先生はペットボトル ①
Added 2022-10-15 02:00:00 +0000 UTC「あ、白石君、秋山先生知らない?」 「ん? 知らないけど、どうした?」 男子高校生が教室を出ようとすると、急いで乗り込んできた女子グループがいました。 男子高校生の名は白石君といいます。ペットボトルのお茶を片手に握って、カバンを背負って、今にも帰ろうとしているその姿には、なかなかさわやかなものがあります。 実際モテるので、文句の一つもありません。 「いやさあ、先生にわかんないとこ質問したいんだけど、知らない?」 そういえば、そんなものもあったなと、思い出した白石君。 「あー。あれかあ。でもあれって明日までだったんじゃなかったっけ」 「えー? そうだっけ? まあいいや、あたしらテスト勉強するんだけど、白石君も来る?」 女子グループからのお誘い。モテ男にとっては之も日常茶飯事なのでしょうか。 白石君は考えるように、ペットボトルの蓋を取って、飲み口に口を付けます。 心なしかペットボトルが震えたようにも見えますが、だれも気にする様子はありません。 そして、たっぷり数秒考えて、白石君。 「や、いいわ。俺。今日はパス。かえって一人で勉強するわ」 「ん、了解。ほんと、先生どこ行ったんだろ」 びくびくっ、と、今度は大きくペットボトルが揺れました。いたって普通のお茶のペットボトルです。 「……ん? これ、今揺れなかった? 水面じゃなくて、ペットボトル自体が、変に動いたような……」 クラスメイトが不思議そうな顔をして、白石君に問いかけますが、当の白石君はきょとんとした顔を崩しません。 「気のせいじゃないか? ほら、俺もこうやって軽く握るし。ほら。意外と柔らかくて気持ちいいぞ?」 にぎにぎとつかんでみても、やっぱり普通のペットボトルです。 「んー。まあ、そうだね、ごめんごめん、変なこと聞いた」 「疲れてるんじゃないの?」 「そうかも、なんか白石君のお茶のペットボトル、震えてるように見えるし」 「ハハッ、気のせいだって」 実際小刻みに震えていたペットボトル、白石君がデコピンを一発、底の部分に充てると、打って変わったようにおとなしくなりました。 「んじゃあ、私も帰ろっかな、先生には明日聞けばいいし、じゃーねー」 そして、教室から飛び出していく女子生徒をよそに、嶋野君もそろそろ帰るかと、帰りの準備を始めます。 ペットボトルを机の上において、そそくさと荷物を片付けていく白石君。大した持ち物もなかったので、せいぜいかかった時間は三十秒程度でしょう。 白石君が机の上を眺めます。ペットボトルを眺めます。うん、ピクリともしません。 「どこからどう見ても、普通のお茶のペットボトルだよなー?」 白石君はまるで話しかけるように、そのペットボトルに向かって独り言をこぼします。 当然ながら、ビクリともピクリともせず、それはペットボトルのまま。 「さ、かえりますよーっと」 誰もいない教室で、なぜか誰かに語り掛けるような白石君。人が見れば、イケメンの独り言という、ちょっぴりミステリアスな光景に見えたかもしれません。 「おー白石、今度野球部の助っ人頼むわー」 「おー。任せとけ」 野球部の面々に軽く一礼を済ませます。うんうん。どこからどう見ても好青年。帰宅部にしておくのがもったいない逸材。帰路に就くその足はどこまでも軽く、道行く人から見ても悪い印象の一つさえ感じさせません。 結局白石君の下校に不自然なところは何一つ見られませんでした。しいて言えば、帰り道にクレープ屋さんに寄っていましたが、それくらいです。二つ買っていたのはまあ、家族へのお土産でしょう。 そんなわけで、この日の白石君の日常も、何事もなく夜を迎え…… 「はあっ、はあーっ……や、やっと元の姿に戻れた……」 その日の夜のことを少しだけ。 白石君の家にて、顔を真っ赤にしながらぜいぜいと息を整える女性が一人。 ネタバレを言ってしまえば、それはみんなが探していた、秋山先生その人でした。 なぜか白石君の家にいて、顔は真っ赤。 「あ、あれだけやめてって言ったのに、どうして……」 「いやあ、そういわれてもなあ」 「はぐらかさないで……っ、あっ」 「おっと、大丈夫?」 足がもたついたところで、すかさず白石君が受け止めます。 そして、 「ん、お疲れさま。冷蔵庫にクレープ冷やしてあるから、先生も食べていってよ」 「……もう」 優しい言葉を投げかけて、そのままよしよしと頭をなでる白石君。どう考えても、手慣れています。手慣れすぎています。 そんなテクニックに心を許したのか、秋山先生。 「これ、いつまで続くのよ……」 「あと数日は続くから、頑張ってよ」 泣き言をいう先生に対して、白石君は苦笑して。 「でも、先生もちょっぴり楽しいんじゃないの?」 「そ、そんなこと……」 「体中俺に触られて、よがってたよね先生。ほら、帰り道だって……」 「そ、そんなことないわ……」 「もっと言えば、教室でクラスの女子に先生のこと聞かれた時だって、俺に触られてはしたなく喘いじゃってさあ」 「……ほ、本当に聞こえてないのよね? あの子たちには、聞こえてなかったのよね⁈」 明らかに狼狽した様子で、ゆさゆさと白石君の肩をつかむ先生。 その必死さに何か思うところがあったのか、白石君はけらけらと笑うばかりでした。