豚の貯金箱
Added 2020-07-18 12:39:39 +0000 UTC俺は今日も軽い気持ちで豚の貯金箱に5円玉を入れる。何かいいご縁がありますようにと願いを込めて、入れる。 すると、貯金箱から返答が帰ってきた。 (ひぐぅっ、お兄ちゃん…もうげんかいっ、これ以上はいらないっ、入らないからっ…やめてっ…!) 妹の由衣の苦しそうな声。だが、これもこいつの自業自得。 自分勝手なこいつが悪いとしか言えないのである。 俺、壮太と、妹の由衣は、黒魔術使いの血を引いている。 黒魔術というのは複雑ないけにえが必要だったり、割とグロテスクなものもあるが、俺たちのそれは割と真っ当。 ただの一般的でどこにでもありそうな物品化魔法だけである。 …まあ、割とマイナーなのは認めよう。変身魔法全般ができればよかったのに。 さて、ここまでヒントを出せば豚の貯金箱から由衣の声がする理由も分かるはずだ。 この豚の貯金箱。うちの妹の由衣が変身した姿である。 きっかけは数日前の、由衣のあほな一言だった。 「ねえ、簡単にお小遣い稼ぎできる方法があるんだけど、知りたくない?」 「知りたくない。」 どうせ俺の話など聞いてくれないので、妹は普通に話し始めた。 ・まず、妹がお金持ちの金庫に忍び込み、大金を手に入れる。 ・そして、そのお金とともに適当な物に変身すれば盗品も犯人もいなくなる。 ・あとは、どこかのタイミングで俺が回収する。 といったものだった。 …ああ、お気づきの通りだ。この妹、あほである。 お金持ちの金庫に忍び込む?そもそもお金持ちの金庫ってなんだ。忍び込めないだろうが。 俺が親切に作戦がいかに不可能な物かを説いたら、妹は逆上して襲い掛かってきた。 「こうなったらお兄ちゃんを貯金箱にして友達の家においてやる!」 …なるほど、そしてたまったら俺が帰ってきて、再度物品化、中身をいただこうということか。随分スケールが小さくなったが、具体性は見えたな。 だが問題はある。 「めんどくさい、おまえがやれ」 単純に俺にその気がないということだ。 妹の魔法を黒鏡で跳ね返す。 黒魔術は黒鏡で跳ね返せる。常識だ。 「っ、ちょっ、ま、待って…うああああああっ!」 ピカーッと音が響いて、妹の姿は忽然と消えたのである。 改めて貯金箱を見てみよう。 極めて一般的な、豚の貯金箱。こいつめ、俺をこんな姿にするつもりだったのか。 むかついたので、軽く指ではじいてみる。 (あうっ、お、おにいちゃんっ、そこっ、胸っ、やめっ、あんっ) 何が胸だ。貯金箱だぞ。平らに決まっている。 (く、屈辱よっ…よりにもよって豚の貯金箱なんて…あうっ、触らないでよっ…) 「いや、ただの貯金箱だぞ、触ったくらいで何だってんだ。」 (か、かんかくはのこってるよぉっ、あ、謝るから…もうやめてっ…) そう簡単に許すなら、俺たち兄妹はとっくの昔に真人間になっている。 俺は一つ悪だくみを思いついて、大量の小銭を投入し始めたということだ。 月日は流れ、そして、冒頭に戻る。 「おうおう、大量に入ったなあ。これがほんとのお金持ちだ。妹よ。気分はどうだ?」 「うっ、くぅぅっ、お、おねがいっ、もう、身体がパンパンでっ…げんかいなのっ」 「分かってる分かってる。じゃあ最後に一つ。ここ、貯金箱のふたなんだけど」 (アンッ!ど、どこ触ってるのよ!エッチ!) 「…いったいどこを触ったんだ。おれは」 ひょっとして、いや、部分的にアソコになるのか?反省。 反省しても、触ることは触るんだけど。 妹も気づいたのか、戦慄する。 (ま、まさか…) 「そう、ふたを開ければ一気にお前の中にあるお金があふれ出てくる。おもらしだ。」 豚の貯金箱の抵抗はすごかった。 (ま、まってよ!ねえ、お兄ちゃんっ、やめて…) じゃ、頑張れよと一言つぶやいて、俺はふたを外した。 (ふぁああああっ、だめっ、もれちゃうううっ、もれてるうっ、お、おにいちゃっ、見ないでっ…!) 随分と恥じらう乙女のようなことを口走ってはいるが、豚の貯金箱なので何一つエロくない。 だが、声だけは切実で、少しだけかわいそうに思えてきた。 「しょうがないな。手伝ってやるよ。ほら」 (ひゃあっ、そ、そんなところっ、きたないよっ、ああっ、かきださないでっでちゃってるっ、んあああっ) …どこをいじくっているのか怖くなってきたので、無心で小銭を掻きだした。 ていうか、貯金箱なんだから汚いわけがないだろう。 (ふぁあああっ、お兄ちゃアアンッ、ああああああああっ) 結局その日の晩、妹は元の姿に戻った。 翌朝、妹が俺と目を合わせると非常に恥ずかしそうな顔をする。トイレに行く時も、俺の目を盗むようにこそこそと移動するのが分かった。 貯金箱の穴は、あいつのどこだったのかなと、若干背筋が凍った。