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あいまり
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歪んだ戯曲を紡ぐ時 十一人目

「着いたわね」  劇団『クリノス』の劇場に到着した私、柳川ミユキは、そう呟きながら目の前にある建物を見上げた。  それに、一緒に車を下りた江田メイコは、扉を閉めながら「そうですね」と答えた。  私は車の鍵を閉め、彼女を率いてすぐに建物の中に踏み込んだ。  劇場の扉を開いて中に入ると、すぐに『クリノス』の管理人である二階堂ミチルさんが出迎えてくれた。 「今日は遠方からわざわざお越し頂き、ありがとうございます」 「いえいえ、こちらこそ今日はお呼びして頂き、ありがとうございます」  恭しく挨拶をしてくるミチルさんに、私はそう挨拶を返した。  今回は、このメンバーに『クリノス』の脚本家を務める榊シノブさんを含めた四人での話し合いだ。  その内容とは、『クリノス』と『ロードン』で合同の劇を作ろうというものだ。  元々互いの劇に客演として関わったり、最近では脚本家同士でも交流があったりと何かと縁のある劇団同士なので、折角だから共に劇を行うことになったのだ。 「今、シノブは少々手が離せない状況でして……呼んでくるので、この部屋で待っていて下さい」  ミチルさんはそう言うと、近くにあった扉を開く。  中を覗くと、そこは白い長机が正方形を描くように並べられている、会議室のような部屋だった。  ひとまず手近にあった椅子に座ると、扉が閉まってメイコと二人きりになった。 「ミチルさんが来るまでの間に、色々と打ち合わせ用の資料とか出しておこうか」 「あぁ……はい。そうですね」  私の言葉に、メイコはそう言いながら鞄から書類やノートパソコンを出し、ノートパソコンを開いて起動させる。  その間に、私は取り出された書類等を手に取り、内容を確認しつつ整理していく。  ある程度書類を整理していた時、メイコが「あ、そうだ」と呟いた。 「ミユキさん、実は説明用に作った動画があるんですけど、自信が無くて……今少し確認して頂いても宜しいですか?」  彼女はそう言いながら、ノートパソコンに差したイヤホンをこちらに差し出してくる。  それに、私は咄嗟にイヤホンを受け取りながら「映像?」と聞き返した。 「そんなの聞いてないよ。いつの間にそんなもの作ったの?」 「時間がある時に、少し……ダメでしたか?」 「ダメでは無いけど、言ってくれれば私も作るの手伝ったのに……でも、動画の確認ならイヤホンよりも普通にスピーカーの方が良いんじゃない?」 「えっと……実はこのパソコン、スピーカーの調子が悪くて……イヤホンの方が正確なんですよ」 「そうなの?」  メイコの説明に、私はつい驚いた。  それならさっさと修理するなりすれば良いのに……。  とは言え、今はどうしようもないので、私はひとまずイヤホンを両耳に差し込んだ。  すると、彼女は満足そうに笑み、映像のフォルダを開いた。  ──キィィィィィィィィン……。  すると、両耳に差し込んだイヤホンから、何やら無機質な音がした。  突然のことに驚きつつも、私はすぐに片耳からイヤホンを抜いて口を開いた。 「ちょっと、何だかノイズみたいなのしか聴こえないんだけど?」 「そうですね、映像も流れませんし……ちょっと色々弄ってみるので、しばらく待っていて貰っても良いですか?」  言われて、仕方なく私は耳にイヤホンをはめた。  すると、相変わらずイヤホンからは無機質な高音が流れてきた。  頭の中に直接響いてくるような、奇妙な機械音……だけど、不思議と不快では無く、むしろ心地よさがあった。  聴いてる内に体から力が抜け、気付けば私は前のめりに倒れ、机の突っ伏した。 「────。───」  すると、頭の中に鳴り響く無機質な音の中に、誰かの声がした。  とは言え、この部屋にいるのは私とメイコだけなので、消去法でメイコであることは分かるが。  そんな風に考えていると、肩を掴まれて体を起こされる。  背凭れに背中を預ける形で虚空を見つめていると、部屋の扉が開いたのが分かった。  視線を向けてみると、『クリノス』の戯曲家である榊シノブさんが部屋に入ってきたのが分かった。 「──、──」 「──! ──」  シノブさんがチラッと私を一瞥しながら何か言うと、メイコはそれに何やら嬉しそうに答えながらシノブさんの元に駆け寄る。  何を話しているのだろうかと少し気になったが、体には上手く力が入らず、イヤホンを外すことすら億劫になってしまった。  仕方がないので、私はぐったりと脱力したまま、その様子を呆然と眺めた。  二人はしばし何やら会話していたが、やがてメイコがシノブさんの肩を掴み、自分の唇で彼女の唇を強引に奪った。 「……?」  突然のことに、私は困惑した。  イヤホンから聴こえる無機質な音が私の脳味噌を揺らし、上手く思考を纏められなくなる。  その間にメイコはシノブさんの体を壁に押し当て、さらに濃厚な接吻を繰り返す。  遠目でよく分からないが、舌を入れているようにも見える。  シノブさんはそれを、恍惚とした表情で受け入れている。  恋人のように指を絡め、息継ぎの為に何度も唇を離してはまた塞ぎ合う。  相変わらずイヤホンからは無機質な音が流れ続け、二人の会話等は一切分からない。  オマケに、何だか頭がボーッとして、何も考えられなくなっていた。  私は人形のように手足を投げ出し、ぼんやりと二人の交わりを見つめていた。  その時、耳からイヤホンが外される。 「気分はどうかしら? ミユキさん」  そう言って私の顔を覗き込むのは、シノブさんを呼びに行っていたはずのミチルさんだった。  彼女の言葉に、私は答えられない。  頭がボーッとして、何も考えられなかったからだ。  ぼんやりと虚空を見つめたままの私に、ミチルさんはクスリと小さく笑い、私の頭を両手で掴んだ。 「ホラ、アレを見て?」  ミチルさんはそう言うと、私の頭を動かして濃厚な接吻を繰り返すメイコとシノブさんの方に向けた。  イヤホンが外されたことで、二人のまぐわいの音がよく聴こえた。  舌を絡め合い、互いの口内を貪り合うことで生じる淫靡な水音。  息継ぎの度に零れる、くぐもった嬌声。  気付けばシノブさんの服はかなり乱れていたが、彼女はそんなこと気にする素振りも見せず、メイコの首に両手を絡めて激しく絡む。 「アレを見てどう思いますか?」 「……ふたりは、すごく……あいしあっているんだなぁ、と……おもいます……」  ミチルさんに聞かれ、私は咄嗟にそう答えた。  すると、彼女は小さく息をつき、「確かにそうかもしれませんね」と答える。 「でも、本当にそれだけですか? 他にも何か思いませんか?」 「他には、とは……?」 「例えば……気持ちよさそう、とか……凄くエッチだなぁ、とか……」  彼女はそう言いながら私のズボンとショーツの中に手を突っ込み、股間の辺りを指でなぞってきた。  突然下腹部から生じた甘い衝撃に、私は「んぁッ……!?」と小さく嬌声を上げた。  すると彼女は小さく笑み、続けた。 「さぁ、もう一度二人を見てみましょう。ホラ、二人は凄く気持ちよさそう……エッチで……見ていると段々自分も興奮してくる……」  言いながら、彼女は私の秘部をクチュクチュと弄ぶ。  ただでさえ頭が働かない上に快感を与えられ、私は体をビクビクと震わせながらも口を開いた。 「はい……ふたりは、きもちよさそうで……えっちで……みていると、こうふんしてきます……!」 「そうね。貴方は人のエッチを見て興奮する変態よ」 「はい……わたしは、ひとのえっちをみて……こうふん、する……へんたい、です……! あぁッ……!♡」  言い切った瞬間、一際強く秘部を擦り上げられ、私はさらに体を震わせてしまう。  すると、彼女はクスクスと笑い、続けた。 「でも、段々見ているだけでは満足できなくなる。自分も混ざりたい……自分もメイコのように、シノブの体を好きなだけ貪って弄びたい……」 「わたしもぉッ……まざり、たい……ッ! しのぶ、さんのぉ……ッからだをッ……! すきなだけッ……むさぼってッ……もてあそびたい……ッ! あぁぁッ……!♡」 「その欲望はどんどん大きくなっていく。まるで風船みたいに、どんどん膨らんでいく。大きくなって、大きくなって……ホラ、今にもはち切れそう……」 「んぁぁぁッ……!♡」  最早、ミチルさんの言葉を繰り返す余裕も無かった。  今の私には、メイコのようにシノブさんと交わり、気持ちよくなることしか考えられなかったから。  そんな私にミチルさんは笑い、続けた。 「シノブは、貴方がシノブの言うことを聞いてくれる間は、体を許してくれます。だから、シノブのモノになりなさい。シノブの言うことを聞いて、従いなさい」 「はいぃ……! しのぶさんのものにぃ……! なりますぅ……! いうこと、きいてッ……したがい、ます……ッ!♡」 「良い子。それじゃあ、ホラ……膨らんだ欲望が、さらに膨らんでいくわ……。私が三つ数えて手を叩くと、欲望の風船は破裂して、貴方はもう我慢出来なくなります。でも、欲望に抗う必要はありません。むしろ、身を委ねてしまいましょう。シノブは貴方を受け入れます。だって、自分のモノなのだから」 「あぁぁッ……!♡ はいぃ……ッ!」 「それじゃあ、いきますよ。三……二……一……ゼロ」  声と同時に、パンッ、と乾いた音を立てて……手が叩かれる。  その音を聴いた瞬間、私の中で何かが切れた。  気付けば私は立ち上がり、すぐにメイコと接吻を繰り返すシノブさんの元に向かった。  私はすぐにメイコの体を押し退け、シノブさんの唇を奪った。 「ぷぁッ……んんぅッ!♡」  キスの相手が代わったからか、彼女は一瞬驚いた反応を示したが、すぐにその目はトロンと蕩けた。  私は彼女の後頭部を抑え付け、口の中を貪るように舌を入れて、彼女の舌を絡め取る。  しかし、こんなものでは満足できない。こんなものでは足りない……!  すぐに片手を彼女の乱れた服の中に潜り込ませ、下着の中に手を突っ込み、胸元にある豊満な膨らみを鷲掴みにする。  そして、すぐに激しく揉みしだいた。  彼女の気持ちなどお構いなしに、自分の肉欲を満たす為だけに。 「んんんぁッ……!♡ んんぅッ……!♡」  しかし、彼女は私の愛撫に喘ぎ、ビクビクと腰を震わせる。  その様子に、私は彼女への攻めをさらに激しくする。  すると、下の方からカチャカチャと何やら乾いた音がした。  視線を落とすと、そこではメイコがシノブさんのズボンとショーツを脱がせていた。  何をするのかと思えば、彼女は露わになった秘部に顔を埋め、舌を這わせた。 「んんんぁぁぁッ……!♡」  メイコからの愛撫に、シノブさんはくぐもった嬌声を上げながら、その場にへたり込んだ。  どうやら快楽のあまり腰が抜けてしまったらしい。  その弾みに口が離れたが、そんなことはどうでもよかった。  私はすぐに彼女の体を押し倒し、再度唇を奪った。  彼女はそれにビクンッと体を震わせて目を大きく見開いたが、すぐにうっとりと目を細め、私の接吻を受け入れてくれる。  自分の情欲がさらにそそられるのを感じながら、私は彼女の口内に、さらに舌を這わせた。 --- 「フフッ……凄い状況」  目の前で行われている三人の女による交わりを見つめながら、私はそう呟いた。  『ロードン』の管理人と戯曲家は、すっかりシノブの体の虜。  戯曲家の方はシノブの度重なる性交と調教により、最早シノブ無しでは生きられない体になっていると言っても過言では無い。  管理人の方はまだ分からないが、目の前の状況から察するに、大分シノブの体に執着はさせられている。  これなら、後から暗示を加えていけば、戯曲家と同じような状態になるだろう。  シノブ無しでは生きられない、シノブの体を得る為なら自分達の劇団ですら平気で売る……そんな、素敵な傀儡の完成だ。  『クリノス』と『ロードン』は元々、ライバル同士のような関係だった。  名前が双方花の名前に由来することや、文字数等も近いことから、何かと比べられることが多かった。  なので、二年程前から私は『ロードン』の管理人に掛け合い、客演等を通して『ロードン』との関係を友好に保ってきた。  しかし、『ロードン』は劇のクオリティも高く人気もあり、今は友好関係にあってもいずれは『クリノス』の壁として立ちはだかることが目に見えていた。  だから私は、『ロードン』を手中に収めることに決めた。  『ロードン』はスタッフや役者も多い為、全てを手中に収めることは不可能だ。  だが、管理人と戯曲家さえ支配下に置けば、それより下の者達は如何様にも処理できる。  集団を支配するには頂点に立つ者を掌握すれば良い、というのは……シノブを通して重々理解している。  もしも『ロードン』の人間が反発するなら、解雇させるなり、二人に催眠を覚えさせて傀儡を増やすなり……いくらでも対処の仕様がある。  プルルルルル……。  その時、服のポケットの中に入れたスマホの着信音が鳴った。  ……流石に、この部屋の中で電話するのはマズいな。  私はすぐに部屋を出ると、スマホを取り出して電話の相手を確認し……唖然とした。  しかし、すぐに応答ボタンを押し、スマホを耳に押し当てた。 「……もしもし?」 『あっ、もしもしミチル? 元気にしてる?』  受話器から聴こえてくる聞き慣れた声に、私は僅かに息を呑んだ。  しかし、すぐに小さく息をつき、「えぇ。元気よ」と答えた。 「それで、何の用? 今仕事中なんだけど」 『あぁ、ごめんごめん! いやぁ、なんか久々にミチルやレイカの顔が見たくなって……愛弟子の様子も見たくてさ。それで、お願いなんだけど……──』  その後に続く言葉を、私は瞬時に理解した。  同時に……私の中で、一つの物語が組み立てられていくのを感じた。  天才戯曲家が描いてきた物語を私が奪い取り、歪んだ形で紡いできたこの戯曲──『クリノス』という劇団が成り立つために必要不可欠でありながら、今まで抜け落ちていた最後のピース。  そのピースを埋める為の、最後の仕上げであり……エピローグのような物語を……。 『──今度、『クリノス』の劇団に遊びに行っても良いかな?』 柳川ミユキ 年齢:27歳 身長:160cm 見た目:黒い髪をウルフカットにしている。凛とした中性的な顔立ち。 その他:劇団『ロードン』の管理人。頭が良く聡明だが、たまに抜けている部分があり、メイコにサポートされながら『ロードン』の管理をしている。『ロードン』は元々ミユキの母親が創立したものだったが、『クリノス』が創立された時期に事故で亡くし、母の遺志を継いで『ロードン』の管理人をするようになる。母の死んだ時期のこともあり『クリノス』をライバル視していた部分があったが、友好的に接してくれるミチルの態度や、客演で何度か世話になっている内に絆されていく。


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