憧憬が淫らに歪む時
Added 2020-09-14 15:02:18 +0000 UTCタンッ、タンッと乾いた音を立てながら、私、桐生 晴陽はバレーボールを二度バウンドさせる。 それから左手にボールを持ってネット越しのコートに標準を合わせ、数歩走りながらボールを軽く放り、床を強く蹴ってジャンプをしてボールを強く叩く。 バァンッ! と鈍い音を立てながらボールは凄まじい速度でコートまで飛んでいき、すぐに似たような音を立ててコートの隅に着弾する。 さっきより精度が上がった……! と内心喜びつつ、私はすぐにボールが入っているカゴの元へと駆け寄った。 私は元々、この学校のバレーボール部に所属していた中学三年生だ。 部内では副キャプテン兼エースを務めており、自分で言うのも何だが、かなり上手い方だった。 実際、二年生の時には県内の選抜チームに呼ばれ、中学都道府県対抗戦ではスタメンとして試合に出たこともある。 しかし、どれだけ上手かったと言っても、所詮は元バレー部員。 先月の夏の全国大会での準優勝を最後に、私のこの学校でのバレーボール部員としての生活は終わった。 だが、私はこんな所で終わるつもりは無い。 高校ではもちろんバレー部がある学校に進学するつもりだし、すでに進学先は決めてある。 県内にある公立校、県立才見高校。 この学校は……ハッキリ言って、別にバレーが特段強いというわけではない。 けど、それは別に関係無かった。 あくまで私はバレーボールが好きなだけで、別に強くなりたいわけではないから。 それじゃあこの学校に進学したい理由は何かと問われると……この学校には、私の憧れの先輩が通っているのだ。 私より学年が一つ上でポジションが同じだった、私が二年生の時の部長。 小さい頃からバレーボールクラブに入っていた私は、入部当初は自分の実力を鼻に掛けており、少し調子に乗っていた部分があった。 同じポジションの先輩に対しても、一年生の内にスタメンの座を奪えるなどと容易に考えていた。 しかし、いざ入部して練習が始まってみると、私はすぐにこの先輩には敵わないと直感した。 確かにプレイスキル自体は私の方が上だっただろう。 だが、先輩に勝てないと悟ったのはそこでは無かった。 先輩には、チームを纏めるカリスマ性があった。 当時二年生だった先輩のことは、同じ二年生の先輩はもちろんのこと、三年生の先輩ですら一目置いている節があった。 それだけでなく、当時同級生である私ですら打ち解けていなかった入部したての一年生ですら、その先輩には懐いている様子だった。 先輩には人を惹きつける才能があり、二年生にしてチームの中心的人物となっていた。 それに対して私は……ただバレーが少し上手いだけの、世間知らずの小娘だった。 しかし、先輩はそんな私にすら優しくしてくれた。 同じポジションを奪われるかもしれないというのに、そんなこと構わないと言った態度で、先輩は私にも分け隔てなく接してくれた。 入部してすぐの頃は嫉妬していたこともあったが、先輩と関わっていく内にそんな気持ちすら失せていき、次第に先輩の人柄に惹かれていった。 バレーを純粋に楽しむ先輩の姿に憧れ、私も次第に上手い下手を気にすること無く、純粋にバレーを楽しめるようになった。 そんな憧れの先輩が引退した時、私は先輩に、同じ高校に進学してまた一緒にバレーがしたいと伝えた。 すると先輩は嬉しそうに笑って、普段使っていた膝のサポーターを差し出していつものように気さくな笑みを浮かべて、高校で返してねと言ってくれた。 先輩が進学した才見高校は偏差値も平均より少し上くらいで、進路としても特に問題は無い。 だから、私は先輩のいる才見高校にスポーツ推薦で進学することに決めた。 元々成績も悪くなく、先生からは今の調子なら問題無く入学できるだろうと言われた。 というわけで、私は今の成績を維持すれば特に問題は無く、他の受験生のように寝る間も惜しんで受験勉強に勤しむ必要は特になかった。 全く勉強しないというわけでは無いが、やはり全くバレーボールに触れていないと体が鈍ってしまうと思い、たまにこうして部活が終わった後のコートを借りて簡単な練習をさせてもらっている。 基本的には一人でサーブ練習や簡単な基礎練習をしているが、たまに後輩が残ってくれて、一緒に練習したりもする。 「……よしっ」 私は先輩から貰った大事なサポーターを付け直し、小さく声を発してから、カゴから取り出したバレーボールを持ち直した。 あと半年で、また先輩とバレーが出来る……! 私は逸る気持ちを抑えるように大きく息をつき、ボールを軽く放ってジャンプサーブを放った。 しかし、やはり気持ちが少し焦ってしまったのか腕に変な力がこもってしまったようで、ボールはあらぬ方向に飛んでいった。 コートから大きく外れたボールはそのまま何度か床の上をバウンドしつつ、丁度開きっぱなしになっていた体育館の扉に転がっていく。 「しまった……!」 私はすぐに、ボールを追いかけて駆け出した。 しかし、そこからボールに追いつけるはずもなく、扉から外に転がり出──「あら?」──そうなところで、丁度体育館に入ってきた誰かの足に当たる形で止まった。 それに、私はすぐにネットの下を潜り、「すみません!」と謝りながらボールの元に向かった。 すると、体育館に入って来た誰かは両手でボールを拾い、こちらに向かって差し出した。 「はい。気を付けてね?」 そう言って笑みを浮かべるその人の顔を見た瞬間、私は一度足を止めそうになった。 しかし、すぐにハッと我に返って彼女の元に駆け寄り、ボールを受け取った。 「ありがとうございます! 神崎さん、お久しぶりです」 「あら、覚えていてくれたの? フフッ、嬉しい」 そう言って優雅な笑みを浮かべるのは、全国有数のバレー強豪校である私立千皇高校バレーボール部の監督を務める、神崎 椿姫さんだった。 忘れるはずが無かった。なぜなら彼女は、千皇高校を今の強豪校に作り上げた敏腕監督なのだから。 元々千皇高校は弱小校だったが、数年前に神崎さんが監督を務めるようになってから一気に力を伸ばし、現在に至っている。 雑誌などで取り上げられることも多く、私は元々彼女に会う前から顔と名前は知っていた。 彼女が千皇高校を強豪校に成り上がらせた方法は至極単純で、中学バレーで活躍した選手をスカウトして引き込んで新たなチームとして鍛え上げ、今の強豪チームを作り上げているらしい。 中には強い選手を集めれば強いチームが作れるのは当たり前だと非難する人間もいるが、彼女が評価されている理由はそこではない。 今でこそ強豪校である千皇高校だが、元は弱小校。 そんな学校にスカウトされたところで、上を目指すバレー選手のほとんどはそんな所には行かないだろう。 しかし、それでも彼女は弱小校に強い選手を引き込み、今の強豪校となるまでに鍛え上げた。 さらに、仮に強い選手を六人集めたところで、それがイコールで強いチームを作り上げられることに繋がるわけではない。 バレーボールはチーム競技。チームワークが無ければそもそも試合が成り立たないし、チームを率いる監督の腕が無ければ、どれだけ選手が強くても限度がある。 選抜チームに参加した経験からだが、実力のある選手というのは大抵自尊心の強く、プライドが高い人間が多い。 私の場合、先輩が私の高くなっていた鼻を優しく折ってくれたから、早い内に自分の足りないものに気付いて調子に乗らなかったようなものだ。 そんな我の強いメンバーを監督として纏め上げ、数年で全国大会の常連と化すほどの強豪校に作り上げた手腕を要する神崎さんの名前を忘れることなど、私にはありえないことだった。 私が神崎さんと会ったのは、選抜チームに参加していた頃のことだ。 選抜チームの練習には、たまに県内の高校のソフトボール部の監督がコーチとしてやって来て、指導してくれたことがあったのだ。 「忘れるわけないじゃないですか……! 選抜チームの時はお世話になりました……!」 「あら、そう言って貰えて嬉しいわ。桐生さんも、元気そうで何より」 そう言って緩く笑みを浮かべながら言う神崎さんに、私はドキッとした。 名前、憶えていてくれたのか……! 強豪校の監督に名前を憶えて貰っていたという事実に、一気に気持ちが高揚していくのを感じる。 私はにやけそうになる顔を隠すように両手に持ったバレーボールを持ち上げつつ、慌てて口を開いた。 「あ、ありがとうございます……あの、ところで、こちらには一体何の用で?」 「あぁ、そうそう。今日はね、桐生さん。貴方に用事があって来たのよ」 「わ、私にですかッ!?」 予想外の言葉に、私はつい大きな声を出してしまった。 てっきり、監督に話があるのかと思ったのに……! 驚いていると、神崎さんは笑顔で頷いた。 「そうなの。まぁ、遠回しに言っても何だから、単刀直入に言うわね。桐生さん……千皇高校に来ない?」 真っ直ぐ私の目を見つめながら言う神崎さんに、私は目を見開いた。 私に用があると言われた時点で、全く予想していなかったわけでは無かったが……改めて言葉にされると、かなり衝撃だった。 弱小校を数年で強豪校を成り上がらせた監督が、わざわざこの学校に来てまで、私をスカウトしに来たのだ。 胸が熱い。気分が高揚しているのが分かる。 何とか昂る気持ちを抑えようとしていると、神崎さんは続けた。 「自覚していないかもしれないけど、桐生さんは全国的に見てもトップクラスの実力を持っているわ。……千皇高校なら、貴方の力を最大限に引き出せる。だから、私のチームに来て欲しいの」 ハッキリした声で言う神崎さんに、私は両手に持ったバレーボールをグッと握りしめた。 嬉しい。そんな気持ちが、私の胸中を占める。 ……でも……── 「──……ごめんなさい。私は、千皇高校に行くつもりはありません」 曖昧に返答を濁すのも良くないと思い、私はハッキリと断った。 すると、神崎さんは目を見開き、すぐに口を開いた。 「どうして……? 千皇高校なら設備も整っているし、快適な環境で思う存分バレーに打ち込んでもらうことが出来るわ。それとも……私の指導では不安かしら?」 「そういうわけでは無いんですけど……私、他に行きたい高校があるんです。誘って頂いたのは嬉しいんですが、私はその高校以外でバレーをするつもりはありません」 私の言葉に、神崎さんは僅かに目を細めて「そう……」と呟いた。 確かに、千皇高校なら……神崎さんの指導のもとなら、もっとバレーも上手くなるだろう。 けど、私は別にバレーが上手くなりたいわけでは無い。 あくまで私はバレーが好きなだけで、楽しく出来るなら、ぶっちゃけ学校自体はどこでも良かった。 ただ、今の私が一番楽しくバレーができると思うのは、先輩と一緒にプレイしている時だ。 「……ちなみに聞きたいんだけど、どこの高校に行くつもりなの?」 「才見高校です」 「才見……まぁ、確かに弱小校というわけでは無いけど、強豪校でも無いじゃない。どうしてそんな所に……?」 「私、あくまでバレーが好きなだけで、勝ち負けにはそこまで拘りは無くて……憧れていた先輩が、その学校に進学してるんです。だから、お誘いは本当に嬉しいんですけど、千皇高校に行くつもりはありません。本当にごめんなさい!」 言いながら、私は頭を深く下げた。 すると、頭上から「そう……」と、落胆した様子の声が聴こえた。 罪悪感が込み上げる。しかし、私はこの気持ちを変えるつもりは無かった。 頭を下げたままでいると、僅かに衣擦れの音がした。 「桐生さん。頭を上げて?」 言われて、私はすぐに頭を上げた。 すると、目の前にスマホの画面が掲げられていた。 画面の中ではショッキングカラーのカラフルな渦巻きが、中心に向かって渦を巻いていた。 「えっ……?」 呆気に取られるのも、一瞬のことだった。 すぐさま私の視線は目の前のスマホの画面に捕らわれ、離せなくなる。 ダメ……目を、逸らさなきゃ……。 どうしてなのかは分からないが、本能がそう訴えかけてきた。 私はすぐに必死で目を逸らそうと、まず首を捻った。 しかし、眼球がスマホの画面に向かって固定されてしまっていた為、どれだけ顔を横に向けても視界に渦巻きが入ってきてしまった。 だったら眼球を動かせばいいと思い、私は必死に目に力を込めた。 その時、頬に手を添えられた。 「ダメよ、目を逸らしたら……ちゃんと見て?」 神崎さんはそう言うと、私の顔をスマホの画面に向けさせた。 真正面からスマホの画面を見てしまい、私はもう目を逸らせなくなっていた。 小さな画面の中に広がる渦巻きに、惹かれる……引き寄せられる……。 視線だけでなく、思考が、意識が……吸い込まれていく……。 中心に向かって……中心に……中心に……。 テンッ、テンッ、テン……。 足元から、乾いた音がした。 両手に持っていたバレーボールが落ちたのだ。 なぜなら、ボールを持っていた両手から力が抜け、重力に従ってダランと垂れ下がったから。 しかし、今の私にはそんなこと気にならなかった。 脱力した状態のまま、呆然と目の前の渦巻きを見つめ続ける。 「フフッ、涎を垂らしちゃって……すっかり蕩けちゃったみたいね」 すると、神崎さんは小さく笑みを浮かべながら言い、頬に添えた手の親指で私の口の端をグイッと拭った。 渦巻きを見つめるのに夢中になるあまり、口が半開きになって涎が零れていたようだ。 しかし、今の私にはそんなことあまり気にならなかった。 それより、渦巻きを見つめている方が大事だった。 この渦巻きを見ていると、頭の中が真っ白になって、スッキリして……気持ちいいんだ……。 ぼんやりとスマホの画面を見つめていると、頭を優しく撫でられた。 「可愛い顔♡ 桐生さんは元々良い子そうだったし、スカウトにも応じてくれると思っていたから、このアプリは必要ないかと思っていたけど……まさか断られるなんて、思っていなかったわ。でも、断ってくれてむしろ良かったかもしれないわね。だって、こんなに可愛い姿が見られたんだもの♡」 独り言のように言いながら、神崎さんはスマホをゆっくりと左右に動かす。 それを、私は首を動かす形で、目で追った。 右に動かされたら右に、左に動かされたら左に、スマホを持ち上げられたら見上げ、下げられたら下に。 「フフッ、まるで操り人形みたいね」 神崎さんはそう言うと、スマホを切った。 視界から渦巻きが消え、私は何も見えない虚空を見つめることとなった。 呆然とその場に立ち尽くしていると、神崎さんはクスリと小さく笑い、愛でるように私の頭を撫でた。 「本当に可愛い……♡ このまま頂いちゃいたいくらいだけど、流石にこんなにだだっ広い場所でやるのも野暮よねぇ……」 神崎さんはそう言うと、顎に手を添えて少し考える素振りをする。 その時、こちらに近付いてくる足音が聴こえた。 ……誰かが来る……? 「うん? そこにいるのは誰? こんな時間まで何してるの?」 そう言って神崎さんの背後に現れたのは、私の所属していた女子バレー部の顧問である女教師、犬塚先生だった。 彼女の言葉に、神崎さんは私と向き合っていた体勢から振り向き、先生と向き直る。 すると、先生は目を丸くした。 「かっ、神崎さん……? こんな所で、何をしているんですか? ……桐生に何か用事ですか?」 先生はそう言いつつ、私に視線を向けてきた。 すると、神崎さんはスマホの電源ボタンを押す素振りをしつつ、すぐに口を開いた。 「いえ……本日は犬塚先生に用がありまして。桐生さんには、先生の所在を聞いていたところでした」 「そうだったんですか……ところで、桐生が何だか元気が無さそうですが……」 「あぁ……自主練習を頑張って疲れたみたいです。引退したというのに、練習熱心ですね」 「桐生は誰よりもバレーに熱心な奴ですから。……あっ、それより、用件って何ですか? そろそろ生徒の下校時間で、体育館も施錠しなければならないので……ホラ、桐生も早く……」 「先生、このスマホの画面を見て下さい」 私に何かを言おうとした先生の言葉を遮り、神崎さんはずっと手に隠し持っていたスマホの画面を先生に見せた。 すると、先生は目を見開いて画面を見つめた。 最初は驚いた様子だった先生だったが、徐々にその目は光を失い、気付けば虚ろな目で呆然とスマホの画面を見つめ続けた。 すると、神崎さんはスマホを切って服のポケットに仕舞い、先生の耳元に口を寄せて何かを囁いた。 「……はい……かんざきさんは、わたしの……ごしゅじんさま、です……わたしは……ごしゅじんさまの、めいれいに、したがう……あやつりにんぎょう、です……はい……ばれーぶのぶしつの、かぎ……もっています……はい……ごしゅじんさまに、さしあげます……」 抑揚のない声で呟いた先生は、ポケットの中からジャラジャラと音を立てて鍵の束を取り出し、神崎さんに差し出した。 すると、神崎さんは満足そうな笑みを浮かべてそれを受け取り、「ご苦労様」と言った。 それから彼女は一度体育館の中を見渡した後、先生に何かを囁いた。 「はい……わたしは、たいいくかんのなかを、そうじして……でんきをきって、かぎをして……なにごともなかったかのように、たいいくかんを、あとにします……はい……そうしたら、わたしは、ごしゅじんさまをみつけてからのことを、すべて、わすれます……わたしは、たいいくかんにのこっていた、きりゅうさんをかえらせて……たいいくかんのかぎをした、だけです……はい……そのことに、なにもいわかんを、もちません……」 虚ろな声で淡々と答えた先生は、まるで糸で操られているかのようなぎこちない動きで体育館の中に入り、先程私が落としたボールを拾った。 その様子をぼんやりと視界の隅に収めていた時、神崎さんが私の手を軽く引いた。 「それじゃあ、桐生さん。私をバレー部の部室に案内してくれる? 続きはそこでしましょう」 「……はい……あんない、します……」 神崎さんに言われ、私は無意識にそんな風に答えつつ、促されるままにフラフラと歩き出した。 部室棟は体育館を出て少し歩いた所にあり、女子バレー部等の体育館で行う室内競技の部室は基本的に部室棟の二階にあり、グランドで行う室外競技の部室は一階にあった。 私は神崎さんを連れて部室棟の階段を上り、二階にある女子バレー部の部室に案内した。 「はい……ここが、ばれーぶの……ぶしつ、です……」 「そう。ありがとうね」 神崎さんはそう言うと私の頭を一度優しく撫で、先生から預かっていた鍵の束から部室に割り当てられた番号の鍵を取り、部室の扉を閉じていた南京錠を開錠した。 少し年季の入った古びたアルミ製の引き戸は、神崎さんの手によって、少し軋むような音を立てて開かれた。 部室に入った神崎さんが壁に付いたスイッチを押すと、天井の蛍光灯が数回点滅してから光を放ち、コンクリート造りの部屋の中を照らした。 室内競技である為に部室には靴を脱いで入るのが決まりで、神崎さんもそれをすぐに理解したのか、履いていたヒールの高い靴を脱いで部室の中にある靴箱に入れた。 「貴方も部屋に入りなさい? 靴を脱いで中に入ったら、ちゃんと扉を閉めてね」 「はい……へやに、はいって……くつ、ぬぎます……とびら、しめます……」 頭の中に靄が掛かったような、何とも言えないフワフワした感覚の中で何とかそう復唱し、私はバレーシューズを脱いで部室に入って後ろ手に扉を閉めた。 部室内では制服から体操服や練習着に着替える為、扉に付いている窓は曇りガラスになっており、窓には分厚いカーテンが掛かっている。 部屋に入って右手側と奥の壁には簡易的なベンチが備え付けられており、左手側の壁には道具を整理する為の収納用ロッカーがあり、その手前には大量のバレーボールが入ったカゴが置いてあった。 私が放課後の自主練習で使用していたボールは、体育の授業用に体育館倉庫に保管されていた少し古いバレーボールだ。 「靴は適当な所に置いといて……とりあえず、空いている所に気を付けの姿勢で立って貰える?」 ぼんやりと見慣れた部室内を観察していると、神崎さんがそう言いながらカーテンを閉めた。 言われるがままに私は適当な場所にシューズを置き、神崎さんに見える場所で直立した。 すると、神崎さんは壁際のベンチに腰掛けると腕と足を組み、舐めるように私の体を観察した。 「選抜の練習の時から思っていたけど、良い体しているわよねぇ……ねぇ、服を脱いで、その体をもっとよく見せて?」 「はい……ふくを、ぬいで……からだ、みせます……」 神崎さんに言われ、私は着ていた服に手を掛けた。 部活や自主練習の時は、学校指定の体操服では無く、バレー部の部活Tシャツを身につけている。 普通の服に比べてツルツルしたような手触りの黒地のTシャツに、前には胸元に学校名が書いてあり、後ろには習字のような白い文字でデカデカと『一球入魂』『排球魂』と書いてある、少々ダサいTシャツ。 この学校のバレー部では代々受け継がれており、一年生の時に配布されてから今まで、練習の時には欠かさず身につけてきた思い出の籠った大切なTシャツ。 それを、下に着ていた肌着と共に脱ぎ去り、床に捨て置く。 次いでブラジャーのホックを後ろ手に外し、同じように床に落とす。 後は履いていたスポーツ用のハーフパンツに手を掛け、下に履いていたスパッツやパンツと一緒に脱ぐ。 脱いだソレから足を抜き、ついでに靴下も脱いで、私は一糸纏わぬ完全な裸体となって先程と同じように気を付けの姿勢を取った。 「フフッ、本当に良い体ね」 神崎さんはそう言いながら立ち上がり、ゆっくりと私の周りを歩きながら、気を付けの姿勢を取った私の体を観察していく。 しばらく私の体を観察すると、満足したのか私の背後に回り、私の体に腕を回して──「ぁふッ……♡」──胸に優しく指を這わせた。 「可愛い声……♡ 胸も小振りだけど、形が良くて素敵ね♡」 神崎さんは楽しそうな口調で言いながら、私の胸を愛撫していく。 時には小さな乳房を掌で包み込むようにして優しく揉み込み、時には中心にある突起を指で摘まんだり弾いたりする。 彼女の指で優しく愛撫される度に、吐息は熱を帯び、口から漏れ出る声には媚びるような甘さがこもっていく。 体も熱くなり、特に股間の辺りがキュンキュンと疼くような感覚がした。 「こんなに乳首勃起させちゃって、興奮しているのね?」 神崎さんはそう言いながら、私の乳首を両方とも摘まんでクニクニと愛撫する。 それに、私は口からまたもや甘い声を漏らしながら、ビクビクと体を震わせた。 同時に腰から下に力が入らなくなり、私は重力に従ってその場に崩れ落ちそうになった。 しかし、神崎さんに支えられる形で、私の体は止まる。 「おっと……腰抜かしちゃったの?」 神崎さんはそう言いながら私の体を支え、近くにあったベンチに腰掛けて膝の上に私を座らせた。 体に力の入らない今の私には座位を保持することすら難しく、そのまましなだれかかるように神崎さんに背中を預けた。 すると、彼女はクスリと笑って私の体に手を回し、片手で私の乳首を摘まんでもう片方の手を私の股間の辺りに持っていった。 その手は、何やら透明の液体で湿った私の内腿を撫で、そこからなぞるようにその手を上に持っていく。 「んんぁッ……♡」 「フフッ、こんなにびしょ濡れにしちゃって……よっぽど興奮していたのね」 神崎さんはそう言いながら、内腿を濡らしていた液体を救い上げ、その手をゆっくりと上げる。 すると、透明の液体は糸を引き、部室の電灯の明かりを反射しててらてらと怪しく光る。 熱い吐息を漏らしつつそれを見ていると、神崎さんはその手を私の口元に持っていった。 「ホラ、舐めなさい?」 そう言うと同時に、透明の液体に塗れた手を私の口の中に突っ込む。 突然口の中に指を突っ込まれてつい驚いてしまったが、私はすぐに半開きになっていた口を窄め、言われた通りに指に舌を這わせる。 神崎さんの指に付着した液体を舐めると、ほんのり苦い風味が口の中に広がった。 お世辞にも美味しいと言えるものでは無かったが、命令されたことには従わなければならないと思い、私は口の中にある指を舐めた。 ──ザザッ……── 「……?」 突然思考にノイズが掛かったような感覚があり、私は指を舐める舌の動きを止めた。 あれ……? そういえば、なんで……神崎さんの命令に従わないといけないんだっけ……? 大体、なんで、こんな……部室で、裸になって……こんなこと……? 「……? 桐生さん? 舌が止まっているわよ?」 すると、神崎さんにそんな風に囁かれた。 彼女に言われた瞬間、先程の思考を遮って「命令に従わなければならない」という感情が込み上げ、すぐさま舌を動かして神崎さんの指を舐める。 しかし、やはり先程の思考が脳裏をよぎり、その舌の動きはぎこちなくなってしまう。 「うーん……催眠が解けかけているのかしら? 桐生さん、これを見て?」 「……?♡」 神崎さんに言われて視線を向けると、そこには神崎さんのスマホがあり、先程見たショッキングカラーのカラフルな渦巻きが画面に表示されていた。 その画面を見た瞬間、私は「ぁ……♡」と小さく声を漏らしながら体から力を抜いた。 神崎さんの指を舐める為に窄めていた口は半開きになり、口の端からツー……と唾液が零れるのを感じる。 呆然としていると、神崎さんは私の口からちゅぽっ……と音を立てて指を引き抜き、その手で私の両目を覆った。 視界が暗闇に包まれても、その直前まで見せられていた渦巻きが視界に浮かんでくるような感覚がした。 「はい、思考を止めて……何も考えないで……頭を空っぽにしましょう……」 「ぁ……♡ ぁぁ……」 耳元で囁かれ、言われるがままに私の思考は停止する。 何も考えない……頭の中を……空っぽに……。 途端に先程までの思考は止まり、まるで脳味噌が無くなってしまったかのように何も考えられなくなってしまう。 「何も考えない……何も感じない……ただ、聴こえてくる声だけを聴けばいいの……」 「なにも……かんがえない……なにも……かんじ、ない……きこえて、くる……こえだけ……きく……」 無意識に、私は聴こえてくる声を復唱した。 すると、耳元で微かに誰かが笑う音がしたのを感じた。 「そう……今の貴方は、空っぽなお人形さん……ご主人様に言われたことに従うだけの、可愛い可愛い私の人形……人形だから、何を言われても、何をされても、何も考えない……何も感じない……言われたことには素直に従うの……」 「わたしは……からっぽな、にんぎょう……ごしゅじんさまに、いわれたことに、したがう……にんぎょう、だから……なにも、かんがえない……なにも、かんじない……いわれたことに、したがう……」 復唱すると、その言葉が空っぽになった私の体にスーッと染み込んでいくような感覚がした。 私は人形……空っぽの人形……何も考えない……何も感じない……言われたことに従うだけの、人形……。 頭の中で繰り返していると、私の両目を覆っていた手が外れ、視界が開ける。 「たまにいるのよねぇ、途中で目を覚ます子……まぁ、何の問題も無いんだけどね。さ、続きをしましょうか」 独り言のように呟きながら、ご主人様は私の膣口に手を持っていき、中指と薬指をゆっくりと挿入した。 指が入ると、ぐぢゅりと耳に纏わりつくような水の音がした。 「うわ、凄い音……! フフッ、すっごく興奮していたのね……♡」 ご主人様はそう言うと、私の下腹部の中でゆっくりと指を動かし始めた。 ぐぢゅり、ぐちゅり、ぐちゅっ、ぐぢゅっ……といやらしく音を立てながら、私の体の中で二本の指が蠢くのを感じる。 気付けばもう片方の手は私の胸への愛撫を再開しており、私の乳首を指で摘まんでクニクニと揉んでいた。 しかし、私は何をされても何も感じない人形なので、特に何の反応も見せずその様子を眺めていた。 「あら? 反応が無いわね……って、あ、そっか……貴方は何も感じない人形だけど、快感だけは感じることが出来るわ。それから、感じたことはそのまま口にしなさい」 「はい、わたしはかいかんだけ、かんじ……──~~~~~ッ!?♡」 ご主人様の言葉を復唱したのも束の間、突然雷にでも打たれたかのような衝撃が体中を走り、一瞬で目の前が真っ白になった。 何が起こったのか理解できぬまま、私は嬌声を上げながらその感覚に身を委ねた。 「あら、もう達しちゃったの? ねぇ、今どんな気持ち?」 「あぁぁぁぁッ!♡ きもちいいッ!♡ きもちいいれすぅッ!♡ あひぃッ!?♡ あッ♡ あぁぁぁぁッ!♡」 ご主人様の質問に答える間も無く、すぐさま二度目の衝撃が私の体を貫いた。 目の前が真っ白になって、気持ちいいってこと以外何も分からなくなっていく。 「フフッ♡ ねぇ、桐生さん? こっち向いて?」 「ぁぇ……?♡ ……ッ……!♡」 ご主人様に言われるがままに顔を向けた瞬間、唇を奪われた。 最初は唇が触れるだけのキスだったが、すぐに向こうから舌を絡めてくる濃厚なものへと変わる。 私の舌は絡めとられ、口の中は舐め回され、蹂躙されていく。 その間も膣口への愛撫は止まっておらず、グチュグチュといやらしい水音は響き渡っており、その快楽に体を震わせ喘いでしまう。 しかし、ご主人様は私の胸を愛撫していた手を離し、その手で私の後頭部を掴んで私の顔を固定する。 「んちゅッ……くちゅッ……ぷはッ……自分の胸を自分で愛撫しなさい……? ちゅッ……」 「んんッ……♡ ぷぁッ……♡ はひ……♡ んちゅッ……♡」 キスの合間に囁かれた命令に従い、私はすぐさま自分の胸に両手を持っていき、ご主人様にされたように自分の胸を愛撫する。 自分の乳首を摘まんで刺激すると、すぐに新たな快楽が私の体を襲った。 口、胸、膣口。同時に三点から与えられる甘い刺激に、一気にまたもやあの衝撃が加えられた。 「んんぅッ♡ んむッ♡ んんんんんんんんんんんんんんんんッ!♡」 口を塞がれたまま、私は嬌声を上げた。 腰が跳ねる。体が弓なりに反る。目の前が真っ白になる。意識が飛ぶ。 「ぷはぁッ……!♡ んぁぁぁぁぁああああッ!♡ あぁぁぁッ……♡ ぁぁぁ……♡」 途中で口が離され、私は長い嬌声を上げながらぐったりと脱力した。 先程の衝撃の余韻がまだ残っており、体が勝手にビクビクと震える。 膣口から指が引き抜かれると、その際に生じた快楽により、私は小さく声を漏らしながら体を震わせた。 先程まで指が挿入されていたそこは甘く疼き、何かに媚びるかのようにヒクヒクと震えるのが分かった。 惚けるように快楽に身を委ねていると、またもや目元を手で覆われた。 「それじゃあ質問。……今、どんな気持ち?」 「はぁ……♡ はぁ……♡ すごく……きもち、いい……です……♡」 まだ呼吸が収まらない中、私は聴こえた質問に素直に答えた。 すると、耳元でクスリと小さく笑う声がした。 「そうね。それじゃあ、貴方を気持ちよくしてくれたのは誰?」 「ご……ごしゅじん、さま……です……♡」 「フフッ♪ えぇ、そうね。貴方を気持ちよくしてくれたのは、私。貴方のご主人様。貴方を気持ちよくしてくれるのは、ご主人様だけ。貴方を幸せにしてくれるのはご主人様だけ」 「わたし、を……♡ はぁ……♡ きもちよく、してくれる、のは……♡ はぁ……♡ ごしゅじん、さま……だけ……♡ わたしを、しあわせに……♡ はぁ……♡ してくれる、のは……♡ ごしゅじんさま、だけ……♡」 「だから、貴方はご主人様が好き。ご主人様だけを信じるの。だって、貴方を幸せにしてくれるのはご主人様だけだから」 「わたしは……ごしゅじんさまが、すき……♡ ごしゅじんさま、だけ、しんじる……♡ わたしを、しあわせに、してくれるのは……♡ ごしゅじんさま……だけ……♡」 「ご主人様以外の人間は全てどうでもいい。例え家族でも、友達でも……憧れの先輩でも、ご主人様に比べれば、どうでもいい存在」 「ごしゅじんさま、いがい……どうでも、いい……♡ かぞく、ともだち……せんぱい、も……どうでもいい……♡」 「フフッ、良い子♡ それじゃあ、服を着て……──……良い子ね。それじゃあ、そこのベンチに横になって……しばらく眠りなさい。目が覚めたら、貴方は思考も感情も取り戻して、空っぽのお人形では無く、元の桐生晴陽に戻っているわ。そうしたら、この催眠術に掛かっていた時のことは思い出せなくなるわ。貴方は今日、自主練習終わりに私に出会って、千皇高校にスカウトされただけ。立ち話をして別れた後で、練習の疲れから部室で少しうたた寝をしていただけ。……でもね、記憶にはないけど、私のおかげで気持ちよくなれたという経験と、私の言ったことは全て貴方の心の奥深くに刻み込まれているの。普段は貴方が人形だって思い出せないけど、私が『空っぽのお人形桐生晴陽』と言うと、またすぐに今の状態に戻って来れるわ。それじゃあ、おやすみ……」 ……………………………。 ………………………。 …………………。 ……………。 ………。 ……。 「んんッ……んっ……」 小さく呻き声を上げながら、私はゆっくりと体を起こした。 あれ……私、何してたんだっけ……。 確か、体育館でいつものように自主練習をしていて……そうしたら、あのバレーボールの名門校の千皇高校の監督である神崎さんが体育館に来て、私のことをスカウトしてくれたんだっけ……。 先輩と同じ学校に進む約束をしているからと、あの時は咄嗟に断ってしまったけど……どうしてあんなことを言ってしまったんだろう……? 神崎さんはすごく良い人そうだったし、私のことをちゃんと考えてくれているようだったし、何よりあの千皇高校のバレー部の監督だ。 断る理由なんて無い。というか……私如きが神崎さんの誘いを断るなんて、無礼にも程がある。 神崎さんは私のことをしっかり考えた上で誘ってくれたというのに、断るなんて……。 神崎さんは、興味があれば練習を見に来れば良いと言っていた。 毎日練習をしていると言っていたし、明日もきっとやっているだろう。 だから、明日千皇高校に行って練習を見に行って……神崎さんに謝ろう。 それで今の私の気持ちを伝えれば、きっと神崎さんも分かってくれる。 あの人は私の幸せを一番に考えてくれる……あの人だけが、私を幸せにしてくれるんだから……。 「……うん……?」 そんな風に考えつつ立ち上がろうとした時、床に落ちている古びたサポーターが目に入った。 これは……先輩から頂いた、サポーター。 私はそれを手に取り、ジッと見つめた。 ……こんなものがあるから、一時の気の迷いで神崎さんの誘いを断ってしまったんだ。 そう考えると、途端にそのサポーターが忌々しいものに見えた。 私は部室の中にあったゴミを捨てるゴミ袋の中にサポーターを捨て、カバンを肩に掛けた。 今日は、帰りにスポーツ用品店にでも寄って、新しいサポーターを買おう。 もしかしたら、明日の練習に体験参加……なんてことになるかもしれないし。 そう考えると、先程までの陰鬱とした気持ちが晴れ、むしろ胸が高鳴るような感覚がした。 私は下腹部がキュンキュンと疼くような感覚を感じつつ、バレー部の部室を後にした。
Comments
責め描写がすごくえっちでした!ごちそうさまです・・・
ナナつばき@支援復帰
2020-10-02 13:51:14 +0000 UTC百合催眠でスポーツ少女の思考書き換え良い^^ スマートフォンの催眠アプリも良いですね^^ 主人公と神崎の絡みも良かったです。
masami_yuri7
2020-09-14 18:13:31 +0000 UTC