歪んだ戯曲を紡ぐ時 十人目
Added 2020-02-21 15:04:40 +0000 UTC駅の北口から外に出た私は、ポケットから取り出したスマートフォンで時間を確認する。 今の時間は昼の十一時五十分。待ち合わせの時間まで、まだ十分程ある。 確か待ち合わせの場所は……と、目印になっている銅像を探すべく、辺りを見渡した。 すると、見覚えのある姿が見え、私は表情を緩めた。 「シノブさん!」 「……! メイコさん!」 私が名前を呼ぶと、目印となる銅像の前に立っていた女性……榊シノブさんが、笑顔でこちらに手を振ってくれた。 それに手を振り返し、私はすぐに彼女の元へと駆け寄った。 「すみません、待たせてしまいましたか?」 「いえ、私も今来たところですから」 「あ、今のデートだったら満点の回答ですね。『クリノス』のチアキさん辺りに言って欲しいです」 「ふふ、意外とレイカが似合ったりもしますよ?」 「あぁ~! 確かに似合いそうですね!」 そんな会話をしつつ、私達は目的地に向かって歩き出した。 以前『クリノス』に所属する猫崎ユリカさんが客演として『ロードン』の劇に出演して下さったことがあり、その打ち合わせの際に連絡先を交換してから、私と彼女は頻繁に連絡を取っていた。 お互いに劇団専属の戯曲作家という身の為か話が合い、最近ではこうして待ち合わせをして食事をする程の仲になった。 私達は雑談をしつつ、シノブさんのオススメと言うイタリアンのお店に行った。 お店は全体的に木造で、暖色照明で明るく照らされている。 店内は昼食時にしては空いており、すぐに隅の方に案内された。 席につくと、シノブさんはすぐにメニューを開き、私に見やすいように置いてくれた。 「何食べますか?」 「うーん……オススメは何ですか?」 「そうですね……基本的にはどれも美味しいですが、特にピザとパスタが個人的にはオススメですね。ピザだと、個人的にはサルモーネが好きですね。あとはペスカトーレとか」 「へぇ……」 「パスタは色々ありますが、私は特にアラビアータとか好きですね。普通のスパゲッティだと、ナポリタンが一番慣れ親しんだ味で美味しいかもしれません」 「なるほど……」 シノブさんの説明を聞きながら、私はメニューを眺める。 彼女の言ったオススメを統合してみると、全体的にトマトソースが美味しいお店なのかもしれない。 そんな風に考えながらメニューを見ていた時、シノブさんは「あ」と声を上げた。 「ピザは私が一緒に食べるので、大きさとかは気にしないで頼んで下さいね」 「え、良いんですか?」 「流石にピザ一枚を一人で食べるなんて、私でも無理ですから。ピザの醍醐味はシェア出来るところですよ」 頬杖をつきながら言うシノブさんに、私は少し驚いたが、すぐに笑みを返して「そうですね」と答えた。 「では、お言葉に甘えて……私はナポリタンとペスカトーレにします。シノブさんはどうしますか?」 「私はアラビアータにします。あ、飲み物はどうしますか?」 「えっと……じゃあ、ジンジャーエールにします」 「それじゃあ、注文しますね」 シノブさんはそう言うと、店員さんを呼び、私の言ったものと自分の要望を注文した。 ちなみに、彼女はサイドドリンクでブラッドオレンジジュースを頼んだ。 注文を終え、店員が去っていくのを見ると、彼女は「そういえば」と開口した。 「最近新作の戯曲の執筆に取り掛かっているんですけど、中々上手くいってないんですよねぇ」 「あぁ……スランプですか?」 「スランプというか……どっちかと言うと、ネタ切れって感じですかね。やっぱり女性しかいない上に役者の数も限られていますし、劇団の人数が少ないから演出や衣装も色々と限られてきますからね」 「でも、その少数精鋭がクリノス人気の秘訣な部分もありますよね。むしろ、シノブさんの前任さんも含め、よくあの人数であれだけの劇を成立させられたと思いますよ」 私がそう言った時、店員さんがドリンクとパスタをそれぞれ運んでくる。 ひとまずジンジャーエールを一口飲んでいた時、シノブさんが「いえいえ」と小さく笑った。 「本当に大変な時は、大道具や小道具には臨時で手伝いを呼びますし。……皆優秀ですから、限られると言っても、その上限はかなり大きいんです」 「じゃあ、その上限の中でも限界が見え始めた……と?」 「あはは……そんな感じです」 そんな会話をしていると、注文していたピザとパスタが運ばれてくる。 私達は一旦会話を中断し、運ばれてきた料理に手を出す。 ひとまず目の前にあるナポリタンをフォークに絡め、口に運ぶ。 「……! 美味しいです……!」 「ふふっ、そうでしょう? ピザも美味しいですよ」 シノブさんの言葉に、私はピザを一切れ手に取り、噛みついた。 すると、これがまたかなり美味しくて、私は口に手を当てて「美味しい……」と小さく呟いた。 「ここ、クリノスのメンバーでよく来るんですか?」 「あぁ、いえ……たまに来る時もありますが、初めて来た時は一人でしたね」 「そうなんですか?」 「はい。まだフリーの戯曲家時代だったんですけど……執筆が行き詰まって、息抜きがしたくて……なんとなく立ち寄ったのが、この店だったんです」 シノブさんはそう言いながら、ピザを一切れ手に取って、先端を齧った。 彼女の言葉に、私は「ほう……」と小さく溜息をつくように答えた。 「シノブさんのフリーの戯曲家時代の話って、なんだか新鮮ですね。……まだ高校を卒業したばかりの頃ですよね?」 「そうですね。……やっぱり、学生からいきなり戯曲作家になったのもあって、当時は色々と大変でした」 懐かしむように言いながら、彼女は自分で頼んだアラビアータをツマミのように食べる。 それに私は「やっぱりそうですよねぇ」と答えつつ、ナポリタンを口に含んだ。 咀嚼して飲み込み、ジンジャーエールで流してから、私は続けた。 「前に雑誌で読んだんですけど、戯曲の書き方は高校時代に習ったんでしたっけ?」 「……あぁ、はい。そうですよ」 「それで高校卒業後にいきなりデビュー……って、凄い躍進ですよね」 「今思うと、若気の至りもあって生き急いでいたような感じもありますけどね。クリノスに所属することで、むしろ落ち着いたような感じがします」 疲れたように笑いながら言うシノブさんに、私は小さく笑った。 話している内に、頼んでいたパスタやピザは無くなっていた。 美味しくて、気付かない内に完食してしまっていたようだ。 ひとまず口の周りについたトマトソースをナプキンで拭いていると、シノブさんは「あぁ、そうだ」と口を開いた。 「ちょっと聞きたいんですけど、メイコさんって執筆中の息抜きってどうしてますか?」 「息抜き……ですか?」 「ホラ、やっぱりどうしてもスランプになっちゃったり、行き詰まることってあるじゃないですか。そういう時って、どうしてるのかと思って」 「うーん……私は音楽とか聴きますかね。ヒーリングミュージックとかよく聴きます最近はASMRの動画とかも聴いたり」 「え、一緒です! 私も最近ASMRの動画を息抜きによく見るんです」 「へぇ! それは奇遇ですね!」 私がそう答えた時、一瞬、シノブさんの目の色が変わったような気がした。 まるでスイッチが切り替わったような……獲物を狩る目になったような……。 しかし、それも一瞬のことで、彼女はすぐにスマホとワイヤレスイヤホンを取り出した。 「実は最近よく聴く音声があって……これが凄く良いんですよ」 「そんなにですか?」 「はい! 良かったら聴いてみて下さいよ」 シノブさんはにこやかに笑いながらそう言うと、ワイヤレスイヤホンの片方を私に差し出してきた。 彼女の言葉に従い、私はLと書いてあるそれを左耳にはめた。 すると、彼女はニコッと小さく笑い、右耳にワイヤレスイヤホンをはめてスマホを操作した。 キィィィン……。 すると、イヤホンからは無機質な高い音が流れ始めた。 これがASMR? と思って顔を上げてみると、シノブさんは困惑したような表情でスマホを弄っていた。 「あれ、おかしいな……なんか上手くいかないや……」 「大丈夫ですか? 上手くいかないなら、後でその動画のURLを送って下されば……」 「あぁいえ、多分すぐに流れるはずですので……念のため、こっち側のイヤホンもはめて頂いても良いですか?」 彼女はそう言うと、自分がはめていた右耳のイヤホンを取って差し出してきた。 ひとまず受け取って耳にはめると、彼女は忙しなくスマホを操作し始めた。 「流れる音が変わったら教えて下さい」 「分かりました」 両耳にイヤホンをはめていることによってくぐもって聴こえる声に、私はそう答えた。 イヤホンからは、相変わらず無機質な高い音が不規則に流れてきていた。 高くなったり、低くなったり、長く響いたり、短い音だったり。 バグでこんな音が鳴るものなのか? 私はワイヤレスイヤホンをあまり使わないので、詳しいことはよく分からない。 戸惑いつつも、私はイヤホンから聴こえる無機質な音に耳を澄ませた。 「──」 しばらく経った時、シノブさんが何か話しかけてきた。 だが、イヤホンから鳴り響く無機質な音のせいで、何も聴こえなかった。 イヤホンを外して聴き直そうかと思ったが、何だかこの音を聴いているのが心地良くなっており、そんな行為が凄く億劫に感じた。 体に力が入らなくなり、私は椅子の背凭れに体重を預けて脱力した。 「──? ────」 目の前にいるシノブさんは、頬杖をついて笑いながら何か言ってくる。 彼女の言葉に応える余裕も無かった。 イヤホンから聴こえてくる無機質な音が、やけに心地良い。 無機質な音が、まるで川のせせらぎのように感じる。 緩やかな川の流れは私の思考を削り取り、かき消していく。 何も考えられなくなって、頭の中が真っ白になっていく。 ぼんやりとイヤホンからの音を聴いていた時、シノブさんが椅子から立ち上がり、伝票を持つのが見えた。 「ぁ……」 それに、一瞬意識が逸れる。 しかし、彼女はソッと私を手で制し、伝票を持ってレジの方に歩いていった。 追いかけなければと一瞬考えたが、その思考はイヤホンから聴こえる音によってかき消される。 椅子に座ったままぼんやりしていると、会計を済ませたシノブさんがこちらに戻って来て、私の耳からイヤホンを外した。 「メイコさん、場所を変えましょう。……私に付いて来て下さい」 「あぁ……はい……」 シノブさんに促され、私はフラフラと立ち上がった。 すると、彼女は私の鞄を手に取って肩に掛けると、私の手を引いて店を出た。 店を出た後、私はまた両耳にイヤホンをはめられ、シノブさんに手を引かれてフラフラと歩いた。 イヤホンからは相変わらず無機質な音が流れ、町の喧騒など一切聴こえなかった。 シノブさんはシノブさんで、こちらに一言も声を掛けることなく、迷いの無い足取りでどこかに向かう。 どこに行くのか知らされないまま、ただ付いて来いという言葉に従うまましばらく歩いていくと、何やらお城のような建物に辿り着いた。 そのまま私はシノブさんに手を引かれ、受付のような場所で簡単なやり取りを済ませると、あっさり部屋に案内された。 「──」 部屋に着くと、シノブさんは荷物を置いて何かを言った。 何だろうとぼんやりと考えていると、シノブさんは私の目の前まで歩いて来て、両耳のイヤホンを外した。 「……」 イヤホンを外されても、私は特に反応しなかった。 耳元から延々と聴こえていた心地良い音が無くなったことには多少の虚無感もあったが、それにわざわざ反応を示す気力は残っていなかったのだ。 呆然と立ち尽くしていると、シノブさんは私の首に両手を絡め、唇を奪った。 突然のことに僅かに驚くが、すぐに彼女から舌を差し込まれ、私の思考は途切れる。 「んッ……んんッ……」 ただでさえ脱力していた体は彼女の攻めに耐えきれず、少し舌を絡め取られただけで足腰がふらつき、前方に倒れ込む。 すると、彼女は唇も舌も離さぬまま、器用に私ごと数歩後ずさる。 そのまま、後ろにあったベッドに倒れ込んだ。 「んんッ……」 その衝撃で僅かに呻くが、シノブさんは特に気にする素振りは見せず、私との接吻を再開した。 私はそれに成すがままになり、脱力したまま彼女に身を委ねる。 見た目だけなら私がシノブさんを押し倒しているように見えるかもしれないが、上下関係は逆だ。 彼女の攻めに成す術も無く、ただ彼女の舌技に蹂躙されることしか出来ない。 頭の中が空っぽになっていた私には、彼女の攻めに対して気持ち良いという感情以外抱くことが出来ず、その気持ち良さに身を委ねることしか出来なかった。 しかし、それは決して苦ではなく、むしろ余計なことを考えずに快楽に身を任せることが出来て楽だった。 「……ぷはぁ……」 どれくらい、濃厚な接吻を繰り返していただろう。 シノブさんに体を押し返される形で、私は唇を離される。 すると、私の口からは唾液が重力に従って零れ落ち、下にいるシノブさんの顔を汚す。 しかし、彼女は嫌な顔一つせず、むしろ大きく口を開いて私の唾液を口内に迎え入れた。 「ぁ……♡」 それだけで、ゾクリと背筋に心地良い何かが走る。 しかし、今の私にはそれが何なのかを知ることすら出来ず、そのまま脱力感に身を任せてシノブさんの上に倒れ込んだ。 「ん……」 すると、彼女はゆっくりと私の体を押し返し、仰向けになる形で私の体を寝かせた。 されるがままに仰向けになると、シノブさんは緩慢な動きで私の上に覆いかぶさった。 よく見ると、彼女の頬は少し膨らみ、僅かにだがクチュクチュとうがいのような音が聴こえてきていた。 ぼんやりとその様子を観察していると、彼女は私の顎に指を当て、クイッと顔を上げさせた。 そして……再度唇を奪う。 直後、口の中に、何やら液体が流れ込んできていた。 それが、私とシノブさんの唾液が混ざったものであることに気付くのに、それほど時間はいらなかった。 気付くと、口の中に流れ込んできたその液体が媚薬にでも変わったように感じ、口の中が熱くなるような感覚がした。 全ての唾液を流し込み終えたのか、シノブさんはゆっくりと唇を離すと、一度舌なめずりをして口の端についた涎を舐めた。 「全部、ちゃんと飲んでね?」 「……」 彼女の言葉に抗う術は無かった。 私は言われるがままに、ゴクリと音を立てて、口内にあった液体を全て飲み込んだ。 すると、飲み込んだ液体が熱を持ち、胃の中でグツグツと煮えているような感覚がした。 「ふふ、ちゃんと全部飲めたね。偉い偉い」 「ぅぁ……♡」 しかし、シノブさんの笑顔でそう言われて頭を撫でられると、何もかもがどうでもよくなった。 二度の接吻により、私の体は甘く疼いていた。 特に股間部が甘く疼き、主張するようにジワジワと液体が溢れ出す。 「ふふっ、すっかり出来上がっちゃった……ねぇ、メイコさん。今どんな気持ち?」 「ぁ……♡ すごく、きもちいい、です……♡」 「ふぅん? 私にキスされて気持ち良くなったんだ?」 「はいっ♡ しのぶさんにきすされてっ♡ きもちよくっ、なりましたっ♡」 「それって、私のことが好きってことだよね?」 「えっ……? ……んぁぁッ♡」 シノブさんの言葉に一瞬疑問を持ったが、突然熱く疼く股間部に刺激が走り、私の言葉は嬌声によって遮られる。 ビクビクと体を震わせながら感じていると、彼女はニコニコと笑いながら続けた。 「繰り返して? 私はシノブ様のことが好きです」 「あぁ……♡ わたしはぁ、しのぶさまのことが、すきです……♡」 「私はシノブ様のことを心の底から愛しています」 「わたしは、しのぶさまの、ことを……こころのそこから、あいして、います……♡」 「私はシノブ様に性的興奮を覚えます」 「わたしは、しのぶさまに、せいてきこうふん、を……おぼえます……♡」 「私はシノブ様と体を重ねられるなら、どんなことでもします」 「わたしは、しのぶさまと、からだをかさねられる、なら……どんなことでも、します……♡」 「よく言えました。じゃあ、ちゃんと全部言えたご褒美あげる」 シノブ様はそう言うと、私の体の上に跨ったまま、服を脱ぎ始める。 上に着ていたカーディガンを脱ぎ捨て、服の胸元のボタンを外し始める。 ボタンを外す度に、服の隙間から彼女の地肌やブラジャーが見え隠れする。 それだけで私の股間部は濡れ、目が離せなくなる。 「……ねぇ、メイコさん」 どこかうっとりした目で、彼女は私の顔を覗き込む。 彼女の声に、ゾクリと背筋に甘い刺激が走る。 そんな私を見て、彼女はニコッと小さく笑い、続けた。 「メイコさん……ご褒美に、私の体……好きなようにして良いよ」 その声を聴いた瞬間、頭の中で、何かがぷつんと切れる音がした。 すぐさま私はガバッと体を起こし、彼女の体をベッドに押し倒し、唇を奪った。 胸元がはだけた服のぼたんを外すのも億劫で、ぶちぶちとボタンが引き千切れるのもお構いなしに、服の前を強引に開ける。 しかし、彼女は抵抗しない。 私はすぐに彼女のブラジャーを強引に上げさせ、露わになった胸にむしゃぶりついた。 「んんッ……ほら、ちゃんと言うこと聞いたら、こうやって私の体を、好きにさせてあげるよ」 無心に胸にむしゃぶりつく私に、シノブ様がそんなことを言ってくる。 それに、私は答える余裕など無かった。 まるで獣のように彼女の体を貪る私に、シノブ様は私の頭を撫でながら続けた。 「だから、ちゃんと私の言うこと聞いてね」 その声が、私の頭の中で静かに反芻する。 しかし、私はそれを気にする余裕も無かった。 江田メイコ 年齢:25歳 身長:158cm 見た目:黒い長髪をハーフアップにしている。垂れ目がちな優しそうな顔立ち。 その他:劇団『ロードン』の専属戯曲家。高校生の頃に友人の誘いで見た劇に感動し、劇関係の仕事に就きたいと思うようになり、高校卒業後に戯曲の専門学校に入学して二年間勉強した後に戯曲家になる。榊シノブのことを戯曲家として尊敬しており、密かに至高の存在と崇めている。
Comments
素敵!!
masami_yuri7
2020-02-21 20:21:37 +0000 UTC