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無能一文
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[♂/連載]女の子の家で~年に一度だけの特別な日に~ [1-1]

     1 「ふふ、康一くん、ちゃーんと来たね。さあ、入って」 「……う、うん」  女の子の家に遊びに来るのは、人生で四度目だった。最初の二度は、幼稚園の頃と小学一年生の頃の話だったので、高学年になってからは二度目となる。康一は緊張していた。笹川扶美香の家の中は、自分の家と比較すると整理整頓が行き届いていて、調度品にも気品があるように感じられる。しかし、緊張しているのは、慣れない女子の部屋に来たことだけが原因ではない。  前を行く笹川扶美香に案内されて、リビングを通り抜け、飴色の扉の奥にある彼女自身の部屋に入る。笹川さんの部屋。二度目の訪問であっても、一度目の訪問時の記憶が散々なものであっても、康一はやはり鼓動が早くなるのを自覚した。いかにも女の子の部屋らしい、ふんわりとして甘くてやさしい、いいにおいがするのだ。この部屋の主がどのような人物であるかよくわかっていても、やはり、康一は胸の高鳴りを抑えることができなかった。  扉の向こう、目の前に広がるのは、かつて憧れた少女の部屋の風景。中には、すでに二人の別の女子がいる。 「あっ、康一くん。逃げずに来たんだあ」切れ長の目をした、クラスメートの泉がにやにやして言う。 「ここで会うのは二度目だね。学校ではいつも荷物持ちありがとー」同じくクラスメートの森本が首をわずかに傾けて、おっとりとした印象を与える微笑を浮かべる。 「う、うん。それで、今日は……」  何なの? 何をする日なの? 康一は自分を取り巻く女の子達の視線に少なからず圧迫感を覚え、無意識のうちに語尾を濁した。  かつてこの場所で起こったことの記憶が、鮮明に蘇る。前に招待された時、康一はこの家で口に出すのも憚られる大失敗を犯してしまった。だから、本音を言うと、康一は顔から火の出るような思い出の染みついたこの部屋を、もう二度と訪れたくはなかった。あんなことをしでかした以上、笹川から招待されること自体、二度とないだろうと承知していた。  康一は複雑な心境で部屋の中を見回す。棚の上には写真と、お洒落だけど用途のわからない小物があり、壁の辺りにはふわふわしたぬいぐるみが何体か座り込んでいる。以前来た時と変わらぬ、芳しい香りの漂うかわいらしい部屋。招待されること自体、二度とない――そのはずだったのに。また、自分はこの場所に来ることになってしまった。招かれた理由も知らぬままに。 「明日、うちに遊びにおいでよ」  廊下で笹川から誘いを受けたのは、昨日の昼休憩が終わる間際だった。  康一は予期しない事態に、まず驚いた。それから数秒後、ようやく何か答えなければいけないことを理解し、口を開こうとした。へどもどしながら、康一がやっとのことで断りの意志を伝えると、笹川は口元に手を当てた。目を細め、ふふーん、と意味ありげに鼻を鳴らす。 「そうなんだー。康一くん、私の誘い、断るんだー」上目遣いで、覗き込むように。悪戯っぽく、小声で続ける。「お・も・ら・し。学校のみんなに、言い触らされてもいいのかなあ?」  顔が瞬時に熱を持つのがわかる。康一は押し黙った。それを見て、笹川の隣にいた泉と森本がくすくす笑った。いつかのように、はやし立てられる。 「覚えてるよね、笹川さんの家で『しーしー』したの」 「同級生の女の子の家でね。おズボンの中で『しーしー』って」 「あらら、どんどん顔が赤くなってきた。女の子におもらしのこと言われて真っ赤になっちゃうなんて、情けないなあ。そんなだから、間に合わずに『しーしー』しちゃうんだよ。ふふ、もっと言ってやろ。康一くんの『しーしー』」 「やあい、『しーしー』」  そんな風にからかわれると、康一はもう何も言えなくなってしまった。口惜しさと恥ずかしさで胸がいっぱいになってしまい、それが許容できる線を超えて、目尻には自然と涙さえにじんでくる。結局、康一は女の子達にけらけら笑われながら、彼女達の脅迫に屈してしまった。  そうして、今。康一は再び、自分の運命を変えた笹川の部屋にいた。  目の前で企みありげに沈黙を守っている三人の女の子。彼女達が持つ本性を、康一はすでによく見知っていた。彼女達は外見通りのきれいな女の子では決してなかった。前回、ここを訪れた際の失敗をネタに脅迫されたのも、実のところ今回が初めてのことではない。帰宅時の荷物持ちから始まり、掃除当番の押しつけ、宿題の代行、他の男子グループや女子グループとのいさかい時の援護射撃。ひどい時には暇つぶしの一環として、康一は通りすがりの女子のスカートめくりまでやらされた。結果、スカートめくりの罪で康一が先生に厳しく注意されるのを、彼女達は笑いを噛み殺して見守っていたものだ。「康一くん、スカートめくりしたんだー」「やだ、へんたーい」「あんなに怒られてでも、女の子のスカートの中を見たかったんだあ」――。  彼女達の聞こえよがしの陰口に、康一は強く唇を噛み締めたのをよく覚えている。  あの大失敗以来、何かにつけてそのことを持ち出され、女の子達の思うがままの行動を康一は強要された。弱みを握られた康一は、しぶしぶ従うしかなかった。まさに悪夢のごとき日々だった。そのせいで、康一は男友達の大半から「女子の肩を持つ奴」としてすでに見切りをつけられていた。他の女子達からも、『笹川のパシリ』と認知されていた。女の子三人分の鞄と自分のランドセルという身に余る重量の荷物を全身に提げて、荷物運びをさせられる康一の姿は傍から見ても奇異なもので、「男子のくせに情けない」と男子からは憤慨を、女子からは失笑を買った。  康一は単純に恐ろしかった。この子達が、今ここに至って自分に対してどのような無理難題をふっかけてくるのか、と。  康一の無言の問いかけに、笹川、泉、森本の三人は意味ありげに目配せをしあって、忍び笑いをもらした。康一は居心地の悪さを感じた。女の子達にあざ笑われることに、康一はどうしても慣れることができなかった。大多数の小学生男子の例に漏れず、康一は女の子に賞賛され、誉められ、尊敬されたいという儚い願望を抱いていた。でも、笹川達の近くにいる限り、現実にその願いはかなわない。いたたまれない気持ちを誤魔化すようにして、笹川が用意してくれたジュースを少しだけ口に含む。  いつかと同じ、甘酸っぱいレモンジュースの風味が口中に広がった。 「……実は今日、康一くんに来てもらったのにはわけがあります」  どことなく苦くさえ感じられる冷たい液体が喉を通り抜け、康一がグラスを置いたとほぼ同時。もったいぶった口調で、笹川が切り出した。ぴん、と立てた人差し指を康一の方に向ける。 「康一くんに質問です。さて、今日は何の日でしょう?」  今日は何の日――その質問に対して、康一はすぐに一つの答えを思い浮かべることができた。忘れるはずもない。自分にとっては、一年に一度しかない特別な日だったからだ。だけど、と思う。自分とその家族にしかほぼ関わりのないはずの『この日』に、一体、彼女達が何をしようというのか。そこまで思考を進めて、ふと思い当たる。同時に、まさか、と思う。このお世辞にも善人とは呼べない三人に限って、そんなことがあるだろうか。  疑心暗鬼になって、思い浮かんだ答えを口に出せずにまごついていると、笹川がじれったそうに苦笑した。 「もうっ、康一くんったら。自分のお誕生日を忘れる人がどこにいるの」  康一ははっとして顔を上げた。笹川を、そして、泉と森本の顔を窺った。笹川は「間違ってないでしょ?」と小首を傾げた。泉と森本もにっこりと微笑んで頷いた。  信じられない想いだった。 「そう、今日は、康一くんのお誕生日」  笹川が上機嫌で言う。そして、楽しい遊びに誘うように、康一に手を差し伸べてくる。これまでに目の当たりにしてきた意地悪な彼女の姿は全て幻であったかと錯覚しそうになるほどの、花のような微笑を湛えて。 「だから、ほら。四人でお誕生日会、しよ」  テーブルの中央には、たっぷりとクリームの載った純白のバースデーケーキ。  その脇を固めるのは、フライドポテトやチキンといった小学生の心を高揚させる、祝い事に付き物の料理達。  色とりどりのロウソクにクラッカー。折り紙製の、揺らすとしゃらしゃら耳触りの良い音を立てる飾り物。  笹川が部屋の外から魔法のように運び込んでくれた胸踊る品の数々には、自らの身に訪れた幸福をいまだ信じ切れずにいた康一の背中を後押しする力があった。  夢のように始まった誕生日会は、いつまで経っても醒めることがなかった。  部屋の灯りを消して、バースデーケーキに立てたロウソクに火をつけて。  女の子達が自分だけのために、ハッピーバースデートゥユーの歌を口ずさんでくれて。  三人に促され、火を吹き消してみても、周囲を取り巻くこの現実味のない状況が霞のように消えてしまうことはない。記念日を祝う料理達も、拍手をしてくれる女の子達も、眼前に、はっきりと残っていた。一度消した部屋の灯りを再度点灯しても、やはり、何一つ消えずにいた。康一は正面に座る笹川の顔をじっと見た。目が合った。笹川がにこっ、と笑いかけてくれた。心の中の頑なな部分が、ふわりと優しくほどける快い感覚。  一度、強固な結び目がほどけてしまえば、緊張した気持ちがほぐれるのにも多くの時間は必要なかった。三人とも、と康一は思った。三人とも、何が原因かはわからないけれども、ようやく自分のことを本当に仲の良い友達だと思うようになってくれたのかもしれない。無闇に意地悪なんてせずに、今後は対等に仲良く付き合ってくれるつもりなのかもしれない――。  康一は肩身の狭い想いをしてきた苦い過去よりも、目の前で展開される甘い世界を信じたかった。頭の片隅では、アラートが鳴り続けていた。いくらなんでも都合が良すぎる。絶対におかしい――。  それでも、康一はその警告を心の底から真剣に取り上げることはしなかった。徐々に都合の良い『今、この時』を信じる方へと意識が惹き寄せられていくのを自覚しながらも、自分をあえて止めようともしなかった。  実際、確かに夢のような時間だった。康一は今までどんなに意地悪をされても、こき使われても、初恋の人である弱みか。どうしても、笹川のことを憎み切れずにいた。憎むどころか、今でも近くにいるだけで、胸ときめかせてしまう始末だった。だから、このサプライズは本当に嬉しかった。笹川に優しく笑いかけてもらえる誕生日に、心がほんのり温かくなった。見目良い女の子三人に穏やかに祝ってもらえる誕生日に、鼓動がはしゃいで高鳴った。  心地よさに酔って、自分の前に用意された飲み物を康一が飲み干した時だった。  嫌な感覚が下半身に生まれた。初恋の女の子の部屋で、可憐な女の子達に囲まれた状況で。以前にもこの場所で限界まで味わい尽くすことになった、あの懐かしくも切ない原初的衝動が起こった。男の子としてこれ以上ないほどの恥をかく元凶となった、しごく一般的でありながら、異性の前で口に出すのは憚られるあの呪わしい欲求がまた存在感を示しつつあった。  康一は周囲を見回した。みんな、康一を歓迎してくれていた。康一に対して、気を許した表情を向けてくれていた。だけれど、その顔に、以前彼女達がこの同じ場所で康一を笑い物にした時の顔が重なる。もしも、自分が今、何をしたいか彼女達に知られてしまったら――。仄暗い不安がよぎる。もしかしたら、スイッチをぱちりと切り替えるみたいにして、楽しい『今、この時』が終わってしまうかもしれない。彼女達はまたあの意地悪な姿に戻り、今日、唐突に訪れた良いことの全てがなかったことになってしまうかもしれない。そして何より、言いにくい。異性に話しづらい欲求であるという以上に、このことについて触れれば、どうしても、過去の失敗を想起させることになってしまうためだ。それは避けたい。  康一は静かに身をよじる。何も言い出せないままに、お尻をもぞもぞと不規則に動かす。  ゆっくり、ゆっくりと。確かに訪れたと思った幸せが、時の経過と共に、下半身の内側から崩れていく。生理的欲求から生まれた貧乏揺すりが徐々に大きくなり、いよいよたまらなくなって、直接、局部を手で押さえるまでになる。そこに至っても、康一はなお笹川達に話を切り出すことができなかった。ようやく悪夢が終わりを迎え、ついに訪れた『今、この時』を崩してしまうことを康一は極度に恐れた。まだ、大丈夫。我慢できる。この誕生日会が終わるまでの辛抱だ。康一は自分に言い聞かせた。  しかし、奇妙なことに、誕生日会は終わることがない。表面を繕うことに堪え切れなくなった康一が、尋常ではない様子で身体をくねらせながら悶え始めても、笹川は変わらず優しい笑顔のままだったし、泉も森本も親しみを込めた声で康一の名を呼び続けた。窓から差し込む陽の光はいつまで経っても陰ることがなく、部屋の壁にかかった時計の針もまったく動いていない。  ――なんだ。これは、なんだ。  背筋に淡い悪寒が走る。何か自分は大きな勘違いをしている気がしてくる。初めて、康一は頭の中で鳴り続けているアラートの方に注意を向ける。アラートは特徴的な音色で、じりりりりりり、と鳴っている。意識の底の方が泡立つ。曖昧な記憶が喚起される。いつも、どこかで聞いているような音だ。でも、一体、どこで?  ――悪夢のような時間が唐突に終わりを告げて。次にやってきたのは、まったく現実であるとは思えないほどの幸せな時間で。  何かがわかりそうな気がした。答えはすぐそこ、すでにこの手の中にある気すらした。だけど、もう限界だった。何がどうなっているのか真面目に考えて、答えを導く時間も余裕も、もう、ない。 「笹川さん、僕、と、と、とい――」もう、少しずつ、始まってしまっていた。康一は恥も外聞もかなぐり捨てて、欲求の命ずるままに叫んだ。「トイレ! おしっこ、も、も、もう、もれちゃうよお!」 「あー!」その瞬間、今まで不自然なほどに絶やさなかった微笑みが、笹川の顔から消えた。頬を紅潮させた笹川は声を高くして、容赦なく康一を指差した。「やだあ。康一くん、おしっこしてる! おしっこちびってる!」 「あはっ、ほんとだー。やあい、康一くんのおちびりー」 「おズボンの中で『しーしー』しちゃってる! 幼稚園の妹でもしなかったよー」  康一が発した声が引き金となったかのように、場を包んでいた優しい雰囲気が一変した。ぐにゃり、と世界が歪んで、悪意の風が吹き荒れる。しかし、それを気にかけている余裕はない。ちびりちびりと始まってしまっているのを誤魔化し誤魔化し、康一は不自然にお尻を突き出した不恰好な爪先歩きでトイレへと急ぐ。初恋の人の部屋を出ると、そこはすぐにトイレだった。記憶にあるよりもずっと近い。助かった。康一は物事を深く考えることもせずに、眩いばかりの純白の陶器に飛びついた。ちびり続けながらも、大慌てでズボンと下着を下ろして、洋式便器に腰を下ろす。  じょぼぼぼぼぼ、と。堰を切ったように性器から熱を持った奔流が溢れ出し、便器へと音を立てて落ちていく。康一は吐息混じりに呟く。良かった。間に合った。良かった。  我慢の限界をわずかに超過した状態からの放尿が引き起こす、脳が焼き切れてしまいそうなほどの熱を帯びた快感。思考を許さないほどの開放感に意識のほとんどを占領されながらも、わずかに残った頭の片隅で思う。あぁ、助かった。下着は汚してしまったけれど、なんとかおもらしせずに――。  あっははははは。一際高い笑い声がトイレの扉の向こうから響き、思考の流れを断ち切る。笹川、泉、森本の声。 「わあ、やってるやってる。じゃあじゃあやってる」笹川が言う。「康一くん、きっと思ってるよね。おもらしせずに済んで良かったあ、って」 「そりゃそうだよね」泉が言う。「お誕生日の当日におもらし、なんてサイテーだもん。死んでも避けたいよ。――でも、結局は……ね。ふふ、康一くんってば、何やってるの。サイッテー」 「あはっ、仕方ないよお」森本が言う。「だって、康一くんはいま何が起こっていて、いま自分が何をやっているのか、本当には全然理解できていないんだもん」  じょばばばばば、と途切れることなく盛大な音を立てて。えも言われぬ快感を伴い、溜まりに溜まった熱水は放出され続ける。康一は彼女達が何を話しているのか、理解できない。その代わりと言っては、背筋の辺りがやけにざわざわする。正体不明の、薄気味の悪い違和感。じりりりりり。頭の後ろでひどく聞き覚えのあるアラーム。何か世界の見えない所で、自分の手の届かない場所で、今まさにひどくまずいことが起きているような。そんな、嫌な感覚が――。 「自分ではぜーんぜん気付けないみたいだからー、誕生日プレゼント代わりに私が教えてあげるねー。これでわかるかな?」そこまで告げてから、笹川はわざとらしく口調を変えた。ママが使うような叱責口調で、言う。世界を一撃で打ち壊す、全ての今をひっくり返す、魔法の一言を。「康一くん! ダメでしょ! 六年生にもなって、お誕生日にお布団の中でおねしょしたら!」  はっ、となって目覚める。頭の上では、じりりりりり、と目覚まし時計が聞き慣れたアラーム音を響かせている。窓からは新鮮な陽の光が差し込んできている。よく知る風景。何の変哲もない、自分の部屋で迎える、新しい冬の日の朝。  しかし――いつもの朝にはない、ぞっとするような違和感。寝起きのぼんやりとした頭が、今この瞬間まで見ていた夢の内容を拾い上げ、現在の身体感覚と照らし合わせた瞬間。あっ、あっ、と康一は大慌てで声を上げた。えも言われぬ股間のぬくもり。夢の中での小気味良い放尿音とは異なる、抑圧された、ジュウウウウウ、というくぐもった水音。一瞬にして、いまだに残っていた眠気が吹き飛んだ。布団の中に注意を向ける。  ――出ている。康一は真っ青になる。やってしまっている。夢の中のトイレに注ぎ込むつもりで、勢い良く、今まさに布団の中で。  止めないと! 突如迫ってきた凄まじい恐怖に引っ張られ、弾かれたように手が動く。粗末なものの先端を指で摘み、今まさに犯し続けている失敗を力ずくにでも押し留めようとする。指で強く先端を摘んだ包皮の中で、おしっこは止まらず続く。包皮の中がすぐに放出されたおしっこでいっぱいになり、ぷくっと大きく膨らんで変形し、その水圧の力で指が弾かれる。指の隙間から、おちんちんが逃れ出ててしまう。抑圧されていた濁流は、即座に本来の勢いを取り戻し、ああああああ、と康一は慌てる。混乱する。どうしよう、止まらない。どうしよう。  どんなに下半身に力を入れてみても、まるで止まる気配のない布団の中での狂ったような放水。結局のところ、康一はおもらしの屈辱的な感触を嫌と言うほど味わいながら、唇を噛んで耐えるしかなかった。『康一くん! 』心の中の笹川が言った。『ダメでしょ! 六年生にもなって、お誕生日にお布団の中でおねしょしたら!』誕生日。康一は震えた。そうだ。今日は、誕生日だった。誕生日なのに、こんな――。どれほど康一が自己嫌悪に陥っても、年齢にしては未発達なままに留まっている幼児的な性器は何ら配慮することなく、野放図な下着の中での放水を行い続けた。幼児的な行いに伴うとろけるような背徳的な快感と、衣服の濡れそぼっていく不快で情けない感触を康一に与え続けた。  ほぼ全て漏らし尽くして、ようやくベッドの上でのおもらしは終わりを告げる。全身を甘やかに包み、脳を痺れさせていた背徳的な快感は最初から存在しなかったのごとく、きれいに消え去っていた、壊れた蛇口のごとき様相を呈していたおちんちんも、ひとしきり自らの大仕事を終えると、静かな眠りについていた。しん、と静まり返った室内で、康一はどうしていいかわからなかった。他の連中はみんなやりたい放題やって逃げてしまって、自分一人、とんでもない乱痴気騒ぎの現場に取り残されてしまったような気持ちだった。。  ベッドから動くこともできないまま途方に暮れていると、不意に部屋の扉が開いた。びくっ、と康一の身体が跳ねる。扉の向こうから姿を現したのは、康一のママだった。 「康一ちゃん、おはよう。早く起きないと、学校に遅れるわよ」 「う、うん……」  下半身とシーツに刻まれてしまった大きな染みを掛け布団で隠したまま、康一は平常通りの様子で話しかけてくるママと一言二言、言葉を交わした。それから、ママはにこやかに言った。「康一ちゃん、お誕生日おめでとう」と。  誕生日。誕生日、なのに。ママはまだ気付いていない。掛け布団に隠れて、康一の目からも今は見えない。でも、康一は、この瞬間もはっきりとその取り返しのつかない失敗の存在を痛いほど感じる。  かすかなにおい。見る影もないほどにびしょびしょに濡らしてしまった衣服が肌に貼りつく感触。徐々に冬の冷えた空気に触れて熱を失いゆく液体と、それでも、いまだ仄かに残る股間の暖かさ。康一は何の返事もできなかった。喉がつっかえたようになって、言葉を発することができなくなってしまったのだ。視界がぼやけ、涙が頬を伝った。  康一の様子がおかしいことに気づいたママは、しばらく康一の体調を気遣った。しかし、何を言ってもまともに応えられない康一を見て、次第にその声に不審の感情が表れ始めた。そして――ついに事態を察したママは、康一の掛け布団に手をかけた。康一は抵抗しなかった。 「おかしいと思ったら、やっぱり」ママは深い深いため息をついた。呆れて言葉もない、とでも言うように。「この年にもなって……。ママ、恥ずかしいわ。この間は女の子のおうちでおもらしして、今度はおねしょ? 赤ちゃんみたいに何やってるの。今日でいくつになったと思ってるの?」  康一の身に着けたパジャマに、シーツに、そのさらに下のマットレスにさえ。十二歳という年齢を思えばあってはならないほどの重大な失態の跡が、そこにははっきりと刻まれていた。

Comments

応援ありがとうございますー。 ただ、まあ、まだそれほどたくさん話があるわけでもなく、一つとして完結していない状況ではありますが……。良ければ、よろしくお願いします。

無能一文

私は好きな話は何度でも読み返すたちなので返信は遅れるかもしれませんが応援しています…\(^o^)/

週末…我慢して我慢し続きました…無一文さんのお話堪能いただきます(^^♪

コメントありがとうございます。 恥辱小説(♂)を要望している方を先月からお待たせしてしまっていたので、無事に更新できてほっとしました。内容も好みに合ったようで何よりです。

無能一文

続き楽しみです。同級生の一言で起きるのとても良かった。

あおほ

コメントありがとうございます。 元は無能が一番最初に書いた男性受け小説ですねー。いつか続編を書こうと思いつつ、ずっとそのままになっていたので、この機会に始めてみました。まだ続きます。良い感じになっていればいいんですがー……。

無能一文

いつぞやの続編ありがたや…

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