことは、最初から分かってたし」 「ううっ……」 「だから私の体を使わせてあげれば、いろいろ暴走するかなって思ったけど……どうです? 私の体でお風呂入ったり、トイレ行ったりしたでしょう? 興奮しました?」 「……」 顔を真っ赤にしたまま固まる先生に、 「んもう、かわいいなあ」 「ひゃっ」 沙良はその大きな手で、強引に先生の、少女の小さな手をにぎる。 恋人つなぎを強引に達成したところで、 「先生、私の体って確か……今日安全日ですよね」 「⁈」 顔をぐっと近づけて、真剣な顔で告げた。


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