狼さんの目はどうしてそんなに綺麗なの?2.5
Added 2019-10-23 15:06:12 +0000 UTC窓の外から聴こえる小鳥の声に、ボクは重たい瞼を開いた。 すると、窓から差し込んでくる朝陽が眩しくて、ボクはすぐに目を細めてしまった。 まだ覚め切っていない頭でぼんやりしていると、ボクの胸の中で、昨日抱いた少女が小さく身じろぎをしたのが分かった。 「……あぁ、起こしちゃったかな?」 そう聞きながら、ボクは彼女の頭を撫でる。 彼女は綺麗な赤髪で、朝陽の光を反射してキラキラと輝いていた。 ボクの声に目を覚ましたのか、彼女はゆっくりとボクの胸の中で顔を上げ、ヘニャッとはにかんだ。 「れあんさま……♡ おはようございます♡」 「うん。おはよう、ラーヤちゃん」 虚ろな目にどこか熱を帯びさせながら言うラーヤちゃんにそう言いながら、ボクは彼女の額に唇を当てた。 すると、それだけで彼女の顔はドロドロに破顔して、それはそれは可愛い表情になる。 ボクはそれに微笑みながら、彼女の頭を撫でてやる。 「ホラ、蕩けていても良いけれど、そろそろ準備しないと。今日は友達が来るんでしょう?」 「あっ♡ そうでした……♡ すぐにじゅんびします……♡」 うっとりした表情のまま言うと、ラーヤちゃんはモゾモゾとベッドを抜け出し、朝の準備をするために部屋を出て行った。 彼女の後ろ姿を見送りながら、ボクは昨晩の営みにより雌の匂いが色濃くなるベッドの上で仰向けになった。 すると、頭の上に生えた獣耳が視界の上の方でピコピコと揺れた。 御覧の通り、ボクは人と狼の血が混ざった人狼だ。 今のような半獣人のような見た目でいることが多いが、耳と尻尾を隠して完全な人間になることも可能だし、その逆もまた可能だ。 普通の狼同様、人間を食う……が、正確には少し違って、人間の精気を食う。 食べ方は様々で、それこそ獣の姿でそのまま直接食べる人狼だっているし、吸血鬼みたいに血を吸ってそこから精気を摂取する人狼とかもいる。 ボクの場合は、こうして人と性行為をすることで、経口や接触で精気を吸い取ることが出来る。 精気の味わい方は人それぞれで、昔は自分に合った食事方法を探すために様々な食べ方を模索したものだ。 人狼に備わった能力の一つで、目に少し力を込めながら人間と目を合わせることで、言うことを聞かせることが出来る。 恐らく、ご先祖様が人間を捕らえて食事をする為に進化していって、今のボク達の能力として引き継がれているのだろう。 おかげで人間の捕食はスムーズに行く。 奴等は少しでも獣耳や尻尾を露出させながら近づけば食されることを恐れて逃げ惑うくせに、この能力を使えばすぐに虚ろな表情で無防備になり、先程まで恐れていた人狼の言うことに従順に従うのだ。 服を脱げと言えば脱ぐし、股を開けば開くし……極端に言えば、死ねと言えば即座に死ぬ。 まぁ、だからと言って調子に乗って人間を食べ過ぎれば、食人趣味がある輩によって人間が絶滅してしまう。 だからこそ、ボク達人狼は自分の空腹状態を鑑みながら、必要最低限の人間を食している。 「……ま、ボクは別に調整しなくても良いんだけどねぇ」 小さく呟きながら、ボクは体を起こしてベッドを下り、床に脱ぎ散らかしていた服から自分の服を見つけ出して着用した。 それから階段で一階に下りると、ラーヤちゃんが台所でせっせと朝ご飯を作っているのが見えた。 「……ラーヤちゃんっ」 名前を呼びながら、ボクは彼女の華奢な体を、背中から抱きしめた。 すると、彼女は「ひゃうッ!?」と可愛らしい声を上げながら、ビクッと肩を震わせた。 しかし、抱きしめたのがボクだと知ると、すぐに体から力を抜いてボクの抱擁に身を委ねた。 「レアン様……待って下さっていれば、二階まで持って行きましたのに……」 「フフッ、ごめんね。ラーヤちゃんに会いたくて」 そう言いながら、ボクは彼女の頬に手を添えて、唇を奪う。 朝だし、まだ起きたばかりなので、あまり激しくはしない。 これから彼女が友達と会うことも踏まえると、あまり精気を吸い過ぎても良くないし。 だから、ボクは少し彼女の唇を舐めて朝食分の精気を軽く吸い取ってから、口を離す。 すると、彼女はもっとして欲しいと言った表情で迫ってくるので、ボクはその唇に人差し指を当てて制止する。 「今はもうダメ。……早く朝の準備をしないと、お友達が来ちゃうよ?」 「んぅ……はい、分かりました……」 ボクの言葉に、ラーヤちゃんはどこか不満そうにそう言うと、すぐに朝食の準備を再開した。 しかし、この能力は本当に使い勝手が良い。 この能力と合わせて快楽と共に暗示を刷り込めば、それはもう洗脳という形でその人の心に消えない傷となって刻み込まれる。 あと、この能力を使用した時の人間の反応が好きだ。 あれだけ人狼を恐れる人間が、この能力を使った途端恐れていた人狼に対して従順になって何でも言うことを聞くようになるのは、とても可愛らしいと思う。 人狼は好む人間の年齢や性別も人それぞれで、ボクは主に若い女の子を好む。 精気の味もあるけど、単純にボクの好みもあるかな。 だって、ボクが少しでも獣耳と尻尾を出して近付いただけで悲鳴を上げながら腰を抜かすような女の子が、ちょっと目を合わせただけですぐに喜んで股を開く姿はすごく滑稽で可愛らしいじゃないか。 数ヶ月前に出会った女騎士なんかは、ボクを見た途端剣を振り上げて果敢に戦おうとしたが、目を合わせて命令をした瞬間喜んで体を差し出してきた。 このラーヤちゃんなんかもそうだ。最初はボクを見て凄く怯えていたのに、今では自分からキスをせがむ可愛い変態さんになってしまっている。 そういえば、今日来るラーヤちゃんのお友達も、彼女と同い年の女の子らしい。 写真とか苦手な子だから、顔写真は無いらしいけど、とても顔が整った綺麗な子らしい。 あんなに美人なラーヤちゃんにそこまで言わしめる程のお友達……今から期待が込み上げてくる。 そんなこんなで朝食を食べ終えたボク達は、リビングで少し紅茶でも嗜みながら、お友達の到着を待った。 ラーヤちゃん曰く、お友達は人狼に対して敏感な子らしいので、獣耳と尻尾は隠しておいた。 別に、怖がられても目さえ合わせればこちらのものなのだから、関係無いとは思うが……。 そんな風に考えつつしばらくのんびりしていた時、玄関の扉をコンコンとノックする音がした。 「はぁい」 ラーヤちゃんはそう言いながら、玄関の方に向かって行った。 さてさて、お待ちかねのお友達ちゃんを拝見させて頂きますか。 そんな風に考えながら玄関の方を見ていると、ラーヤちゃんは扉を開け、外にいたお友達を招き入れた。 「遅れてごめんね。手土産を用意するのに時間が掛かって」 そんな軽い口調で言いながら、友達らしき女の子が入ってくる。 茶色の髪を短く切りそろえ、橙色の目をした少女。 その目は利発そうで、どこか知的な雰囲気を帯びている。 確かに彼女の顔は整っており、ボクのような中性的な顔立ちをしつつ、女の子らしい可愛らしさを備えた綺麗な顔だった。 ……そして、その手には死んだ鴨の首が掴まれており、ダランと重力に従って鴨の体が垂れ下がっている。 肩には長い銃口の猟銃を掛けており、着ている服も、女の子というよりは猟師が着ているようなものだった。 彼女はラーヤちゃんに鴨の死骸を預けると、ボクの方に視線を向けて首を傾げた。 「えっと……貴方は誰ですか?」 不思議そうに尋ねてくる少女の言葉に、ボクは頬を引きつらせた。 これはまた……癖の強い子が来たな……。 「ボクはレアン。えっと……」 「レアンさんは旅人みたいで、この近くで怪我して動けなくなっていたところを保護したの」 返答に迷っていると、ラーヤちゃんがそう助け船を出してくれた。 ありがとうラーヤちゃん! と内心で感謝していると、猟師のような格好をした少女は「ふぅん」と小さく呟いた。 すると、ラーヤちゃんはハッとした表情を浮かべ、すぐにボクに体を向けて少女を手で示した。 「レアンさm……レアンさん。こちらは私の友達のロビン・フィッシャーマンです」 「……ロビンです。よろしくお願いします」 ラーヤちゃんの紹介に、ロビンちゃんはそう言うとペコッと軽く頭を下げた。 それにボクは微笑み返し、「よろしく」と返しておいた。 しかし、まさかラーヤちゃんのお友達が猟師とは思わなかったな。 けど、それならラーヤちゃんの言っていた、人狼に対して敏感というのも分かる気がする。 猟師なら獣姿の人狼くらいは狩猟しているだろうし、獣耳や尻尾を生やした人狼だって何匹か見ているかもしれない。 彼女は立ち振る舞いから察するにかなりの敏腕みたいだし、反射神経なんかも良さそうだ。 もしも獣耳なんかを生やしたままにしていたら、入室した時点で射殺されていたかもしれない。 「じゃあ、ロビンちゃんの分の紅茶も淹れてくるから座っていてね!」 ラーヤちゃんはそう言って、赤髪を靡かせながら台所の奥に消えていく。 彼女の後ろ姿を見送っていると、ロビンちゃんは持っていた猟銃を両手でしっかりと構え、銃口をボクに向けてきた。 おっと……流石にこの展開は予想外。 驚いていると、彼女は訝しむようにボクを見つめ、その橙色の目を細めて口を開いた。 「レアンさんって……本当に旅人、ですか?」 「……と、言うと?」 「……人狼だったりしませんか?」 おーや、いきなり図星を突かれた。 ボクは出来るだけ表情を変えないように気をつけながら、頬杖をついて微笑み、「なんで?」と聞き返す。 すると、彼女は引き金に掛けた指を若干強張らせながら、続けた。 「だって、旅人にしては軽装すぎますし、身のこなしも旅人のものでは無いです。……何より、さっきからこの家、獣の匂いがプンプンしてるんですよ」 「……へぇ?」 「……人狼、ですよね?」 そう言いながら、彼女は銃口をゆっくりとボクの眉間に向けてくる。 まだ撃ってこないということは、確証は無いのだろう。 いや、そもそもこの人間体状態から人狼を見抜ける方が希少なのであって、むしろヒント無しに気付けた彼女は称賛に値する。 しかし、それでも確証がないのであれば、いくらでも誤魔化すことは出来る。 彼女の観察眼が優れていることは十分に分かった。 上手くこの場を誤魔化せば、後は「二人の邪魔みたいだから」とでも言って別室で待っていれば良い。 ……だが……。 「あぁ。人狼だよ」 「ッ……!」 ボクの言葉に、ロビンちゃんはカッと目を見開いた。 しかしすぐにギリッと歯ぎしりをしてこちらを睨み、すぐさま引き金を引く。 パァンッ! と乾いた音を立てて射出された銃弾を、ボクは首を左に傾ける形で躱す。 すると、銃弾はボクの左目下を掠め、背後にあった壁にぶつかる。 ツー……と血液が頬を伝うのを感じつつ、ボクはすぐさまテーブルの上に乗り上げ、ロビンちゃんに距離を詰めた。 「くッ、来るなッ!」 叫びながら、彼女は銃弾を装填し直す。 しかし、それが終わるよりも先に、ボクは銃口を掴んで強引に逸らしつつ、もう片方の手でロビンちゃんの肩を掴んだ。 恐怖からか大きく見開かれた橙色の瞳と、ボクの真紅の瞳が交わる。 「はぁッ……はぁ……はぁっ……」 彼女の呼吸が荒くなり、ボクの顔に掛かる。 ボクの頬から伝った血液が彼女の顔に落ち、白い頬を赤く染める。 力関係だけなら、人間よりもボク達人狼の方が上。 猟銃を持っている為両手は塞がっており、自由は効かない。 この状況なら、逃げることは出来ない。 それを彼女の方も理解しているのか、見開かれた目に涙を浮かべ、訪れるであろう死に恐怖する。 大丈夫、殺しはしない。 ボクは彼女の目を覗き込み、自分の目に力を込めた。 すると、ボクの目を見た彼女の表情は一変。 ピクッと肩を震わせたかと思うと、徐々にその目から力が抜け、自我の光が消えていく。 猟銃を持った手はダランと力無く垂れ下がり、肩からも緊張が解けていく。 警戒心を露わにしていた顔からは表情が失せ、ぼんやりしたような虚ろな表情を浮かべていた。 「……猟銃を手放すんだ」 耳元でそう囁いてやると、ガシャンッと音を立てて、猟銃が床に落下する。 それにボクは「良い子だ」と囁きつつ、彼女の肩を抱き、ソッと抱き寄せた。 こうして近くで見ると、やはり綺麗な顔をしている。 こんなに可愛い子を見逃すなんて、ボクのポリシーに反するからね。 「さて……どうやって食べてあげようかな」 そう呟きながら、ボクは銃弾が掠めた傷から伝う血液を舌で舐め取り、ロビンちゃんの顎に手を当ててクイッと顔を上げさせた。 彼女はすっかり成すがままになっており、ボクの行為に一切抵抗を示さずに従っている。 試しに唇に指で触れてみるが、やはり反応は無く、虚ろな目でボクを見つめていた。 あぁ、やっぱりこの瞬間が、一番興奮する。 ボクに警戒心を示して恐怖を露わにしていた少女が、瞬く間にボクの命令に従う傀儡となる瞬間。 ゾクゾクと背筋を走るような嗜虐心に酔いしれつつ、ボクはロビンちゃんの目を見つめ、微笑んだ。 「いただきます」 一言呟いてから、ボクは彼女の唇を奪った。 「……ッ……」 その時、ビクンッと彼女の肩が震えた。 特に気にせずに舌を入れようとしていた時、「んんーッ!」とくぐもった声を上げながら、彼女の手がボクの体を強く押し返してくるのを感じた。 「……!?」 「離せって言ってんだよッ!」 叫びながら、彼女はボクの腹に足を当て、蹴り飛ばしてきた。 それにボクは体勢を崩し、その場に尻餅をつく。 その間に、彼女は口を拭いながら猟銃を拾い、銃口をボクの眉間に向けて来た。 「この、ケダモノ……!」 「ッ……」 忌々しそうに睨みながら吐き捨てるように言うロビンちゃんに、ボクは声を詰まらせた。 まさか、あの状態から意識を復活させるなんて……! 流石にこの状況はマズイと判断したボクは、すぐさま立ち上がり、近くにあった窓をぶち破って外に飛び出した。 背後から銃声が聴こえて来るが、関係無い。 ボクはすぐさま完全な獣へと姿を変え、四足歩行ですぐさま森の中へ駆け込んだ。 「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」 銃声が聴こえなくなってからもしばらく走り続けたボクはひとまず人狼体に姿を変え、近くにあった木に凭れ掛かった。 危なかった。と言うより、予想外だった。 今まであの状態から意識を回復させた者はおらず、皆ボクの成すがままになるのみだった。 あそこから自我を取り戻すとは……。 「……面白いね……」 汗を拭いながら、ボクはそう小さく呟いた。 面白い人間だ。次こそは、絶対に食って見せる。 しかし、今は少し分が悪い。 逃げることで体力を使ってしまい、今あの家に戻っても、また銃で撃たれるだけの話。 ひとまず精気を蓄えて、体を癒そう。 そう考えたボクはフラフラと立ち上がり、餌を探して森を歩き始めた。