なんかもこもこした空間を歩いている。光源はないが自分の場所がわかる、夜みたいな色の空間を歩いている。自分が降りよう、と思えば階段を下りるみたいに沈み込んでいくことが出来るし、その逆もできるが、そもそも目的地がないのに上に行ったり下に行ったりすることに意味はあるのだろうか。
ときどきほの白い輪郭をもった泡?というか、宇宙空間の水みたいなものがほやほや通り過ぎる。わたしに見えていないだけでそいつは生きていて、体の中に手を突っ込まれることに怯えているのでは?もしくは生理的嫌悪感を持つのでは?と思ったので、手を触れることはできない。逆に異物は自分なのかもしれなくて、あれらの目から見たらこの場所は何でもないお昼の公園で、あれらみんな形をもった生き物であるかもしれなかった。だとしたら、わたしが手を差し入れて簡単にかき回してしまったらそいつの体もぐずぐずに潰れて、わたしは虐殺者になれるかもしれない。と思い至って、でもちょっと思い直してやめた。こんな真っ暗なところでも、「旅行をするときは景色であるべき」という大原則をないがしろにするべきじゃない。あれが生き物だろうとそうでなかろうと、わたしは雨の日の車の音みたいに横を通り過ぎるだけでいい。
と思ったら本当に車の通り過ぎる音がして、次瞬いたらざんざ雨のバス停にいた。なんで濡れていないんだろうか、と思ったけれど、どうやらこれ、立方体のガラスで外と隔てられている。例えるなら、バス停の横に透明の電話ボックスがある感じ。
でも車もバスも、きゃは笑う小学生たちも自分に気づかない。声を出しても届かない。雨の日の景色をずっとリアルタイムのストリートビューで映されているみたいだ。
ガラスの中は冬の駅の待合室みたいに、若干の温度を持っている。だけど本当に密閉されているので、ずっとこのままだったら窒息して死んでしまう。「ほんとうにすごい人は、このガラスを一瞬で両手のグーで、手から血が出るのもいとわず叩き破るんだろうな」と思う。かといって自分にはその逆の、大泣きしてガラスの地面にへたり込むこともできないし、あるいは吐いた息の結露に絵を描いて、「そのとき」まで遊んでいようという気も起こらない。結局待っているだけなんだろうか。さっきみたいにパッと景色が変わるのを。それはいやだ、たまらない、なるものか…!そう思ったので、もうやけくそで両のこぶしをガラスに叩きつけた。
ぐわしゃ!と音がしてガラスがはじけ飛び、欠片がこぶしの中に潜り込んで血が出る。ああなんだ、痛いけど結局それだけだ、簡単なことじゃないか!と思って外のアスファルトに足を付けようとした瞬間空を切り、階段を飛ばして降りてすっころんだ人みたいに情けないかっこうで落ちていく。
6畳の畳部屋の丸テーブルに座ってペンを握っている。目の前には紙があって、これからなにか書かなきゃいけないらしい。でもこぶしの中にめり込んだガラスが、動かすと指を裂いてしまいそうで怖くてなんにもできない。
ガラスを破ってすぐここに来てしまったことを鑑みるに、さっきのガラスの箱は「わたしが現状をどうにかするために痛みを受け入れられるか」を試すためのものだったらしい。なんというかそれはすごくしゃくにさわる。まるで筋書き通りの試練の乗り越え方みたいでなんかなぁ、と思う。
じゃあ次はなんだ、やらなきゃいけないことは?このガラスまみれの手で、思いつくままに色々書き連ねることか?でもそれはすこしだけ好きだから、そういうのなら乗ってあげてもいいよ。これは自分を測られてるからやるわけではなく、ただ書きたいから書いてるだけ。
震える手を動かして紙に文字を書き続けると、ガラスの破片はいつのまにか消えていて、代わりにペンを持った手からボロポロなみだがあふれてきた。手が水浸しになって落ちた水滴が紙に染み込み、さっき思いついたはずの名文句がにじんでほどけて抱き合ってしまって、もう判読できなくなってしまった。ああ結局こうか。結局これか。もうだめかもしれないな。文字が書けないんじゃ廃業廃業。
どうしようもないので、とにかく手を洗おうとシンクに行くと、手から垂れた涙がステンレスの底面にあたってシロフォンみたいな音がする。シンクはスチールパンみたいに水滴を落とす場所によって違う高さの音が鳴るらしく、
なんかこんな感じに、適当に動かしてるとどこかでいい感じのコードっぽい音が鳴る位置があって(最後の方)、そこにずっと水滴を落としてたら急にさっきまで座ってた机のところにその家に本来住んでる家族みたいなのが出てきて、みんなで一斉に拍手してくる。ちょうどテレビから笑点のオープニングが流れ始めて、その音量を祖母らしいひとが「めでたいから」っていってめちゃくちゃ上げてくる。音量を上げれば上げるほど家が空気を抜いたみたいにしぼんでいって、自分はなぜか「家の中の音量の総量が大きくなるほど家が小さくなって、前の住人はそれで全員死んだ」ってことを知ってたから大きな声で「やめて!!!!!!やめて!!!」っていうのに自分の水滴の音も大きくなっててそれにかき消されてしまって、死んじゃうよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!って思ったら目が覚めた。
っていう適当に思い付いた架空の夢。
あとこれは脈絡のない絵
以上