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イチゲン
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だから俺は父を犯した

「きゃぅ……きゃうッ」  この家で絶対にあがるはずない上ずった喘ぎ声。 「きゃっ! きゃっ! きゃっ!」  今のは一度や二度でなく、この数時間のうちに何回も何十回も響いている。発情期に盛りついた女獣人みたいにエロかった。 「もう俺のチンコがすっぽりおさまるようになったね」  舌なめずりしながら、以前より具合よくなった穴にピストンする。  硬くなったチンポが充血し、どこか黒っぽくなった穴を出入りした。  俺が犯しているのは実父の肉穴……血の繋がった父さんの尻だ。  身長にも筋力にも恵まれた俺と違って父さんは小さい。  かなり小柄で俺たちが並ぶと大人と子供みたいになるのだが。  父さんにとって不幸なのは、俺のほうが力が上ってことだろう。 「駄目だよ父さん、逃げようとしないで。俺は息子じゃないか」  俺が欲望を叩きつけているとき、父さんは決まって逃げようとする。 「ちょっと押せば動けないのに、まだわかんない?」  背後からぐっと肩甲骨のあたりを押した。そして腰を一気に奥で突き立てたまま左右に揺さぶった。最奥を押しながら肉壁を拡張する腰使いをしてやれば、穴全体が暴れるみたいに反応してくれる。 「あっ! あ゛! あ゛あ!?」  盛ったメスの嬌声は、いまの行為で無理矢理に喉から搾り出された嗚咽に様変わりしていた。藻掻いていた手足は縮こまり、筋肉が快感に屈していくのが実感できた。  肉の穴が両側から俺のチンコを抱きしめてくれる。  亀頭から根本にかけて、ピストンするのも名残惜しい。  もっとチンコ全体を抱きしめてもらいたいから、腰を押しつけストップした。  玉袋にふれる尻の毛並み。柔らかさに火照った熱……そして辛そうな息遣いだ。  鼻を後頭部に当て、すぅぅぅぅぅぅっと、鼻孔が痛み肺が満タン以上に膨らんでも嗅いで、ふぅぅぅぅっと吐き出す。自分と似た年上の匂いに肺腑が灼けてしまう。  ひときわ興奮が昂ぶっていく。  制御できない性欲の嵐が胸にわきおこる。  はあっ はあっ  俺はマズルから舌を吐き出すように垂れ下がらせ、飽きもせず荒い呼吸をしていた。  見下ろしているのは毛並みが生え揃った小柄で薄茶色のうなじ。何度も舌を這わせたり噛みついたりしていたから、いまは汗の臭いのほか俺の臭いがして、ふかふかだった毛はガビガビというか……とにかく濡れて普段と違った姿を見せているのだ。  手足をガクガクさせ、尻を突き出した格好はそそった。  肉穴とチンコの一体感は十分に楽しめた。また動かそう。 「あ゛っ きゃっ! あ゛きゃ!」  強引に腰を引き出すと、密着していた肉穴がヌチュヌチュ絡んできた。  亀頭の根本が見えかけたとき、動きを止めてやる。  ぬめったチンコを咥えている薄茶色の毛が生える尻周り。 「抜きなさい……! もう、やめなさい!」  穴周りは毛並みは舐めまくった首裏と同じように濡れていて、すっかり熱で蕩けた肉穴が気味悪いくらい充血していた。色に犯す前の綺麗さはなくなり、妙に肉色が増し黒みがかかっている。穴の形も、少しずつ縦に広がりを見せていた。 「う゛きゃっ!」  ずるっと挿入し、パンッ! と尻に体当たりし、次は激しく前後運動だ。 「うあ! あぁ! きゃ! きゃっ!? あ゛ぅぅ」  俺が腰を打ち付けると肉のぶつかる音がして、喉から喘ぎを吐き出させる。  息子に犯される父さんは泣いているのだろう。鼻をすするのが聞こえるし、それに由来する嗚咽がした。だけど息子の手前なのか、少しでも我慢しようと忍耐を振り絞った。  それを意識すればチンコは熱り立つ、誘ってるのだと笑ってしまう。  なんて親不孝者だろう、自分を恥じているし情けないとも思っている。  だけど俺は腰を止めることなく、むしろより強い力で穴を突き続けていた。  パン! パン! パンパン!  バカみたいな音が結合部から出て、チンコが気持ちよくなる。  俺が無理矢理に与える性快感に抗おうと歯を食いしばる小さな体。  比較すれば俺の三分の二といったところで、全身は子供みたいに柔らかい。  毛並みの色合いこそ違えど、俺が小学生だった頃と少しも変わっていない。 「ん……ん…………」  さっきまで喘ぎ、泣きじゃくってたくせに歯を食いしばり耐えだした。  急に我慢しているのは年上の威厳を見せようとしてる。弱いのに生意気だ。  俺が乳首をちょっと摘んだだけで震え上がり、もう無理なんだと訴えるようにして穴を締めつけてきた。 「ん……あ゛ぁ…………!」  乳首と穴を攻めたら床に向かって吠えだした。  全身で『か弱さ』を演出してくれるのが愛おしい。  チンコを締めつけられて俺の背筋に電流が通っていく。  これをされるのは全身を抱きしめられたみたいで安心する。  きっといまの俺はアホみたいな顔で、舌を出しながら……笑ってるんだ。  まんまるの尻にぺたぺたと下半身を打ち、なんとも気持ちがいい音色がして、パンパンと穴が泣いているみたいだった。 「んぅぅ……んぅ………………」  ローションでいっぱいになった肉の穴が、俺を可愛がってくれる。  大好きだって抱きしめてくれている。だから俺は、これをやめたくない。  両手を胸周りに廻して、乳首をつまむと意外と硬くなっていて可笑しかった。  舌を突き出したアホ顔を晒して、俺は犯した相手の後頭部に鼻を押しつけていた。 「出すよ……父さん!」  ドピュッ! ドピュッ!  あぁぁぁヤベーくらいの勢いだ。  結構な量を父さんの肛門に射精している……。  俺は大口を開け、舌を出しながら微笑んでいた。  こんなに満足感は得たこともない。幸せの絶頂になる。 「父さん! 父さん」  呼びながらチンコを震わせザーメンを注ぎ込む。  父さんの腰を手で引き、俺の腰を突き出しながらだ。  ぞくぞくっと俺の尻尾から後頭部にまで背徳感が這う。最高だ。  ずっと遊んでほしかった父さんが俺の下ですすり泣き喘いでいる。  だけど絶頂したのは俺だけで、父さんのチンコは柔らかいままだ。  俺は父さんで勃起するのに、父さんは俺で勃起しないのが寂しかった。 「はな、れなさい……」  叱りつけようとしているのに声に力がない。アナルで達してくれていた。  俺がこんなに酷い真似をしているのに、父さんはずっと父親でいてくれる。  息子である俺に『やめなさい』と叱ってくれていた。なんて嬉しいんだろう。 「もう、こんなことは……」  さっきまで喘いで……ああ、股間から先走りが垂れてるよ。ヌルっとしてて面白い。  そろそろトコロテンするんじゃないかな?  俺のピストンで父さんが射精する。考えただけで震える。  興奮がおさえられず、父さんを見下ろす。すすり泣く小さな体は、俺のもんだ! 「アキ、ユキィ……やめなさいっ!」  苦しげに名前を呼ばれる。告白されたみたいに心臓が跳ねた。 「手をはなしなさい! 僕はおまえの、お父さんなんだよ!」 「何から? どこか説明したら? こうしてほしいんじゃない?」  ここをもみくちゃにしていたら本気で抵抗しだすのに、俺の手の中でムクムク勃っていくのが本当に面白かった。息子であり父親であると主張してくれる。愛されている証明を得た気がして、すごく充実できた。たとえそれが、父さんの叱りつけと嘆きの声であったとしてもだ。 「はなしなさい! やめろって言っているだろ!」  やっぱり父さんだからかな?  俺がチンコを触るとき、犯す以上に抵抗するんだ。  息子の手で勃起するのは恥ずかしいのかもしれない。  よくわかんないけど、可愛くて面白い。  そして可笑しいからか俺は笑ってしまう。 「やめさせなよ、出来ないならあきらめたら」  頭で垂れてしまった耳の後ろにささやきかけ、勃起したチンコをもみくちゃにする。先走りで亀頭を摩擦して、肉球の全体で裏筋からカリ首まで、ちゃあんっとこすった。  敏感な粘膜をすってやるほど父さんの穴が俺をぎゅうっと締めつけてきた。  こうされるたびに嬉しくて、俺は激しさを増しグルグル回すように摩擦した。 「やめなさ、い! うぅぅぅ……きゃっ」  嫌そうに抵抗しても父親の体はワガママを言う子供も同じ。  子犬みたいな吠えをあげるのは、性感帯に触り慣れてないからだ。  俺の半分くらいしかないチンコは使ってなかったのだろう勃起が弱い。  だけど意外に敏感で、俺の下手くそな手コキですぐ出してしまうんだ。 「無理だよ父さん。出しちゃいなよ」 「きゃ、きゃあぁぁ…………!」  あーあ、そんなに喘いじゃって。心で笑いながらチンコを揉んでやった。  手に伝わってくるのは射精の脈動……手に隠れる子供みたいなものがビクビク跳ねて白いのをぶちまけるけど、嫌に粘り気があって新鮮とは言い難い。ゲルっぽくて気味が悪いザーメンだった。もう一ヶ月近くもレイプしてるのに、父さんのザーメンは古い感じがしたままだ。  あんまり勢いがない。  どろ、どろっと床に溜まった。  歳をとると、みんなこうなるのか?  だけど手の中で弄んでいれば、以前よりは柔めになっていた。  たぶん、もうちょっと遊んでやれば新鮮ザーメンになる。数日はかかるかな?  そうすれば勃起だってよくなるだろうし、もっとチンコも気持ちよくなるだろう。 「あぁぁ……父さんのアナルは極上だよ!」  俺は感動を口にしながら、また腰を振り始めた。  こうやって父さんを犯してやるのは気持ちがいい。  もうオナニーなんてバカバカしくてやってらんないよ。  すぐ傍に、こんな愛おしい肉穴がいるって気づいたんだ。  子供みたいに小さくて可愛い。  頼り甲斐のなさそうな背中を見て育ち。  あどけない笑顔を見ていると触れたくなった。 「アキユキ……こんなの……」 「チンコ握られながらアナルファックされてるの嫌だって、口にしなよ」  嫌味を口にしながら耳を舐める。父さんの匂いがして好きだ。  こんなことをしてはいるが、俺はゲイじゃないし女のほうが好き。  だけど父さんを見てると勃起するようになった。考えたけどわからない。  あの日を切っ掛けに性欲が爆発し、歯止めが効かなくなった。  これまでずっと我慢してたのは『異常』だと押し留めていた気持ちだ。  そんな俺に邪気なく微笑みかけ俺のこと考えようともしない父に苛立った。  笑いかけ問いかける父さんを押し倒し、頭の中は性欲でいっぱいになっていた。  あとは簡単だった。殴るまでもない。だって父さんは小さい、そして弱いんだ。  力尽くでこじ開けてやり、嫌がろうとも穴をローションで濡らし……それからレイプ魔が少女を弄ぶみたいに抱いた。何も考えられず、欲望に促されるまま全身全霊をかけて強姦した。  我慢できなくなった。  だから俺は父さんを犯した。 「父さん……父さん…………!」  腰をひっつかみ、逃げられないように奥に突き立てる。  空気を吐きながら床をひっかく父さんに、すごくそそった。  最初に強姦してから俺のテクニックはわずかも上達していない。 「逃げないでよ父さん、こんなに気持ちいいんだからさ!」  奥歯を食いしばりうつむきで、四つん這いになっている父さん。  肛門からローションと変な体液を滲ませ声を出すまいと堪えてる。  ただ俺は、しがみつき電源を入れた玩具みたいに腰を動かすだけ。 「父さん! 父さん……!」  全身が汗ばみ、チンコに意識を向ける。  穴全体の凹凸にローションのぬめり、ずり動く肉粘膜の締まり。 「父さん、父さん、とうさん」  うわ言みたいに父さんを呼んで、抗えない衝動に身を任せている。  どれだけ父さんが嫌がろうとも……いや嫌がるほど俺は昂ぶっていく。  肩をふるわせ、突き入れるごとに「んひっ」と閉じた口から惨めったらしい喘ぎを漏らしていた。息子のチンコで内蔵を突き動かされて、腹の下では射精させられたチンコをビンビンにさせてる。やっぱり恥ずかしくて嫌な気持ちになるのかな? 「俺は気持ちいいだからさ、もっと楽しんでよ」  腰を引き寄せ、ぐーっと内蔵を突いた。  さすがに俺も出そうだ。こんなの我慢できるわけない。 「もう一ヶ月くらい経つんだ。好い加減にあきらめて楽しもうよ」  首筋を舐め思い出す。  初めてレイプした日は忘れられない。  肩を震わせ、目をくしくし擦り、鼻をすすった弱々しい姿。  衝動任せに父さんをレイプして肉体と、それ以上に心を傷つけた。  信じられない罪悪感に苛まされ焦り、泣きそうで許しを請おうとしたとき。 …………今日のことは……忘れなさい  父さんが涙をこらえながら、俺を許してくれると遠回しに言ってくれた。  本当に申し訳なかった。どれだけ言葉を重ねたって、許されざることをしたと思った。  二度と笑ってもらえないんじゃないか?  大事な息子として扱ってもらえない恐怖で謝ろうとしていた。 ……もう……いいから…………  俺の気持ちはわかってる、そんな言い方だった。  どうしてこんな素晴らしい父親をレイプしたと恥じた。  ごめんなさいの言葉が喉から出かかり、肩に触れたときだ。  俺は父さんの臭いを嗅いで勃起し――――そのまま父さんを犯した。  許してくれた父さんはきょとんとしていた。  だけど目があうなり暴れだした。父の悲鳴で興奮を煽られた。  俺の顔はどんなだったんだろう? きっと畜生以下のケダモノだ。  号泣しながら嫌がる父さんの口を塞ぎ、床に抑えつけ、穴を穿った。  だんだん力が入らなくなっていく父さんの体は、もう俺が好きにできた。  どれだけ嫌がろうと関係ない。俺のほうが力があるし体型にも恵まれている。  子犬体型の父さんが俺を止められないのが悪いんだ。  いまだってそう。後ろから突かれるばかりで何も出来ない。  俺のことを殴ろうともしないし、噛みつこうともしなかった。 「あ゛ぁ! う、ぅう」 「出すよ……出すよパパ!」  また、俺の形を教え込んだ穴にザーメンを注ぐ。  尿道から駆け上がるドロドロのものが、父さんのアナルに吸われる。  息子のザーメンを肛門で吸収する。どんな気持ちになるんだろう? 想像するだけで勃起してくる。 「や……ひ……な、さ、ひ……はっ……はっ」  泣きじゃくりながら辞めるよう訴える。  もう叱るっていうよりは懇願に近いかな。  だけど俺の返答は、いつだって同じなんだ。 「嫌ならやめさせなよ、これ言うの何回目?」  そういえば俺さっき父さんを『パパ』って呼んでた。  思い出すと、すごく恥ずかしくなってきた。  そういえばパパって呼ぶのは何年ぶりだろ?  くたばりそうだった。  もちろんただの比喩表現だけど……気持ち的には死んでいる。  足はクタクタで背中全体が汗ばみ、股ぐらからも男臭さがのぼる。  なんで部活帰りは制服に着替えるよう強要するんだ。無駄じゃないか。 「くっさい……」  自分の腋や股間からのぼる体臭は雨上がりの曇り空みたいにドンヨリしている。こんなの犬獣人でなくとも臭うだろうし、足やカバンの中身を想像するだけで最悪でしかない。 「こんなんじゃ女の子にモテないよ」  汗も滴るいい男と呼ぶには無理があった。グラウンドの土臭さもある。  身だしなみに気を使うようになった思春期としては情けない限りだった。 「部活がおもしろくない。ちっともおもしろくない」  疲れたから嫌になったわけじゃない。純粋につまらないんだ。  小中学校と身長に恵まれていてスタミナにも自信があった俺だけど。  高校生になってからの部活は地獄と呼んでもさしつかえないほどだった。  エナメル製のカバンを背負い、夕方を過ぎ暗くなるまで部活をしていた。  自主的にしていれば疲れも気にならないのだが、させられていたものとなれば話は別。 「やめちまおっかな……」  野球部に入ったのは失敗だったようだ。  一年生というのもあり、俺は体格に恵まれている。  そのせいか先輩に顧問からの風当たりが嫌に厳しい。  鍛えたいのか壊したいのか、なんというか疑問になった。 「別に野球なんて……とくに好きじゃないしな……」  これが本音かどうなのか……俺はちょっとわからない。  昔から、なんとなく仲間に誘われて野球をしていたからだ。  ボールをバットで吹っ飛ばすのもベースに向かい全力疾走するのも、ミットでボールを受け取ったときの感触のどれもが好ましい。特に試合の最中は自分がどうボールと向かい合うかだけを考えられる。 「好きなんだけど、うーん。きっかけがな」  家に帰っても誰もいない時間が多かった。だから誰かと一緒にいるのと、運動しているのが一番の気晴らしになっていた。そう、寂しさを紛らわせる手段に過ぎなかった。  最初こそ帰宅部になってしまおうと決めた。  まだ勉強一筋になることはないだろう。  もうちょっと野球を続けてみたら?  父さんに言われ考え直した。  中学校よりレベルもあがって楽しいに違いないと。  俺も、得意だし面白いならと軽い気持ちで入部した。 「どうかしてるよ、あの顧問に先輩たち」  基礎体力をつくれと無駄な根性論を押しつけられ、自分が若い頃はと罵ってくるどうしようもない顧問に付き合うのにうんざりしてきた。足腰はフラフラで体幹もズレズレになっているんじゃないだろうか。特になんとも思わなかった野球そのものに嫌気がさしている。 「デカイから耐えられるだろって、頭わいてんだろうが」  あんなものは部活じゃない。  ただのシゴキもしくはイジメだった。  可愛がり、そう言い換えたって変わんない。  顧問から過度なトレーニングを強いられ嘲笑する先輩どもの球拾いをさせられる。  それも筋トレをしながら球拾いのポジションにつけというのだからオーバーワークだ。  身長がデカイという理由で俺と同じことをさせられている同級生からの視線も冷たく一緒に野球をしていた仲間はもっと野球の強い高校に入学しているため独りもいない。 「あれ絶対に俺を僻んでるだろ」  名門から推薦を受けていたのに断ったから、気に入らないのだろうと薄々わかっていた。 「俺だって理由もなく断ったりしねーよ。名門が近所にないのが悪いんだっつの」  スポーツに力を注いでいる高校は上下関係が厳しいと聞いていた。  それに勉強の方面なら、現在通っている高校は負けてないどころか勝っている。  だれもが羨むような体格に恵まれているのに、勉強で無駄にするのが気に入らん。  こういった嫉妬を受けているんじゃないかと自惚れちまいそうだったが、実際そうなんだろうと昔馴染みからも言われていた。あっちも名門の部活が忙しくて、あんまり連絡が取れてない。 「部活に人生なんてかけたくないんだけど……わかってもらえんなぁ」  部活の中から華々しい活躍に辿り着く逸材は、果たして全体の何割なのか。  狭い狭い門をくぐり抜けても、必ずしも輝かしい人生が待ってると思えない。  部活に対しての愚痴が別所に飛び火しかけ、俺は頭を振って考えを追いやった。  原因の根本は俺のコンプレックスにある。単純に身長が大きい、それだけなんだ。  最初は周りと変わらなかったはずの身長は今や百八十を超えた。まだ成長しているのだから、生まれながらの体格を羨むやつが出てくるのもわからんでもない。  たとえば、バレーやバスケットなんかは身長がデカイだけで長所になる。  小さい頃は同学年の中で、俺だけがジェットコースターの身長制限をクリアしたもんだ。  周りから「なんでおまえだけ」といった視線を受けるのもある。俺にとってはどうでもいいことなのに……「なんで俺だけ」と思った経験があると語ろうものなら贅沢だと罵られる。というか罵られた。 「こういうのを憂鬱っていうのかな?」  カバンを背負い直し、最後の坂道をのぼった。  俺が名門のドアを叩かなかった理由は実家から離れているからだ。  推薦入学を言われ下宿やら近くのアパートやらを勧められたりはしたが、俺は『学業になるべく専念できる場所を選びます』ともっともらしい意見を通しきっていた。 「手厚く迎え入れてくれるのは嬉しいけど、俺だって断る理由があったんだ」  本当の理由……恥ずかしいから口には出来ないが。  家で親が待ってくれているんだ。  これがどれだけ嬉しいことなのか、みんなにはわからないだろう。  インターフォンを鳴らせば、数秒で足音が近づいてきて期待が膨らむ。  鍵を挿入して、玄関で靴を見下ろし今日も自分だけかと落胆することもない。  リビングに向かいテーブルに置かれている千円札やメモを読み溜息つくのもない。  ドアが向こうから開かれ家の明かりが外を照らし、にっこり父親が見上げてくれる。 「アキユキ、おかえり」  中学生未満って感じの犬獣人アキオ。父親であり唯一の肉親だ。  茶色くてマズルのしっかり伸びた俺と違い、薄茶色でマズルは控えめの父さん。  身長は俺よりずっと小さいんだが、二十歳以上も歳が離れている。エプロン姿で何かをしていたらしいが、子供が家事手伝いをしているふうに思えてしまうのも当然だった。  一緒に並んでいれば弟と勘違いされるのも稀ではない。 「部活たいへんだったろう」 「うん、ただいま」  正直な話をすれば、とっくの昔に部活はやめたかった。  怒鳴られるばっかりでしごかれるばっかりで顧問が最低だ。それに合わせて増長する先輩たちも好かない。 「今日もおつかれさま」  けれど父さんが笑顔で、そう言ってくれると疲れが吹っ飛ぶ気持ちになる。もちろん精神的な話で汗で湿った全身は披露したままだし、いまにも足が折れ曲がりそうだ。  砂だらけになったバックを嫌な顔ひとつせず受け取ってくれた。  今日中に洗い明日には存分に汚せるようアイロンまでかけてくれる。  食事だってコンビニじゃないし、作り置きばかりじゃない。 「野球部はどうだ?」 「俺が大変だから周りはもっと大変なんだろうなって思うよ」  後ろ姿で尻尾まで振ってくれていた。  俺もきっと父さんみたいに振ってるんだ。  こうやって普通の会話できる日が来るとは思ってもみなくて笑いそう。  帰る家に明かりがついているのが嬉しかった。料理の匂いがリビングに満ちているだけで幸せになる。ここが俺の家なんだ、家族がいる場所なんだって、実感できる。  だけど困ったことがある、俺の視線は父さんの首や尻に注目した。  部活の疲れや料理への食欲。それに家族に対する情とも違うものが湧いていた。  高校に入る前は決してなかったもので、俺はここ数ヶ月ずっと悶々としてる。 「アキユキ、先にお風呂する?」 「うん。一緒にはいる?」 「アキユキと一緒だと狭いだろ。ひとりで浸かりなさい」 「子供の頃に頭や背中を洗ってもらったことないし、甘えていい?」 「ははは、変なこと言うんじゃないよ」  半分本気だったんだけど、父さんは冗談と受け取り笑っていた。  一度も一緒に入ったことないんだし、一回くらいいいと思うんだ。  シャンプーハットの要らない歳になったとはいえ、一回くらいはさ。  でも承諾されて一番困るのは俺自身だから、このあたりにしておこう。 「はーい。先にいただくね」 「タオルと着替えは置いておくよ」 「はーい。まかせましたー」  生返事をして、後ろ姿を見送られる。  洗濯カゴに汗臭さの染みたワイシャツやズボンを投げ捨てた。  なんでユニフォームに着替えた後で帰宅は制服でと言い続けるんだ、あの顧問は。  理屈はわからないでもないが、汚れたユニフォームをいちいち更衣室で着替えて帰宅する不便さをあいつも味わってみるべきだ。体の汚れに比例して制服も臭く湿気るから清潔にし損ねれば授業中は気になって仕方がない。何より体が痒くなる。 「たぶん、いや絶対に嫌がらせなんだろうな……」  みんなで抗議したら所属している学校に間違いがあったらとか、挙げ句に着替えることさえできんのか、や制服を着ることの精神めんだとか、よくわかんない理屈を並べられ却下された。  最終的には俺を指差し『それよりも体型を活かした豪快なプレイを練習してみろ』と見上げながらねちっこく言われた。父さんほどでないにしろ顧問は身長が足りないから長身の俺に目をつけてきた感じだ。因縁つけるのやめてくんないかなあれ。 「俺が若い頃は身長がなくて苦労したってか? ふんっ」  昔は野球をやっていた口ぶりからして、ちょっとした怨念のようなものがある。 「だいたい自分たちが上手くいかないのを誰かのせいにしたって、意味ないじゃん」  帰宅途中の不満や苛立ちを再加熱させ、さっきの気持ちを紛らわせようとしていた。  小学校の頃はとにかく外で走り回ったりした。中学生になると外遊びに部活動の練習や筋トレが追加された。両手足は盛り上がっているし首もガッチリ太い。もちろん腹筋も割れている。自分で言うのもなんだけど、かなり鍛えられていた。 「でも臭かったら鍛えた色男も台無しだよな」  ぷんっと臭う男臭さに汗臭さ。手足を動かせば脇の下に足の指などが特に酷い。  体全体の汗っぽさ、湿気っぽさは石鹸とシャワーでおさらばしよう。風呂場に入って鏡を見て、視線を股間部に移動させる。 「…………なんでだろうな」  俺のチンコは勃起していた。  それはもう元気に硬くそそり立っていた。  クラスメイトよりもませていた俺は中学生の頃に呆れるほどオナニーした。  身長と性欲が比例しているんじゃないか? 自嘲しながら毎日オナニーしてきた。  家に帰っても独りだから、そのぶん部活に没頭していた。体中のスタミナが切れかけては『疲れ魔羅』なるものを体験し、おっ勃ったものを慰めたものだ。 「猿みたいだって……自分でも思ってたけどさ」  その甲斐があったのかは知らないが、皮は剥け立派に育っている。丸っこい亀頭に張った裏筋と反りのあるカリ首も十分な大きさだろう。鍛えた肉体と同様にデコボコしているが毛皮に隠されていない分、こちらのほうが血管がよく目立っていた。 「本当に俺は体だけは一人前だよな。んん」  軽く触れてみると脈動が伝わり、興奮を意識し疲れた体が性欲に流されかける。  根本から先にかけ、太い血管が生えているし玉袋も垂れるほど精液を溜め込んでいた。  たぶん疲れ魔羅ってやつだろうと思っていたが、勃起のトリガーは決まって父さんが原因だった。いや原因は俺にあるんだけど、とにかく弱ったことに父さんが切っ掛けになっている。 「絶対に違うと思ってたんだけどな……」  もう疑いの余地はなくなった。だけど相談できる相手がいない。 「どうすんだよ、父さんに相談したら笑って変なことを言うのはやめろって、言われるに決まってる」  仮に父さんに『アキユキを見てたら勃起する』と言われでもしたら。 「ありえねーよ。聞きたく問題だろうな」  俺は未成年ながら女に興味津々のはずだ。交際だってしてみたい。  父さんには隠してるけどエロ本やエロ動画をオカズに抜いた経験も豊富だ。  もしかして潜在的にゲイなんじゃないか?  ためしにホモ系の動画やエロ本など、そういうのを画像検索などもしてみた。  当たり前のように股間は反応しなかった。むしろ気持ち悪くなり自分はそっちではないのだと知れた。友達と話しているときにも感じなかったしチンコは何の反応も示さず大人しかった。  だから疲れ魔羅だろうと察した。  なんだ、とっくに経験済みじゃないか。  部活のシゴキやストレスで生存本能が子作りをしろと訴えてきているんだ。  中学生の頃に異常なくらいスポーツに打ち込んできた。あのときの再現でしかない。  何度となく自分に言い聞かせていた。  これは問題ないし、異常でもないんだって。 「………………」  シャワーを全開にし頭から冷水を浴びる。  疲れた肉体と性欲を持ち出した体を冷やし、ごまかそうとした。  冷水が降りかかるのを嫌がるみたいにチンコは反応していたが無視した。  俺は父さんと話していると、急に勃起することがある。朝昼晩……いつでも所構わず発情期のメス犬にあてられたオス犬みたいに盛りだす。  冷水がだんだんとぬるくなり、ついに温かくなった。  毛という毛についた埃や泥を洗い落とし、全身を泡立て雑菌や体臭を流す。  勃起した股間は洗いづらく、石鹸で手コキでもするみたいに掃除してやった。  全身をすっかり綺麗にして温かい湯船に足からゆっくり浸かっても、チンコは勃起したままだ。 「どうしてなんだよ」  両手で鼻先に触れ、両目を隠す。  湯船で何度も顔を洗っても性欲は流しきれずモヤッとした。  あんなにも冷水を浴びたのに胸の高鳴りは少しも休まらない。  浴槽のなかで勃起したチンコは茹でられたソーセージの皮みたいに、パンパンに張り詰めていた――――。  あれから疲れた肉体に見合った食事を食べて、他愛ない会話をしながら眠った。  目覚まし時計を使うまでもなく起き、今日が終われば明日から長期休暇だと笑う。  リビングのテーブルで腰掛け、キッチンにいる父さんの姿を眺めているだけで楽しい。 「でさぁ、先輩も顧問も後輩にキツすぎるんだよな。制服で帰るのも面倒だし」 「それは大変だね。みんなで抗議してみたらどうだい?」 「したら精神的に弛んでるからそういうことを言うんだ制服を着て我が校の精神を学べだとか、なんか意味分かんないことではぐらかされた」 「うーん、それは問題だ。部活の時間も以前より長引いているし」 「前は自主練だった時間以上にやらされてるから、疲れも不満も溜まってるよ」  適当に部活の愚痴を話していた。  朝から父さんと話せるなんて……こっちの高校にしてよかった。  心は幸せで、自然と笑いたくなるのだけど異常事態に参ってもいた。  寝る前に抜いていたはずなのに、俺は鼻歌しながら尻尾を振る父さんに勃起しているんだ。 「…………」  制服に着替えて、何食わぬ顔で朝食を待っているだけだってのに。  硬くなったチンコが内もも間で跳ね内側を蒸すように熱くなっていた。  エロ本にあったシチュエーションで言うなら『彼女の家に招かれたせっかちな男』みたいだった。期待と股間を膨らませ、血走った目で彼女を見つめていたら気づかれてベッドイン。とかそんな内容だったっけな。 「アキユキ今日は変じゃないか?」  コトン、と皿がテーブルに乗せられる音にビクついた。  ボケっとしていたら父さんが隣にいたのにすら気づかなかった。  勃起がバレてないか焦ってしまうが、うん、位置的に大丈夫のはず。 「なにが?」 「顔色が違うっていうか、息も少しあがってる。風邪じゃないか?」  いきなり額に手を当てられる。微かに鼻をついたのは父さんの匂いだ。  父さんが自分で俺に触れてくれるのは珍しいから、手を払わず嫌がりもせずおとなしくした。すりすりと手のひらの肉球から汗の匂いもした。  勃起が痛くなるけど、俺は父さんに触れられるのが幸せだった。  見た目の通り酒もタバコも苦手で、ついこの間までは会社に勤めていた。  だからだろう、いなくなった母さんと似た甘い匂い。だけど大人の男の体臭が混ざったもの。 「熱はないみたいだな」 「うん。体調はそんなに悪くないけど、部活が嫌で仕方ないよ」  はあっと溜息ついた。父さんの手が離れていき、膝の上に乗せていた右手が持ち上がった。その手首をつかもうとしていた自分に驚き、左手で右手首を握りしめた。 「アキユキ」  座っていると流石に俺が父さんに見下される。  子犬っぽい顔が俺を見下ろしていると、勃起がバレた気がして怖くなった。  しかし父さんは勃起より上にある、俺の両手を見つめて不安そうにしている。 「手首を痛めたんじゃないか?」 「え、え? いや、別にそんなことは」  俺は父さんから視線をそらす、心配してもらえるのが嬉しいのに頭の中は股間の充血が悟られないでほしい。それ以外になかったのに心から俺を心配してくれていた。 「隠さなくていいんだ。ほかに痛いところか苦しいところはないか?」 「どこも痛くないし、苦しくなてないよ……」  ズボンの内側で先走りを出し始めた股間が、パンツに擦られて苦しい。射精が出来なくて痛いと尿道が訴えてきていた。こんなの言えるわけなくて、目をそらしたまま手首を離した。 「そうか、じゃあしばらく部活は休みなさい。手足の不調ということにしてね」 「え?」  まさか父さんが俺に部活を休むよう言ってくれるなんて、そんなことありえないと思っていた。好きなんだから思いっきりやれ、そんなことをずっと言ってくれていたのに少し不機嫌なのだろう、鼻息が洗い。 「まったく部活で生徒を壊したら、うちの子になんてことを。今度は正式に抗議してやらないとエスカレートする一方だろう。大丈夫だ、僕が言って聞かなければ保護者を集めて話をつけにいけばいい」 「い、いいよ俺のためにそんなことしなくて」 「何を言っているんだ。度が過ぎた真似は保護者として許せません」 「何そのPTAのおばさんみたいな口調」  演技っぽく腕を組む父さんに笑うと、父さんもニッコリした。 「さ、早く食べなさい。部活を強要されるようだったら他の先生にも相談して、しばらく辞めなさい」 「うん、わかった」  父さんの優しさに甘えてしまおう、と笑いながら目を下ろす。  ご飯に味噌汁と目玉焼きが4つくらい乗ってる皿にサラダも山盛り。  そして焼き目がつき、皮をパリパリにした大きなソーセージが三つある。  ああ。自分のチンコを昨夜ソーセージみたいに表現したっけなぁ。  かじればパキュッと張り詰めた皮が尖った歯で裂かれ『ドピュ』っと肉汁が噴き出していた。 「美味いか?」 「美味しいよ。ありがとう」  幸せな朝食だけど、俺の心情は口が裂けても言えなかった。  ちょっと授業中に窓を見やり、ぼーっと人生を反復した。  父さんと母さんは仕事に人生をかけていた。いや、かけている。  どちらともプロジェクトに夢を詰めながらも家庭を持ち、俺が誕生した。  そのせいで俺は幼心がついた頃から、長時間を託児所に預けられがちだった。  最初は母さんが俺の面倒を見てくれていたものの、一緒にいられる時間は限られていた。  日が落ちる頃に遊んでいた子がひとり、またひとりと母親に駆け寄り抱きしめられている姿を指くわえながら見つめてた。  今度こそ俺の番だ!  そう出入り口をチラチラ見守っていたけど、結果はいつも同じ。  周りからは『最後の子』と呼ばれ二日くらい機嫌が悪かったもんだ。  小学校にあがる頃には放任主義を羨ましがられるようになっていたな。  俺から言わせてもらえれば、家で独りゲームをしているだけの毎日は飽きる。  お菓子や好きなものを食べられると言われても、どれも味気なくなり飽きてしまった。  父さんは単身赴任で滅多に帰ってこない。  母さんは好き好んで残業するから帰ってこない。  小学二年生になってから、母さんは更に家を開けた。  春休み、夏休み、長い休日は俺にとって面白くなかった。  まず宿題で時間を潰し、新作のゲームに時間を費やし、友達と遊びに興じる。  だけど……家に帰ったら静けさで満たされた。言葉にできない孤独感があった。   次は小学三年生になった頃の話だ。  母さんは外国に出立することになる。  俺は行かないでと必死に止めた、泣きじゃくって我儘を親に言ったのは初めてだ。  寂しそうに俺を抱きしめる母さんは夢のため、俺を置き去りにすることを選んだ。  そりゃ外国に行きたいわけがないし、家にいてくれるように頼むのは子供らしい願いじゃないだろうか。もっとも、仮に外国へ一緒に行ったところで一人ぼっち。なら置いていくのも無理はない。今だからわかるけど、納得はしていない。  どう考えても捨てられた気がして嫌だった。  アキユキは強い子だから頑張れる。  父さんも母さんも、よくそんなことを言っていた。  俺は別に強いわけじゃない。ほかよりも身長と腕力があっただけだ。  自分たちの責任を放棄して『おまえならやれる』と言われても気分が悪い。  子供の頃から親は俺が嫌いなんじゃないか? 夢のために邪魔だと思ってるんじゃないか?  悩んでいたけど、父さんはプロジェクトを終え仕事を辞めた。  夢が叶ったと家に帰ってきたときはスッカリ疲れ果てていたっけ。  いまは母さんがバリバリに昇進して、仕事人になっているらしい。  たまに電話くらいしてくれりゃいいのに、母さんは冷たいよなと俺は普段から思っている。そして父さんが母さんを誇らしげに語るもんだから、意地悪をしたくなった。  離れ離れで何年目になるかな。  あっちで浮気されてんじゃないの?  身長が高くてマズルの出た外国産とさ。  って、父さんに言ったら『心では繋がってると信じている』と笑っていた。  言いたくないけど『アキユキは強い子だから頑張れる』って信じ方と同じじゃないかな?  チェッ! 俺をほっぽりだして惚気けちゃってさ。  父さんも母さんも、こんなに野球が強くなった俺を見てよ。  と、この瞬間に俺は気がついた。  野球をやり続けた理由は、きっと俺が強い子になれたって親に見てもらいたかったからだろう。  俺が強くなればなるほどに、親は俺から離れていくんじゃないか?  そんなことはない。父さんは仕事を辞めて、俺のそばにいてくれている。  いや、そうじゃなかった。父さんがいるから、俺はこっちの高校を選んだんだ。  あれ……じゃあ……父さんは俺を選んでくれてない?  母さんと同じように未だ仕事に熱中するんだろうか。  夢を追う目標を叶えると言いながら、俺に伝えるんだろうか。  アキユキは強い子だから頑張れる  うつむいてツバを飲む。  運動したわけでもないのにじっとりとした汗がシャツに染みた。  なんだか不安の穴に引きずり込まれた気分だ。舞い上がっていたのは俺だけか?  もし父さんが一時的な骨休めとして帰ってきているだけなら、俺はまた独りなのか?  不意に自分の額に触れた。  熱がないかと心配してくれた感触を思い起こす。  大丈夫だ。俺は父さんの大事な息子だぞ、怖がることなんてない。  これからは家にいてくれる。だから、俺は安心して一緒にいられるんだ。  ちょっとコジツケっぽい理屈を並べたけど、いま信じられるのは血の繋がりくらいのもの。  父さんが俺を見捨てない保証なんて、これまでを考えたらあげられるわけない。


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