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あいまり
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歪んだ戯曲を紡ぐ時 九人目

 コンコン、と二回、扉をノックする音がした。  それに、私はパソコンで文字を打ち込む手を止めぬまま、「どうぞ」とだけ答える。  すると、扉を開けて、ノックの主が入室してきた。 「……失礼します」  静かな声でそう言ったのは、我等が劇団『クリノス』の脚本家を務める、榊シノブだった。  彼女は手に数十枚程の紙を持っており、私を見て口を開いた。 「あの……新作の戯曲を書き終えたのですが……」 「……そう。今は手が離せないから、そこに置いといてもらえる?」  パソコンの画面を見ながら、私はそう言いつつ、手近にテーブルの空きスペースを指で軽く示してそう言って見せた。  すると、シノブは小さく頷き、テーブルに近付いた。  書類を置くと、彼女は手持ち無沙汰になった両手の指を絡め、何かを言いたそうにモジモジとし始める。  彼女の様子に、私は文字を打つ手を止め、顔を上げた。 「……どうしたの? 他に、何か用?」 「……あの……新作、書いた、ので……ご、ご……」  そこまで言って口ごもるシノブに、私は内心で「あぁ」と呟く。  まぁ、仕事も九割は終わったし、そろそろ良いか。  私はパソコンから手を離し、途中までしていた作業を保存し、立ち上がる。 「……それじゃあ分からないわよ。用があるなら、しっかり言葉にしないと……」 「ッ……だ、から……あの……ご、ご褒美が……ッ! 欲しい、です……――んんッ!?」  言い切るシノブの唇を、私はすぐに自分の唇で塞ぐ。  息をする隙間も無い程に、ピッタリと蓋をするように……塞ぐ。  視界の中で、彼女が驚いた様子で目を見開いているのが分かった。  しかし、舌を入れて彼女の舌を絡め取ってやると、すぐにトロンと蕩けた。 「んッ……♡ んちゅッ……♡ んくッ……♡ ちゅるッ……♡」  ほんの数秒接吻を交わしただけで、彼女はすっかり興奮してしまったらしい。  甘い吐息と嬌声を上げながら、彼女は自分から舌を絡めて来る。  細い腰に両手を絡めてみれば、彼女の腰が興奮で震えているのが伝わって来る。  気付けば彼女も自分から私の腰に手を絡め、さらなる快楽を享受しようとするように、積極的に接吻を交わしてくる。  シノブを手中に収めてから、かれこれ半年の月日が経っていた。  あの後、彼女を使って他の劇団員も手中に収め、劇団『クリノス』は完全に私のモノとなった。  ……と言っても、表向きには今までと大した差は無い。  ただ、劇団員が皆、私の命令に絶対服従の傀儡となったくらいだ。 「……ぷはぁッ……」  しばらくして、なんとなく満足してきた頃に、私はシノブの肩を押さえてゆっくりと顔を離した。  すると、ツー……と、唾液で出来た透明の橋が私とシノブを繋いだ。 「ぅぁ……♡」  顔を離されたシノブは、恍惚とした表情を浮かべながら、蕩けた目で私を見上げてくる。  それに、私は彼女の頭を撫で、微笑んで見せる。 「まだ仕事の最中だから、今はここまで」 「……はぃ……♡」 「仕事が終わったら、たくさん気持ち良くしてあげるから……それまでは、良い子で待てる?」 「ッッッ♡」  私の言葉に、シノブの肩が分かりやすく震える。  彼女は内股になりながら、「はぃ♡ 待てます♡」と、淫靡な笑みを浮かべながら言う。  その時、ふと、テーブルに置いてある資料の中にある一つの雑誌が目に入る。  前に劇団『クリノス』の特集をしてもらったことがあり、その際に、チアキとエレナと……脚本家である、シノブが取材を受けたものだ。  シノブの頬を撫でつつ、片手でページを捲ってみる。  そこには、どこか知的な雰囲気を漂わせながら、取材に答えるシノブの姿があった。 「……まさか、あのクリノスの脚本家であり、若き天才なんて持て囃されてるシノブが、キスされただけでイッちゃうような変態だなんて……誰も想像しないわよね」  そう言いながら、私はシノブの髪を掻き上げ、耳に掛けてやる。  私の言葉の意味を理解しているのか否か、彼女は相変わらずうっとりした笑みを浮かべたまま、私を見つめている。  ひとまず彼女の頬にキスを落とし、私は途中で放置した作業に視線を向ける。 「……そういえば……残ってる仕事って……何なんですか……?」  私の注意がパソコンに向いたのを感じたのか、シノブはその表情から笑みを消し、そんな風に聞いて来る。  と言っても、その目は未だに覇気が籠っておらず、うっとりと蕩けたままだったけど。  彼女の問いに、私は「大したことじゃないわ」と答えた。 「ただ、クリノスのデータを少し整理していただけ。……ホラ、明日には、新しい劇団員が増えるって話したでしょう?」 「……あぁ……聞いた気が……します……」 「そう。だから、そのデータを整理していたところ。……あぁ、そういえば、これは伝え忘れていたわね」  私はそう言いながら椅子に腰かけ、その膝の上にシノブを座らせる。  彼女の頭を撫でながら、私は続けた。 「新しく入ってくる子も、私のモノにしなさい。……上手く出来たら、ご褒美あげる」 「ッ……♡ はいっ♡ 了解しました♡」  私の言葉に、シノブはビクビクと腰を震わせながら、そう答えた。 <桜井ミハル視点> 「ありがとうございました~」  お礼を言ってくる運転手さんに会釈をしつつ、私、桜井ミハルはバスを下りる。  肩に掛けた鞄の持ち手を握り直し、目的地に向かって歩き出す。  駅からバスで十分、さらにそこから徒歩五分の場所にある、大きな建物。  劇団『クリノス』専用の劇場が……そこにはあった。  ……うわぁぁぁ。マジで来た!  何度も来たことがある建物を目の前に、私はぴょんぴょんとその場で軽く飛び跳ねる。  劇団クリノス。四年前に創立し、女性のみの九人という少数精鋭で活動している劇団だ。  しかし、少人数の劇団にも関わらず、その劇のクオリティは高い。  役者、脚本、演出、衣装、大道具、小道具。  どれを取ってもそのレベルは高く、演劇マニアの中でも注目を集めている。  私も小さい頃から演劇が好きで、クリノスは劇団として活動を始めた当初から目を付けていた。  一年前に脚本家さんが代わったのはショックだったけど、新しく入った脚本家さんは、活動を始めた頃から推していた人だったので、これはこれで嬉しかった。  そして、今日からは……私も、この劇団の一員となる。  演劇好きが高じ、中学と高校は演劇部で役者をやっていた。  すると、高校三年生の時の最後の大会が終わった後で、何と劇団クリノスの管理人さんから直接役者としてのスカウトを受けたのだ。  こんなこと夢にも思っていなかったので、私は驚いた。  もちろん二つ返事で答え、年度が明けた今日、ついにクリノスとして正式に認められる。  ……緊張するなぁ……。  今日は顔合わせをする程度らしいが、それでも、ずっと憧れていたクリノスのメンバーに会うとなれば緊張してしまう。  劇団クリノスと言えば、何と言っても、その絆の強さに定評がある。  家族のように仲が良く、皆が互いのことを思い合っている強い絆で繋がれている。  そんな中に入る勇気無い。けど……頑張ろう。 「……よしっ」  小さく呟き、私は劇場に踏み込んだ。  今まで客として入っていた劇場に、初めて劇団員として入る。  緊張しながらも、私はスマホの画面を見ながら、待ち合わせの部屋を探す。  確か、一階の……多目的室だったはずだ。  しばらく辺りを見渡していると、それらしき扉を見つけた。  ……ヤバい。いざその時になると、かなり緊張してきた。  私は膝が震えるのを感じながら、必死に思考を巡らせる。  えっと……とりあえず、部屋に入ったら挨拶と……自己紹介をして……後は流れに任せよう!  ええいままよ! 私は覚悟を決め、扉を開けた。 「失礼しま――」 「ユ~リ~カ~! 今日という今日は許さねぇぞッ!」  扉を開いた瞬間、怒号が響き渡った。  突然のことに私は咄嗟にその場にピシッと直立し、部屋の中を見た。  ……どうやら、何やら言い争いをしているらしい。 「にゃー……そんなに怒んなくても良いにゃん~」 「あ゛ぁ゛ッ!? これが怒らずにいられるかッ! よりによって俺の脚本にジュース零しやがって!」 「わざとじゃないにゃん~」  そう言って目に涙を浮かべるのは……クリノスの『子猫ちゃん』こと、猫崎ユリカだ!  うわぁ……近くで見てみると、ホントに小さいなぁ……。  顔小さいし、着ている服が可愛い系なのもあって、なんかもう凄く可愛らしい。  怯えたように身を震わせるユリカを庇うように、一人の女性が間に入った。 「カオルさん、そんなに怒らなくても良いじゃないですか。ユリカさんだって悪気があったわけじゃないんですし……」 「だがなぁミズキ、コイツのせいで俺の脚本は読めなくなっちまった。脚本が読めないのに、どうやって舞台のセットを作りゃ良いんだよ!」  湿った脚本をバンバンと叩きながら言うのは、金髪に犬歯のおっかない見た目の人だった。  ていうか……カオルって名前に、舞台セットって……もしかして、大道具の湾道カオルさん!?  というか、ミズキって呼ばれているということは……仲裁に入ったのは、演出の音宮ミズキさんか!  長くて綺麗な黒髪をポニーテールにしており、黒縁の眼鏡をしている。  二人とも、裏方なのにすごい綺麗な顔……羨ましい……。 「……脚本なら、またコピーすれば良い話じゃん……大体、ユリカがこういうミスをするのはいつものことでしょ?」  呆れた様子で言うのは……脚本家の榊シノブさんだ!  彼女は雑誌で写真を見たことがあるから、顔は知っている。  少し冴えない感じはあるけど、顔は他のスタッフ二人にも負けず劣らずの美人だ。  彼女の言葉に、カオルさんは「ぐぅ……」と唇を噛みしめた。 「で、でもよぉ……」 「カオルちゃんはぁ、新しい団員さんが来るから緊張してるんだよね~?」 「い、イトカ……変なこと言うなッ」  ほんわかした口調で言う女性に、カオルさんはそう不満そうに言った。  イトカ……って、衣装のイトカさんか!  染めているのか、茶色のフワフワした髪をしている、柔らかそうな雰囲気の女の人。  え、ちょっと待って? 裏方のスタッフさんも美人さんばかりじゃない? 凄くない? 「……で、その新しい団員さんが来てるわけだけど……ご挨拶は?」  シノブさん以上に呆れた様子で言うのは……れ、レイカさんだぁぁぁッ!  艶やかな黒髪を靡かせ、切れ長のクールな眼差しで団員達を捉えている。  クリノスの『司令塔』と呼ばれている彼女は、劇団創立初期の頃からいる大黒柱だ。  クールで冷静沈着。凛としていて、云わばリーダーのような立ち位置にいる人だ。  うわぁ、本物だぁ……顔すっごい整ってる……肌綺麗……カッコいい……! 「フフッ、ごめんなさい? 慌ただしくて……」  そう言って微笑むのは……クリノスの『姫様』こと、姫川エレナさんだった。  彼女がフランス人のクォーターというのは、ファンの中では有名な話だ。  栗色の、ウェーブがかかった綺麗な長髪が特徴的で、彫りの深い西洋人形のような顔立ちをしている。  うわぁぁぁ~~~……近くで見ると顔ちっっっっさ!  ていうか肌綺麗! 白! 顔もすっごい整ってる! 「皆~。二階堂さん連れて来たよ~」  その時、背後から低い声がしたのと同時に、背中に何かがぶつかる衝撃を感じた。  しまった。ずっと扉の前で固まっていたから、入ってくる人の邪魔になってしまった。 「っあッ、ご、ごめんなさ……」  謝りながら振り向いた私は、背後に立っていた人の顔を見て、そのまま固まった。  なぜなら、そこに立っていたのは、クリノスの『王子様』であり私の最推しでもある、欧島チアキさんが立っていたからだ。  中性的な顔立ちに170cmを超える高身長で、パッと見男性に見える役者だ。  しかし、彼女の演技は素晴らしく、初めて彼女の演技を見た瞬間その心は奪われた。  クリノスは基本的に箱推しだが、その中でも彼女が特に好きだ。 「……えっと……大丈夫?」  推しが目の前に入る状況にフリーズしていると、チアキさんはそう言って首を傾げた。  お、推しが私に話しかけてくれてる……!  あまりの状況にそのまま凍ってしまいそうになるが、私は何とか我に返り、「大丈夫ですッ!」と叫んだ。  すると、チアキさんは優しく微笑み「そっか」と呟いた。 「あ、あああの……ご、ごめんなさい。邪魔しちゃって……ど、どうぞ……!」  どもりながらも、私はそう言いながら、道を空ける。  すると、チアキさんは「どうも」と言って笑み、部屋の中に入って来る。  お、お推しと同じ空間にいる……!? 「……全員揃っているみたいね」  緊張していると、チアキさんの後に続いて入って来た女性が、そう言って部屋の中を見渡す。  すると、先程までの団欒が一転し、全員の表情が引き締まる。  反射的に、私も表情を引き締め、その場に気を付けの体勢で立つ。  すると、女性は私をチラリと見やり、改めて皆に視線を向けた。 「今日は連絡した通り、今日から入る新しい団員を紹介するわ。……桜井さん、ここまで出てきて貰っても良い?」 「は、はい……」  女性の言葉に応じ、私は彼女の隣まで歩く。  ……って、うわー! 手と足が同時に出てるよ!  ロボットのようなぎこちない動きになっているのを感じながらも、何とか隣に立つ。  すると、女性はフッと優しく微笑み、改めて口を開いた。 「今日から役者として劇団に入る、桜井ミハルさんです。……桜井さん、挨拶を」 「ッ……さッ、桜井ミハルです! よ、よろしくお願いしみゃす!」  促され挨拶をするも、緊張のあまり噛んでしまった。  それに恥ずかしくなっていた時、劇団員の皆さんが拍手をしてくれたのが分かった。  ……恥ずかしい……。  恥ずかしさのあまり、穴があったら入りたいレベルだ。 「フフッ……それじゃあ、次は劇団員の自己紹介を始めましょうか」  小さく笑いながら言う女性の言葉に、私は「はい……」と小さく呟いた。 ---  あれから、クリノスの皆さんも自己紹介をしてくれた。  あの場を仕切っていた女性は、このクリノスという劇団の管理人を務める、二階堂ミチルさんと言う人だった。  ひとまず今日は顔合わせ程度だったので、自己紹介が終わった後は軽い挨拶をされて、明日から稽古が始まる脚本を渡されて解散となった。 「……はぁ……」  部屋を出た後、手持ち無沙汰になった私は、劇場のロビーにて一人落胆していた。  憧れていた劇団に入れたのは嬉しいけれど……緊張し過ぎて、上手くいかなかった。  皆さんは親しげに話しかけてくれてはいたけど、正直上手く返せていた自信が無い。  明日から上手くやっていけるのか……不安でしかない。 「はぁぁ……」 「溜息をつくと幸せが逃げちゃうんだよ」  そんな声がして、私は「へっ!?」と顔を上げる。  しかし、前には誰もいない。  幻聴……? と訝しんでいた時、首筋に生温かい何かが当てられた。 「ひぃゃッ!?」 「っと……大人しい子だと思っていたけど……案外騒がしい子だね?」  そう言って微笑むのは……脚本家の、シノブさんだった。  彼女は両手に湯気の立つマグカップをそれぞれ一つずつ持っており、私の背後に立っていた。  何の用だろうか、と困惑している間に、彼女は私の隣に腰かける。 「はい」  そう言って、マグカップを差し出してくる。  突然のことに「えっ?」と聞き返しながら、顔を上げる。  すると、シノブさんは優しく微笑み「ホットミルク」と続けた。 「ミハルさん……だよね? 挨拶の時、緊張してるみたいだったから、淹れて来たんだけど」 「あっ、なる、ほど……ありがとう……ございます……」  お礼を言いながら、私はホットミルクを受け取り、まずは一口啜る。  ほんの一口飲んだだけで、ほんのりと胸の奥が温かくなるような感覚がした。  さらに何口か飲んでいくと、その温もりは体中に広がって、体の芯からポカポカと温かくなっていく。 「……美味しい!」 「でしょう? 緊張したり、疲れてる時は、ホットミルクが一番だよ」  どこか得意げに笑いながら言うシノブさんの言葉に、私はハッと顔を上げる。  すると、彼女は自分の分のホットミルクを少し飲み、続けた。 「……ミハルさんの気持ち、私も分かるよ。……クリノスって、すっごい仲がいいから、最初は不安だよね」  優しい声で言うシノブさんに、私はなんだか意外に感じた。  シノブさんは、脚本家として活動を始めた頃から天才と呼ばれて、鬼才として崇められてきた。  だからこそ、住んでいる世界が違う凄い人だと思っていたので、まさか私と同じような悩みを経験したなんて思いもしなかった。 「……ミハルさんは、この後暇?」  驚いていた時、シノブさんはそう聞いてきた。  それに、私は今日の予定を思い出す。  ……うん。今日は、この後の予定は特に無いな。 「別に無いですよ」 「そっか。じゃあ、少しついて来て貰っても良いかな?」 「……? はい。大丈夫ですけど……どこにですか?」  なんとなくそう聞いてみると、シノブさんはフッと微笑み、口を開く。 「私の執筆部屋」 「しッ、失礼しますッ」 「あはは、そんなにかしこまらなくても良いよ」  挨拶をした私に、シノブさんは軽く笑いながらそう言った。  そんなことを言われても、ただでさえクリノスへの加入で緊張していたところに、若き天才と呼ばれたシノブさんの執筆部屋に入ることになるなんて……緊張するなと言う方が無理な話だ。  全演劇ファンからすれば、喉から手が出る程に焦がれる話だ。  こ、こんな幸運を私なんかが享受しても良いものなのか……。 「まぁ、適当にパイプ椅子でも広げて、座っておいて」  言いながら、シノブさんはマグカップを適当な棚の上に置き、本棚を漁り始める。  ひとまず、私は言われた通りに椅子を開き、腰かけた。  それから少しぬるくなったホットミルクを飲んでひと段落していると、シノブさんは「あったあった」と言いながら、何やら書類のようなものを取り出す。 「……それは、何ですか?」 「んっとね……没にした戯曲」  言いながら、シノブさんは私に少し埃の被った戯曲を差し出してくる。  咄嗟に受け取ると、彼女は優しく微笑んだ。 「読んでみて?」  言われた通りに、私は戯曲を読んだ。  A4の紙に縦書きで書かれているのは、まさに劇の脚本だった。  キャラクターのセリフとちょっとしたト書きだけで描かれる、一つのストーリー。  その内容は、没作とは思えない程に緻密で……でも、壮大で……引き込まれる。  ホットミルクをたまに飲みつつ読み進めていく内に、あっという間に終わってしまった。 「……読み終わった?」  私が読んでいる間、棚の辺りで何かを漁っていたシノブさんは、そう言いながらこちらに近付いて来る。  彼女の言葉に、私は「はいっ!」と答えた。 「……で、どう? 感想は?」 「すごく面白かったです! 設定とか作り込まれていて、キャラクターも個性的で、ストーリーも凄く面白くて……ホントに、全部良かったです!」 「……うん。ありがとう」  素直に褒めたつもりだったが、期待していた返事とは違っていたのか、シノブさんの反応は微妙なものだった。  そこで、私はこの戯曲が没作品であることを思い出す。 「そういえば……なんでこれ、没にしちゃったんですか? こんなに面白いのに」 「……納得いかなかったから」  小さく呟くシノブさんに、私は「え?」と聞き返す。  すると、彼女は私の持っている戯曲を一瞥し、小さく笑った。 「クリノスの皆はね、褒めてくれたよ。でも、私は納得いってない。台詞回しとか、場面転換のタイミングとか、ストーリーの展開とか……気になる部分は山ほどある」 「……そうですか」  シノブさんの言葉に、私は小さく呟きながら、手に持った戯曲を見つめた。  ……別に、気にならなかったけどなぁ……。 「……案外、自分が気にしてることって、相手からは分かりにくいものなんだよ」  そんな声がして、私は咄嗟に顔を上げる。  するとそこでは、シノブさんが優しく笑っていた。 「だから、ミハルさんが気にしてる程、クリノスの皆はミハルさんのことを阻害しようとしたりもしないし……皆、ミハルさんのことを歓迎しているよ」 「……そう、なんですか……」 「だから……そんなに気張らなくても、大丈夫」  言いながら、シノブさんは私の肩に手を置く。  触れられて気付いたが、いつの間にか、肩からはすっかり力が抜けていた。  椅子の背凭れに体重を預け、気付かぬ内にリラックスした体勢を取っていたらしい。  ホッとミルクのおかげかな……なんてぼんやりと考えていた時、どこからか甘いニオイが漂ってきていることに気付いた。 「……? なんか、甘いニオイがしませんか?」 「ん? あぁ、アロマを焚いたんだよ。……リラックス効果があるんだ」 「ほへぇ……良いニオイですね」  言いながら、私はスンスンと鼻を鳴らしてアロマの香りとやらを吸い込む。  確かに良い匂いだ……嗅いでいると、なんだか心地良い気分になってくる気がする。  スンスンと匂いを嗅いでいると、シノブさんが私の肩に触れたのが分かった。 「ミハルさん、今日はずっと緊張していたみたいだし……ここでゆっくりしていくと良いよ」 「……ゆっくり……」 「ホラ、もっとこのアロマを嗅いで……」  シノブさんの言葉に、私は大きく息を吸って、アロマの香りを嗅ぐ。  息を吸うと、アロマの甘い香りが脳まで直接届くような、不思議な感じがした。  私は大きく息を吸い、口から息を吐いた。 「はぁぁ……ぁぁ……」 「そういえば、呼吸を使ったリラックス方法があるんだよ」  言いながら、シノブさんは私の両肩を持ち、椅子の背凭れに体を預けさせるように軽く引っ張る。  私はそれに従い、椅子の背凭れに背中を預けた。  すると、途端に体から力が抜けて行き、椅子に沈んでいくような感覚に襲われた。  どこかフワフワした感覚を味わっていると、片手で両目を覆われ、もう片方の手をお腹にあてがわれた。 「じゃあ、ゆっくりと息を吐いて……肺から全ての空気を出すようなイメージで」 「……はぁぁぁぁ……」  シノブさんの言葉に従い、私は大きく息を吐く。  数秒掛けて息を吐いていると、少し苦しくなってきた。  私の吐息が浅くなったのが分かったのか、シノブさんが口を開く。 「それじゃあ、次はゆっくりと、三秒くらい掛けて鼻から息を吸ってみよう。お腹を膨らませるようなイメージで……はい、いち、にぃ、さん……」 「……すぅぅぅぅぅ……」  シノブさんに言われるがままに、私はお腹を意識しつつ、大きく息を吸う。  すると、アロマの甘い香りが、またもや私の鼻孔をくすぐった。 「し。はい、止めて」  シノブさんに言われ、私は呼吸を止める。 「じゃあ、私が十まで数えるから、今度はお腹をへこませるようなイメージで、口から息を吐こうか。はい、ごぉ、ろく、しち……」 「はぁぁぁ……」  シノブさんの指示に従い、私はゆっくりと息を吐く。 「……きゅう、じゅう。じゃあ、また息を吸って……いち、にぃ、さん、し……はい、息止めて……吐いて……ごぉ、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう……」  ゆっくりと優しい口調で言うシノブさんの言葉に従い、私は大きく深呼吸をする。  この呼吸法自体にあるリラックス効果の他に、アロマの香りも相まって、段々と頭がぼんやりし始める。  少しずつシノブさんからの指示は少なくなり、最終的には、彼女のカウントに合わせて深呼吸を繰り返すようになっていた。 「いち、にぃ、さん、し、ごぉ、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう。……いち、にぃ、さん、し、ごぉ、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう」  ゆったりとした口調で繰り返されるカウントに合わせて、私は大きく深呼吸を繰り返す。  お腹を意識しながら、息を吸って……止めて……吐く……。  息を吸って……止めて……吐く……。  繰り返していると、なんだか眠たくなってきて、意識が朧気になっていく。  瞼が重くなってきた時、シノブさんが私の目とお腹から手を離した。 「もう深呼吸は止めても良いよ」  彼女の言葉に、私は深呼吸を止めた。  それでも意識がフワフワした感覚は戻らず、瞼がほとんど閉じた状態のまま、浅く呼吸を繰り返す。  未だにシノブさんのカウントが頭の中で響き、それに合わせて小さく先程の呼吸を繰り返してしまう。  浅く深呼吸を繰り返しつつ、私はシノブさんの次の言葉を待った。 「……今、貴方はとても気持ちが良い状態にある。……そうですね?」 「……はい……とても、きもちいい……です……」  シノブさんの言葉に、私は無意識にそう答える。  彼女の言う通り、今、私はすごく気持ちが良かった。  頭がボーッとして、意識が朦朧としているすごく眠たいような状態は、なんだかとても心地良い。 「どうして、貴方は気持ち良いんですか?」 「それは……シノブさんの、言う通りに……呼吸をしたから……」 「そう。私の言ったことに従ったから、貴方は気持ち良い。つまり……私の言うことを聞くと、貴方は気持ち良くなる」  あぁ、なるほど……確かに彼女の言う通りだ。  彼女の言うことに従ったから、私はすごく気持ちが良くなっているのだ。  つまり、彼女の言うことを聞けば、気持ち良くなれる……。 「……はい……シノブさんのいうことを、きくと……きもちいい、です……」 「そう。気持ち良いことは、とても良いこと。間違っているはずがない。だから、私の言うことは全て正しい」 「きもち、いい……いいこと……まちがって、ない……シノブさんの、いうこと……ただしい……」  復唱していると、シノブさんの手がソッと伸び、私が履いているスカートの中に潜り込んだ。  そのまま、ショーツの中にも手が潜り込む。 「それじゃあ、試してみようか。……命令、右手を挙げなさい」 「……はい」  言われた通りに、右手を挙げた。  直後、秘部を何かに擦り上げられたような、強い快感が走った。 「んんぃッ!?」  情けない嬌声を上げながら、私はビクビクと体を震わせる。  何が起こったのか理解出来ずにいると、シノブさんが私の耳元で続けた。 「ホラ……言うことを聞いたら、気持ち良かったでしょう?」 「……ぁ♡」  シノブさんの言葉に、私は納得した。  そういうことか。  彼女の言う通りだ。彼女の言うことに従ったら、気持ち良くなった。 「もう一度やってみようか。……左手を挙げて」 「はぁ……はい……♡」  言われた通りに、左手を挙げる。  直後、強烈な快感が体中に走った。 「んんぁッ!♡」 「フフッ、良い反応。じゃあ、両手を下ろして」  シノブさんの言葉に、自分がずっと両手を挙げっぱなしだったことに気付く。  言われた通りに両手を下ろすと……またもや、快感が走った。 「んぁぁッ!?♡」  嬌声を上げながら、私はビクビクと体を震わせた。  一瞬、何が起こったのか分からなかった。  けど、少しして、先程の両手を下ろすという行為もシノブさんの言うことに従ったことになることに気付く。  あぁ……言うことを聞いたら気持ち良くなるって、本当だ……。  私が意識していなくても、気持ち良くなるのだから。  一人納得していると、シノブさんが私の耳に口を寄せた。 「大分良い顔になってきたわね……それじゃあ、今から私の言うことを復唱しなさい」 「……はい……♡」  シノブさんの言葉に、私はどこか夢見心地な感覚の中で答える。  頭がふわふわして気持ち良い……♡  何が起こってるのか良く分かんないけど……なんかもう、どうでもいいや……♡ 「私は、気持ちの良いことが好き」 「わたしはぁ……きもちのいいことがすき……♡ んぁぁッ♡」  復唱すると、また秘部に甘い刺激が加わる。  快感に震えていると、シノブさんが続ける。 「だから、気持ち良くしてくれるシノブ様のことが好き」 「だから……きもちよく、してくれる……しのぶさまのことが……すき……♡ はぁぁッ♡」 「だから、シノブ様の言うことには何でも従う」 「だから、しのぶさまの、いうことにはぁ……♡ なんでも、したがう……んんッ♡」 「私はシノブ様のモノです」 「わたしは……しのぶさまの、ものです……♡ んんッ♡」  そこまで復唱した時、今までとは違った感触が秘部に走った。  さっきまでの、擦られているような感触とは違う。  まるで、中に何かが入って来たような……。 「でも、シノブ様はミチル様のモノです」  考える間も無く、シノブ様は続ける。  それに、慌てて私は口を開いた。 「でも、しのぶさまは……みちるさまの、ものです……♡ ……んぁぁぁッ!?♡」  復唱した時、今までのものよりも強い快感が背筋を走った。  秘部を中心に全身に行き渡るような快感に、私は背中を弓なりにしながら喘ぐ。  しかし、休む間も無く、シノブ様は続けた。 「だから、私もミチル様のモノになります」 「だからぁ……はぁ……♡ わたしもぉ、みちるさまの、ものに……なります……♡ んぁぁぁぁッ♡」  グヂュッと、何やら嫌らしい感じの水音が響き、頭の中がスパークする。  目の前が真っ白になり、頭の中の色々な物が飛んで行く。 「ミチル様の幸せは、シノブ様の幸せ。つまり、私の幸せです」 「み、みちる、さまの……しあわせ、はぁ……♡ しのぶさまの、しあわせぇ……♡ つまり……わたしの、しあわせれすぅ……♡ んぁぁぁッ!♡」  休む間も無く、矢継ぎ早に襲い来る快感。  それに私は嬌声を上げ、身を震わせた。  すると、耳元でシノブ様が小さく笑ったのが聴こえた。 「だから、私はミチル様の命令に従う操り人形になります。……ここまで復唱出来たら、思いっきりイッてね」 「だ、から……わたしは……みちるさまの、めいれぇにしたがう……あやつり、にんぎょうに……なります……♡ ……ぁぁぁぁぁぁああああああッ!?♡」  復唱した途端、秘部からグチュグチュと激しい水音がした。  と思えば、今までの快感など比にならない程に強烈な快感が、一気に私の体を貫く。  まるで雷にでも打たれたかのような衝撃が全身に走り、頭の中が真っ白になる。  ビクンビクンと体が跳ねる度に、パイプ椅子がギシギシと音を立てる。  しかし、パイプ椅子よりも先に私が壊れてしまうのではないかと思う程に、激しい絶頂だった。  もしもシノブ様に支えられていなければ、すぐにでも椅子から崩れ落ちていたと思う。  しばらく絶頂していた私は、椅子の背凭れに背中を預け、絶頂の余韻に浸った。 「……よいしょ、っと」  肩で呼吸をしていると、シノブ様が私のショーツから指を抜いた。  その際にも秘部に甘い刺激が加わり、絶頂して敏感になっていた私の腰は、ガクガクと揺れた。  すると、シノブ様はそんな私を見て微笑み、何やら透明の液体で濡れた自身の指を舐めた。 「……ぁぁ……♡」  それを見ただけで、私は軽く感じてしまう。  なんでかは良く分からないけど、その挙動一つですら、凄く魅力的に思えたから。  そんな私を見てシノブ様は笑みを浮かべ、服のポケットから、何かピンク色のモノを取り出した。 「……?」 「あぁ、気にしなくて良いよ」  軽い口調で言いながら、シノブ様は私の背後に立ち、そのピンク色の丸い物体を持った手を私のショーツの中に滑り込ませた。  何をするつもりなのだろうか……と、その様子をぼんやりと眺めていた時、秘部に何かを挿入されるような感覚がした。 「んぁッ♡」 「力抜いて……もっと奥まで入れるから」  シノブ様の言葉に、私は息を吐いて、秘部から力を抜く。  すると、彼女は小さく笑みを浮かべ、さらに奥までそのピンク色のモノを挿入した。 「んぁぁッ……♡」 「よし。じゃあ、つけるね」  シノブ様はそう言うと、手元にあるリモコンのようなものを操作した。  直後、お腹の奥で何かがブルブルと震え始めた。 「んぁぁッ!?♡」 「おっ、ちゃんと動いてるね。……じゃあ、今から家に帰るまでそのままね。家に帰ったら抜いても良いけど……寝る前はそれを使って自慰をすること。それから、明日の稽古に来る時も、自分でいれてきてね。リモコンはミハルの鞄に入れておくから。あ、でも、今日帰る時に勝手に操作したり、明日来る時に電源入れずに来たりしたらダメだからね。リモコンを操作して良いのは、自分の家にいる間だけ」  そう言いながら、シノブ様は私の鞄の中に操作していたリモコンを入れた。  彼女の言葉を胸に刻みながら、私は「はぃ♡ はぃ♡」と頷くことしか出来ない。  それを見てシノブ様は微笑み、私の鞄を持ってこちらに差し出してきた。 「じゃあ、今日はもう帰って。……力抜くと落ちちゃうから……気を付けてね」 「……はいぃ♡」  シノブ様の言葉に答えながら、私は震える手で鞄を受け取った。  お腹の奥で何かがブルブルする感触に、膝がガクガクと笑い、歩くことすらままならない。  けど、帰ってという彼女の命令に背くわけにもいかないので、私は震える体に鞭を打ち、ヨロヨロとその部屋を後にした。 --- <二階堂ミチル>  廊下を歩いていると、新入団員の桜井ミハルとすれ違った。  彼女はどこかぎこちない足取りで、私とすれ違ったことにも気づかずに歩いて行った。  ……どうやら、シノブは命令した通りに動いてくれたらしい。  私は小さくほくそ笑み、少し歩いて、彼女の執筆部屋に入った。 「……ミチル様!」  私が入って来たのを見た途端、部屋の片付けをしていたシノブは、その表情を明るくしながら私を呼んだ。  それに私は笑い返しつつ、彼女に近付いた。 「さっき、桜井ミハルとすれ違ったわ。……良くやってくれたわね」 「えへへぇ……ミチル様の為なら、何てことないですよ」  はにかむように笑いながら言うシノブに、私は「それもそうね」と答えつつ、彼女の頬に手を添えた。  すると、途端に彼女の表情はドロリとだらしなく蕩け、一気に劣情を漂わせる淫靡な表情へと変わる。  私はもう片方の手でシノブを抱き寄せ、真っ直ぐ彼女の目を見つめながら続けた。 「それじゃあ、約束した通り……たっぷりご褒美をあげるわ♡」 「あぁ……ミチル様ぁ♡」  恍惚とした表情で私を呼ぶシノブに、私は何も言わずに笑い返し、彼女の唇を奪った。 桜井ミハル 年齢:18歳 身長:150cm 見た目:黒い髪をボブヘアにしており、前髪を桜色のピンで止めている。童顔で、よく中学生に間違われる。 その他:劇団クリノスの新入り。後にクリノスの『末っ子』と呼ばれることになる。妹属性、後輩属性の強い性格で、年上受けが良い。ユリカのようにぶりっ子しているわけではないのだが、大人っぽく見せようとしても空回り、なんだかんだ世話を焼かれる。小さい頃に家族と演劇を見に行ったことがきっかけで演劇にハマる。小学生の時に地元の小さな演劇団に入り、中学と高校は演劇部に入った。小学生の頃から培ってきた演技力と、元々の性格の愛嬌から、県内の演劇部の中では一種のアイドルのような存在だった。その話題がミチルの耳に入り、クリノスへと勧誘を受ける。


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