血潮が快楽に染まる時
Added 2020-02-26 15:03:01 +0000 UTC「それじゃあ血液検査をするので、両手の袖を捲って出して下さい」 「あぁ、はい」 女医の言葉に、相間 律は、そう答えながら服の袖を捲った。 彼女は赤いTシャツの上から黒いパーカーの上着を着ており、肘の上まで袖を捲るのは少し億劫だった。 それでも何とか両腕の肘を露わにすると、台の上に両手を置いた。 すると、女医は肘裏をそれぞれ触診し、口を開く。 「じゃあ、今回は右腕で採血しましょう。では、左腕で血液検査をしますね」 「あぁ、はい。分かりました」 律はそう答えると、右腕を下ろした。 すると、女医は左肘の少し上の部分をチューブのような紐で縛り、アルコールを染み込ませたガーゼで肘裏を拭いた。 「ちょっとだけチクッとしますよ~」 「……はい……」 女医の言葉に、律は掻き消えそうな声でそう答えながらそっと目を逸らした。 服装は、先程上記したものに加えてジーパンに黒のスニーカーというかなりボーイッシュな恰好をしており、髪も女子にしてはかなり短い。 化粧もしておらず、傍からは小柄な少年にしか見えない。 そんな姿で痛みに怯えた素振りをする姿には、一種の微笑ましさがあった。 女医は律の様子に少しほっこりしつつも、手に持った細長いチューブの先端に注射針が付いたような機械で、肘裏を突き刺す。 すると、律は「ぐッ……」と小さく呻き、顔を顰めた。 少しして、透明のチューブの中が、赤黒い液体で満たされる。 吸い取られた血液は、『44』と数字が書かれたシールが貼ってある小さな試験管に溜まっていく。 試験管の中身が血液で満たされると、女医は律の肘裏から針を抜いた。 「はい、痛かったですね~。もう大丈夫ですよ」 言いながら、彼女はアルコールを染み込ませたガーゼで針を抜いた部分を拭き、丸い絆創膏のようなものを貼った。 それから、二の腕を縛っていたゴムのチューブのようなものを外し、捲っていた袖を直した。 律はそれに、どこか疲れた様子で「ありがとうございます」と答えた。 今日、律は一人で献血に来ていた。 正確には、ショッピングモールの中にある、献血ルームだ。 彼女は大学一年生で、今は春休みの真っ只中だ。 新学期に向けて新しい文房具等を揃える為にショッピングモールに来ており、帰ろうとしていた時に献血ルームの近くを通った際に声を掛けられ、断れない性格から献血をして帰ることにしたのだ。 献血をすることにした理由の一端として、彼女は今回が初めての献血では無かったということがある。 高校生の頃に、文化祭の時に学校に献血カーが来ていたことがあり、その時にも断れない性格から流されて一度だけ経験したことがあったのだ。 その際に作ったカードは財布の中に入れっぱなしになっていたこともあり、献血ルームに足を運ぶ理由となった。 「数値にも特に問題はないですね。では、採血をしますので、四番の席に行って下さい」 「あ、はい。分かりました」 女医の言葉に頷くと、律は鞄を持ち、椅子から立ち上がった。 血液検査と採血は同じ部屋で行われており、立ち上がって後ろを見てみれば、そこには採血用の椅子が並んでいた。 言われた通りに『4』と番号が書いてある紙が貼ってある席に行くと、そこには歯医者のようなゴツイ椅子があった。 「こんにちは。荷物はこちらに置いて下さい」 律が近付いてきたことに気付いてそう言うのは、ナース服のようなものを着た若い女性だった。 彫りが深く、どこか異国の雰囲気を漂わせる美人を前に、律は鞄の持ち手を握り締めて僅かに緊張を露わにした。 しかし、すぐに「は、はい」と答え、指示された箱の中に鞄を入れた。 「それじゃあ、靴を脱いで椅子に上がって下さい」 女医の言葉に従い、律は履いていたスニーカーを脱いで椅子に上がった。 倒れた状態になっている背凭れに背中を預けると、耳元のスピーカーから何やら音が流れていることに気付く。 これは? と一瞬疑問に思ったが、女医の手によって椅子に備え付けられた小さなテレビが律に見えるように動かされ、その音であることに気付く。 テレビでは、休日の昼間によくやっているバラエティ番組が流れていた。 ──あ、この番組懐かしいな。 ──ここ数年くらいテレビなんてちゃんと見てなかったから、久々に見るかも。 そんな風に考えながら、律はぼんやりとテレビを見つめていた。 すると、横から女医が何やらラミネートされた紙を渡してきた。 見るとそれは、献血後の貧血予防の為に行う足の運動について書いた紙だった。 昔一度献血をした際にやったことはあるが、大分前のことなのでうろ覚えだった為、しっかりと読み込む。 紙を見ながら軽く足の運動をしていた時、採血を行う右手に、ゴムで出来た掌サイズの物が握らされた。 「採血をしていきますので、手を強く握って下さい」 律は女医の言葉に従い、手の中にあるゴムのようなものを強く握り締めた。 女医は律の二の腕をチューブのような紐で縛り、肘裏をアルコールで拭き、その上から茶色い薬のようなものを塗る。 それから、採血をする機械から長いチューブで繋がった太い針を取り出し、律の肘裏に突き刺した。 「ッ……」 肘裏に走る痛みに、律は顔を顰めつつ、針を刺された場所から目を逸らした。 すると、女医はテープのようなものでチューブを律の腕に留めると、どこからか赤いチェック模様の毛布のような布を取り出して腕に掛けた。 右腕が温もるような感覚に少し安堵しつつ、律は先程紙で見せられた足の運動を開始した。 「手の先に痛みや痺れはありませんか?」 すると、女医がそんなことを聞いてくる。 律はそれに少し驚いたが、すぐに「あっ、いえ、大丈夫です」と小さな声で答えた。 女医はそれに小さく笑みを浮かべると、律が今でもゴムのようなものを握り締めているのを見て、クスッと小さく笑った。 「もう手は強く握り締めていなくても良いですよ」 「……あっ……」 女医の言葉に、律は小さく声を漏らしながら手を緩めた。 それを確認した女医は、ふと、採血の機械を見た。 律の腕から伸びたチューブは赤黒い液体で満たされ、機械の中にあるパックに少しずつ流れ込んでいく。 パックは、中の血液が固まらないように、機械の中でゴウンゴウンと低い音を立てながら回されている。 「良い感じで血が出ていますよ」 ぼんやりと機械を見つめる律を見て何を思ったのか、女医が笑顔でそんなことを言ってきた。 それに、律はビクッと肩を震わせ、「そうですか……」と小さく呟いた。 ──……いや、血の出具合とか教えられても困るんだけど……。 内心でそうツッコミつつも、口には出さない。 何か話題を変えられないかと視線を彷徨わせた律は、女医の着ている服の胸ポケットに付いている名札に目がいった。 見るとそこには、『浮決 由紀』と書いてあった。 「ふ……けつ……?」 「……? あ、名前ですか?」 小さく呟いた律に、由紀はそう聞き返しながら、自分の名札を指さした。 無意識に呟いてしまっていた為に、律は僅かにたじろいだが、ひとまず頷いた。 すると、由紀はニコッと笑みを浮かべた。 「すみません、分かりにくい名前で。うきけつって読むんですよ」 「そうなんですか……あ、すいません、変な読み方しちゃって」 「いえ、よく間違われますから慣れているので、気にしなくて良いですよ。浮決由紀、です」 そう言って明るい笑顔を浮かべる由紀に、律は釣られて笑い返した。 彼女は由紀の胸元に視線を戻し、僅かに苦笑した。 ──……胸デカいなぁ……。 同性ながら、ふと、そんなふしだらなことを考えてしまった。 ──顔も綺麗だし、スタイルも良いし……きっとモテるんだろうなぁ。 そんなことを考えていると、由紀は表情を緩めて続けた。 「それにしても、今回は本当にありがとうございます。献血自体は二回目ですよね?」 「あぁ、はい……」 「本当に有難いです。確か大学生ですよね?」 「あ、はい。大学一年生です」 「若いですねぇ。今日は車で?」 「まぁ、そうですね」 「そうなんですかぁ」 一度話し出すと、不思議と会話が続いた。 律はあまり人と話すのが得意ではないので、初対面の由紀とポンポンと会話が出来ていることに、内心で凄く驚いた。 話している間に、採血の機械に表示されている数字が200になった。 ──私は今回400mlの血を抜くから、あと半分くらいか。 「あと半分ですよ」 ニコニコと笑いながら言う由紀に、律はどう答えれば良いか分からず、曖昧に笑って誤魔化した。 「でも本当に有難いですよ。最近の若い人達って、あまり献血とかやりたがらないので」 すると、由紀はそんな風に続けた。 律はそれに、自分の大学で同じ学科に属している学生達を思い出す。 それから、静かに頷いた。 「あぁ、確かに……私の友達でも献血したことある子っていないですね」 「ですよねぇ。若い人の方が美味しいのに……」 「えっ……?」 「あっ、もう少しですよ」 由紀に言われ、律はパッと採血の機械を見た。 すると、機械に表示されている数字が、すでに100を切っていた。 ──確かに、あと少しだ。 血を抜かれたからか、少しボーッとする頭でそう考えつつ、律は貧血防止の足の運動を続ける。 そろそろ採血が終わるからか、由紀も何やらゴソゴソと準備を始めた。 「あ、終わりましたね。それじゃあ、針抜きますね」 ほどなくして、採血は終わった。 由紀はにこやかにそう言うと、律の腕にアルコールを染み込ませたガーゼをあてがい、針を抜いた。 針を抜いた後の部分はアルコールで拭くと、そこに絆創膏を貼り、その上から包帯で腕を固く縛った。 律はそれを受けつつ、足の運動を繰り返す。終了後も何度か行うように書いてあったからだ。 すると、由紀は律の手からその運動について書いてある紙を取ると、代わりに別のラミネートされた紙を渡してきた。 そこには、献血後の運動やトイレ等についての説明文が書いてあった。 「車で来ているのでしたら、大体三十分くらいは安静にして下さい。あと、水分補給はしっかり行うようにして下さい」 「あ、はい。分かりました」 「では、血圧を測りますね」 由紀はそう言うと、律の腕に血圧測定器を巻き、血圧を測る。 採血後すぐに動くと危ないので、それから五分程度椅子の上で休んだ後、律はロビーに移動することになった。 彼女は恐る恐ると言った様子で靴を履き、荷物を持って席を立った。 「ありがとうございました。……また会いましょう」 すると、由紀がそんな風に言ってきた。 それに、律は軽く会釈をして、採血の部屋を後にした。 ──……また献血に来た時に絶対会えるってわけでもあるまいし……。 内心でそんな風に苦笑しつつも、悪い気分では無かった。 献血自体、高校生の頃の記憶よりも中々良いものだった。 献血カーと献血ルームでは、設備が大きく違うこともあるかもしれない。 ロビーではお菓子や飲み物が無料で食べ放題飲み放題だし、スタッフも皆人当たりの良い話しやすい人達だった。 しかも、自分は特に何も凄いことはしていないのに、無償で感謝されるというのも気分が良い。 血液は不足しているみたいだし、出来る時は積極的にやってみても良いかもしれないな、なんて考えつつ、律はロビーに備え付けられている無料の自動販売機のボタンに手を伸ばした。 『若い人の方が美味しいのに……』 ピッとボタンを押した時、由紀がぼやいたその言葉が脳裏に過った。 それに、律はピクリと動きを止めた。 ──……気のせい……だよね。 ──若い人の方が良いとか、そういう意味でしょ。 ──この辺には高齢者が多いし、若い人の方が血の気? も多いから、そっちの方が有難いって話だよ。 ──ちょっとした言い間違いみたいなものだ。 「……気のせい、気のせい」 誰にも聴こえない程度の小さな声で呟いた時、自販機の下方にある丸窓が自動で開いた。 そこから出てきた紙コップを手に取った律は、小さく苦笑を浮かべつつ手近な椅子に腰掛け、中に入っているジュースを口に含んだ。 *** 「これ、血液検査のサンプルですよね?」 何本かの試験管が纏められたものを指さしながら、浮決由紀は近くにいた女医にそう尋ねた。 それに、女医は「そうですよ」と答えた。 由紀はそれを聞いて、口を開いた。 「もう使わないのでしたら、片付けておきますよ。さっき終わった人の書類もしまっておかないといけないので」 「あ、じゃあお願いします」 「了解です」 女医の言葉に頷いた由紀は、血液検査のサンプルを持ち、スタッフオンリーの部屋へと入った。 そこには誰もおらず、血液検査に使った少量の血液が入った試験管が纏めて置いてあった。 由紀はそこに持っていたサンプルを置くと、先程の律の採血の際に使った書類を開いた。 「……44番は、っと……」 律の番号を確認しながら、由紀は血液サンプルの入った試験管を一本ずつ確認する。 少ししてそれらしき試験管を発見すると、由紀はそれを手に取り、蓋を外して軽くニオイを嗅いだ。 ──……やっぱり、これはさっきの子の……。 改めて確認した由紀は、部屋に誰もおらず、扉がしっかり閉まっていることを確認した。 それから試験管に唇をつけ……中に入っている血液を口に運んだ。 ゴクッ、ゴクッと喉を鳴らしながら、由紀は赤黒い少量の液体を飲み干していく。 血液サンプルを入れる試験管には血液が固まらないようにする薬剤が入っている為、時間が経っても律の血液はほぼ液体のままだった。 当然、凝固防止剤の味も混じっているが、血液の味自体に大きな変化は無い。 試験管の中に入っていた血液を飲み干した由紀は、口の端から零れた血を指で拭い、小さくほくそ笑んだ。 ──やっぱり、私の推測は正しかったわ。 ──あの子の血……思っていた通り、すごく美味しい。 そもそも、この田舎町には高齢者が多く、献血に来るのもそれなりに年をとった者ばかりだ。 若者は献血を避ける傾向が強く、二十歳にもなっていないような未成年が来ることなど、非常に稀なことだった。 十九歳の大学一年生など、一年に一人来るか来ないかという程の逸材と言っても過言ではない。 人間の血液は、若ければ若い程美味い。 それも、性別で言えば男よりも女の方が美味だ。 だが、幼い子供にもなると、血液を吸う量を見誤ると命に関わることもある。 その点、高校生や大学生くらいになってくると、多少吸い過ぎてもある程度はその生命力で何とかなる。 つまり、食べ頃としては、十五歳から十九歳くらいが一番良いのだ。 由紀が献血ルームに勤めているのは、美味しい血液の持ち主を探す為だった。 血液検査で確実に健康な血液を持った人間を見分けられる為、後は年齢や性別で食べ頃な人間を判別すれば良い。 しかし場所が場所である為、確実に健康な血液を持った人間が分かる代わりに、本当に美味しい血液を持っているような若者は中々現れなかった。 だからこそ、相間律という少女の存在は希少だった。 それに加えて、由紀は律という少女そのものに興味を持っていた。 律の姿は、どこをとっても少年にしか見えないような格好をしていた。 だが、顔つきは整っており、中性的な美しさと言っても良いだろう。 そんな姿をしていながら、彼女はかなり可愛らしい性格をしていた。 人見知りなのか、話している時はぎこちなさもあった。 しかし、会話への反応は一つ一つが素直なもので、どことなく少年のような純粋さがあった。 その純粋さを自分の色で穢すのを想像しただけで、由紀の頬は無意識に緩んだ。 「……」 由紀は試験管の中身が空っぽになったのを確認すると、それをソッと懐に忍ばせた。 血液検査のサンプルなど、どうせこの後は纏めて処分するのみ。 一本や二本無くなったところで、誰も気付かない。 それよりも、と、由紀は律についての情報が書かれた書類を開いた。 ──流石にこれが無くなったら、誰かが気付くわよね……。 そう考えた由紀はしばらく考え込むと、スマホを取り出し、無音カメラで書類の情報を写真に収めた。 彼女はそれを何食わぬ顔でファイルに纏めると、棚にしまった。 これ以上この部屋に長居していると不審に思われると判断した由紀は、仕事に戻るべく、部屋を後にした。 ……今日の夜に、思いを馳せながら。 --- 「ふぅ……」 ベッドに仰向けで寝転んだ状態でスマホを構っていた律は、ふと小さく息をつき、スマホで時間を確認した。 気付けば、時刻は夜の二時を過ぎようとしている。 最近ハマっているソーシャルゲームに夢中になり過ぎて、気付いたらこんな時間になってしまっていた。 春休みに入っている上に、友人も少ないので予定も特にない為、朝起きられなくても困ることは無い。 大学生になってからこのアパートで一人暮らしをしている為、夜更かししていたら叱りに来るような人間もいない。 しかし、流石に昼夜逆転生活が身に染みるのは良くないと判断し、そろそろ寝ることにした。 律はひと段落ついたゲームのアプリを切ると、画面をオフにしてベッドから立ち上がった。 「あら、こんな時間まで起きているなんて、悪い子ね」 「……!?」 突然、窓の方からそんな声がした。 律が咄嗟に振り向くと、そこには一人の女が立っていた。 黒い長髪に、雪のように青白い肌がよく映える。 血のように真っ赤な色をした目は、真っ直ぐに律を捉えている。 背中からはコウモリのような黒い羽が生え、目と同じくらい真っ赤な唇の隙間には、鋭い牙が見え隠れしていた。 しかし、律の目は、別の理由から見開かれていた。 目の前にいる常識外れな存在が……記憶の中にいる、とある人物の顔と合致したからだ。 律は青ざめた顔で、ゆっくりと口を開いた。 「……浮決……さん……?」 「あら……覚えていてくれたの?」 「な、なんで……貴方が……」 「さぁ、なんででしょう」 浮決と呼ばれた吸血鬼の女は、そう言いながらゆっくりと律の方へと歩いていく。 それに、律は咄嗟に後ずさる。 しかし、彼女の後ろはすぐベッドだった為に、後ずさるとベッドに足が当たって尻餅をついて座り込む形になってしまった。 「ぁ……」 青ざめた表情を浮かべる律だったが、そこで、ベッドの上に置いたままにしているスマートフォンに気付く。 ──そうだ……! 助けを呼ぼう……! 律は飛びつくようにスマホを手に取り、震える手で指紋認証を解除する。 彼女はすぐさまLINEアプリを開き、トーク履歴の中で一番上に表示されている数少ない友人とのトーク画面を開き、通話ボタンを押して耳にスマホを押し当てた。 能天気で明るい呼び出し音が流れるのを聴きながら、律はギュッと瞼を強く瞑った。 ──お願い、出て……! 「あら、助けなんて呼んじゃダメじゃない」 しかし、律の願いは叶わない。 女がそんな言葉と共に、スマホを持った律の手を取ったからだ。 手首を握られる形で女と向き合う形になり、律はその顔を青ざめさせた。 すると、女はクスッと小さく笑った。 「そんなに怯えないで? ホラ、私の目を見て」 「え……?」 混乱状態の最中にそんなことを言われ、律は咄嗟に女の目を見つめ返す。 すると、女の目が赤く光り出した。 「ぁ……ぁぁ……」 赤く光る目を前に、律は喉から振り絞ったような声を上げた。 目は大きく見開かれ、黒目の部分が震えだす。 徐々にその目からは自我の光が失せ、強張っていた体から力が抜けていく。 握り締められていたスマホはその手を離れ、ボスッと鈍い音を立ててベッドに落ちた。 しかし、律がそれを気にする素振りを見せることは無い。 女が掴んでいた手を離すと、その手はダランと重力に従って垂れる。 先程の恐怖一色の反応とは一転し、彼女は感情の消えた虚ろな目でぼんやりと虚空を見つめるように、女の目を見つめ返していた。 彼女が電話を掛けた相手は眠っているのか、通話に出ることはなく、不在着信としてその電話は終わっていた。 「さて、こんなものかしら」 律が完全に抵抗しなくなったのを見て、女はどこか満足気にそう呟いた。 彼女は無抵抗な律の体を軽々と抱き上げるとベッドに座り直し、自分と向き合う形になるように、膝の上に律を座らせた。 「それじゃあ、改めましてこんばんは。律ちゃん」 「……」 女の言葉に、律は答えない。 感情を失った律は、虚ろな目で女を見つめ返し、半開きになった口からは涎を垂らしていた。 それに、女はクスッと小さく笑った。 「本当に可愛い……お人形さんみたい。でも、全く反応が無いのはつまらないから、返事はしてね?」 「……はい……」 「うん、良い子」 重たい声で返事をする律に、女は満足そうに頷いた。 それから律の腰に手を回し、体を密着させた。 「本当は今すぐにでも血を吸っちゃいたいくらいだけど、折角だから律ちゃんには教えてあげる。私のこと」 「……はい……」 「まず、この見た目から分かる通り、私は吸血鬼なの。ほとんどは遥か昔に滅んでしまったけれど、極少数ではあるけど生き残りはいるのよ。こうして、人間としての姿と吸血鬼としての姿の両方を使い分けながら、ね」 女はそう言うと、体を変化させる。 病人のように白かった肌は赤みを帯び、律と同じくらいの色合いになる。 赤い目は黒く染まり、牙が無くなっていく。 その姿を見た律は、「ぁ……」と掠れた声を漏らした。 「うきけつ、さん……」 「えぇ、そう。浮決由紀っていう名前は、人間に擬態する時に使っている名前よ。本当はラミア・ヴァンピールって言うの」 ラミアはそう言うと、吸血鬼の姿に戻る。 律はそれに、重たい声で「ら……みあ……?」と小さく呟いた。 それに、ラミアは笑顔で頷いた。 「えぇ、そうよ。ホラ、もう一回呼んでみて」 「ら、みあ……」 「もう一回。今度は様を付けて?」 「ら、みあ、さま……」 「フフッ、もう一回」 「らみあ、さま……」 「そう。もう一回」 「らみあさま……」 「えぇ、よく出来ました。これから貴方のご主人様になる人の名前だから、ちゃんと覚えてね?」 笑顔でそう言いながら、ラミアは律の頭をワシャワシャと撫でた。 それに、律はコクッと小さく頷き、「はい……らみあさま……」と答えた。 ラミアはそれを見て微笑むと、律の体を抱き直した。 「本当に可愛い……じゃあ、そろそろ血を吸うから、肩出して?」 「はい……らみあさま……」 ラミアの言葉に、律はそう答えると、襟を引っ張って左肩を露わにした。 つい数刻前までとは比べ物にならない程に従順なその態度に、ラミアは笑みを浮かべた。 「良い子ね、律ちゃん」 そう小さな声で言うと、彼女は律の体を抱き寄せ、露わになった首筋を指でなぞる。 律はそれに、「んんッ……」と声を漏らしながらも、血を吸いやすいようにと首を右側に傾けた。 ラミアはそれに微笑み、首筋に齧り付いた。 「がッ……!?」 牙を突き立てられた瞬間、律の目がカッと大きく見開かれた。 虚ろだった目は大きく見開き、僅かにだが自我の光が灯る。 献血の針にすら顔を顰め、針が刺さる瞬間を直視出来ない程に痛みに弱い彼女のことだ。 吸血の牙の痛みに驚き、ラミアの催眠が半分解けて自我を取り戻したのだ。 しかし、この場で意識を取り戻しても、時すでに遅し。 今の彼女には抵抗する術など無く、体を硬直させて血を吸われることしか出来なかった。 そして、律の催眠が解けたことに、血を吸っているラミアも気付いていた。 なぜなら、抱きしめている体が明らかに緊張で強張ったから。 しかし、この場で律が自分に対して抵抗する術が無いことは他の誰よりも知っており、それほど気にする程では無いと判断した。 ──急に痛くして、ビックリさせちゃったみたいね。 ──でも、安心して。今は痛いかもしれないけど……すぐに気持ち良くなるから。 心の中でそう囁きながら、ラミアは律の血を吸い続ける。 だが、律を放置することに決めた理由は、それだけでは無かった。 抵抗出来ないことや、いずれ大人しくなることよりも……律の血が、今まで飲んだどの人間の血液よりも美味だったのだ。 献血ルームで試飲した凝固防止剤入りの少量の血液など比べ物にならないレベルで、律の血液は美味しかった。 年齢や性別が食べ頃だったのもあるだろうが、ラミアが律に特別な感情を抱いているということも影響しているのかもしれない。 とにかく、ラミアにとって律は今までにない程に極上の餌であり、気付けば夢中になって律の体にむしゃぶりついていた。 「なッ……!? あがッ……! 痛ッ……!? やぁッ……! やめッ……!」 しかし、そんなこと今の律には関係ない。 彼女は異質な生き物から血を吸われている恐怖と痛みから、目を見開いて必死に声を上げた。 だが、ラミアがそんな律の声に応えてくれるはずも無く、無情にも吸血は続けられる。 ラミアが齧り付いた箇所からは激しい痛みが走り、痛みのあまり体を動かすことも出来ない。 今の自分にはどうしようもない状況に、律は堪らずその目に涙を滲ませた。 「……ぁ……」 しかし、痛みに声を上げることしか出来なかった律に、変化が訪れる。 突き刺すような激しい痛みは徐々に和らぎ、代わりと言わんばかりに吸血に対して一種の心地良さを感じるようになり始めたのだ。 蚊が血を吸う際に、人間に痛みを勘付かれないように唾液を流し込むのと同じようなものだ。 吸血鬼も蚊のように、血を吸う際に唾液を流し込む。 奴等の唾液には媚薬のような役割があり、血を吸う際の痛みを快楽に変えるのだ。 唾液が馴染むまでは痛みはあるが、馴染んでくれば痛みは快感へと変わる。 「ぁ……ぁぁ……♡」 現に、痛みに声を上げていた律は徐々に快楽を感じるようになり、恍惚とした表情で吸血を受け入れていた。 痛みで解けかけていた催眠が快楽によって蘇り、律の目に戻りかけていた光が徐々に消えていく。 痛みによって滲んでいた涙は、快感による幸福の涙へと変わり、紅潮した頬を静かに伝っていく。 濁った目を悦楽の涙で潤ませながら、律は血を吸われる快感に酔いしれた。 「えへ……♡ えへへへぇ……♡ きもちぃ……♡」 だらしなく笑いながら呟く律に、ラミアはソッと彼女の首筋から口を離し、顔を上げた。 そこでは、口を半開きにして涎を垂らし、快楽に淀んだ目で涙を流しながらもだらしなく笑う律の姿があった。 「フフッ……可愛い」 小さく呟いたラミアは、ソッと律の頬にキスをして、頬を濡らしていた涙を舐め取る。 まるで、血液の一種である涙すら惜しいと云わんばかりに、丁寧に。 律はそれを、ピクピクと肩を僅かに震わせながらも、どこか気持ちよさそうに受け入れる。 しかし、先程に比べると感じられる快楽が少なくなったから、徐々にその表情は切ないものに変わる。 ある程度律の涙を舐め終えたラミアは、その表情に気付くと、すぐにクスッと笑った。 「もう……そんな顔しないで?」 困ったように笑いながら言うと、ラミアは律の後頭部を掴んで顔を近付けさせ、強引に唇を奪った。 突然の接吻に、律は「んむぅッ……!?」と僅かに驚いた声を上げ、目を見開く。 しかし、すぐにうっとりした表情を浮かべ、ラミアに身を委ねる。 ラミアはそれに律を抱きしめ、器用に彼女の体をベッドに押し倒す。 「ぷはッ……」 押し倒された拍子に、唇が離れる。 律はそれに甘い吐息を漏らしながら、ぼんやりと前方を見つめた。 するとそこには、自分に馬乗りになったラミアの姿があった。 「ぁ……♡ らみあさま……♡」 うっとりした表情で名前を呼ぶ律に、ラミアは自分の嗜虐心がそそられるのを感じた。 ゾクゾクと背筋に得も言えぬ何かが走り、無意識に口元を緩ませる。 愉悦の笑みを浮かべたラミアは、すぐに律の唇を奪った。 今度は舌を絡め、クチュクチュと音を立てて濃厚な接吻を繰り返す。 舌を絡める度に、ラミアの唾液が律の口内に流れ込む。 ……媚薬成分を含んだ、吸血鬼の唾液が。 「んんッ♡ んッ♡ んんぅッ♡」 口の中に流れ込んでくる唾液が媚薬だと知らない律は、甘くくぐもった嬌声を上げながらそれを喜んで嚥下する。 飲めば飲むほど体が熱くなり、快感が体に蓄積されていく。 その快感を増幅させるように、ラミアが律の口内を貪る。 ラミアの舌が律の舌を絡め取り、淫靡な水音を静かな部屋に響かせる。 口内を貪られ媚薬を流し込まれ、気持ち良さで何も分からなくなっていく。 「んんぅッ♡ んちゅッ♡ んッ♡ ……んんんぅぅぅぅぅぅぅッ!?♡」 ラミアの舌技にくぐもった嬌声を上げていた律は、突然目を大きく見開き、ビクンビクンッ! と体を大きく震わせた。 快楽を逃がすように腰を激しく跳ね上げさせるが、馬乗りになったラミアが律の腰部に体重を掛け、跳ねる体を押さえつける。 「んんんッ!?♡ んぅぅぅぅッ!?♡ んんんんぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!♡」 体が動かせず逃げ場を無くした快感は、律の体内で暴れ狂う。 律の黒目はグリンと上を向き、白目を剥きかけていた。 快感で頭の中が真っ白になった律にはもう何も分からず、ただ快楽に喘ぐことしか出来ない。 ラミアはそれに、音を立てて律の唇を離した。 「んんぁぁぁぁッ……♡ ぁぁぁッ……♡ ぁはッ……♡ あはぁ……♡」 「すっごく良い顔……♡ このまま食べちゃいたいくらい♡」 ラミアはそう言いながら、律の頬を撫でる。 それに、律は絶頂の余韻に浸ったまま、恍惚とした表情でそれを受け入れる。 言葉にはしないが、ラミアはそれを、食べても良いという許可として受け取った。 「でもさっきいっぱい血を吸っちゃったから、先に“水分補給”しましょう♡」 ラミアはそう言うと、律の唇を塞ぎ、追加で唾液を流し込んだ。 水分補給など、適当に考えた口実だった。 しかし、今の律にはそんなこと考える余裕も無く、流れ込んでくる唾液を素直に嚥下する。 それが自分の頭をおかしくする媚薬だと気付かず、言われるがままに素直に唾液を飲み込んでいく律を、ラミアは愛おしそうに見つめた。 テレテレテレテン♪ すると、どこからか木琴の軽やかなメロディが聴こえてきた。 ラミアはそれに唇を離し、顔を上げた。 「ぅぁ……」 すると、下にいる律が、どこか切なげな声を発した。 それにラミアは困ったように笑い、汗で湿った律の髪を撫でた。 「大丈夫よ。どこにも行ったりしないから」 「んぅ……♡」 ラミアの言葉に、律は安堵したような表情を浮かべた。 その間にも、どこからか聴こえる木琴の音は鳴り響く。 軽く辺りを見渡すと、近くに落ちている律のスマホの画面が光っていることに気付いた。 「これは……」 手繰り寄せると、そこにはLINE通話の着信画面が表示されていた。 ──もしかして、さっき律ちゃんが電話を掛けていた子かしら? 時間を確認すると、今の時刻はすでに三時を回っている。 偶然夜中に目が覚めて、そしたら夜の二時なんて遅い時間に電話が来ていて、不思議に思って電話を掛けてきたってところだろう。 「律ちゃん、お友達から電話が来てるわよ?」 「……?♡」 ラミアの言葉に、律はすっかり快楽に蕩けた表情でラミアを見た。 今の律に電話に出る余裕など無いと判断したラミアは、無言で拒否ボタンを押した。 それからスマホの電源を切り、ベッドの離れた場所に放って律に顔を近付けた。 「何でも無いわ♡ 続きをしましょう?」 「ッ……♡」 その言葉に、律の目に悦びの感情が灯り、蕩けた顔に笑みが浮かんだ。 ラミアはそれにクスッと小さく笑うと、律の髪を撫でながら口を開いた。 「ねぇ律ちゃん? 私のこと好き?」 「んぁ……♡ すき……♡ すきぃ……♡」 「フフッ……ずっと一緒にいたい?」 「いっしょ……♡ いたいれすぅ……♡」 甘えたような声で言う律に、ラミアの顔に溶けるような笑みが零れる。 彼女は律の頭を愛おしそうに何度も撫でながら、ゆっくりと続けた。 「それじゃあ律ちゃん、私の眷属になりなさい?」 「けん……ぞく……?♡」 「えぇ、そうよ。眷属になったら、律ちゃんの体は半分吸血鬼になって、身も心も全部私の所有物になるの。そうしたらもう私のこと以外何も考えなくて良くなるし、ずっと一緒にいられるわよ」 思考力を失った律には、ラミアの長い説明を理解することは出来なかった。 ただ、最後のずっと一緒にいられるという言葉に、律の気持ちは音を立てて傾いた。 「ぁ……♡ なります……♡ けんぞく、なります……♡」 「本当? フフッ、そう言ってくれて嬉しいわ。それじゃあ眷属化の儀式をしましょう」 ラミアはそう言うと律の体を抱き上げて膝の上に座らせ、向き合うような体勢になる。 今の律には座位を維持することすら出来ず、ラミアの体に正面からしなだれかかるような感じになった。 すっかり成すがままの人形のようになってしまった律の頭を愛でるように撫でると、ラミアは優しい手つきで律の襟を引っ張り、首筋を露わにする。 そこには、先程血を吸った際に出来た噛み痕がくっきりと残っていた。 「いただきます♡」 小さく呟いたラミアは、再び律の首筋に噛みついた。 「ぁ……♡」 すると、律は小さく声を漏らしながら、ピクンッと体を震わせた。 先程とは違って二度目ということもあり、痛みは無く、最初から噛まれることに快楽を感じた。 ラミアはそれに密かに笑みを浮かべ、吸血を開始する。 吸血の際に流入される唾液に加え、先程何度も飲まされた唾液もあり、強烈な快感が律を襲った。 「んぁぁぁぁぁッ!♡」 ビクンビクンッ! と体を震わせながら絶頂する律に、ラミアは目を細める。 しかし、それでも血を吸うことを止めない。 弓なりに仰け反り跳ねる体を抱きしめ、彼女はさらに強く血を吸っていく。 「ああぁぁぁぁッ!?♡ まッ……!?♡ あぁッ!?♡ イくッ!♡ イくぅぅぅぅッ!♡」 絶頂直後で敏感になった体は瞬く間に達し、二度目の絶頂を迎える。 度重なる興奮により、律の股間部は服の上からでも分かるくらい愛液で濡れており、まるでおもらしでもしたかのような染みができていた。 股間部だけでなく、律の体はまるで頭からバケツの水を浴びたかのようにびしょ濡れで、服も絞れば水が滴り落ちるのではないかと云わんばかりに濡れていた。 しかし、律はそんなことを気にする素振りも見せず、吸血による快楽を享受して喘いでいた。 すっかり快楽を貪るだけの獣と化した律に、ラミアはほくそ笑む。 ──そろそろかしら……♡ 「ぷはぁっ……」 律の首筋から口を離したラミアは、口の端から零れる血を手で拭いつつ、律の顔を見た。 「あっ♡ あはっ♡ えへぇ……♡ ……♡」 「……可愛い顔♡」 吸血の快楽の余韻に浸りながらだらしなく笑う律に、ラミアは笑顔でそう言った。 淫靡な笑みを浮かべるその顔は、赤らむ頬に反して他は青ざめており、ラミアの肌に近い色になっていた。 昼間の献血に加えて度重なる吸血もあり、律の血液はすでに致死量寸前まで吸い取られているのだ。 貧血に近い状態で、通常ならすでに気絶していてもおかしくない。 しかし、律の意識は流し込まれた唾液の成分によって覚醒し、飛びかけた意識が半ば強引に保たれている状態だった。 「さて、律ちゃん。私がこれ以上血を吸ったら、貴方は一度死んで私の眷属として生まれ変わるわ。そうなると、貴方はもう人間では無くなり、相間律としての人生とはおさらばすることになるわけだけど……何か言い残したことはあるかしら?」 「……♡」 ラミアの言葉に、律は快楽に淀んだ笑みを浮かべたまま答えない。 否、答えられないのだ。 頭に血が回らず、そのような中で何度も快楽を叩きつけられ、気持ち良いということ以外の何もかもが分からなくなった快楽地獄。 その中で律という人格は快楽によって叩き壊され、最早快楽に喘ぐだけの空っぽの人形と化していた。 ラミアの言葉を理解する余裕などあるはずも無く、ただぼんやりと虚空を眺めていることしか出来なかった。 「本当に可愛い子♡」 そしてそれを……当然、ラミアは知っていた。 だって、そうなるように仕向けた張本人なのだから。 快楽に壊れた律の首筋に齧り付き、彼女を眷属とすべく、トドメと言わんばかりに思い切り血を吸った。 「あっ♡ あぁっ……♡ あ゛がぁ゛ッ……!?♡」 掠れた嬌声を上げながら、律はビクンッ! と体を仰け反らせた。 彼女の目は完全に白目を剥き、その顔は一切血の気の無い顔面蒼白となっていた。 ラミアはそれを確認すると、首筋から口を離した。 すると、律の体が重力に従って倒れ、ラミアの体にしなだれかかる。 その体は氷のように冷たく、彼女が完全に事切れているのが分かった。 ラミアはそれを確認すると、自分の腕に牙を立てた。 すると、そこからツー……と血が零れ出す。 彼女はその血を口に含み、溜めていく。 ある程度血液が溜まってくると、ラミアは腕から口を離し、律の首筋にある噛み痕に口付けをした。 そして、事切れたその体に、口に含んだモノを流し込んでいく。 空っぽになった律の体には、ラミアが流し込んだ血液は面白いように染み込んでいった。 吸血鬼の体は自然治癒力が高く、すでに腕に付けた傷はほとんど塞がっていた。 口に含んでいた血液が無くなると、彼女は律の首筋から口を離し、耳元に口を寄せた。 「……目覚めなさい」 ラミアがそう耳元で囁くと、律の手がピクンッと僅かに震えた。 直後、彼女の肌に、徐々に血の気が戻っていく。 白目を剥いていた目には、ゆっくりと黒目の部分が下りてきた。 だが、その目は日本人らしい黒色ではなく、血のような赤色を帯びたものになっていた。 肌も、血の気が戻ったとは言っても、まるで病人のように白い肌になっていた。 さらに、ラミアのものに比べると矮小だが、口には短い牙が生えていた。 「……」 ムクッと体を起こした律は……否、律だったモノは、虚ろな目でラミアを見つめた。 「……おはようございます。ラミア様」 抑揚の無い虚ろな声で、律だったモノは己の主にそう挨拶をした。 それに、ラミアは「えぇ、おはよう」と笑い返した。 「ねぇ、貴方は何者になったのかしら? 教えて?」 ラミアの言葉に、律だったモノの体がピクリと震えた。 彼女はすぐに「はい」と答えると、その場に正座をしてラミアと向き直った。 「私は、ラミア様の眷属となりました。私の身も心も全て、ラミア様の所有物です。どうか、貴方様のお好きなようにお使い下さい」 律だったモノはそう言うと、その場に三つ指をつき、深々と頭を下げた。 彼女の動きに合わせて、色々な液体で湿った服がグショリと音を立てる。 それに、ラミアは満足そうに頷き、口を開いた。 「それじゃあ、まずは全て服を脱いで、私のモノとなった体をちゃんと見せて頂戴」 「はい。承知しました」 主の命令に、眷属はすぐさまベッドから立ち上がると、色々な液体で濡れた服を脱いだ。 とはいえ、元々寝間着用に着ていた服だったので脱ぐのは簡単で、あっという間に彼女は一糸纏わぬ裸体を晒す。 彼女はベッドに座ったラミアに向き合う形で直立し、次の命令を待った。 その体は病的な雰囲気を漂わせるほどに白く、股間部から伝う愛液が電灯を反射しててらてらと輝く様は、最早一種の芸術作品のようにも思えた。 真っ白な体の中で、子宮がある位置に当たる場所に刻まれた紋様が、その存在を主張していた。 これまた血のように真っ赤な線で刻まれた幾何学的な紋様は、この少女がラミアという女の所有物であるということを示す印のようだった。 「本当に綺麗な体♡ ホラ……来て?♡」 ラミアはそう言うと、両手を広げた。 眷属はそれにピクリと肩を震わせると、まるで飛び込むようにラミアの体に抱きついた。 すると、ラミアは自分の両手の中に収まった体を、めいっぱい強く抱きしめた。 「あっ……♡ あっ、ラミア様……!?♡」 抱きしめられると、今まで虚ろな表情で淡々としていた様子が一転し、その顔が恍惚に染まる。 腕の中でビクビクと体を震わす眷属の頭を優しく撫で、ラミアはゆっくりと続けた。 「あぁ、本当に可愛い……♡ 貴方を眷属にして本当に良かったわ、律ちゃ……いえ、眷属リツ♡」 「あぁっ♡ あぁぁっ♡」 「もうこんな所にいる必要なんて無いわ♡ 私の家に行きましょう? そこで、たっぷり可愛がってあげる♡ 私の愛を、骨の髄まで叩きこんであげる♡」 「あぁぁっ♡ ラミア様ぁ……♡」 恍惚とした表情を浮かべながら主の名前を呼ぶ健気で可愛らしい眷属に、ラミアはドロリと溶けた笑みを浮かべる。 彼女はリツの頬に手を添えると、自分の名を呼ぶ可愛らしい唇に、優しくキスをしてやった。 それだけでリツはだらしなく淫靡な笑みを浮かべ、うっとりと見つめ返した。 その翌日、相間律という少女が行方不明となった。 彼女の消息を知るのは、本人とその“所有者”だけだった。
Comments
普通に社会奉仕しただけなのに洗脳の餌食になっちゃうのが理不尽すぎて吹きました。 献血ルームの描写がすごく細かいですね。私も体調面でストップ掛かるまでは献血に行っていたので、正直懐かしくなってしまいました。また行きたい・・・。 キスと吸血でイっちゃう描写がすけべでした・・・。吸血鬼はオーラル描写が命だと思っているので、その辺りに気合いが入っていて嬉しいです。
ナナつばき@支援復帰
2020-02-29 08:59:17 +0000 UTC