【先行公開版】その目を奪われて
Added 2019-11-18 15:00:57 +0000 UTC「それでは、そちらにお掛けになってお待ちください」 受付の女性の言葉に、私、雁野志那は「はい」と答えて、待合室の椅子に腰掛けた。 彼女から受け取った診察券を懐にしまいつつ、私は辺りを見渡した。 私は警察の特殊捜査課に所属しており、日々様々な捜査に明け暮れている。 今日は、妙な噂が立っているこの眼科クリニックに、一人の患者として潜入しに来た。 妙な噂と言うのは、この眼科を利用した客の内、若い女性が利用する前に比べて違和感を持って帰って来るというものだ。 本人からの情報こそないものの、彼女等の家族や友人曰く、この眼科に行く前に比べて目に覇気が無くなり、不自然な外出や外泊が増えたとのこと。 これらもあくまで噂程度の話で、通報を受けたものではなく、警察の本部も杞憂によるものとして処理している。 しかし、それでもあまりにもこれらの噂が多いため、特殊捜査課で独自で調査を行うこととなった。 とはいえ……と、私はスマホを構うフリをしながら、不自然にならない範疇で辺りを観察した。 この妙な噂が後を絶たない為に、どんな奇怪な見た目をした病院なのかと思ったが、少なくとも待合室自体は普通だった。 白を基調とした清潔感のある部屋に、黒いクッションが取り付けられた木造の椅子が二列程並んでいる。 壁に備え付けられたテレビでは、地上波でやっている昼間のバラエティ番組が流れている。 隅の方にある本棚には、雑誌や新聞の他に、有名な週刊漫画雑誌や漫画の単行本、絵本などが並んでいる。 待合室には私の他にも数人程患者がおり、年齢や性別も多種多様だった。 ……待合室のみで判断できるものでもないが、これだけ見ていると、ごく普通の病院のようだ。 外装自体は普通か……となると、問題は……。 「雁野さーん。雁野志那さーん」 その時、名前を呼ばれた。 私はそれにスマホを仕舞い、「はい」と答えて椅子から立ち上がった。 すると、彼女はニコッと笑みを浮かべ、近くの部屋を手で示した。 「こちらで検査をするので、お入り下さい」 「分かりました」 そう答えつつ入った部屋は、様々な機械がある場所だった。 壁には、学生時代に視力検査で見たような、黒い丸の内一方だけが切り取られたような大小様々な図形が描かれたパネルが掛けられている。 あまりこういう機材には詳しくないが、見たところ視力を測る機械が置いてあるみたいだ。 「それでは鞄はそこのカゴに入れて、こちらにお座り下さい」 女性の言葉に従い、私はカゴの中に鞄を入れ、言われた椅子に腰掛けた。 椅子に座ると、ちょうど目の前に、視力を測る機械が来る形となった。 「それでは、今から色々と検査をしていきますね。そちらのへこみに顎を乗せて、顎をこちらの黒い部分に当てて下さい」 「はい」 ひとまず指示に従い、言われた通りに顎を乗せて額を当てる。 すると、目と鼻の先にレンズのようなものがあり、それらがゆっくりと動いて私の右目の辺りに固定された。 「では、まずは右目から行きますね」 その言葉が終わると共に、目の前にパッと写真のようなものが現れた。 草原と青い空が広がっており、奥に赤い気球のようなものが見える。 「赤い気球が見えますか?」 「あ、はい、見えます」 そう答えつつ目の前に表示されている写真を見ていた時、その画像に異変が起こった。 草原と青空がグニャリと歪み、気球を中心にするようにして渦を巻き始めたのだ。 「渦を巻いているのが見えますか?」 「は、はい……見えます……」 「分かりました。では、しばらくその渦を見ていて下さい」 その言葉に従い、私は中心に向かって巻き続ける渦を見つめ続けた。 グルグル……ぐるぐる……中心に向かって、渦を巻く。 渦を見つめ続けていると、段々目が疲れてきて、瞬きが少しずつ増え始める。 それだけでなく、なんだか頭が働かなくなっていくような……思考が渦に吸い込まれるような感覚がした。 あれ、これ……ヤバいんじゃないか……? そう思って咄嗟に目を瞑ろうとした時、背後に立った誰かが私の両瞼に手を当て、グイッと強引に開いた。 「目を瞑ったらダメですよ~。しっかり目の前の渦巻きを見つめて下さいね~」 「あっ……あぁ……」 背後に立った女性の言葉に、私は言われるがまま、目の前でグルグルと渦巻く映像を見つめた。 気付けば先程見せられた画像の片鱗すら残っておらず、白黒の渦巻きが、中心に向かって渦巻いていた。 このままではまずいと、頭の中で警鐘が鳴り響く。 しかし、私の眼球は言うことを聞かず、目の前の渦巻きを見つめたまま動かない。 ぐるぐる……ぐるぐる……ぐるぐる……ぐるぐる……。 「ぁ……ぁぁ……」 見つめている内に思考力が吸い込まれていき、まともに思考することも出来なくなっていた。 目の前の渦巻きをひたすら見つめていると、なんだか頭がボーッとして、まるで眠りにつく寸前のような心地よさが漂う。 少しでも気を緩めると風に飛ばされてしまいそうな浮遊感の中、私はぼんやりと虚空を見つめながらも、なんとか渦巻きを視界に収めていた。 「はい、右目は大丈夫です。じゃあ次、左目行きますね~」 「ぁ……ぁぃ……」 「あぁ、もう答えなくても大丈夫ですよ」 女性の言葉が聴こえると同時に、機械を操作するような音がした。 すると、目の前の渦巻きの映像が消え、レンズが私の左目の方へと動いて行った。 その様子をぼんやりと眺めていた時、私の瞼を押さえていた手が、気付けば離れていたことに気付いた。 いつの間に、と僅かに驚いたが、左目の方に移動したレンズの向こうでまた先程と同じ渦巻きの映像が始まったことにより、私の思考はすぐにそちらに移る。 ぐるぐる……ぐるぐる……ぐるぐる……ぐるぐる……。 相変わらずの白黒の渦巻きが、中心に向かって回転する。 私はそれを、何もせずに見つめる。 ただただ中心に向かって回転していく渦巻きを、ただぼんやりと見つめ続ける。 中心に……中心に……ぐるぐる……ぐるぐる……。 「では、次は視力検査をしますので、移動して下さい」 女性の言葉に、気付けば渦巻きの映像が終わっていたことに気付いた。 一体どれくらいああしていたのかと少し驚いたが、すぐに些細な問題だと思い直し、私はフラフラと立ち上がった。 やけに動きが重いというか……頭がぼんやりして、体が重たいというか……。 覚束ない足取りだったが、私は何とか言われた椅子に腰を下ろし、背凭れに体重を預けた。 椅子に座った瞬間、体から瞬く間に力が抜け、まるで人形のように足を投げ出してぼんやりと虚空を見つめた。 すると、背後から左目がソッと覆われた。 「今、目の前にCの字みたいな図形があるのが分かりますか?」 言われて前方に視線を向けると、確かに、目の前の壁には先程見た視力検査表のようなパネルがあるのが分かった。 「はい……みえます……」 「では、今から示す図でどこが途切れているのか言って下さいね」 その言葉と共に、部屋の電気が消え、パッと一番上の図形が明るくなった。 どうやら、あのパネルは電子掲示板のようなものになっているらしい。 部屋が暗くなったのは、見えやすいようにという配慮だろうか。 「……みぎ……」 「はい。では次」 その言葉と共に、一個下の図形が照らされる。 またそれに答えると、また一個下の図形が照らされた。 「ひだり……した……うえ……みぎ……みぎした……ひだり……」 照らされる図形でどこが途切れているのかを、左目を覆われたままひたすら答えていく。 視力は両目とも2.0を誇っているので、この程度の視力検査を答えることは造作も無かった。 一番下まで答え切ると、私の背後に立った女性は「わぁ……!」と声を上げながら私の目から手を離し、パチパチと小さく拍手をした。 「凄いです! 全問正解ですよ! では、次は左目ですね」 そう言うと、彼女は私の右目を手で覆った。 すぐに一番上の図形が照らされるので、私はまた上から順番に答えていく。 言われるがままに答え続け、あっという間に一番下の図形に行き着く。 すると、女性は「凄い凄い」と言いながら私の顔から手を離し、もう片方の手に持ったリモコンのような機械を操作した。 すると、目の前にある視力検査表が消え、何やら文章が表示された。 「それじゃあ、目の前に表示される文章を口に出して読みなさい」 その言葉に、私は目を凝らした。 『私はお人形』 「わたしは……おにんぎょう……」 言われるがままに読み上げると、パッと目の前の文章が切り替わった。 『お人形だから心は無い』 「おにんぎょう、だから……こころは、ない……」 文章が切り替わる。 『お人形だから何も考えない』 「おにんぎょう、だから……なにも、かんがえない……」 文章が切り替わる。 『私は素直なお人形』 「わたしは……すなおな、おにんぎょう……」 『何を言われても疑いません』 「なにを、いわれても……うたがい、ません……」 『言われたことには何でも従います』 「いわれたことには、なんでも、したがいます……」 『何をされても逆らいません』 「なにを、されても……さからい、ません……」 『私は命令に絶対服従の従順な人形です』 「わたしは……めいれいに、ぜったい、ふくじゅう、の……じゅうじゅんな、にんぎょう、です……」 『私は……』 読み上げる度に、文章が切り替わっていく。 その度に私は、表示される文章を声に出して読み上げた。 何が書いてあるのか、何を読んでいるのか、なぜこんなことをしているのか……何もわからない。 ただ、文章を読み上げるとその言葉が頭に染み込んで、心の奥に刻み込まれていくような感覚がした。 『私はお人形』 しばらくすると、そんな文章が表示される。 先ほど読んだような気がしなくもないが……気のせいだろうか? いや、私は何も考えずに命令に従う絶対服従の人形なのだから、考えたらダメだ。 言われた通りに読み上げないと……。 「わたしは、おにんぎょう……」 『お人形だから心は無い』 「おにんぎょう、だから、こころは、ない……」 表示される文章を、淡々と読み続ける。 すると、背後からスッと手が伸びてきて、片方の手は私の服の上から胸を揉み、もう片方の手は私のズボンとショーツの中に潜り込んで私の秘部をまさぐる。 私は何をされても逆らわないお人形なので、その手に身を委ねながらも、目の前に表示された文章を読み上げ続ける。 『私は素直なお人形』 「わたしは……あッ……♡ すなおな、おにんぎょう……」 『何を言われても疑いません』 「んッ……なにを、いわれても……んぁッ……♡ うたがい、ません……」 『言われたことには何でも従います』 「いわれた、ことには……んんッ……♡ なんでも、したがいます……♡ あぁッ……♡」 下腹部から伝わってくる甘美な刺激に、文章を読み上げる声に嬌声が混じる。 嬌声を上げると脳髄が火照り、先程よりも読み上げた文章が頭の中に入ってくるような感覚がした。 文章を読み上げると――逆らわずに命令に従うと、こんなにも気持ちよくなれるのか。 しばらくすると、胸を揉んでいた手は胸元のボタンを外し、こちらも服の中に侵入してきた。 手は無造作に私の胸元に伸びると、今度は直に愛撫してくる。 時には乳房を鷲掴んで揉みしだくように、時には中心の突起を集中的に刺激するように。 「わたしはッ……♡ んんッ……♡ めいれい、に……♡ んぁぁッ……♡ ぜったい、ふくじゅう、の……♡ あぁあッ……♡ じゅうじゅん、な……♡ にんぎょう、です……♡ あぁぁッ……♡」 与えられる快楽が大きくなればなるほど、口から洩れる嬌声も増え、呼吸が荒くなり言葉も途切れ途切れになる。 胸と下腹部が攻められることで与えられる快感が、私の体の中に蓄積されていき、体を火照らせる。 それでも何とか目の前に表示される文章を嬌声混じりに繰り返し読み上げ、火照る頭に刻み込んでいく。 しばらく読み上げるとまた見覚えのある文章が表示されるので、また同じように読み上げる。 読み上げて、読み返して、繰り返して、繰り上げて、何度も何度も火照る脳に刻み込んでいく。 「はい、もう良いですよ」 「わたしは……♡ はぁ……♡ はぁ……♡」 永遠に続くかに思われたその行為は、突然部屋が明るくなるのと同時に放たれた言葉によって、強制的に終了される。 ずっと私の体を蝕んでいた甘い刺激も止み、視界が明るくなる。 私は椅子の背凭れに背中を預け、甘く疼く体を鎮めるように、荒い呼吸を何度も繰り返した。 「それじゃあ雁野さん。“診察”をするので、“診察室”に来て下さい」 「はい……♡ わかりました……♡」 女性の言葉に従い、私は甘く疼く体に叱咤して、フラフラと立ち上がった。 服が乱れたままだったが、今はそれよりも命令に従うことが最優先だと思い、そのまま部屋を出て診察室に向かう。 案内された部屋に入ると、そこでは病院の診察室のような部屋に、長い髪の女性が一人、椅子に座ってこちらを見ていた。 「こんにちは。どうぞ、こちらにお座り下さい」 「はい……♡」 女性の言葉に従い、私は椅子に腰かけた。 すると、女性はパソコンに映った何かと私を何度か交互に見比べてから、口を開いた。 「それじゃあ、今日は一体どうされたのですか?」 「きょうは……きのう、から……ひだりめが、いたくて……」 女性の言葉に、私は事前に用意しておいた口実を口にした。 すると、彼女はニコニコと笑いながら何度か頷き、ゆっくりと口を開いた。 「……それで、本当は?」 「……この、がんかくりにっくに、ちょうさにきた……けいさつかん、です……」 「へぇ……警察官」 感心した様子で言いながら、彼女は引き出しから、何かカードのようなものを取り出した。 よく見るとそれは、私が受付で出した保険証だった。 彼女はそれをヒラヒラと軽く振りながら、続けた。 「これ、偽物にしてはよく出来てると思ったのよ。……警察なら、これくらいのクオリティのものも用意出来るわよね」 「はい……こういう、ちょうさの、ために……つくって、もらい、ました……ほんものに、ちかいもの、です……」 「なるほどねぇ……でも残念ね、見破られちゃって」 「はい……ざんねん、です……」 私の答えに、女性はケラケラとどこか馬鹿にするように笑いながら、持っていた保険証を部屋の隅に向かって放り投げた。 投げられた保険証は壁にぶつかり、床に落ちる。 それをぼんやりと眺めていると、彼女は椅子から立ち上がり、私の前まで歩み寄った。 「調査に来た人が男かタイプじゃない子だったら、普通に診察だけして帰したんだけど……こんなに綺麗な子が来たら、手を付けないわけにはいかないわよね」 女性はそう言いながら私の両頬を包み込むように手を添え、グニグニと乱雑に揉んで来る。 感触を楽しむように頬を揉む女性を、私はぼんやりと眺めた。 彼女が何を言っているのかはよく分からないが、私のことを気に入っているらしい。 しばらく私の頬の感触を堪能した彼女は、私の口の中に両手の親指を突っ込み、グイーと両側に引っ張った。 「ふぇぅ……」 「ぼんやりとした表情も可愛いけど、やっぱり女の子は笑顔が一番似合うわ。……志那、笑顔になりなさい」 彼女はそう言うと、私の口から手を離した。 私はそれに、すぐに口元に笑みを浮かべてみせる。 すると、彼女はクスクスと上機嫌に笑った。 「本当に可愛い子♪ 他の職員の子達も気に入っていたみたいだし、これから可愛がってあげないとね」 「はい……♡ たくさん、かわいがって、ください……♡」 可愛がるという言葉に、先程感じた甘い刺激を思い出し、私は僅かに身を震わせた。 すると、彼女はニヤッと怪しく笑い、私の唇を乱暴に奪った。 後頭部を掴まれ、口の中に舌がねじ込まれる不思議な感覚に、私はビクビクと肩を震わせた。