艶美な舞いに狂わされ1-1
Added 2019-10-25 15:03:36 +0000 UTC「ライジングスラッシュッ!」 叫びながら、私は剣を強く振るった。 すると光の刃が飛んで行き、こちらに向かってきた魔物数匹を切り裂く。 切り裂かれた魔物は真っ二つになり、数瞬後に光の屑となって消え去る。 私はそれを気にせずに剣を構え、他の魔物を睨む。 「ファイアメテオッ!」 その時、背後からそんな声がした。 咄嗟に振り返ると、いつの間にか背後に数匹の魔物が迫っていた──が、それら全てに火の球がぶつかり、燃え尽きる。 私はすぐに体の向きを戻し、残っていた魔物に向かって剣を振り上げる。 大分魔物が広範囲に散らばっている。ここは、さっきのライジングスラッシュではなく……。 「ウィングブレードッ!」 叫び、私は剣を振るう。 すると猛風が吹き荒れ、風の刃が辺りに散らばった魔物を切り裂く。 辺りにいた魔物の群れが光の屑になっていくのを見つめながら、私は小さく息をついた。 すると、どこからかファンファーレのような派手な音が鳴り響いた。 『YOU WIN!』 『経験値が一定に溜まりました!』 『ハナのレベルがアップしました!』 『Lv.94⇒Lv.95』 『スキルポイント入手!』 『剣技:メテオスラッシュを覚えました!』 「……おー……」 目の前に表示される文字の羅列を見て、私は小さく声を上げた。 すると、白いローブを着た少女が、トテトテとこちらに走ってきた。 「ハナ、お疲れ。HPは大丈夫?」 大きなとんがり帽子の下から上目遣いで言うのは、パーティメンバーであり幼馴染のユキだった。 背中まである空色の長髪に、同色のまん丸い大きな目をしている。 彼女の言葉に、私は「大丈夫」と言いつつサムズアップをする。 「さっきレベルアップしたから、HPもMPも全回復したし! ……あっ、ユキこそ大丈夫?」 「んーん。ハナが守ってくれたから、平気だよ」 私の心配に対し、ユキはそう言って、ヘニャっと笑った。 それに、私は「良かった」と笑い返した。 ここは、『ブレイブファンタジー』と言うVRMMOゲームの中だ。 ヘッドホンとバイザーがセットになったような機械でプレイするゲームで、どういう仕組みなのかはよく分からないが、ゲームの世界に入って全身で楽しむことの出来る最新の技術だ。 私達が生まれる少し前に生まれた技術らしく、今ではすっかりメジャーになっている。 で、この『ブレイブファンタジー』……通称ブレファンは、異世界で冒険出来る王道RPGということで、発売から日も浅いにも関わらず、物凄い人気を誇っている。 特にストーリーがあるわけではないが、多種多様な職業やスキルに恵まれ、装備も豊富。 機能も様々で、各々で好きなように異世界を楽しむことが出来、老若男女問わず絶大な人気だ。 まぁ、私も例外ではなく、発売前から宣伝の段階で目を付けており、幼馴染のユキを誘って一緒にゲームを始めた。 職業は、私は戦士でユキは魔法使い。 私は体を動かすことが好きだったし、ユキはあまり体を動かさなくて良い職業がしたいって言ってたから。 ユキは賢いし頭の回転も速いので、臨機応変さが重宝される魔法使いはすごく合っていた。 このゲームでは二週に一度更新されるランキングがあるのだが、ただ二人で楽しくゲームを遊んでいる内に、私達は毎回一位を取る王者に君臨していた。 周りからは尊敬の眼差しを向けられるが、私達は本当にただゲームを楽しんでいるだけなので、イマイチ実感が湧かない。 けど、ランキング一位になると多くの報酬や優遇があるので、少なくとも損は無い。 拠点としている町に着いた時、ユキはメニューを開いて時間を確認し、「あっ」と声を上げた。 「ごめん、ハナ。私もうそろそろ落ちないと……」 「もうそんな時間?」 「うん……本当にごめんね」 「良いって。じゃ、今日の報酬や戦利品は私がしまいに行っておくから、先に落ちといて良いよ」 「分かった! じゃ、また明日!」 ユキはそう言ってはにかむと、ログアウトしていった。 彼女のアバターが目の前からいなくなるのを確認し、私は小さく息をつく。 彼女の家は少し厳しいので、ゲームは夜の10時までと決まっているのだ。 まーそうやって時間を決めておかないと、没頭して徹夜するとかやりかねないしね。 私もユキが落ちるのとほとんど同時に落ちるようにしているし、時間を決めておくのは良いことだと思う。 けど、先にギルドの金庫にお金を貯金しておきたいし、手に入れたお宝もアイテムボックスにしまっておかなければならない。 私はさっさと済ませてログアウトしようと思い、冒険者ギルドに入った。 すると、ギルド内の酒場が、やけに賑わっていることに気付いた。 「……? 何だ?」 一人呟きながら、私は人ごみの方に向かって歩いて行った。 人ごみに割り込んで背伸びをしながら奥を見ると、酒場の一角にあるステージの上で、踊り子が踊っているのが見えた。 踊り子とはもちろん、多様にある職業の一つだ。 踊りや魅力を利用して仲間を鼓舞して能力を上げたり、敵を惑わして能力を下げたり等、仲間の支援を主に行う職業だ。 こういう職業に就く人は大体目立ちたがり屋が多く、レベルが高い人はこうしてどこかの酒場でライブを開いたりする。 周りにいた人々の話によると、今回ライブを開いている踊り子はその中でも特に有名な人らしく、中々の賑わいだった。 ここまで人気の踊り子となると……ちょっと気になるな……。 明日も学校だから、早めに寝なくちゃだけど……少しくらいは、大丈夫だろう。 そう思って、私はさらに人ごみを掻き分け、何とか人ごみの真ん中の方まで行った。 「……わぁ……」 その少女を見た瞬間、私は溜息をついた。 ステージの上で踊る少女は、なんていうか……すごく、綺麗だった。 露出の多いアラビアンのような衣装を身に纏い、建物の中に響き渡る音楽に合わせて舞い踊るその姿は、妖艶で美しいものだった。 ほんの少しだけの軽い気持ちで見に来たのだが……これは、有名なのも分かる。 私はその場で立ち尽くしたまま、その踊りに見惚れてしまう。 「……ッ」 その時、踊り子と目が合った気がした。 踊りの中の、ほんの一瞬。 流し目で……まるで、獲物を見つけた獣のような、どこか鋭さのある目だった。 艶美な舞踊の中に見えた一瞬の冷たさに、私の心は奪われ──。 『PVPを申し込まれました!』 「……えっ……?」 目の前に表示された文字に、私は素っ頓狂な声を上げた。 PVP……正式名称は『Player Versus Player』のことで、その名の通り、プレイヤー同士で戦うことを言う。 確かに、ゲーム内ランキングで常に一位を狙う私やユキを狙うプレイヤーは多いし、PVPを持ちかけられることは多いが……それはあくまで、町の外のフィールドでのことだ。 町の中でのPVPは、ゲームのルールでは問題無いが、ブレファン内での暗黙の了解で禁止されている。 というのも、町の中は主に休んだりするためにあり、戦う場所ではない。 中にはHP等もギリギリのところでやって来たようなプレイヤーもいるのだし、流石に町の中でのPVPは止めようということになっているのだ。 例外として、互いの合意があれば、他のプレイヤーの邪魔にならない範囲であれば構わない。 しかし、私はもちろん同意などしていないし、何より周りには他のプレイヤーがわんさかいるような状況だ。 一体誰が……と、腰に提げた剣の柄に手を添えて顔を上げたところで、私は目を見開いた。 なぜなら、私にPVPを申し込んできたのは……目の前のステージで踊っている、踊り子の少女だったのだから。 PVP時は相手の頭上にプレイヤー名が表示される仕組みになっているのだが、少女の頭上には、明らかに『ラプタ』と表示されている。 最初は見間違いかと思ったが、何度見なおしても、名前の文字が少女の頭の上で共に踊っているのだ。 「……なんで……」 小さく声を漏らした時……ラプタが、こちらに流し目を向けて来る。 目が合った瞬間、ドクンッ! と心臓が強く高鳴った。 『ラプタは【蠱惑の目配せ】を使った!』 『ハナは【誘引Lv.1】【混乱Lv.1】になった!』 目の前で、そんな文字が舞う。 しかし、私は少女と目が合っただけで、すぐに彼女の顔から目が離せなくなる。 PVPを持ちかけられたからには勝たねばならないと考えるのだが、なんていうか……頭がボーッとして、上手く思考が纏まらないのだ。 彼女に切りかかる方法を模索するものの、まるで思考に靄でも掛かったかのように、上手く物事を考えることが出来ない。 ただぼんやりとラプタの舞いを見つめてた時、彼女の踊りは、リズミカルなものから、どこか妖艶な物に変わる。 『ラプタは【誘惑の舞い】を使った!』 『ハナは【悩殺Lv.1】【誘惑Lv.1】になった!』 そんな文字が見えた途端、私の目にはもう、ステージで踊る少女の姿しか見えなくなる。 音楽に合わせて踊る少女の姿は、綺麗で……美しい……。 『【悩殺Lv.1】が【悩殺Lv.2】になりました!』 『【誘惑Lv.1】が【誘惑Lv.2】になりました!』 『【悩殺Lv.2】が【悩殺Lv.3】になりました!』 『【誘惑Lv.2】が【誘惑Lv.3】になりました!』 ピコピコと音を立てながら表示される文字すら、もう気にならない。 私はその場に立ち尽くしたまま、ラプタを見つめる。 すると、彼女はそんな私を見てほくそ笑み、踊りに織り交ぜて……手招きをしてきた。 『ラブタは【誘引の手招き】を使った!』 『ハナは【誘引Lv.1】【誘惑Lv1】になった!』 『【誘引Lv.1】が【誘引Lv.1】に統合されました!』 『【誘引Lv.1】が【誘引Lv.2】になりました!』 『【誘惑Lv.1】が【誘惑Lv.3】に統合されました!』 『【誘惑Lv.3】が【誘惑Lv.4】になりました!』 目まぐるしく変わる文字を見て、ようやく自分に状態異常が掛けられていることに気付く。 しかし、私にはそれを気にする暇も無かった。 だって……ラプタが、私を呼んでいるから……。 「行か……なく……ちゃ……」 小さく呟いた私の声は、酒場内に流れる音楽の音にかき消された。 けど、そんなことを気にするより前に、私の足は動き始めた。 自分で歩いているというよりは、勝手に動いているような……不思議な感覚。 まぁ、どちらでも同じこと。 とにかく、ラプタのところに向かわないと……。 そんな使命感に突き動かされ、私は、ラプタの元に向かった。 『【誘引Lv.2】が【誘引Lv.3】になりました!』 『【誘惑Lv.4】が【誘惑Lv.5】になりました!』 『【誘引Lv.3】が【誘引Lv.4】になりました!』 『【誘惑Lv.5】が【誘惑Lv.6】になりました!』 『【誘引Lv.4】が【誘引Lv.5】になりました!』 『【誘惑Lv.6】が【誘惑Lv.7】になりました!』 「……」 状態異常を知らせる文字が目まぐるしく変わっていくのを視界に収めながら、私は、人ごみの間を擦り抜けてステージの前まで歩いて行く。 観客の歓声を背中に浴びながら、私はラプタの顔を見上げる。 すると、彼女は舞いながら私を見て微笑み── 『ラプタは【魅了の投げキッス】を使った!』 ──投げキッスをしてきた。 人差し指と中指を唇に当て、弾くようにその手を客席に向ける。 その行動を目にした瞬間、まるで彼女の飛ばしたハートが心に突き刺さったような錯覚がした。 『ハナは【骨抜きLv.1】【魅了Lv.1】になった!』 「ぁ……ぁぁ……♡」 その文字が見えた瞬間、私の視界が、徐々に桃色に染まっていく。 段々体に力が入らなくなっていき、私はペタンとへたり込む状態で、ステージを見上げた。 彼女はへたり込んだ私のことなど気にする素振りも見せず、音楽に合わせて優雅に踊っている。 その姿は凄く綺麗で、見ていると心臓がキュンキュンと高鳴っていくのを感じる。 ラプタ……綺麗……♡ 床にへたり込んだまま見つめていると、彼女はチラリと見やり── 『ラプタは【蠱惑の目配せ】を使った!』 『ハナは【誘引Lv.1】【混乱Lv.1】になった!』 『【誘引Lv.1】が【誘引Lv.2】に統合されました!』 『【誘引Lv.2】が【誘引Lv.3】になりました!』 『【混乱Lv.1】が【混乱Lv.1】に統合されました!』 『【混乱Lv.1】が【混乱Lv.2】になりました!』 ──ゆっくりとステージの端に移動していく。 ぼんやりとそれを目で追っていると、彼女はステージから下り、ゆっくりと私に近付いて来た。 なんで……? なんで彼女が、私の所まで来てくれるの……? フワフワした頭の中でそんな風に考えていると、彼女は私の前に立ち、しゃがみ込んで── 『ラプタは【魅惑の口付け】を使った!』 『ハナは【恍惚Lv.1】【恋Lv.1】になった!』 「んんッ……!?」 ──唇を奪った。 たったそれだけで、私の頭はすっかりトロトロに蕩け、何も考えられなくなっていく。 目の前にいる少女が愛おしくて仕方が無い。 ぼんやりとしていると、彼女は私の目を見つめ、小さく笑みを浮かべた。 「……降参、してくれる?」 「は……はぃ……♡」 『YOU LOSE!』 『負けたので、ラプタに180G支払います』 すると、目の前にそんな文字が躍った。 かと思うと、私の胸元からコインのようなものが出現して、ラプタの胸に吸い込まれていった。 彼女はそれを確認すると、小さく笑みを浮かべ、私の頬に手を添えた。 「ありがとう♡」 嬉しそうにお礼を言うと、ラプタは私の頬にキスを落とし、またステージに上がっていった。 ぼんやりと惚けながら彼女の後ろ姿を見つめていたが、PVPが終わったからか徐々に状態異常が解除され、意識がハッキリしていく。 ハッと我に返った私は、すぐに立ち上がり、ステージに戻ったラプタを見つめた。 すると、彼女は私に目を向け、軽くウインクした。 「ッ……!」 そのウインクを見ただけで、条件反射のように胸がざわつく。 きっと、まだ先程の状態異常の余韻が残っているのだろう。 私は胸に手を当て、グッと拳を握り締めた。 私一人では、彼女には勝てない。 というか、相性が悪い。 状態異常への耐性が低く、回復法を持たない私では、彼女には敵わない。 きっと今すぐに不意打ちでPVPを仕掛けて切りかかっても、また同じような結果になるだけ。 結果として、私はステージの前で立ち尽くしたまま、彼女の踊りを見つめることしか出来なかった。