ガラガラ、ポン! 前編
Added 2022-07-02 04:00:00 +0000 UTC「ほ、本当に大丈夫なのかね、斉木君」 「落ち着いてください、店長」 何処の業界にも言えることだが、適当に入ったバイトが、正社員より優秀であったり、場合によっては店長よりも仕事ができてしまうことだって、まあある。 そして、その場合、店の存続にかかわる問題を、あろうことかバイトに相談するケースも、現実的にあり得る話だったりする。 だからこれは、優秀なバイトと、そうでもない店長と、店の話だ。 八百屋、高島商店では、年に一度、大規模なガラポン抽選会を執り行うことになっている。 あまり売り上げがないこの店が未だに近所で有名であり続けるのは、ひとえにガラポンの商品が豪華だからだ。 一等の白物家電は言うまでもなく、二等の温泉旅行、三等の海の幸セット。どれもこれも、町の商店街の中では頭一つ抜けていた。 ……が、当然費用はかさむ。ただでさえ今年の利益は芳しくない。当たらずに越したことはなく。 「でも店長、ガラポンであたり抜いとくってのはさすがに無理がありますって。知ってますか? 隣町の縁日。当たりくじの店であたりがそもそもなくて、警察沙汰になったんですよ?」 「ううっ……そ、それは困る。となると、やはりガラポンに仕掛けをして、私が引いた時に偶然一等が出るように……」 狡くとも、案外頭の回る店長に、しかし。 「……その案は悪くないです。でも、仕掛けなんてばれたら一発アウトでしょ。それに、どういう仕掛けにするか、プランはあるんですか?」 「そ、それは……」 ほら、やっぱり思いついてない。そういうリスクが高いのはダメですよ。……僕に任せてください」 「? 何かいい案でもあるのかね?」 首をかしげる店長に、斉木は、 「ほら、いたでしょう? この間家で万引きした女。警察には突き出さなかったけど、やっぱりけじめは必要だと思うんですよねえ」 「……なるほど」 二人は暗く笑って、まるで悪役のようだった。 翌日、店長が店に赴くと、そこではもうすでに、ガラポンが始まっていた。 毎年のような行列が当然のようにできていて、参加者たちは一つしかないガラポンを、順々に回して、肩を落として帰っていく。 その光景にうんうんとうなづいた店長は、見張りをしていた斉木のもとに近付くと、 「……うまくやってるようだね」 「ええ、よく頑張ってると思いますよ、彼女も。……まあ、苦しいかもしれませんが」 二人そろってガラポンの方に目をやる。 そのガラポンは、木製のボディに、たくさんの玉がジャラジャラ入っているような、どこにでもある普通のガラポンそのもので。 しかし、よくよく見ると一回転した後も、小刻みにビクビク震えているようにも見え、 「はい、参加賞のティッシュでーす」 店長がお客を景品コーナーに誘導しているすきを見計らい、斉木は、ガラポンの胴体を叩いて、ちいさいこえでかたりかける。 「よしよし、よく頑張ってるな」 その瞬間、ただの抽選道具であるはずのガラポンは、ビクンと小刻みに震える。それを見て、斉木も暗く笑って、もう一度ガラポンをつつく。 ビクンビクン、と、今度は二度、けいれんした。 まるで、やめてくださいと、懇願しているように。 「ああ、悪かった。でも、気をつけろよ? 万が一金色の玉を吐き出した日にゃ、お前のやらかした万引き、警察に突き出すからなー?」 そうしてもう一度ガラポンをつつくと、次のお客さんが前に立った。 「あら? このガラポンのやつ、なんだか震えてませんか?」 「ん? ……ああ、ごめんなさい。僕のスマホに通知が来てました」 「あらあら、まあ、そうよね。はい、10回でいい?」 「ええ。ふふっ、毎年これが楽しみなのよね……あれ?」 「今度はどうしました?」 「いえ、たびたび申し訳ないのだけど、なんだかこのガラポンから、声が聞こえた気がして……なんだろう、『触らないで』とか、『やめて、もうやめて……』みたいな声が聞こえた気がして……」 「ふふっ、桃子さんは感受性豊かですねえ。ひょっとしたらいいもの出してあげようと、ガラポンもやる気になってるかもしれないですよ?」 「そうかなあ……」 そう言って回し続けると、狙いすましたかのように紫色の玉が出た。 「ほら、お醤油ですよ。お見事ですね」 とんとんと、指先でガラポンと叩きつつ、斉木は目の前のお客をほめたたえる。 「ええ、ありがとう。でも、どうしてかしら、なんだかこのガラポンが怖がってるように思えて……ねえ、もう少しこの道具、優しく扱ってあげてね?」 そういうと、お客は足早に去っていき、 「……鋭い人もいるもんだなあ。気を付けよう」 こつん、と、最後に一回だけ金属部分を叩いたところ、まるでガラポンが喘いだように、小刻みに震えたのだった。