その心を奪われて 前編
Added 2021-07-12 15:00:12 +0000 UTC町の中心に聳え立つ時計塔の屋根の上。 煌々と輝く満月を背にして、四角錐状の屋根の頂点に直立する影が一人。 空を吹き抜ける風によって、一つに束ねた赤毛の長髪が揺れる。 白と黒の二色のみで構成されたシンプルな怪盗スーツを身に纏い、左目にカラーレンズ入りの片眼鏡を装着した紫色の目をした少女は、特に表情を変えること無く夜の町を見下ろしていた。 彼女は人呼んで、怪盗ルビア。 夜闇に紛れて参上し、貴族の屋敷や王城から宝を盗み出し、質屋で金に換えて平民に配っている義賊紛いの女怪盗。 勿論、ルビアという名前は本名では無い。 華麗に宝を盗み去り行く間際に、月光を反射して煌々と輝く赤毛がルビーのように美しいという理由から誰かが呼び出し、それが自然と広まった異名だった。 彼女の正体を知る者はおらず、世間を惑わす謎めいた美少女怪盗としてその名を馳せていた。 ゴーン……ゴーン……ゴーン……。 そんな彼女が屋根に立っていた時計塔の鐘が、三度鳴る。 足元から直に伝わる震動と、町中に響き渡る鐘の音を聴いたルビアは、頭に乗せた白いシルクハットをかぶり直しながら小さく口を開いた。 「……時間ね」 小さく呟くと同時に彼女は時計塔の頂点から飛び降り、すぐ下にあった一軒家の屋根の上に着地する。 彼女は素早く幾つかの建物の屋根の上を飛び移りながら、進行方向にある教会を睨むように見つめた。 この国が信仰している、ノービリス教と呼ばれる宗教を布教しているその教会に奉られている女神像が、今回の標的だった。 屋根から屋根へ飛び移り素早く移動してきたルビアは、教会の屋根の上に辿り着くとすぐに壁を伝い、最上階の屋根裏部屋の窓を開けて中に進入する。 屋根裏部屋の窓は鍵がかかっておらず簡単に開き、難なく教会内に進入することが出来た。 ──……拍子抜けだな……。 思っていたよりもあっさり進入出来た事実に、ルビアは心の中でそう呟きながら、片眼鏡の位置を正す。 しかし、油断は禁物。 この教会にとって女神像は重要な存在である為に、厳重に保管されているであろうことは確実。 その上、予告状で今日の夜に女神像を盗みに入ると前以って伝えてあるので、普段以上に警備が強化されている可能性は高い。 むしろ、ここまで容易に進入出来たのが罠であると考えても良いだろう。 ルビアは警戒を怠らぬまま慎重に屋根裏部屋を脱出し、女神像が飾られている聖堂へと向かった。 しかし、彼女の予測に反して、聖堂までの移動はかなり容易いものだった。 人の目につかぬよう慎重に移動したが、彼女の警戒心を嘲笑うかのように誰一人として教会の人間に会わず、かと言って何か罠がある訳でも無く、特に何も起こらぬまま聖堂へと辿り着いた。 では聖堂が重点的に警備されていたのかと言われればそういう訳でも無く、聖堂にすら人の気配は一切無く、最奥には剥き出しの女神像が不気味に佇んでいるのみだった。 ──どういうこと……? 私が来ることは知っている筈なのに……。 ルビアは内心でそう呟きながら、女神像の元に歩み寄る。 聖堂の内七割程の空間には、中心を通る細い通路を残して、会衆が座る木製の椅子が所狭しと並べられていた。 ひとまず真ん中の通路を通って椅子の空間を抜けると、それらの椅子と対面する形で祭壇が設けられており、そこには純白の演台とパイプオルガン、そして壁には女神像が飾られている。 警戒を怠らぬまま慎重に祭壇に向かって歩み寄っていくが、やはり罠どころか教会の人間が現れる気配すら一切無く、あっという間にルビアは女神像の元へと辿り着いた。 ──女神像に何か罠が仕掛けられているかもしれない。 ──まだ、気を抜くわけにはいかない……。 心の中でそう自分に言い聞かせながら、ルビアは女神像の顔に手を伸ばす。 彼女の目的は、女神像の両目にあしらわれている二つの宝石だった。 この宝石は世界的に見てもかなり希少なもので、質屋に入れればかなりの金額になるだろう。 だからこそ、この教会の人間が警備どころか罠一つ用意せず、易々とこの宝石を手放そうとしている現状が信じられなかった。 冷静に考えてみれば、この女神像そのものに何かしらの罠が仕掛けられている可能性が高い。 ──緩い警備で油断したところを、女神像に仕掛けた罠で仕留める作戦なのかもしれない。 ──気を抜かないように……何かあってもすぐ対処できるように、女神像から目を離さないようにしなくちゃ……。 ルビアは心の中でそう呟くと同時に唇を軽く噛みしめ、鋭い眼差しで女神像を見つめたまま、薄手の白い手袋をはめた手を宝石に向かって伸ばす。 彼女の細い指先が、女神像の両目を彩る宝石に触れた正にその時……突然、女神像の両目が強い光を放った。 「なッ……!?」 突然マゼンタに近い色合いの怪しい光を放つ宝石に、ルビアは微かに驚いた声を漏らしながらビクッと肩を震わせ、宝石に伸ばしていた手を咄嗟に引っ込めた。 ──急に何……!? もしかして、罠……!? すぐに宝石を取って逃げるべきか……!? 煌々と輝く宝石を前に、ルビアは動揺しながらも必死に思考を巡らせる。 そんな彼女の目が、微かに濁る。 ──でも、こんな怪しい光を放っているし……宝石を盗んだら、他にも何か、起こるかもしれない……。 ──何かの罠かもしれないし……もっとよく、観察しないと……。 彼女は女神像の前に立ったまま、怪しい光を放つ両目の宝石をジッと凝視する。 時間が経つに連れて宝石が放つ光は強くなり、次第にルビアの様子にも異変が現れた。 何かが起こった時の為にと身構えていた姿勢は、時間が経つにつれて直立姿勢となり、両腕は重力に従ってダランと垂れ下がっていた。 しかし彼女が自身に訪れた変化に気付くことは無く、気を付けのような直立不動の姿勢を取ったまま、女神像の両目を見つめている。 ──もっと、観察しないと……目を、逸らしたらダメ……もっと……もっと……。 まるで何かにとり憑かれたように、瞬きすらも忘れて、彼女は無心で怪しい光を放つ女神像の両目を見つめ続ける。 その目からは完全に自我の光が失せ、焦点の定まらない虚ろな眼差しをしていた。 半開きになった口の端からは一筋の涎が顎に向かって伝っており、彼女に正常な思考が残っていないことは明らかだった。 「フフッ……まさか、ここまであっさり引っかかってくれるなんて……噂の女怪盗ルビア様とやらも、大したこと無いわね」 ルビアが完全に動きを止め、静寂が訪れた聖堂内に、突如としてそんな声が響き渡った。 コツ……コツ……と、祭壇の裏の方から乾いた靴音が聴こえ、物陰から一人の女性が姿を現した。 空色の長髪に藍色の目をしたその女性は、修道服のようなものを身に纏っていることから、この教会の人間であることは明らかだった。 彼女の名前は、レイン・マニピュレイト。 この教会の修道院長であり、シスター達を纏めるリーダー的な役割や、教会そのものの責任者のような役割を担っている。 自分が盗みに入った教会の人間──それも、かなり中心的な人物──が現れたというのに、ルビアは動揺どころか一切の反応を見せることは無く、相変わらず虚ろな表情を浮かべたまま呆然と女神像の瞳を見つめている。 すると、レインはルビアの方にゆっくりと歩み寄りながら口を開いた。 「予告状を頂いたにも関わらず、女神像を保護するどころか見張り一つ付けず、まるで盗んで下さいと言わんばかりに無防備な現状を見れば、当然女神像に何かしら罠があると判断するでしょう? そうすれば、貴方は必然的に女神像を警戒し、注視する。……予想通りの行動をしてくれてありがとう。おかげで、私の計画は成功したわ」 レインは淡々と語りながらルビアの背後に歩み寄り、頭の上に乗っている白いシルクハットを指で摘まむようにして取り、床の上に軽く放り投げた。 それにも一切反応を示さない女怪盗の姿に、レインはクスリと小さく笑みを浮かべると直立不動の姿勢で立ち尽くすルビアの体に腕を回し、彼女が着ている白いジャケットのボタンに指を掛けて一つずつ丁寧に外しながら続けた。 「確かに、正式な女神像の瞳には希少価値のある宝石を使っているわ。当然、盗まれる訳にはいかない。だから私は、貴方から予告状が届いた時、すぐに女神像を偽物にすり替えたの。瞳の宝石を、特定の人間以外が触れると催眠効果のある光を放ち、対象を無力化する魔石にすり替えたものに、ね」 彼女はそう言いながら脱がせたジャケットを床に放り、ルビアが左目に付けている片眼鏡を外す。 カラーレンズ入りの片眼鏡を外されると、その裏に隠れていた翡翠色の瞳が露わになった。 翡翠と紫のオッドアイをした瞳は虚ろに濁り、未だに虚空を見つめ続けている。 レインはそんなルビアの顎を指で摘まむとクイッと顔を上げさせ、背後から虚ろなその顔貌を覗き込む。 一切の感情が失せたような、無機質な人形のようになったその顔を確認したレインは口元に薄っすらと笑みを浮かべると、空いている方の手をルビアのスーツのボタンに掛けながら続けた。 「フフッ……世間を騒がすあの女怪盗ルビア様があっさり催眠にかかって、こんなぼんやりして好き勝手されてるなんて……誰が想像できたかしら?」 問い掛けるような独り言を呟きながら、レインはルビアの顎を摘まんでいた手をソッと動かし、小指と薬指を顎の下に当てて顔を上げた状態のまま支えてやる。 親指を頬に当てがう形で顔を支え、自由になった人差し指と中指を、半開きになった口の中に入れた。 ルビアがそれに抵抗を示すことは無く、ぼんやりと虚空を見つめたまま、クチュクチュと淫らな水音を立てながら口内を貪られる。 完全に深い催眠状態に堕ち、成すがままに弄ばれる人形へと生まれ変わったその姿にレインは満足気な笑みを浮かべると口の中から指を引き抜き、その手をルビアの頬に添えながら口を開いた。 「このまま警察に突き出しても良いのだけれど、少しだけ確かめたいことがあるのよねぇ。……ねぇ? 女怪盗、ルビア様?」 嘲るような、どこか馬鹿にするような口調でそう問いかけながら、レインは唾液に塗れた手でルビアの頬を摘まんでグイッと自分の方に顔を向かせた。 両頬を指で摘ままれた状態で口の端から涎を垂らし、レインの態度が突然変貌したにも関わらず、彼女は相変わらず意識が抜けたようなぼんやりとした虚ろな表情を浮かべている。 「今、貴方は心の中の奥深く……一番ふかぁい所にいます。そこは、貴方の心の中。聴こえてくる声は、貴方の心の声。自分の心には、嘘はつけませんよね?」 「……はい……じぶんの、こころ……うそ、つけま、せん……」 穏やかな声色で囁くレインの言葉に、ルビアは虚ろな表情を浮かべたまま、抑揚のない声で呟くようにそう答えた。 その返答を聞いたレインは満足気な笑みを浮かべ、ルビアの耳元に口を寄せ、吐息を吹きかけるような近距離で続けた。 「なので、この声の質問には、例えどんな質問でも正直に答えなければなりません。だって、この声は貴方の心の声なのですから。偽ることも出来ませんし、偽る必要もありません。自分の心に正直になって……噓偽りない、ありのままの自分を見せましょう」 優しく語り掛けるレインの言葉に、ルビアは虚ろな表情を浮かべたまま、カクカクと無機質さのある動作で頷いた。 復唱こそしなかったものの、今のルビアの心には、先程の言葉は全て真実として刷り込まれただろう。 ──さて、仕込みはこんなものかしら……。 レインは心の中でそう呟きながら舌なめずりをすると、空いている方の手でルビアの体を服の上からいやらしく撫でまわしつつ、耳元で続けた。 「それじゃあ、まずは簡単な質問から。……貴方はこの教会に忍び込んで、何をしようとしていたの?」 「はい……わたしは、このきょうかいに、しのび、こんで……めがみぞう、の……りょうめの、ほうせきを、ぬすもうと……して、いました……」 服の上からとは言え自分の体を卑猥な手つきで撫で回されているにも関わらず、ルビアは一切の反応を示すこと無く、虚ろな表情のまま抑揚のない声で答えた。 愛撫する手の動きに合わせて首がユラユラと力無く揺れ動き、顎を伝った涎がシャツに垂れる。 そんな彼女の言葉を聞いたレインはクスッと小さく笑い、愛撫していた手をルビアの胸の方に持っていきながら口を開いた。 「それじゃあ……わざわざこの教会の女神像を狙っていたのは、どうして? 宝石が希少だから……という理由だけでは、無いわよね?」 レインはそう問いかけながらルビアの小振りな乳房に掌を添え、優しく愛でるように撫で始めた。 一見突拍子の無い質問だが、その顔には確信にも似た感情が浮かんでいた。 事実、彼女はこの問いの答えがyesであることを確信し、ルビアがこの教会を狙った“本当の理由”にもすでに見当がついていた。 この問いは、あくまで確認作業のようなもの。 予想が間違っていたのであれば、正答を聞き出せば良いだけの話。 今のルビアが嘘をつくことなど出来るはずも無く、レインの魂胆に思考を巡らすことも出来ないまま、半開きになったその唇が静かに動き始めた。 「はい……わたしがこのきょうかいに、ぬすみにはいった、りゆうは……この、きょうかいが……のーびりす、きょうの……きょうかい、だから……です……」 抑揚のない声で呟くように答えたルビアの言葉に、レインは冷たい微笑を浮かべる。 ノービリス教。それは、ルビアが潜入した教会が信仰する宗教だった。 人間は生まれた時から神の決定によって順位が定められており、貴族や王族等の上流階級の人間は、神によって選ばれた高位な存在であるとする思想を説く宗教。 裏を返せば、それ以下の平民等は神に選ばれなかった下等な存在であり、貴族達よりも劣った生き物であるということ。 この教えから、貴族以上の階級を持つ人間達は平民達を虐げ、租税と称して数少ない財産を搾取していた。 貴族や王族を対象に金品を盗み、平民に配る義賊活動を行うルビアがこの宗教に反対的であろうということは、誰でも容易に想像出来る。 しかし……レインはすでに、ルビアの正体に勘付いていた。 特徴的な赤毛に、翡翠と紫の珍しいオッドアイ。そして、ノービリス教の教えに反対的な考えを持つ者。 レインはこれらの条件を満たす人間を、一人だけ知っていた。 自分の予測が合っていることを確かめるべく、レインは笑みを崩さぬままルビアの胸を揉みつつ、続けた。 「貴族の中でもかなり位が高い、バーガード家という家があるのだけれど……そこの次女は昔からノービリス教の考えに反対的で、両親は扱いに困って、よくこの教会に相談に来ていたわ」 「……ぁ……? ……?」 淡々とした口調で語るレインの言葉を聴いているのか否か、ルビアは虚ろに虚空を見つめたまま、掠れた声を喉の奥から漏らす。 そんな彼女の様子に、レインはクスッと息を吐くように笑い、彼女の耳元に口を近付けて続けた。 「私達もバーガード家の次女がノービリス教の教えに賛同するよう助言や支援をしていたのだけれど、そんな努力も虚しく……二年前、バーガード家の次女は行方不明になったわ」 「……? ……?」 「そしてそれとほぼ同時期に、貴族や王族の屋敷から高額な金品を盗み出し、換金して貧民達に現金を配る義賊……人呼んで、女怪盗ルビアが出没するようになった」 そう語り掛けながら、レインは乳房の先端部分に人差し指の指腹を当て、クニッと軽く捻るような動作を行った。 すると、ルビアは「ッ……!? ぁあッ……!」と微かに嬌声を漏らしながら僅かに背中を逸らせ、ビクビクッと微かに体を震わせる。 それを見たレインは小さく笑み、続けた。 「ねぇ、聞きたいのだけれど……貴方の名前は、バーガード家の次女、ミリア・キリウム・バーガードなのよね?」 「ぁッ……? ……はい……わたしの、なまえは……みりあ、きりうむ……ばーがーど、です……」 確認するように問い掛けるレインの言葉に、ルビア──ミリア・キリウム・バーガードは、頬を紅潮させながら僅かに熱を持った声でそう答える。 そんな彼女の言葉に、レインはニコッと満足気な笑みを浮かべながら「やっぱり」と答えると、乳房の先端部分に当てたままの人差し指を押し付けるようにしてグリグリと捻るように動かす。 すると、ミリアはさらに体を震わせ、喉から振り絞ったような掠れた嬌声を上げた。 レインの言っていたことは全て事実だった。 バーガード家の次女として生まれたミリアは、幼少期の頃から正義感の強い性格をしており、人に順位をつけて差別するノービリス教の考えに反発していた。 同時に、ノービリス教の教えを利用して平民を虐げる上流階級の人間を軽蔑しており、そんな奴等と同じ貴族として生まれた自分の血筋すらも嫌悪していた。 だからこそ、彼女は二年前のある日に家を飛び出し、貴族や王族から宝を盗んで平民達に分け与える義賊紛いな活動を始めたのだ。 今まで誰にも知られぬようひた隠してきた秘密をあっさりと打ち明けながら、ミリアはそれを気にすることも無く、愛撫による快感に喘ぐ。 女怪盗ルビアの活動が本格化しだした時、レインは真っ先に彼女の正体がミリアである可能性に気付いていた しかし、彼女がそれを公言することは無かった。 その理由は単純で、ミリアの両親……というよりは、父である公爵の存在が大きかった。 ミリアの父親であるバーガード家公爵は自分の外聞や世評を気にしており、自分の娘が上流階級の人間達を騒がす女怪盗であると告げることは、彼の逆鱗に触れる行為に等しかった。 ノービリス教はバーガード家から多額の支援金を頂いており、バーガード家公爵の機嫌を損ねる行為は、自分達の首を絞めるようなものだった。 それに、彼等にとって一番大事なのは自分達の世間体であり、ミリアのことも自分達の立場を良くする為の道具としてしか見ていなかった。 後継ぎはミリアの姉である長女に任せれば良く、ミリアは王族や大公等の家に嫁がせ、バーガード家の立場を確固たるものにしようと考えていた。 彼等がミリアにノービリス教の教えを説こうとしていたのも、貴族や王族のほとんどが信仰する宗教に反発するミリアの存在が、バーガード家の評判を悪くすると考えていたからだ。 そんな彼等にとって、ミリアの消息自体はそこまで重要なことでは無く、女怪盗ルビアとミリアが同一人物であると知らせるよりは行方不明のままにしておいた方が良いとレインは判断したのだ。 しかし、だからと言ってこのままルビアを野放しにするわけにもいかない。 彼女が貴族等の財産に多大な損額を与えているのは事実であり、それによって教会への支援金や寄付金が減っていたというのもある。 ハッキリ言って、王族や貴族等の中でノービリス教の教えを心から信仰している者など、皆無と言っても過言では無い。 皆ノービリス教の教えなど信じてはおらず、平民等を虐げ搾取する行為を正当化する為の口実程度にしか思っていない。 そのことは教会の人間も十分に理解しており、毎月振り込まれる高額の寄付金と引き換えに、表面上取り繕っただけの見せかけの宗教を執り行っていた。 教会の人間にとっては上流階級の人間からの寄付金が生活を支える資金であり、ルビアの存在は自分達の生活を脅かす憎き敵のようなものだった。 バーガード家と良好な関係を保つ為には、ルビアの正体を公にするわけにはいかない。 しかしルビアの活動を止める為には警察に突き出すしか無く、そうなれば彼女の正体が明るみに出るのも時間の問題だった。 どうにか事を荒立てること無く穏便に済ませる方法は無いかと模索した結果、思いついたのが今回の計画だった。 ノービリス教の教えに反発するミリアがいずれこの教会に目を付けるのは明らかだったし、教会内で事を済ませれば、ルビアの正体を明るみに出さずに事態を収束させることが出来る。 催眠術でルビアを無力化して情報を聞き出し、彼女がミリアである確証を得られれば、彼女を“更生”させてバーガード家に帰す。 行方不明となっていた娘の身元を保護し、元々ノービリス教の教えに反発的だった性格を更生させ入信させたとなれば、きっとバーガード家からは高額の謝礼金が払われるだろう。 自分の娘に大した関心は無く、多大なる財源を抱えるバーガード家だ。 洗脳された娘の異変に気付くことなどあるはずも無いし、娘を更生させ家に帰せば多少の謝礼金に糸目は付けないだろう。 これでもし、万が一にもルビアの正体がミリアで無かった場合は、そのまま警察に突き出せば、警察から高額の報奨金が支払われるだろう。 そんな考えから、レインは今回の計画を準備し、ルビアを迎え撃った。 そして計画通り、盗みに入ったルビアは完全に催眠状態に堕ち、正体がミリアである確固たる証拠も手に入れた。 ここまで来れば、後はミリアの考えを正すのみ。 今までの自分の考えが間違っていた、ノービリス教の教えが正しい、貴族や王族に歯向かった自分は愚かだった。 そう思わせ、ノービリス教に入信させた上で、バーガード家に帰す。 ただそれだけの、簡単な作業だ。 「ミリア。私の言葉をよく聞きなさい」 そう囁きながら、レインはミリアの顎を押さえていた手を離し、その手で彼女の白いスラックスのボタンを外して中に手を滑り込ませた。 支えを失ったミリアの頭はカクンと後ろに倒れ、レインの肩に頭を乗せて完全に身を委ねる形になる。 レインはそれに特に反応を示さないまま、スラックスの奥にあったショーツの上からなぞるように下半身に手を伸ばし、湿り気を帯びた薄い布越しに股間部にある肉の割れ目を指でなぞった。 「……っっ♡」 突然下腹部から与えられた甘い刺激に、ミリアは振り絞るような嬌声を上げながら肩を震わせた。 それを見たレインは口元に微笑を浮かべ、焦らすように手の中の乳房を優しく撫でながら続けた。 「答えなさい、ミリア。私の声は何でしたか?」 「こッ……このこえ、はッ……♡ わたしのッ……こころのッ、こえ……です……♡」 「そうですね。つまり、私の言うことは全て貴方の意思であり、揺るぎない真実です。そうでしょう?」 レインは問い掛けるようにそう言いながら、ショーツ越しに秘部をなぞる指に力を込め、少し強めに割れ目を擦り上げた。 すると、ミリアは「んんぅッ……!」とくぐもった嬌声を上げながらビクビクと肩を震わせ、そのまま腰を抜かすように脱力した。 レインの腕力では人一人の体重を支えることは出来なかった為、腰を抜かすミリアの動きに合わせて床の上に腰を下ろし、自分の体に凭れ掛からせるような体勢を取らせた。 人形のように手足を投げ出し、完全に自分に身を委ねる形で脱力しながら荒い呼吸を繰り返すミリアの姿に、レインはクスクスと楽しそうに笑いつつ耳元で囁いた。 「ホラ、答えて? 私の言うことは、貴方にとっての……何?」 「は、はひ……♡ あなたの、いうことは……♡ わたしの、いしで、あり……♡ ゆるぎない、しんじつ、です……♡」 「そうそう、よく言えました。だから、私の言ったことはちゃんと繰り返して、二度と忘れないようにしましょうね。……ノービリス教の教えは、全て正しいです」 「のーびりす、きょうの、おしえは……すべて、ただしい、です……♡ ……んぅッ♡」 言い終わるのと同時に胸と秘部に刺激を加え、復唱した暗示と快楽を結び付け、深層心理への刷り込みを強める。 レインは、自分の腕の中で快感に身を震わすミリアの様子に満足気な笑みを浮かべつつ、さらに続けた。 「人は産まれた時から、優劣が決まっています」 「ひとは、うまれた、ときから……ゆうれつが、きまって、います……♡ んんッ……♡」 「貴族や王族等の高貴な人間は優れた生き物です」 「きぞくや、おうぞくなどの、こうきなにんげん、は……すぐれた、いきもの、です……♡ んぁぁッ♡」 「それ以下の人間は生き物として劣っています。なので虐げ搾取し、生き物として優れた上流階級の人間の養分となるべきです」 平常時の彼女ならば、絶対に聞き入れないであろう言葉。 彼女は将来を約束された貴族と言う立場を捨て、全ての貴族や王族を敵に回してでも、人は皆平等であるとする考えを世間に訴えようとした強い正義感を持つ少女だ。 今の言葉を聞けば、きっとそれは間違っていると糾弾していただろう。 ……しかし……。 「んくっ♡ それいかの、にんげんはッ……♡ いきものと、してッ……おとって、いますっ……♡ なので、しいたげ、さくしゅ、しぃ……♡ いきもの、として、すぐれたっ……♡ じょうりゅう、かいきゅう、の……にんげんの、ようぶんと、なるべき、です……♡ あぁんっ♡」 彼女は責め立てるどころか、嬌声混じりに嬉々として復唱した。 復唱した言葉は与えられる快感と結び付き、確固たる真実として刻まれる。 深い催眠状態に落ち、思考を快感に溶かされた今の彼女には、そんなこと分からない。 「私の今までの考えは間違っていました」 「わたしの、いままでの、かんがえはぁ……♡ あんっ♡ まちがって、いまし、たぁ……♡ あぁんっ♡」 自分が今置かれている状況も、復唱させられている言葉の意味も、何も理解出来ないまま……本人の意思に関係なく、常識が書き換えられていく。 「人間は皆平等な生き物であるなどと言う馬鹿げた考えを信じ、優れた生き物である貴族や王族の方々に害をなすなどという愚行を犯してしまいました」 「に、にんげんはぁっ♡ みな、びょうどうな、いきものである、などと、いうぅ……♡ ばかげた、かんがえを、しんじっ……♡ あんっ♡ すぐれた、いきもので、ある……♡ きぞ、くや……♡ おうぞくの、かたが、たにぃ……♡ がいを、なすなど、という……♡ ぐこうを、おかして、しまいま、したぁ……♡ はぁぁっ……♡」 家を出る程の決断を下した程の強い意志も、その決断を実行する程の強い正義感も……ミリアという人間の自我を構成する大切な“何か”が、汚され、踏みにじられ、歪められていく。 だというのに、彼女はそれに気付けない。 与えられる快楽を享受し、甘い熱によって脳が蕩けたかのような心地良さに身を委ね、言われるがままに囁かれた言葉を繰り返す。 その姿は、まるで快楽という名の糸によって操られる傀儡そのものだった。