NokiMo
Schuld
Schuld

fanbox


ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ユキカゼ・ラン・アンド・ガン10

 「ドーモ、シラヌイ=サン、マゾクスレイヤーです」


 「ドーモ、シラヌイ=サン、ユキカゼです」


 三人のニンジャはVIPルームの廊下で邂逅した。


 護衛対象を拉致され、探しようもないと離脱しようとした不知火の判断は些か遅すぎたのだ。


 「……久し振りね、二人とも」


 ブンシン越しではなく、本体が顔を合わせるのは何年ぶりか。改めてアイサツされた不知火は、丁寧に腰を折った。その所作はあくまでカラテにニューロンを侵されていない、尋常のものである。


 「藤木戸くん、娘を強く育ててくれてありがとう」


 「……それがメンターの役目ですから」


 「それからゆきかぜ、さっきも言ったけど、強くなったわね」


 「おかあ……いえ、シラヌイ=サン! どうして、どうしてこんなことになったの!」


 一瞬だが優しい母の顔を見せた不知火に、ゆきかぜは不意に覚悟が緩んだのだろう。油断なく構えていたはずのライトニングシューター、そのを突きつけた銃口が揺らぎ、目尻に涙を浮かべて自然と叫びが漏れた。


 母はあまりに変わらなすぎた。現役時代と同じ対魔装束、使い込んだ長刀、豊満なバスト。


 違うのは、拭いようもない魔の気配だけだ。


 「今の貴方達に説明しても分かってはもらえないでしょうね」


 「だからイクサに手を抜いたのか」


 「その言い方には語弊があるわね。まだ死んで貰っては困るから、殺さなかっただけよ」


 藤木戸に問い詰められ、不知火は小さく笑った。


 彼女はツバキと葉月を別として、闘争の最中に致命の一撃を放とうとはしなかった。特にゆきかぜや達郎に対しては、四肢を飛ばして行動不能に追い込もうとする攻撃ばかりで、狙いやすい首や致命傷になりやすい胸や腹を狙わなかったのだ。


 当人達はあまりに実力が違う相手とのイクサに必死で気付いていなかったが、これは揺るぎようのない事実である。


 ジッサイ、藤木戸はエントランスでの交戦にて一撃一撃から殺気を感じても、それが消そうとして薄くなっている訳ではないことを悟っていた。


 不知火は何かを隠している。そして、今知られては困る目的を持っている。


 その将来において、藤木戸やゆきかぜに死なれてはならぬのだろう。だからイクサの最中、確実に命を獲りに来れば殺せた場面でも非致死性の攻撃を狙ったのである。


 「……何を言うかと思ったが、構わん。シラヌイ=サン、貴女であろうとインタビューして聞き出すまでだ」


 「新人対魔忍一人庇って、私に勝てるとは思い上がりも甚だしいわねマゾクスレイヤー」


 だが、断固とした口調と決断的なカラテの構えに闘争を避けられぬと悟ったのか、挑発の言葉に乗って不知火もゆるりと抜刀した。


 彼女の本来の得物は長柄武器であるが、室内であることを想定してカタナに持ち替えたのだろうが、それを加味しても刀身は長い。その長刀は本来ならば幅が限定された廊下であれば足枷となろうが、彼女のほどのタツジンともなれば苦もなく操ってみせるだろう。


 「たしかにアナタは一対一での徒手格闘なら私でも適わないでしょう。けど、相性の悪さは分かっていて?」


 いつの間にやら廊下の奥にミズ・ブンシンが現れていた。


 否、それだけではない。調度品の影、曲がり角、そして本体だと思っていた不知火の背後からもブンシンが現れた。


 ミズを媒介とした高度なゲン・ジツ。精神が脆い物であれば、大気中に散った彼女の対魔粒子を纏った水を吸い込むだけで幻覚の世界に誘われる絶技なれど、チャドー呼吸を修めた二人には然したる問題ではない。


 しかしだ、本体と違わぬ実力を持ったミズ・ブンシンの脅威は変わらない。


 「センセイ……」


 「ユキカゼ=サン、背を任せる」


 「エッ!?」


 首だけを巡らせて背後を見やったセンコめいた光を宿す目は、弟子を信頼し、ただ前に進むだけの意志で燃える。


 藤木戸は何もゆきかぜを不知火に一目合わせ、その真意を確かめようとのみ思って連れてきたのではない。


 自分の後背を預けるに足る〝ニンジャ〟だと確信しているからこそ、単身ではなく共に乗り込んだのだ。


 そうでなければ、どれだけ彼女が食い下がろうと、マゾクスレイヤーは同行を許しはしなかったはずである。


 「やれるな」


 「…………ハイ!」


 師の問い掛けに強く応えたユキカゼがピストルカラテの構えを取り直すのを見て、センコめいた光を放つ眼が一瞬だけ優しくなったのを不知火は見逃さなかった。


 だが、それはほんの刹那のこと。藤木戸は殺気を全身に漲らせると、腰のベルトから普段は使わない〝ヌンチャク〟を取りだした。


 「出し惜しみはナシだ。シュハリの教え、今ここで示してみせる」


 「それはこちらも同じこと。悪いけど、二人を倒して矢崎様の場所を聞き出させて貰うわよ」


 「ならば、この口、実力で割ってみせよ!!」


 舌戦の末、0.1秒後に激しいニンジャのイクサが始まった。


 初手を取ったのは不知火だ。激しい動きでブンシンと自らの位置をシャッフルして本命を分からなくするのはさしものワザマエ。藤木戸のニンジャ動体視力を以てしても、正面から迫る三人の何れが本体かは判別できなくなってしまった。


 だが、そんなことはどうでもいい。


 数がいるのであれば、最終的に全て叩きのめせばいいだけの話だ。


 「イヤーッ!!」


 「何っ!?」


 カラテ・シャウトと共に振るわれたヌンチャクは長刀を叩き折る、否、溶断していた!


 特殊合金製の本体にはジツが流し込まれ、迸るアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツの炎が掌を伝って藤木戸の体ではなくヌンチャクを焼いている!


 これぞ彼が零子からのインスピレーションを受けて新たに開発したヒサツ・ワザ! エンチャント・オブ・アビ・インフェルノ・ジゴク・ジツ!!


 自らの体を焼く炎の発生源を対魔粒子が馴染むほどずっと持ち続けた武装を介し、手足の延長としてジツの発動先として指定。そうすることで、彼は自らの体を絶えず灼き続ける致命的欠点を克服すると同時、圧倒的なリーチを手に入れたのだ。


 「イヤーッ!!」


 先頭を行くミズ・ブンシンが太刀のガードを抜かれて強力な炎を浴び蒸発!


 「イヤーッ!!」


 返す一撃で回り込もうとしていたブンシンもまた、入り身に構えた太刀諸共粉砕されて蒸発!


 「イヤーッ!!」


 そして、囮二体を守勢的に運用して藤木戸の動きを拘束し、刃を突き立てようとしていた不知火は本体は、黒いヌンチャクに宿る圧倒的熱量に本能を刺激されたのか、反射的に跳び退っていた。


 一瞬前まで顎があった部分をカチ上げるようにヌンチャクが疾風の如く通過! 前髪が焦げ落ちる様を見て、彼女は自分の判断が誤っていないことを認識する。


 火が消えぬのだ。前髪を伝ってチリチリと這い上がる炎を斬り飛ばすことで消化すると、彼女の濡れ烏色の断片は跡形もなく消失した。


 「藤木戸くん、あなた忍術が……!」


 「心は伏せる物、手は隠す物、敵は惑わす物! そのインストラクションを授けたのは誰だ!」


 「くぅっ!?」


 藤木戸は若き頃、まだ下忍でもない五車時代に不知火から過酷なインストラクションを授かっていた。ゲン・ジツで翻弄されて体中が痣だらけになるほど叩きのめされ、カラテが一切通じない恐ろしさを叩き込んだのは他ならぬ彼女なのだ。


 故に藤木戸はチャドーを極め、心を研ぎ澄まし、カラテを遙か高みに運んでゲン・ジツを対策すると同時、小賢しい全てを叩きのめす〝札〟を握る。


 今も心に根付いたインストラクションを忘れぬが故。


 名刀匠によって打たれた太刀がアビ・インフェルノの炎に灼かれて鈍り、一撃毎に歪んでいく。


 ならば背後を突こうとしても……。


 「イヤーッ!!」


 藤木戸の後背に出現したブンシンは、高圧電流の迸りを受けて蒸発! カラテシャウトを上げたゆきかぜが吶喊し、接射する勢いで叩き込んだ雷撃にて師の背中を護ったのだ!


 「イヤーッ!! イヤーッ!! イヤーッ!!」


 そして次々襲いかかるブンシンを雷撃で、稲妻のバヨネット、雷神剣で切り結び攻撃を通さない! ピストルカラテの反動を用いた攻防一体の回避、発射してもリコイルを発生させないフェイント、そして厳しい鍛錬によって新たに習得した稲妻の銃剣がワンインチ距離の隙を埋めて、彼女を雷撃の要塞と化させる!!


 「わたしをっ、お前がいなかった間に詰んだ訓練を、甘く見るなぁぁぁぁぁ!!」


 「ああ、ゆきかぜ、本当に強くなって……」


 一瞬、母の顔となった不知火の顔にヌンチャクが直撃し……水となって爆ぜる!


 おおゴウランガ! この激戦の最中、いつの間にやら本体であったはずの彼女はブンシンと立ち位置を入れ替えていたのだ!


 「ちぃ! だが逃がさぬ!!」


 「いいえ、まだよ!!」


 廊下の奥に脱兎の如く駆けていく不知火は形勢悪しと見たのであろう、即座に遁走に移りブンシンの壁を立ちはだからせる。


 ジッサイ、この判断は正しい。こちらは一人、敵は二人。しかも事前に戦闘していった情報から、まだ三人ものニンジャが施設内におり、同時に外部で一人伏せていることが分かっている。


 さしもの不知火も、これだけの数に囲まれてボーで叩かれては一溜まりもない。特に、その中でボーを握っている一人が近接戦闘最強の名を欲しいが儘にしているマゾクスレイヤーであり、背後に控えているのが中・遠距離戦において今後比類なき者に成長するであろう娘ならば尚更だ。


 それにしょせん、矢崎・宗一とリーアルは大いなる目的を果たすための礎石が一つに過ぎぬ。地下研究所を運営させてデータを取る程度のコマは幾らでも補充できるし、第二陣、第三陣が控えていると冷静に脳内でソロバンを弾き、数分前まで〝ご主人様〟と呼んでべったりしていた〝傀儡〟を斬り捨てることに躊躇いはなかった。


 総ては彼女が捕らえられ、過酷な尋問と拷問を受け続けた末に開眼した“大いなる目的”の前では安い物だ。


 〝本来の主人〟も、この程度の出費であれば五月蠅いことは言うまい。


 されど、撤退を選ばれても即座に反応できるよう、藤木戸はタクティクスを練っていた。幾重もの壁になって逃げる本体を護る陣形を組んだブンシンの縦列に向かい、即座にヌンチャクを投げ捨ててスリケンを構える。


 左手の五指に挟んだ四枚のスリケン、それを右手の親指と人差し指で摘まむ構えはツヨイ・スリケン! しかも、スリケンにエンチャントが施されており、アビ・インフェルノ・ジゴク・ジツが籠もっているではないか!


 「イヤーッ!!」


 「嘘でしょう!? 一枚のスリケンで私の幻影が二体も!?」


 裂帛のカラテ・シャウトと共に放たれるスリケンの威力は、最早50BMGを軽く上回り戦車砲に近しい! 一撃でブンシンを二体貫通! 第二射で更に二体を撃破! 三者目で残ったブンシンを一掃し、廊下の最奥をカタナで切り拓かんとしていた不知火の背に直撃!


 「けどっ、まだ甘い!!」


 「ナニーッ!?」


 否! それはフェイク! 本体は防御陣の最奥におり、自分のブンシンを盾に威力を軽減! そして、本体と見せかけた自分に放たれるツヨイ・スリケンを逆用して外への通路をこじ開けさせたのだ!


 「化かし合いでは、まだまだ経験が足りないようね!」


 「チィッ! ユキカゼ=サン!!」


 「イヤーッ!!」


 再装填の間を埋めるべく、藤木戸の背に密着し両脇の下からライトニングシューターを突き出したゆきかぜがデン・ジツを乱射するが、不知火は新たに生み出したブンシンを盾に外へ躍り出る! その様はフレアを焚いて目を眩ませる軍用機もかくやだ!


 スナップを利かせて起動を変化させたスリケンが突き立ったのも、またブンシン! 更に空中でブンシンが撒き散らされ、八方へと散っていくではないか!


 「クソッ! ブラボー1! 監視は!」


 『流石にこうも散られては! どれが本体かは区別が付きません!』


 相対しても本体かどうか分からぬブンシンを前にしては、如何にセンリガン・ジツとて限界がある。万一逃走されたとしても追跡できるよう監視していた凛子も、残念ながらどれが本物かを見抜くことはできなかった。


 「ええい! 追うぞユキカゼ=サン!! ブラボー1も出ろ! 片端から斬れ!」


 『承知!!』


 しかし、藤木戸は読み違えていたかと自分のシッタイを自覚しつつ色つきの風となって疾走する。どう足掻いたって現役時代の不知火が出せる精巧なブンシンの数には限界があったし、無尽蔵なのではと思うほどには出せなかったはずだ。


 魔の香りが漂っていることは事前より悟っていたため、何らかの強化施術によって出せるブンシンが増えている可能性を加味して戦術を立てたが、ここまでの数を出せるのは魔族化が進んでいたとしてもオカシイ。


 そこまで考え至って、藤木戸は一つの結論に至る。


 不知火を拉致した勢力は未だ不明なれど、事前調査でアンダーエデンには淫魔族の息が掛かっていることは分かっていた。


 となると、対魔忍としても人としても強靭であった彼女が堕する理由は〝魔界九貴族〟並の力ある存在からの干渉があったと見るのが妥当だ。


 然もなければ、ああも人が変わらぬまま、対魔忍に敵対するとは考えづらい。


 特別な寵愛によって強化されていることは、事前に考えつくこともできたろうに。


 バカ! ウカツ! 己の不明を恥じながら追いかける藤木戸は、凛子をも動員してブンシンを虱潰しにしたが、終ぞ不知火を捕らえることは適わなかった…………。


 

Comments

うーん、今はここで終わりか。 いつか再開してくれる事を願ってます。

ともき

知らずにマスラダの方にジツが伸びたか

竜次

アビ・インフェルノ・ジゴク・ヌンチャク! アビ・インフェルノ・ジゴク・スリケン! ·····エンチャント対象は制限されているものの、中遠距離で阿鼻地獄の炎を投射できるようになったのは実際スゴイ。マゾクは震えて眠れ…

へびあたま1254


Related Creators