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あいまり
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歪んだ戯曲を紡ぐ時 十二人目

 シノブがこの『クリノス』という劇団を手に入れようとした時、私は彼女の計画を、一つの戯曲に例えた。  戯曲作家である彼女がプロットを作り、作家でありながら主人公となって、登場人物である劇団員と共に物語を紡いでいく、奇妙な戯曲。  そして、私がシノブを手に入れることで、この戯曲は歪んでいった。  主人公は疎か、物語を描く戯曲家そのものが入れ替わるなど……それはもう、戯曲ではない。  しかし、それでも戯曲は終わらない。  主人公も作家も代わった歪な戯曲は、歪んだまま紡がれてきた。  どれだけ歪んだ戯曲でも、始まりがあれば終わりがある。  もしもこの戯曲に始まりがあるとすれば、それはきっと……カエデが『クリノス』を辞めたあの日だろう。  それならば、この歪んだ戯曲に終わりがあるとすれば、きっと……──。 「おぉ~! 久々に来たけど、あんまし変わって無いね~!」  劇場の管理人室を見渡し、歓声のような声を上げるカエデを見つめながら、私は小さく笑みを浮かべる。  彼女と会うこと自体は直近の公演以来だが、こうして劇場に来るのは、彼女がクリノスを辞めて以来だ。  理由は単純に、互いに忙しくて中々時間を取れなかったから。  私の忙しさについては言うまでもないとして、カエデはカエデで結婚してからの新生活やクリノスを辞めた後の新しい仕事を探したりで、色々と忙しかったらしい。  それでも、クリノスの公演がある時は何とか時間を取って見に来てくれる。 「カエデも、いつ会っても変わらないわよね。旦那さんとも上手くいってるみたいだし」 「そうだねぇ……喧嘩が全く無いって言ったら嘘になるけど、とりあえず上手くいってる」  カエデはそう言うと、白い歯を見せて無邪気に笑った。  ……今、私の心に溜まっている靄を嫉妬と呼ぶのなら、私がカエデに抱いている感情は恋と呼ぶのだろうか。  答えは、きっと……否。  私の、カエデを手に入れたいと願うこの感情は、恋と呼ぶには汚れ過ぎている。 「……それなら良かった」 「ところでレイカとシノブちゃんはどこにいるの?」 「レイカは今稽古中で、シノブは執筆中」 「へぇ~! じゃあ、稽古覗きに行きたいなぁ。他の劇団員の子達にも会いたいし」 「あぁ~……実は今日は『ロードン』との合同稽古でさ。ちょっと難しいかも」 「そうなの!? って……あ、そっか。クリノスとロードンの合同企画やるんだっけ」  思い出したように言うカエデに、私は頷いて見せる。  すると、彼女は「凄いなぁ」と感心した様子で呟いた。 「私が脚本家やってた頃はロードンとここまで仲良くなってなかったのに……流石はミチル。敏腕管理人だねぇ」 「止してよ。私だけじゃなくて、他の劇団員の子も頑張ってくれたのよ。シノブなんて、ロードンの戯曲家とは凄く親しいみたいだし」 「あの子は元々コミュニケーション能力高い方だったしねぇ……」 「そうね。クリノスに入ってからも、割とすぐに馴染んでいたし」  私の言葉に、カエデは「そうなんだ」と呟いて、安心したように笑った。  ……愛弟子、なんて言っていたくらいだし、気になっていたみたいだ。  毎回公演を見に来る度にシノブの現状について聞かれ、上手くやってると話すと嬉しそうに笑っていた。  実際に会えば良いのに、と何度か勧めたこともあったが、その度に彼女は拒否していた。  理由を聞けば、今更顔を合わせるのが何だか照れ臭いのだとか。  しかし、もうシノブの加入からは一年も経つし、そろそろ一度顔を合わせてみたいと言い出したのだ。  カエデの意向で、シノブには前任戯曲家がカエデであることを内緒にしている。  今日の再会で驚かせたいらしい。 「そういえば、少し話は戻るけど、稽古っていつ終わるの?」 「予定では、あと一時間くらいね。でも大体いつも皆残って稽古を続けるから、実際はもっと長いかもね」 「え、そうなの……!? じゃあ、シノブちゃんの方は……?」 「シノブに関しては本当に未知数ね。一度集中すると周りが見えなくなるし、内線で連絡しても気付かないこともあるくらいだから……下手したら、稽古よりも遅くなるかもしれないわ」 「マジかぁ……」  目を丸くして言うカエデに、私は心の中でほくそ笑む。  確かに、カエデに言ったことは全くの嘘ではないが……全くの本当でも無い。  半分嘘で半分本当、と言うのが正鵠を得ているかもしれない。  確かに、私が歪める前のシノブは先程言った通りだったが、今は少し違う。  今の彼女が私からの連絡よりも執筆を優先することなど無く、内線でも掛ければどんなに執筆に集中していたとしても一発で出てくるし、呼び出せばその執筆を中断してでも来てくれる。  稽古についても同じで、仮に私が一声掛ければその稽古は中断され、誰かを呼び出せばすぐにでも来てくれる。  現状来客の予定も無いし、この部屋に誰かが入ってくることはほぼ無いと言っても良い。  ……そろそろ、頃合いかな……。 「そういえばカエデ、催眠術って知ってる?」 「サイミンジュツ……あぁ、テレビとかでたまに見るよ。五円玉使って、横に振って……眠くなれ~とか言うやつでしょ?」 「えぇ、そうよ。実はシノブが一時期催眠術にハマっていたことがあって、少し教えてもらったことがあるの。稽古が終わるまでどうせ暇だし、折角だからやってみない?」  私はそう言いながら、机の引き出しからペンライトを取り出し、カエデに見せた。  すると、彼女はパァッと目を輝かせて「やりたい!」と言った。  ……計画通り。  内心でそう呟いてほくそ笑みながら、私はペンライトの光を点け、彼女の額に持っていく。 「それじゃあ、このペンライトの光を見て……目を逸らさないで……顔や頭の位置も動かしたらダメよ……」 「ふふっ、はぁい」  私の言葉に、カエデは小さく笑みを浮かべながら言い、眉間の辺りにあるペンライトの光を見つめるように寄り目になる。  しばらく見つめていると、徐々に目が疲れてきたのか、瞬きの数が少し増えていく。  最初は少し笑みを浮かべたような表情を浮かべていたが、徐々にその表情は失せ、虚ろになっていく。  口は半開きになり、何度も瞬きを繰り返しながらも、彼女はペンライトの光を見つめ続ける。 「光を見つめていると、目が疲れてきましたね。目が疲れてくると、瞼が重たくなってきます。重たい、重たい、重たい……瞬きの数が増えてきて、段々瞼を開いているのが億劫になってくる……ホラ、少しずつ瞼が閉じていきますよ~」  私はそう言いながら、ペンライトの光をゆっくりと下に持っていく。  すると、彼女の目はそれを追うように下がっていき、同時に瞼が閉じていく。  彼女の顎の方まで光を持っていった後、私はペンライトの光を消した。  その時にはすでに、彼女の瞼はほとんど閉じており、隙間から白目が見え隠れしていた。  掛かった……と、心の中で呟く。 「はい。それでは完全に瞼を閉じてしまいましょう」  私がそう言うと、カエデの瞼は完全に閉じる。 「瞼が閉じると、体の力が抜けて楽になっていきます。目の疲れも取れていって、楽になっていきます」  そう言ってみると、カエデの表情が安らいでいくのを感じた。  大分深く催眠が掛かっている、というか……かなり被暗示性が高いな。  シノブの時も思ったけど、作家という生き物はかなり催眠に掛かりやすいのだろうか。 「体だけでなく、頭からも力が抜けていきます。フワフワして、段々眠くなっていきますよ。……大丈夫。その眠気に抗う必要はありません。少しだけ眠りましょう。次に私が貴方を起こした時には、貴方は何も考えられない、今よりももっと気持ち良く、静かで、私の声しか聴こえない……深い催眠状態になっていますよ。それじゃあ、おやすみ」  私がそう言ってやると、彼女の体がフラッ……と前のめりに倒れる。  それに、私は咄嗟に駆け寄り、彼女の体を受け止めた。 「すぅ……すぅ……すぅ……」  すると、腕の中でカエデが寝息を立てているのが聴こえた。  人の気も知らないで……と心の中で愚痴りつつ、私は彼女の体を起こして背凭れに背中を預けてやる。  彼女は完全に手足を投げ出し、安らかに寝息を立てていた。  基本的に人懐っこい性格の彼女だが、ここまで無防備な姿は見たこと無い。  ひとまず、私は管理人室の扉に鍵をして、誰も入ってこないようにする。  ……ようやく、この時が来た。  今まで、どれだけこの時を待っていただろう。  私はカエデの座っている椅子の横を通り、ゆっくりと彼女の前まで来た。  相変わらず無防備に眠ったままの彼女の様子に、私は小さくほくそ笑む。  元々このクリノスという劇団は、私とレイカと、貴方の……三人で作った物だった。  貴方がいないと、そもそもクリノスという劇団は、始まりも終わりもしない。 「さぁ、目を覚ましなさい」  私はそう言いながら、胸の前でパンパンと軽く手を叩いた。  すると、カエデはパチリと目を覚ました。  しかし、その目には光が全く宿っておらず、ぼんやりと虚空を見つめていた。  もう何度も見てきた、催眠状態。  自我は眠りにつき、深層心理の部分が表に出てきた、完全に無防備な状態。 「……今、貴方はどんな状態ですか?」 「はい……わたしは、いま……ふかい、さいみんじょうたいに、なっています……」 「どんな気持ちですか?」 「あたまのなかが、ふわふわして……なにも、かんがえられなくて……みちるのこえが、あたまに、ひびいて……きもち、いいです……」 「そうですね。凄く気持ちいい……私の声を聴いていると、すごく気持ちが良いですね」  私はそう言いながらカエデの傍まで歩いていき、彼女の頬をソッと撫でる。  突然頬に触れられたにも関わらず、彼女は一切反応を示さないまま、相変わらず虚空を見つめている。  そんな彼女の様子に小さく笑いつつ、私は続けた。 「貴方を気持ちよくしているのは、私の声……ミチル様の声よ」 「わたしが、きもちいい、のは……みちるさまの、こえ……」 「貴方は気持ちいいのが好き……だから、私の声が好き……」 「きもちいいの、すき……みちるさまの、こえ……すき……」 「私の声の言うことは全て正しい。私の声の言うことは絶対。貴方は、私の声の言うことに従います。そして、そのことに疑問は持ちません。だって、好きだから」 「みちる、さまの、こえ……ただしい……ぜったい……したがう……ぎもん、もたない……すき、だから……」  ツー……と、彼女の口の端から涎が伝う。  私はそれを親指で拭いつつ、静かに続けた。 「それじゃあ、今から私が聞くことには全て正直に答えなさい」 「……はい……」 「貴方の名前は何ですか?」 「……かきはら、かえで……です……」 「何歳ですか?」 「にじゅう、ななさい……です……」  まずは当たり障りのない質問から。  そして、少しずつ……深い部分へと……。 「それじゃあ、今までの交際経験人数は?」 「……ひとり……いまの、おっと……」  ……知ってる。 「貴方の恋愛対象は……男? 女?」 「……おとこ……」  知ってる。 「女を恋愛対象として見たことは?」 「……ない、です……」  知ってる……ッ!  私は込み上げてくる感情を押し殺すように、拳を強く握り締めた。  焦るな……分かり切っていたことだ。  むしろ、今から歪めていけば良い。 「それじゃあ、私の……みちるさまのことは、どう思ってる?」  私の言葉に、カエデは虚ろな目で私の顔を見た。  相変わらず涎を垂らしながらも、彼女はゆっくりと口を開いた。 「はい……みちるさまは……すごく、たよりになる……たいせつな、ともだち、です……」 「違うでしょう? 貴方は、私……ミチル様のことが好きなの」 「っ……?」  私の言葉に、カエデの表情が微かに曇る。  間髪入れずに、私は続けた。 「ホラ、繰り返しなさい? 私はミチル様のことが好きです」 「わたしは、みちるさまの、ことが……? す……?」  私の言葉を繰り返そうとするも、カエデの虚ろな表情に僅かに困惑の感情が見え隠れし、言葉が続けられなくなる。  ……いきなり少し飛ばし過ぎたか……?  少し考えた私は小さく息をつくと、カエデの背後に回り、彼女の両目を手で覆った。  彼女が「ぁ……」と小さく声を漏らすのを聞きながら、私は彼女の頭をグルグルと回し、続けた。 「はい、こうして頭を回されると、また何も考えられなくなっていきますよ~。頭を回される度に思考が零れていって、なぁんにも考えられなくなっていきます」 「ぅぁ……ぁ……」  小さく声を漏らすカエデを無視して、私は彼女の頭を回し続ける。  少しの間は、抵抗するような声を僅かに漏らしていたが、すぐにその声も無くなり私の手の成すがままになる。  彼女の抵抗が無くなったことを確認した私は、ゆっくりと彼女の頭から手を離した。  すると、彼女の頭はガクンッと垂れ、その拍子に口から涎が零れ落ちる。  彼女の服に涎が染みを作るのを見つつ、私は口を開いた。 「はい、今貴方は、心の一番深い所にいます」 「……こころの、ふかい……ところ……」 「そうです。心の一番奥深く……魂とも言えるような、貴方の核となる場所」 「わたしの……かく……」 「今、貴方の心は剥き出しとなり、完全に曝け出された状態になっています。貴方の心は剥き出しなので、今まで以上に私の声を素直に聞けるようになります。……大丈夫、怖いことは何も無いですよ。だって、私の声は貴方を気持ちよくする、貴方の好きな声なんですから」  考える暇など与えないくらい、矢継ぎ早に、暗示を刷り込んでいく。  私の言葉を復唱するのも億劫になったのか、カエデはまるで船を漕ぐかのように、コックリコックリと何度か頷く。  それに、私は小さく笑みを浮かべ、彼女の肩に手を置いて耳元に口を寄せて続けた。 「それじゃあ、もう一度質問。貴方の恋愛対象は……男? 女?」 「……おとこ、です……」 「違うでしょう?」  私はそう言いながらカエデのスカートの中に手を突っ込み、ショーツの上からその奥にある割れ目をなぞった。  突然の愛撫に驚いたのか、カエデは「んッ……!?」と小さく声を漏らす。  それに、私は続けた。 「貴方の恋愛対象は女。繰り返しなさい」 「わたしの、れんあい、たいしょうは……おんな……?」 「えぇ、良い子ね」  私はそう言いながら、空いている方の手で優しく頭を撫でてやる。  その間にショーツの中に手を滑り込ませ、少し湿った割れ目に沿わせるように、指を添えた。 「ッ……?」 「それじゃあ、次の質問。貴方は、私のことはどう思ってる?」 「みちる、さまは……たよりに、なる……ともだち……」 「違うでしょ?」  クチュリ、と音を立てながら、彼女の秘部を擦り上げる。  すると、彼女は「んんぅッ!?」と声を漏らしながら、ビクビクと体を震わせた。  それを気にせず、私は続けた。 「貴方は私、ミチル様のことが好きなの。愛しているの」 「でも……わたしには、おっとが……」 「……じゃあ、質問。貴方の恋愛対象は?」 「……? おんな……?」 「じゃあ、夫の性別は?」 「おとこ……? ……あれ……?」 「おかしいわよね。貴方は女の人が好きなのに、男の人が好きなんて」  私の言葉に、カエデは明らかに困惑の感情を表情に表す。  間髪入れず、私は彼女の秘部を少し強く擦り上げた。  すると、彼女は「んんぁッ!?」と声を漏らしながら、ビクンビクンと体を震わせた。  それを見ながら、私は続けた。 「だから、貴方が好きなのは夫じゃなくて、私……ミチル様のことが好きなの」 「わ、わたしは……みちるさまが、すき……?」 「えぇ、繰り返して。何度も」 「わ、わたしは、みちるさまがすき……あッ♡」  言い切ったタイミングに合わせて、優しく愛でるように秘部を刺激してやる。  すると、彼女は甘い声を漏らしながら、ビクビクと体を震わせた。 「ホラ、続けて」 「はい……わたしは、みちるさまのことが、すき……あッ♡」 「もう一回」 「わたしは、みちるさまのことがすき……あぁッ♡」 「もう一回」 「わたしはッ……みちるさまのことが、すきぃッ……あぁぁッ♡」  何度も、何度も……刷り込んで、刻み込んでいく。  覚えさせるように……洗脳するように……。  快楽と同時に覚えさせることで、性的興奮も同時に覚えさせていく。  旦那とも、すでに何度か性交をしているかもしれない。  しかし、それならその快楽すらも、それを超える快楽で上書きすれば良いだけのこと。  ここまで深く催眠状態になっているカエデなら、感度を上昇させる暗示を刷り込むこともきっと可能だ。 「わたしはみちるさまがすきッ♡ あぁんッ♡ わたしはッ♡ みちるさまのことがッ、すきッ♡ あぁぁッ♡」  ……まぁ、そんなことしなくても良さそうだけど。  すっかり恍惚とした笑みを浮かべながら、譫言のように繰り返しているカエデに、私は小さく笑った。  ここまで堕ちてしまえば、後はもう引きずり堕とすだけ。  もう……後戻りはできない。  私はソッとカエデの頬に手を当て、その唇を奪い、舌をねじ込む。  すると、彼女は僅かに目を見開いたが、すぐにその目を心地よさそうに細めて私の接吻を受け入れる。  舌を絡め合い、甘い吐息と嬌声を漏らしながら、私は内心で静かに笑みを浮かべた。


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