NokiMo
あいまり
あいまり

fanbox


女王の手駒に堕ちる時

「侵入者を捕獲しました」  私、雅の両腕を縛って拘束する縄を持った女が、抑揚の無い声でそう言って敬礼をした。  それに、私は必死に縄を解こうと身を捩らせながら、「くッ……」と小さく声を漏らした。  拘束された際に武器は全て奪われ、キツく縛られた縄を解くことすら叶わない。  歯ぎしりをしながらも必死に縄を解こうとする私を見て、目の前にいる女はクスリと小さく笑った。 「ご苦労様。一体どんなネズミが紛れ込んでいるのかと思えば……まさか、こんなに可愛いくノ一ちゃんだったなんて」 「ッ……私をどうするつもりだッ!」  この屋敷の主である女……美凰の言葉に、私は吠えるようにそう叫んだ。  すると、彼女は小さく息をつき、懐から扇子を取り出した。  開いた扇子で優雅に自分を扇ぐ姿は、悔しいがかなりサマになっていると思った。  艶やかな黒い長髪に、人形のように整った彫りの深い顔立ち。  陶器のように白い肌に、鮮やかな紅色の唇がよく映える。  黒の着物を着てその場に佇み、こちらを見下ろすその姿は、まるでこの国の天皇にでもなったかのようだった。 「そんなこと、貴方が一番理解しているんじゃないの?」 「……」  彼女の言葉に、私は静かに生唾を飲み込んだ。  屋敷に忍び込んだ末に捕獲されたくノ一の末路?  そんなもの、尋問という名の拷問の末に殺されるだけだ。  相手が男ならば性処理の道具として慰み者にされるオマケも付いてくるかもしれないが、見た所この屋敷には女性しかいないようなのでそれは無いだろう。  私は唇を噛みしめ、私の帰りを待っているであろう主様に内心で何度も謝罪の言葉を送る。  主様は、私が情報を持って生きて帰ることを期待して今回の任務を与えて下さったと言うのに、このていたらく。  あのお方の期待に応えられない自分が情けなくて、私は静かに俯いた。  せめて、どんな拷問でも耐えきって、主様の不利になるような情報を吐かないようにしなければ……。 「でも、貴方は可愛いから……一度だけ、好機をあげようと思うの」  美凰はそう言って、ピシャリと扇子を閉じた。  突然の言葉に、私は「好機……?」と聞き返した。  すると、彼女は近くに控えていた使用人らしき一人の女を扇子で示し、続けた。 「例の物を持って来なさい」 「かしこまりました」  美凰の曖昧な命令に、言われた女は抑揚の無い声でそう言うと、部屋を出ていく。  私はそれを見送りつつも、ジッと美凰の顔を見つめた。  ……やはり、主様が言ったことは本当だったのか……?  主様から与えられた任務は、この屋敷を調査すること。  その理由は、この屋敷が……今この辺りの地域で頻発している、少女行方不明事件に関係しているかもしれないから。  ここ一か月程の期間の中で、かれこれ十名程の少女が行方不明になっている。  行方不明になった少女達の共通点は性別が女であり、年齢が十代程という点しか無く、捜索は難航している状況だった。  しかし、主様は行方不明になった少女達の目撃情報がこの屋敷の周辺で多発していることに気付き、この屋敷が少女行方不明事件に関与していることに気付いた。  そこで、主様は私に、この屋敷の調査を任務として与えたのだ。  そして、先程美凰の命令を受けて部屋を出て行った少女は、行方不明になった少女の一人に顔が酷似していた。  今私を捕えている少女は顔を隠している為に分からないが、恐らく……──。  しかし、どうして行方不明になった少女が、皆この女に従っているんだ……?  何か妖術でも使ったのか……? 「お待たせしました」  一人必死に思考を巡らせていた時、部屋を出て行った少女がそう言って部屋に入り、両手に持っていた木の箱のようなものを美凰の前に置いた。  箱の上には九×九のマス目が描かれており、美凰側の三列とこちら側の三列に、それぞれ正五角形の木彫りの駒が並んでいる。  駒にはそれぞれ、黒墨で何やら漢字が二文字ずつ書かれている。  ……これは……── 「──……将棋……?」 「その子の拘束を解いて座らせなさい」 「かしこまりました」  美凰が私を捕えている女にそう命令をすると、彼女は私の拘束を解き、箱の前に敷かれた座布団に座らせた。  両手が自由になった感覚に違和感を抱く間も無く、私は正座の形で強制的に座らせた。  すると、一瞬心臓の裏を撫でられたかのような感覚と共に、ゾワッと背筋に寒気が走った。 「ッ……」  私は一度自分の胸に手を当て、心臓の有無を確認する。  すると、バクバクと音を立てる鼓動の音が返ってくる。  ……心臓は無事、か……。 「くノ一ちゃん。私と勝負しましょう?」  すると、美凰がそんな風に尋ねてくる。  それに、私は「勝負……?」と聞き返した。  彼女はそれに笑って頷き、将棋盤をトントンと閉じた扇子で軽く叩いた。 「私、こう見えて盤上遊戯には目が無くってね? もしも貴方が私に将棋で勝つことが出来たら、この屋敷から逃がしてあげても良いわよ?」 「……何……?」 「但し、貴方が負けたらこの屋敷で捕虜になってもらうわ。……どう? 悪い条件では無いと思わない?」  美凰の言葉に、私は僅かに声を詰まらせた。  ……どういうつもりだ……?  将棋で勝てたら、私を逃がす? そんな上手い話があるか?  ここで彼女が私を逃がす理由など無いし、美凰には利益の無い話だ。  ……必ず、何か裏がある……!  言葉に詰まる私に、美凰は笑って続けた。 「そんな、疑うような目で見ないで? 私は本当に、貴方と将棋で遊びたいだけよ。……あぁ、もしかして将棋のやり方が分からない?」 「いや、そう言うわけでは無いが……」  そう答えながら、私は将棋盤を見つめた。  将棋自体は、主様が無類の盤上遊戯好きである為によく相手をしたことがあり、やり方自体は理解している。  奴の思惑は分からないが、少しでもこの屋敷を出られる可能性があるのなら、それに賭けてみるのも悪くは無いかもしれない。  この勝負を断っても、将棋で負けても同じ末路を辿るのなら……せめて、最後まで抗ってやろう。 「……分かった。この勝負、受けて立とう」 「フフッ、そうこなくっちゃ」  そんな楽しそうな言葉と共に、対局は開始された。  玉将が私の前に置いてあった為、先手は私だった。  ……正直、将棋はあまり得意ではない。  対局したことあるのが主様だけなので比較対象は無いが、それでも主様に勝てたことは今まで一度たりとも無かった。  だが、折角与えられたこの好機……活かして見せる……!  ひとまず、最初は金将や銀将を動かして王将を守るように配置しつつ、歩兵や桂馬を使って少しずつ攻めていく。  美凰の攻め手も慎重で、しばらくは戦況に特に変化は無かった。  だが、それから少しして、最初に美凰が駒を取った。  少し深くまで攻め込ませていた歩兵が、彼女の桂馬によって取られてしまったのだ。  一つ駒を失ったことには動揺したが、まだ焦る程のことではない。  主様との対局でも、私が最初に駒を取ることは何度かあったが、結局その対局でも敗北している。  駒一つで、焦ることは無い。 「フフッ……かなり動揺しているみたいね」  その時、美凰が呟くように言った。  突然の言葉に、私は「え……?」と聞き返しながら顔を上げた。  すると、彼女はニコリと怪しく笑みを浮かべて続けた。 「そんな、歩兵一つで焦ること無いじゃない。まだ駒はたくさんあるんだから」 「何を、急に……そんなこと……」  美凰の言葉に、私は掠れた声でそう答えた。  心臓がバクバクと激しく高鳴り、嫌な汗が噴き出す。  確かに、私はこの状況で歩兵を取られ、かなり動揺していた。  だからこそ、焦ることは無いと自分に言い聞かせ、気持ちを抑えようとしていた。  そう。自分に言い聞かせることで、ある程度の動揺は殺していた。  多少表情に出ていることはあれど、“かなり”動揺していると正確に指摘できる程では無いはずなのだ。 「あら、動揺がさらに激しくなっているわね。……どうしたの? 次は貴方の番よ?」 「……」  美凰に言われ、私は拳を強く握り締めて将棋盤を見つめた。  ……とにかく、今は対局に集中しなければ……。  私が将棋盤を見つめている間に、美凰は気付けば横に置いてあった小さな台に、私から奪った歩兵を置いた。  それを視界の隅に収めつつ、私は桂馬を動かした。  すると、すぐさまそれは、どこからか現れた角行によって奪われる。  しまった……! 動揺のあまり、視野が狭くなっていたのか……!? 「フフッ、まさか自分から差し出してくれるなんて……もしかして、自分から負けるつもり?」  クスクスと馬鹿にするように笑いながら言う美凰に、私は強く歯ぎしりをしつつ盤上に視線を戻した。  安い挑発だ。乗るな……!  自分に言い聞かせながら、私は駒を動かす。  それから何度か駒を動かし、ようやく私は香車を使って歩兵を一つ勝ち取ることに成功した。 「よし……!」  掌の中にある歩兵を見つめ、私は小さく呟いた。  すぐに台に歩兵を乗せようとした所で……歩兵が、僅かに熱を持っていることに気付いた。  トクンッ……トクンッ……と僅かに脈動しているような触感と共に、掌から何かが伝わってくる。  これは……感情……?  上手く言えないが、何と言うか……自分が負けるはずが無いというような、圧倒的な余裕が伝わってくる。 「そろそろ気付いたみたいだし、ネタ晴らしをしようかしら」  すると、美凰が髪を耳に掛けながら、そんな風に呟いた。  それに、私は「ネタ晴らし……?」とオウム返しをしてしまう。  彼女はそれに頷き、閉じた扇子でトントンと盤上にある駒を軽く叩いた。 「ここにある駒。……実はこれ、それぞれ私達の心が詰まっているの」  突拍子の無い言葉に、私は「はい?」と聞き返した。  すると、彼女は台の上にある私から取った駒の内、歩兵を指で摘まんで持ち上げた。  私に見せびらかすように掲げながら、彼女は続けた。 「言葉のままの意味よ。この駒には、それぞれ私達の心の片鱗が籠っているの。その駒の強さによって、籠っている量は変わるわ。こうして駒を取ると、相手の心が読めるようになるのよ。……と言っても、歩兵一個程度じゃ、あくまで感情の機微が少し分かる程度だけど」 「何を……言って……」  聞き返しながらも、掌から伝わってくる強い余裕の感情によって、疑惑は確信へと変わっていく。  ……駒の中に、私の心の一部が詰まっている……?  訳が分からない。そんなことが、可能だと言うのか?  だが、現に私の心は読まれ、手の中にある駒からは美凰の感情が伝わってくる。  どういう原理だ? 何より……この女は何者なんだ……!? 「さぁ、早く駒を台に置いて?」 「ッ……」  美凰に言われ、私は反射的に駒を台に置いた。  手を離れても、彼女の感情は私の頭に直接伝わってくる。  ……とにかく、今は勝つことに集中しなければ……。 「じゃあ、香車は貰うわね」  すると、美凰はそう言って、歩兵を取る際に使った香車を奪い取る。  予想外の自体に、私は「ぁ……!」と小さく声を漏らしてしまった。  そこで、すぐに我に返って表情を引き締める。  ……何をしている……!  ただでさえ取られた駒によって感情が読まれやすくなっている上に、自分から感情を曝け出すような真似をしてどうする……!?  それとも、まさか……駒を取られたことで、感情で表に出やすくなっている……? 「フフッ、そんなに焦らなくても、勝てばいいのよ」  穏やかな口調で言う美凰に、私はすぐに駒を動かした。  それからも対局を進めていくが……戦況は、私が不利になる一方だった。  取られた駒によって私の心が部分的にでも読まれる上、駒が私の心を具現化したものであるということによる動揺と、これ以上取られてはいけないという焦りから、思わぬミスをしてしまう。  あっという間に幾つかの歩兵や香車、桂馬等の駒が奪われていき、私の心は完全に読まれている状態になっていた。  対する私も二つ程の歩兵ならば取ることは出来たが、歩兵程度ではやはりちょっとした感情の機微しか分からない。  加えて、圧倒的有利な状況にある彼女が今更心を乱すことは無く、駒を取れても特に意味は無かった。 「王手飛車取り」  やがて、彼女はそう言いながら、王将と飛車を奪うように成駒となった桂馬を置いた。  ……飛車は、王将を除いた将棋の駒の中では、最も強い物とされている。  歩兵や香車等の弱い駒を取られただけでも心が読まれていると言うのに、飛車を取られたらどうなってしまうのだろうか。  そう考えながらも、王将を取られるのはもっと良くないことのように考え、私は王将を逃がした。  すると、美凰は小さく笑みを浮かべ、飛車を取った。 「あぁ、そうそう。そういえば……一つ、大切なことを伝え忘れていたわね」  すると、彼女は私から取った飛車の駒を指先で弄びながら、どこか演技がかった口調でそんなことを言い始めた。  伝え忘れたこと……? と考えつつ、ひとまず駒を動かした。  それに、彼女はクスリと笑って飛車を台に置き、私から奪った歩兵の駒を一つ指で摘まみながら続けた。 「この駒……確かに、これは私達の心がそれぞれ詰まったものよ。……では、この駒を将棋盤に置くと、どうなるでしょう?」 「……? 何が言いた……」  私の言葉を遮るように、彼女は指で摘まんでいた歩兵を、盤上に置いた。  パチッ、と。小気味よい乾いた音を立てて。  ……ドクンッ……。 「ッ……」  胸がざわつくような、何とも言えない不思議な感覚に、私は咄嗟に自分の胸を押さえた。  ……何だろう……。  先程まで心にあったはずの、美凰への敵対心のようなものが、スーッ……と消えていくのを感じる。  一体何が……? と顔を上げると、彼女は私の顔を見つめて続けた。 「どう? 私への嫌な感情が無くなったでしょう?」 「ッ……!」  まるで見透かしたように言う美凰に、私はつい驚く。  いや……彼女は今、私の心を簡単に読めるような状態ではないか……!  別に、驚くことは無い。 「こうして取られた駒が相手の駒として盤上に置かれるとね、その駒に籠った心の一部が相手のモノになっちゃうの」 「……へ……?」 「魅了……っていうのかしら。相手の駒になる自分の駒が多ければ多い程、心もどんどん相手のモノになっていって、相手に従いたくなっちゃうの」 「なに……を……」  愕然とする私に、彼女は笑みを浮かべながら続けた。 「私、貴方のことが気に入っちゃったの。だって、凄く可愛いんだもの。だから……貴方を私のモノにすることにしたわ」 「何を……言って……」 「飛車の駒を取ったから、貴方のことが色々分かるわ。……フフッ。主様とやらにそこまで忠義を尽くす貴方が、もうすぐ私の為に働くようになると思うと、凄く楽しみだわ」  楽しそうに笑いながら言う美凰に、私は何も言うことが出来なかった。  とんでもないことを言っているのは分かる。  私が隷属する人間は、今までもこれからも、主様ただ一人だ。  この女に忠義を尽くす姿など、想像するだけで反吐が出る。  しかし、先程置かれた歩兵の影響か、彼女への怒りや憎しみがあまり湧かなかった。  歩兵一つでここまでとなると、もしも飛車なんて置かれた暁には……。  そう考えた瞬間、背筋にゾクリと寒気が走った。 「まぁ、嫌なら出された駒を取り返すことね」  小さく笑いながら続ける美凰に、私は歯ぎしりをした。  こうなったら、とにかく私が持っている奴の歩兵を出してやろう。  しかし、歩兵を出せる場所は基本的に二歩になってしまう場所ばかりだった。  そうではない場所も、出してもすぐに取られてしまうような場所ばかり。  コイツ……心が読めることを差し引いても、それ以前に将棋が強い……!  主様程ではない……と思いたいが、ほぼ同格程度の強さはある。  だが、ここで負ける訳にはいかない……!  働かない頭を必死に巡らせながら、私は銀将を動かした。 「はい、角も頂くわね」 「あッ……!?」  思わぬ所から現れた角行によって、私の角行は取られてしまう。  マズい……飛車のみならず、角行まで取られてしまうなんて……。  しかも、何よりも恐ろしいのが、さっき飛車を取られた時に比べて明らかに動揺や焦りが少なくなっていることだった。  これも、彼女が自らの陣に置いた歩兵の効果なのか……?  せめて自分の歩兵から取り返さなければと、私はひとまず残った歩兵を動かす。  すると、彼女は私から取った駒からまたもや歩兵を一つ盤上に置いた。 「ッぁ……」  反射的に、小さな声が口から零れた。  またもや彼女に対する敵意が消え、どこか胸が軽くなるような感覚がした。  ダメだ……これ以上は、ダメだ……。  必死に自分に言い聞かせながら、私は金将を進めた。  すると、今度は私から取った香車が盤上に出される。 「……ぁぁ……」  先程まで、絶対に屈するものかと燃えていた闘争心が、消えていく。  勝ちたいという気持ちが薄れ、代わりと云わんばかりに彼女への好感が少しずつ込み上げていくのを感じた。  私は自分の駒を動かすのも忘れ、目の前にいる美凰の顔を見つめた。  改めて見てみると、彼女は本当に綺麗な顔をしている。  見れば見る程その美しさが更新されていくようで、自分の番も忘れて見惚れてしまう。 「どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」  すると、彼女はそんな風に聞きながら緩く笑みを浮かべた。  そこで私はハッと我に返り、「何でも無い……!」とすぐに盤上に視線を落とした。  対局中の相手に見惚れるなんて、何を考えているんだ私は……!  しかも、相手は私の心を奪って自分のモノにしようとしている人間だぞ……!  私は今までもこれからも主様のモノであり、主様の為に生き続けるんだ……!  気をしっかり持て。大丈夫、まだ駒は残っている。  私はすぐに気を取り直し、歩兵を一つ進ませた。 「何だか、凄く迷っているみたいね」  すると、美凰は笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。  突然の言葉に、私は顔を上げる。  目が合うと、彼女はクスリと小さく笑って続けた。 「本来敵視すべき相手をどんどん好きになってしまって、困惑しているみたいね」 「な、何を急に……」 「本当はもう少しジワジワ堕としてあげようと思っていたけど、貴方も自分の心の変化に戸惑っているみたいだし……迷わないようにしてあげる」  彼女はそう言いながら、持ち駒の中から一つの駒を取り出す。  綺麗な指に摘ままれたソレを見た瞬間、私の思考は一気に加速し、彼女の言葉の意味を理解する。 「ま、待って……!」 「待ったは無し、よ」  彼女はそう言うと、盤上に……飛車の駒を置いた。  パチリ、と……小気味よい音を立てて。 「ッあ……!?」  ドクンッ……! と、心臓が強く脈打つ。  直後、まるで今心臓が動き出したかのように、ドクンドクンと激しく鼓動の音が鳴り響く。  私は自分の胸に手を当てて服を強く握り締め、火照る顔を伏せた。  何だこれは……!? 何なんだ、この感覚は……!?  体の芯から熱が全身に伝わり、顔だけでなく全身がジワジワと熱くなっていく。   「フフッ、どうしたの~? 次は貴方の番よ?」  すると、そんな風に声を掛けられた。  咄嗟に顔を上げると、そこには……こちらを見て笑みを浮かべている、美凰の顔が……──。  ……トクンッ……。 「……ぁぁ……」  小さく、声を漏らす。  彼女の顔を見つめた瞬間、太鼓のようにやかましく鳴り響いていた鼓動が落ち着き、徐々にそれは優しい温もりとなって私の胸中に広がる。  何て、綺麗で……美しい人なんだ……。  語彙力などは最早思考の外に追いやられ、ただ彼女が今までに見た誰よりも、何よりも綺麗であるということしか分からない。  先程まであったはずの彼女への負の感情は微塵も残らず消え去り、どんどん彼女に心が惹かれていくのを感じる。  視界には最早彼女の姿しか映らず、食い入るように彼女の顔を見つめる。 「ホラ、早く駒を動かして?」 「あ、はい……」  急かすような言葉に、私はうわ言のように答えながら駒を動かした。  最早、勝負などどうでもよかった。  どこに駒を動かせば勝てるかとか、どこに駒を動かしたらいけないだとか、そんなことを考えるのも億劫になっていた。 「動かし、ました……」 「はい。それじゃあ、角も出してあげる」  彼女はそう言うと、持ち駒の中から角行も取り出し、盤上に出した。  乾いた音を立てて駒が盤上に出された瞬間、またもや私の鼓動は激しい音と共に乱れる。  直後、視界に桃色の靄が掛かったような感覚になり、増々美凰のことしか見えなくなる。  敵意などは思考の遥か外に弾かれ、ただ目の前にいる女が綺麗だと言うことしか分からなくなる。  甘い鼓動が私の思考を揺らし、上手く頭が働かない。  このままではダメだ、と、辛うじて残った理性が訴えかけてくる。 「……まだ完全に染まっていないのね」  そんな私を見て、彼女はどこか感心した様子でそう呟いた。  彼女の言葉に応える余裕すら、私には残っていなかった。  口を開けば、今すぐにでも彼女への愛の言葉を囁いてしまいそうだったから。  鈴の音のように綺麗なその声を聞いただけで、頭の奥が蕩け、込み上げる恋情に身を委ねてしまいそうになる。  今の私は、一本の糸で辛うじて自我を繋ぎ止めているような状態だった。  この命尽きるその瞬間まで従い続けると誓った、唯一無二の主様への忠誠が、私の理性を崩壊寸前で保っていた。  少しでも気が緩めば、目の前にいる女をどうしようもなく愛してしまいそうな危うい状態。  今の私には、自我を保つだけでかなりの集中力が必要だった。  体中からは汗が噴き出し、無意識の内に表情が歪む。  呼吸は荒くなり、平静を保とうとするだけでかなり疲労してしまっていた。  最早対局のことを考える余裕など無かったが、何とか纏まらない思考を必死に働かせながら、私は自陣の駒を動かした。  そんな私を見て、目の前にいる女はヒュゥと軽く口笛を吹いた。 「まさか、ここまで来ても完全に堕とすことが出来ないなんて……そんなに主様のことが大切なのね」  感心したように言う女の言いたいことが分からず、私は頭を押さえながら顔を上げた。  すると、彼女はそんな私を見てニヤリと笑い、自陣にある飛車の駒を指で摘まんだ。  それは私から取った方では無く、元々美凰の駒である飛車だった。 「貴方の意志の強さは見直したわ。だから……ご褒美をあげる」  優しい口調でそう言うと、彼女は自分の飛車を、私の金将の前に置いた。  予想外の言葉に、私は「え……?」と僅かに声を漏らした。  すると、彼女は私の目を見てクスリと笑い、続けた。 「どうしたの? 取らないの?」 「いや……だって……」  彼女の言葉に、私は小さく呟くように声を漏らした。  何か罠があるのでは無いかと、必死に盤上を観察する。  しかし、私が飛車を取った際に王手になるような駒は無く、金将を取れるような駒も無い。  この将棋のことと言い、ハッキリ言って罠である可能性は高い。  だが、今ここで飛車を取らなければ金将を取られた挙句に成駒となり、すぐにでも私の王将が取られてしまいそうだった。  それ以上深く考える余裕も無く、私は迷った末に金将を前に出し、飛車を取った。 「フフッ」  飛車を取った私を見て、美凰は満足そうに笑った。  それに気を取られた瞬間、飛車を通して……何かが流れ込んできた。 「あぁッ……!?」  掌の中にある駒から流れ込んでくる膨大な何かに、私は頭を押さえた。  飛車の駒から流れ込んできたのは、美凰の、私を自分のモノにしたいという欲望だった。  数個程度の歩兵とは比べ物にもならないような、まるで美凰と私の心が直接繋がったかのような感覚に、私はつい飛車の駒を落としてしまう。  しかし、今の私にはそんなこと気にする余裕も無く、両手で頭を抱えて体を縮こませる。  嫌だ……! 来るな……! 私の中に入ってくるな……!  必死に繋ぎ止めていた自我が、感情の濁流によって削り取られていく。  押し殺していた美凰への恋心が、美凰の私への欲望によって増幅していく。 「あらあら、ダメじゃない。駒を落としたら」  すると、美凰がそんなことを言いながら立ち上がり、ゆっくりとこちらに歩いてくる。  彼女は私の背後に腰を下ろすと、私の背中に体を密着させてきた。  豊満な胸が私の背中に押し付けられている感覚に、私は声を詰まらせる。  体が密着した為か、そこに意識が向きそうになったからか、増々流れ込んでくる感情が強くなる。  何も言えず頭を押さえる私に、彼女はクスリと笑い、畳の上に落ちた飛車の駒を拾い上げた。 「ホラ、ちゃんと自分で持っていないとダメよ?」  彼女はそう言うと私の片手を取り、強張った指を解すようにして手を広げていく。  私はそれに逆らうことすら出来ず、綺麗な指が掌を這っているのをただ見ていることしか出来ない。  そんな私を見て彼女は小さく笑うと、開かれた手の上に飛車の駒を乗せた。 「ぁ゛あ゛ッ……!? やめ……ッ!?」 「ちゃんと握っていてね」  耳元で優しく囁くと、開かれた手の甲に自分の手を重ね、包み込むように優しく……私の手を握り込ませた。 「あぁぁぁぁぁッ……!?」  飛車の駒を握った瞬間、手の中にある駒から直接感情が伝わってきた。  投げ捨てたくとも、駒を握り締めた手を包み込むように握っている手のせいで、それも敵わない。  もうほとんど恋に落ちたような状態にある私の心は、背中に押し付けられた胸や私の手を包み込む片手によって、さらに掻き乱される。  最早姿勢を維持する余裕すら無く、私は後ろに倒れ込んだ。  すると、後ろにいた美凰の体に体重を預けることとなった。 「フフッ、ようやく私に体を許すようになった?」 「ぁぁ……いや……わたしは……」  私の顔を覗き込む美凰に、私は答えられない。  目の前にある顔を見つめるだけで心が掻き乱され、鼓動が早くなり、顔が火照る。  頭の中に流れ込んでくる彼女の私を自分のモノにしたいという欲望にすら、怒りよりも喜びが込み上げてしまう。  必死に主様の顔を思い出して心を保っても、その主様への忠誠すら、少しずつ美凰への恋情で塗り潰されていく。  嫌だ……主様を忘れるのだけは、嫌だ……! 「本当に強情ねぇ。ね、こっち向いて?」 「ぁ……」  声を掛けられ、反射的に私は顔を向ける。……向けてしまう。  今の私には、彼女の言葉に抗う術など残っていなかった。  目が合うと、ドクンッとまたもや鼓動が乱れる。  つい言葉に詰まらせてしまう私を見て、彼女はニヤリと笑い……私の唇を奪った。 「んんッ……!?」  ビクンッ! と、反射的に体を震わせる。  目が見開き、一気に頭の中が真っ白になる。  ……思考を一瞬、止めてしまう。  直後、必死に抑えていた恋情が、一気に……爆発する。 「んんんぅッ……!?」  驚く間も無く、口の中に舌が潜り込んできた。  必死に繋ぎ止めていた理性はそれだけで霧散し、瞬く間に消えていく。  彼女の舌は私の舌を絡め取り、クチュクチュと淫靡な水音を立てながら私の口内を貪り尽くす。 「んんぅッ! んぅぅッ……! んんッ……んッ……」  徐々に、自分の声が途切れ途切れなものになっていくのを感じる。  体からは力が抜け、気付けば手足を投げ出した人形のような状態になっていた。  完全に崩れ落ちそうな私の体を、彼女の抱擁が支える。  彼女の体が、彼女の手が、私の体を支えてくれる。 「んんぅッ……♡」  その状況に、胸が大きく高鳴った。  直後、私の中で何かが壊れていくような音がした。  手の中から流れ込んでくる欲望が、その壊れたナニカを飲み込んでいく。  私は飛車の駒を握った手を強く握り締め、自分からも舌を絡めた。  すると、目の前にある双眼は僅かに細められ、さらに激しく私の口内を貪り始めた。  自分から伸ばしていた舌はそれにあっさり絡め取られ、あっという間に蹂躙される。  あぁ……♡ きもちいい……♡ きもちいいよぉぉ……♡  気持ちよさのせいか、頭の中がチカチカと明滅して何が何だか分からなくなっていく。  視界が真っ白になって、真っ黒になって、桃色になって……と、グルグルと目まぐるしく変化していく。  そんな状況でも濃厚な接吻は止むこと無く、私の体に強烈な快楽を叩きつけてくる。  気付けば私は体から完全に力を抜き、ビクビクと小刻みに体を震わせながら、彼女の舌技の成すがままになっていた。  力の抜けた掌からは飛車の駒が零れ落ち、乾いた音を立てて畳の上に転がる。  しかし、今の私にはそんなことを気にする余裕も無く、ただひたすらくぐもった嬌声を上げることしか出来なかった。 「……ぷはぁっ……」  しばらくして、唇が離される。  すると、ツー……と唾液の橋が架かり、行灯の光を反射して煌々と輝いた。 「はぁッ……♡ はぁッ……♡ はぁッ……♡」  唾液の橋が重力に従って崩れ落ちていくのを見ながら、私は荒い呼吸を繰り返す。  相変わらず体には力が入らず、ビクビクと小刻みに痙攣していた。  そんな私を見て、目の前にいる女性はニコリと優しく笑み、私の頭を撫でた。 「ぁ……♡」 「フフッ、すっかり蕩けちゃって……本当に可愛い子♡」  彼女はそう言って、私の頭に頬擦りをする。  頭に触れる柔らかい頬の感触に、私は無意識に顔を綻ばせながら、口を開いた。 「みおう……さまぁ……♡」  口から零れ落ちたその言葉に、美凰様は私の顔を見て、満面の笑みを浮かべた。 「すっかり堕ちたみたいね♡ それじゃあ、続きをしましょうか」  美凰様はそう言いながら私の頭を撫でると、離れた場所にあった将棋盤を引き寄せ、私の手が届く距離まで持って来てくれる。  今の私は体に全く力が入らない完全な骨抜き状態で、体を起こすこともままならなかったので有難かった。  しかし、それと同時に美凰様の手を煩わせてしまった申し訳なさもあり、罪悪感に胸が締め付けられる。  すると、美凰様はクスリと微笑み、私の頭を撫でた。 「大丈夫。貴方が申し訳なく思う必要なんて無いわよ」 「んぅぅ……♡」  美凰様の言葉に、私は小さく呻いた。  未だに思考が纏まらない上に頭を撫でられ、幸福感で頭の中が真っ白になってしまう。  すると、彼女はクスクスと小さく笑い、私の額に口づけをした。 「それに、貴方だって分かっているでしょう? 私は貴方のことが好きで、貴方を私のモノにしたいのよ? 今更この程度、何とも思わないわ」  好き。私のモノにしたい。  優しい声で紡がれたその単語に、私の胸はキュンキュンと勝手に高鳴る。  飛車の駒から伝わってくる感情から知っていたことではあるけど、いざちゃんと言葉にされると、また違った喜びがあった。  嬉しくて、私は甘えるように美凰様の首筋にスリスリと顔を埋めた。 「フフッ♪ 甘えちゃって可愛い♡ そういえば、次は私の番だったわね」  美凰様はそう言いながら私の頭を撫で、将棋盤に視線を移す。  それから桂馬を動かし、手近にあった歩兵を取る。  ぼんやりとそれを眺めていると、トントンと肩を叩かれた。 「ホラ、次は貴方の番よ?」 「んぅ……♡」  美凰様の言葉に、私は小さく呻きながら将棋盤を見つめた。  そんなこと言われても、今の私には何をどうすれば良いのかサッパリ分からない。  頭がフワフワして、思考が全く纏まらない。  ボーッと眺めていると、美凰様がクスクスと笑ったのが聴こえた。 「それじゃあ、ホラ……これを持って?」 「……♡」  美凰様から手渡された駒を見ると、それは飛車の駒だった。  すると、彼女は力の入らぬ私の手を動かし、将棋盤の上に持って行った。 「はい。それじゃあここに置きましょう」 「ぁぃ……♡」  美凰様に言われた通りに、私は飛車の駒を置いた。  すると、彼女は「良い子良い子♡」と言いながら、私の頭を撫でた。  よく分からないけど、褒められた……♡ 嬉しい……♡ 「えへへぇ……♡」 「フフッ……じゃあ、とりあえず飛車は返して貰うわね」  彼女はそう言うと、私が出した飛車を歩兵で取る。  あぁ、取られちゃった……。  でも、褒められたから何でもいっか……♡ 「みおうさま……♡ つぎは……?♡」 「うーん……じゃあ、次は……──」  そこからの対局は、ハッキリ言えば作業だった。  私は美凰様に言われた通りに駒を動かし、美凰様がそれを回収していく。  盤上にあった私の駒を回収し終えると、次は私が持っていた歩兵を盤上に出し、それも回収して貰った。  あっという間に、私の保有する駒は持ち駒も含めて王将のみとなった。  すでに私の王将は美凰様の駒に囲まれ、完全な王手では無いもののほとんど詰みのようなものだった。  もう対局が終わるのか……と、まるで他人事のように考えていると、美凰様は私の王将とは全く関係の無い所に、私から取った歩兵を置いた。 「……?♡」  予想外の出来事に、私は美凰様の顔を見上げた。  すると、彼女は私の顔を見て優しく笑み、首を傾げた。 「どうしたの? 次は貴方の番よ?」 「えっと……おうて、しないん、ですか……?」  私の言葉に、美凰様はキョトンとしたような表情を浮かべた。  少しして、私の言葉の意味を理解すると、すぐに「あぁ」と呟くように言った。 「そうね。ここですぐに王手でも良いかもしれないけど、私は徹底的にやらないと気が済まないのよ。貴方は今までの子達よりも強い心を持っているみたいだから、余計にね」  美凰様はそう言いながら、私の頬を優しく撫でた。  それに、私はうっとりとその手に頬を擦り付けた。  すると、彼女はクスリと小さく笑って続けた。 「退屈かもしれないけど、これも貴方が完璧に私のモノになる為に必要なことなの。貴方の心を隅から隅まで、私への愛で埋め尽くしたいの。……貴方は、私のモノになりたくない?」 「みおうさまの、もの……♡ なりたい、です……♡」 「フフッ、そう言ってもらえて嬉しいわ♡」  私の答えに、美凰様は嬉しそうに笑って、私の頭を撫でた。  それからは、単調な作業が続いた。  私が王将を動かし、美凰様が駒を出す。  駒を出される度に美凰様への愛が膨らんでいき、頭がフワフワして何も考えられなくなっていく。  それがひたすら気持ちよくて、私は何とも言えない浮遊感を味わいながら、王将を同じ場所で動かし続ける。  今の私にとって、その動作ですら、美凰様の掌で踊らされているような感覚がして心地よかった。  全ての駒が盤上に置かれる頃には、私は完全に思考を放棄し、ただ繰り返し王将を動かすだけの人形と化していた。 「はい、王手」  すると、美凰様はそう言って駒を動かした。  言われて盤上に視線を向けてみると、私の王将は完全に囲まれ、どこに動かしても取られる状態となっていた。  完全な詰み。終わりだ。  確か、こういう時は「負けました」って言って終わらせるんだっけ……? 「あら、ダメよ。最後までやらなくちゃ」  すると、私の思考を遮るように美凰様がそう言った。  それに顔を上げると、彼女は将棋盤を指でトントンと軽く叩き、続けた。 「言ったでしょう? 徹底的にやる、って。ホラ……駒を動かしなさい?」  命令口調で紡がれた言葉に、私は心臓を鷲掴みにされたような感覚がした。  ……どうやら、投了することすら許されないらしい。  今の私には、美凰様の命令に逆らうという選択肢は無かった。  私は力の入らない手を動かして詰み状態の王将に指を添え、一マス右に動かした。 「はい。これでおしまい」  すると、美凰様はそう言って私の王将を手に取り、成ってと金になった歩兵を王将があった場所に置いた。  王将が奪われた瞬間、まるで糸が切れた傀儡のように、体に力が入らなくなった。  元から美凰様に寄りかかってほとんど脱力した状態だったが、手足を投げ出して完全に彼女に身を委ねる形となる。  動かない体でぼんやりと虚空を眺めていると、将棋盤の上にあった駒から光の粒のような物が現れ、全て美凰様の中へと消えていく。 「ぁ……」  その内の半数が、私の心だったモノであることに気付く。  確証があったわけではないが、感覚的に、なんとなく分かった。  私は美凰様の体に寄り掛かったまま、それをぼんやりと眺めた。  指一本すら動かせない今の私にそれを止める術は無かったし、何より……止めるつもりも無かったから。 「フフッ、これで貴方は私のモノ♪」  美凰様はそう言いながら私の体に腕を回し、抱きしめてくる。  突然の抱擁に、私は息を詰まらせた。  すると、彼女はクスリと笑い、私の耳に舌を這わせた。 「ふぁぁぁッ……♡」 「本当に可愛い……♡ これからたくさん可愛がって、身も心も私で染め上げてあげる……♡ しばらくしたら、貴方の主様の元にも返してあげるわ。……私の間者として、だけど♡」 「ッ……♡」  美凰様の言葉に、私は自分の胸が高鳴るのを感じた。  一瞬、脳裏に主様の顔が過ぎるが、今ではもうそんなことはどうでもよかった。  これからたっぷり美凰様に可愛がって貰えて、その上美凰様の為に役立てるかもしれないという想像だけで、何もかもがどうでもよかった。  ふと、私の体を抱きしめる美凰様の手に、私から取った玉将の駒が握られていることに気付いた。  彼女の掌の中に収まるその駒が、まるで彼女の手駒となった私自身のようだと、どこか他人事のように考えた。

Comments

将棋経験者ですが、対局中の描写が本格的で驚きました。 えっちな女王の手駒に下るくノ一ちゃん、良いですね・・・。すけべ描写の中でも特にキスのシーンが激しくぬめぬめしていてお気に入りです。

ナナつばき@支援復帰


Related Creators