週末の居酒屋は、どこも盛況だ。ここもそれは例外ではない。 ただ一点、異様なことを除けば。 極々普通の、10人程度で使う個室。真ん中に大きめのテーブルがあり、掘りごたつになっている。 そこに、女性が5人いた。それだけで、部屋が狭く感じるほどの、規格外に太った女性が、5人も。 相撲部屋かと思うほど、テーブルの上には大量の料理が並んでいる。先程のオーダーでは、揚げ物の盛り合わせを「一人一つ」頼んでいた。 当然、シェアをする想定のそれは到底女性が一人で食べきる量ではない。 「はぁ〜、久しぶりのお酒…沁みるわぁ…」 5人の中で一番背の低い早苗が、ビールを一気に呷ってしみじみとそう言った。 巨大な胸と腹が机につき少しばかり苦しそうだが、それは全員に言える。 「早苗ちゃん、授乳期大変だったものね」 瑞樹がウンウンと頷いてる。手には同じようにビール。目の前には既に空になった揚げ物の皿が2枚重なっている。体型は、やはり超肥満体だ。特に尻が大きいせいで、座高が高く見える。掘りごたつに入っていると言うよりも、ハマっているという様子だ。 「そう、そうなのよ!まあ、おっぱいあげなきゃいけないから分かってるけど、やっぱりアタシには厳しい日々だったわ〜」 「あー、わかるわぁ…。っていうか、ココ子供いるのはぁとと早苗さんだけか☆」 5人の中でもひときわ太った心が早苗に同意するように頷いた。前にでんっとせり出した胸はテーブルの上に乗り、腹肉はテーブルの下に潜り込んでいる。足を大きく開き、その間に腹肉を垂らしている状況は、とても常人の光景ではない。 「そうですね…。うちも、早く赤ちゃんほしいんですけど…」 3人より少しペースの遅い、柔和そうな女性がそう返事をする。心と同い年の美優のもとには、残念ながら子宝はまだだった。 もっとも、腹部はぶよんっとせり出し、孕んでいると言っても誰も疑わないだろう。肉質の特に柔らかい彼女の体は、既にじんわり汗をかいていた。 「大丈夫よ。ヤることシてればそのうちデキるから!それより、今のうちに旦那との時間味わっときなさいな。…子どもできると、ホント時間ないから」 「そ、そういうものでしょうか…」 「経験者は語る、ね。…でも、美優ちゃんのところは心配いらないでしょう?ラブラブだものね〜」 「ラ、ラブラブだなんてっ…!そ、その、確かに……仲は良いと思いますけど」 「あー、初々しいわ〜。うちにもああ言う時期あったわねー」 「って言ってるけど、早苗さんとこも十分ラブラブでしょ☆」 「んー、まあそうなのかしら?……って楓ちゃん?どうしたの、さっきから黙っちゃって」 わいわいと会話をする中で、一人黙々と日本酒を呷り、焼き物を食べていた楓に、早苗が尋ねる。 「みなさんにお聞きしたいんですけど」 「なーに?なにか悩み事?」 瑞樹が尋ねると、楓は首を傾げた。 「夜の営みって、どうしてますか?」 一瞬、時が止まったような気がした。爆弾を放った楓以外には。 「えーっと…どうしちゃったの?いきなり」 最初に気を取り戻した瑞樹が尋ねると、楓は柔らかい表情で答える。 「いえ、みなさんご主人と仲が良さそうで、どうしてるんでしょうって。気になってしまって」 「相変わらず自由な子ねー…」 早苗が呆れたようにビールを飲み、唐揚げを一口で頬張る。既に15個は食べているだろう。 「まあ、気になるのはわかるけどな☆」 心がおそらく締めとして提供されるだろうラーメンをぺろりと一杯完食する。そして、今度は楓と同じように焼き物の盛り合わせに手を出した。 「んでもふぁ…」 「心ちゃん、お行儀」 「んっ…はーい♪んでもさ、ぶっちゃけ皆そんな変なことしてるの?フツーにシてるだけじゃん?」 「その、普通がわからなくって…。ほら、こういうのって、他人の事聞く機会もありませんし」 ひょいひょいと串から肉を咀嚼する楓。一番長身なだけあって、他の4人より少しばかり痩せているような気もするが、100kgを超えて久しい十分すぎる肥満体だ。 胸はあまり大きくならなかった分、尻や腹まわりの贅肉は凄まじく、テーブルと掘りごたつに完全に埋まっているように見える。腕を動かすたび二の腕の脂肪が揺れる。もっともこれは全員だが。 「じゃ、普通って言ってた心ちゃん、どんな感じ?」 「げ、早苗さんまで。乙女の秘密なのに☆ま、イイけど。ダーリンの趣味に付き合ってあげてるだけだしな♪」 「あー…そもそも心ちゃんとこも、楓ちゃんのとこも、旦那さん…そういう性癖だものねえ」 「そう言えばそっか。うちとか瑞樹ちゃんとこは、元々は別にデブ専ってわけじゃなかったし」 「もう、早苗ちゃん。せっかく濁したのに」 「アハハっ、ゴメンねー」 いないところで話題に出される旦那達だが、奥様がたが集まれば道理だ。 「あ、でもあれかも。早苗さんならわかると思うんだけど……おっぱい、飲みたがらなかった?」 「あー……ある、あるわ。アレなんでなのかしらね」 「お、おっぱいって……その、む、胸を吸われるとかじゃないんですか?」 「それがね美優ちゃん、違うのよ。いい?3人とも。妊娠して母乳が出始めたら、絶対一回は言われるわよ。『飲んでみていいか?』って」 「ちなみに、心ちゃんも早苗ちゃんもそれでどうしたの?」 「……まあ、飲ませたけど」 「…うちも、ダーリン普通に飲んでたわ」 二人揃って、少し恥ずかしげに顔を見合わせる経産婦組。 「母乳って、美味しいんでしょうか?」 「楓ちゃん、気になるとこはそこなのね…」 「ええ、私はまだ出ませんから…」 「っていうか、元はと言えば楓ちゃんの話なんだし、楓ちゃんこそどうなのよ〜?」 到ってマイペースな楓に、早苗がそう言うと楓はまるで先日の晩飯でも思い出すかのような、ごく普通の表情で答える。 「うちですか?そうですね…。……そう言えば、この間、顔に乗ってほしいって言われました」 「「あー」」 楓の言葉に、瑞樹と早苗も覚えがあるようで、同意の声を上げた。 「重たくないんですか?って聞いたんですけど、それが良いみたいで」 「あー、それねえ。うちの人も同じ事言ってたわ。『瑞樹さんの体重を感じられて良いんです』って」 「瑞樹さんの旦那も十分デブ専じゃん☆」 「っていうか、アタシたちの旦那でそうじゃない方がおかしいでしょー。うちのも最近じゃ『痩せてる子じゃなんとも思わなくなってまずい』とか言ってたし。…美優ちゃんのとこは?旦那さんどう?」 「うち…も、そうかもしれません……。…私も、前に同じ事を言われましたし…。…あの、私もみなさんにお聞きしたいんですけど…」 「あら、今日はお悩み相談の日ね。いいわよ〜」 瑞樹が調子よく返事をする。全員、頬が赤くなり始め、汗をかいていた。アルコールが回ってきたのだ。部屋は、蒸し暑いような熱気がこもる。 「あの…皆さん、その……ご主人との…って…は、激しいですか?」 酔いで普段より幾ばくか大胆なことを尋ねる美優だが、他の面々も程度の差はあれ酔っているので、誰も気にしたりはしない。 「激しい…のかしら。確かに終わったあとはすごく疲れてるけど、それはほら、体型もあるじゃない?」 「そう聞くからには、美優さんのお宅はどうなんですか?」 「う、うちはその…!…は、激しいかも、しれません…。…あのっ、ぃ、一回で…終わります?」 「んー、アタシのとこは流石に子供もいるし、二回三回って繰り返すことは減ったかもしれないわね。心ちゃんとこは?」 「うちもそうかなー。あ、でもたまにダーリンがヤる気だと、めっちゃ激しいわ☆……マジで、次の日ダーリン立てないくらい」 「……やっぱり、みんな一回くらいあるわよね。旦那、立てなくなった日」 各々、自分が上に乗った時の事を思い出す。確かにかなり激しいし、翌日旦那が力尽きているのも共通した事実だ。 「重たいですからね、私たち」 「楓ちゃん、事実だけど、それは認めたくない事実でもあるのよ…」 「瑞樹ちゃん、諦めなさいって。この状況で言えることじゃないわ」 テーブルの上には大量に皿が並んでいる。しかし、そのほとんどは既に空になっていた。話しながらも食べる手を止めることは無い5人によって、十数人前はあろうかと言う料理が綺麗に平らげられている。全員、腹が少し膨らんできた。 ビールのピッチャーが二つ空になり、一升瓶が二瓶空いた。気づかぬうちに、揚げ物メニューは全メニューが二回ずつ完食されていた。 「次、何頼みますか?」 「お鍋とか良いんじゃない?」 「いいですね。あら、丁度5種類ありますよ」 「じゃあ、それにするか☆あとはぁともうちょっと揚げ物欲しいかも♪他に欲しい人は~?」 心の言葉に、全員が手を上げる。まだまだ、腹には余裕があった。アルコールで、元々鈍りきった満腹中枢が更に鈍っていると言うのもあるが。 「んー、おし!面倒だから全部頼むか☆美優ちゃん注文のやつ貸して♪」 「あ、はいっ…。ん、っふぅぅ…!」 テーブルからどかしていた注文用リモコンを取るために、美優が後ろに手を伸ばす。腹肉がつっかえ、ふぅふぅと息を漏らしながら。全員、それを見守っている。……と言うより、腹が重すぎて動きたくないのだ。 「お酒も、もう少し頼んじゃいましょうか。楓ちゃんは日本酒で良い?早苗ちゃんは?」 「私は……じゃあ、次は焼酎を頂きたいですね」 「アタシはビール!今日はもうこの店のビール飲み尽くすんだから!」 「早苗さんそれ笑えないっての☆」 結局、鍋(2人前から注文可)を5種。そして揚げ物(全15種)を全て二つ。更にビールと芋焼酎を頼んで、奥様方の飲み会は続く。 店員が入ってくるたびに、ギョッとするのはもはやお決まりだった。 「やっぱり、お鍋すると暑いわね…。ちょっとシャワー浴びたい気分」 首筋の汗を拭いながら瑞樹がそう言う。みな、汗を流し、むわっとした空気が部屋に充満している。 美優が、自分の胸元に鼻を寄せた。 「……あの、私臭ってませんか?」 「大丈夫、美優ちゃんはいっつも良い匂いだぞ♪後、ここで聞いてもあんま意味ないからな☆」 「……実際、汗とかはやっぱ凄いわよね。アタシら」 早苗も、同じように大きく開いた胸元に鼻を近付け、手で拭った。 以前は汗一つかかないような雰囲気だった楓ですら、じわじわと流れる汗をハンカチで拭っている。 「お洗濯も、量が多いですしね」 「そう、楓ちゃん。それよ、それ。ボディクリームとかボディソープとかもすぐ無くなっちゃうの。お肌の手入れとかも、やっぱ時間かかるじゃない?」 「あー、瑞樹ちゃん偉いわー。アタシはもう半分諦めてるし。……ねえ、お風呂とかどうしてる?」 もはや、赤裸々な生活全般の話になり始めているが、同じ悩みや状況を共有できる人間は貴重なのだ。……この体型ならば特に。 「お風呂、ですか……?えっと……たまに、一緒に入ったり…」 「うちは基本毎日一緒だなー。ダーリンのお仕事とかで無理な日とかはあるけど」 「っていうか、そういう話じゃないのよ。正直に話してね。……体、洗えてる?」 「「「「あー……」」」」 4者とも、思い当たる節があるのか、早苗の言葉に声を漏らした。 「オッケー、その反応でだいたい察したわ。……やっぱ、無理よね」 「無理っていうか……正直、洗えてない場所はあるものね。お肉の間とか、デリケートゾーンとか…」 「はぁとのとこはダーリンの趣味もあるから、基本洗ってもらってるな♪」 「私もそうですね…。一緒に入ることが多いかもしれません。やっぱり、好きみたいで」 「やっぱり?アタシも子どもの面倒見ながらだと全然洗えないし、気づいたら基本毎日一緒だわ。……若干手つきがこう、エロいんだけど」 「え、あの……一緒にお風呂って…そう言う事じゃ…?」 「おー、美優ちゃん随分お盛んだな☆」 「安心だわー。美優ちゃんもすぐママになるわよ、きっと」 「い、いえっ、そういう訳じゃ…!」 「はいはい、可愛いのは分かるけど美優ちゃんイジメないの。うちは、週に1~2回って所かしら。……なんというか、まだ自分で体を洗えるって言い聞かせたいし」 「瑞樹ちゃん、諦めちゃいなさい。旦那に手伝ってもらうとまあ楽よ?」 「そ、それはわかるんだけどね?やっぱりこう、あるじゃない?意地みたいなのが。一応、私の方が年上なわけだし…」 「それで洗えないところあるんだから、本末転倒じゃない。知らないわよ~?旦那に『臭い!』とか言われても」 「…………それがね、うちの主人、そういうの好きみたいなのよ。この間のお休みの前もね」 瑞樹の言葉に、他の女性陣は耳を傾ける。 「私がお風呂に入ろうとしたら凄い残念そうな顔してね?どうしたのって聞いたら『せっかく瑞樹さんの濃い臭いがするのに、洗っちゃうのは勿体ないなと思いまして……』なんて言うのよ。シュンとしちゃって、なんだか悪い事してるみたいなの」 「それで、どうしたんですか?」 「そりゃ、主人にそこまで言われて無碍にするなんて出来ないじゃない?だから、汗も流さないままベッドに行ったら、もう凄いの。脇とか、お肉の間とかいっぱい嗅いじゃって。……でも、悪い気はしないのよねぇ……」 「瑞樹ちゃんとこも、なんだかんだラブラブよね~」 少しからかったら、とんだノロケを聞かされた早苗がそう言いながらビールを流し込む。 「っふぅ。あ、それで思い出した。ねえ、みんなの旦那ってアレやりたがる?身体測定」 「あー、めっちゃやりたがるわ…。何かあるとメジャー取り出すんだよな☆」 「うちも、そうですね…。あの人、パソコンに私のスリーサイズとか纏めていて」 「ごめん、楓ちゃんとこはちょっと方向性が違ったわ…。美優ちゃんと瑞樹ちゃんは?」 「わ、私は…どちらかというと、下着とかを買う時に手伝ってくれるくらいで…。その、好きなのは、なんとなく分かるんですけど」 「私もそうねえ、どっちかと言えば、主人に手伝って貰ってる感じかしら。……ほら、お風呂のもそうだけど、一人でやるとどうしてもね。……あ、でも体重は聞きたがるかも」 「やっぱ瑞樹さんとこ、立派にデブ専だな☆」 「まあ、否定する要素はないわね…」 「体重……そういえば、皆さんって今、何キロくらいなんですか?」 楓の言葉に、全員が顔を見合わせる。 「楓ちゃん、結構大胆な事聞くわね…」 「ふふっ、そうでしょうか?さっきから、皆さん赤裸々にお話してるのでつい」 「元はと言えば楓ちゃんなんだけどね?……まあ、今更恥ずかしいとかも無いから良いけど」 「でもでも、そう言うのはまず自分から言い出すべきだってはぁと思うな☆」 「私ですか?構いませんけど。…えっと、確か一昨日計った時が158kgだったと思います」 これで楓が言い淀めば、他の面々も体重を暴露する必要はないのだが、あいにくそうはならなかった。 当たり前のように、150kgを超える体重を暴露したのに、誰一人として驚かないのも、また異常な光景だ。 「あ、時計回りにしましょうか。という訳で、瑞樹さんどうぞ」 「楓ちゃん…酔って来たわね。……まあ、いいわ。今更隠したってしょうがないし。体重ね、えーっと…一週間前に測ったのが、168kgだったかしら」 身長差と横幅や、肉の厚さ、つき方を見れば、確かに瑞樹の方が楓より重たそうだ。 楓はまだ辛うじて首もあるし、腹肉もギリギリ太ももに乗るかどうかという具合だが、瑞樹の腹は完全に太ももについているし、首も脂肪でほぼない。 「じゃあ次アタシ?ちょっと待ってね、えーっと」 「早苗ちゃん、往生際が悪いわよー」 「違うってば!最近計ってないの。えっと、二週間前で159だったから、今161とか162kgくらいかしら?」 一番身長が低い早苗は、余計にその体に大量の贅肉を付けているように見える。子どもを出産したことも理由だが、特に腹周りの脂肪がぶよんっとせり出し、胸と一緒にテーブルを飲み込んでいた。 「じゃあ次はぁとか。……えっと、今うち体重計壊れててさ、だから180kgくらいって事で☆」 五人の中でも特に太い心の体重暴露に、流石に小さく驚きの声が上がった。 「おおー、いったわねえ…」 「そうは言うけど早苗さん、子ども出来てから食欲凄くない?おっぱいの分も食べなきゃとか言って、めっちゃ食ってない?」 「……食べてる。身に覚えがあり過ぎるわ…。しかも、もう母乳出してないのに全然食欲落ちないの」 「だろ?マジな話、あっという間だから☆」 「そうよねぇ…、だって、この中で最近ちょっとでも痩せたって子、いる?」 瑞樹がそう尋ねるが、全員が首を横に振るばかりだ。もっとも、テーブルの上に広がる料理の数々と、既に胃袋に詰め込まれたカロリーを考えれば当たり前だが。 「アタシらも心ちゃんの事言えないしね…。ま、そうなったらなったで考えましょ。ってわけでラストは美優ちゃんね」 「は、はいっ。えっと…体重、ですよね。確か…169kgだったと思います」 とろんとした瞳でそう答える美優。心のあとだからインパクトこそないが、170kgに迫る体重は十分すぎる肥満だ。 分厚い腹肉と、後ろにせり出した尻肉、そして足が閉じられない程の太もも。全員に言えるが、美優は、その柔らかい肉質もあってか、より弛んでいるような印象を受けた。 5人で、800kgを超える。女性5人で、だ。いかに彼女らが重肥満なのかが伺えるだろう。 「あら、じゃあ私が一番軽いんですね」 楓が少しからかうような口調でそう言った。1番軽くて、150kgを超えているのだ。 「まあ楓ちゃんったら、その言い方なに~?悔しいからこれも食べちゃって」 「そうそう。楓ちゃんとこの旦那が一番アレそうだし、旦那に喜んでもらいなさいな」 「ふふっ、では遠慮なく♪」 瑞樹と早苗が、楓の方へ皿を寄せる。二人とも胸をテーブルにどっかりと乗せ、少し苦しそうだ。 「あの…やっぱり皆さんのご主人って、皆さんが太ってることが嬉しいんでしょうか…?」 「どうなのかしら。…少なくとも嫌がってるわけはないと思うけど」 「アタシのとこは絶対喜んでるわね。何かある度に『早苗さんまた太りました?』ってニヤニヤしながらお腹とか揉んでくるし」 「はぁとのとこはそもそもデブ専だしなー。『心の体重が気持ちいいんだよ』とか言っちゃってさ☆」 「んむ…そういえば、あの人も以前『俺は楓さんが200kgになっても300kgになっても愛せる自信ありますよ』って言ってましたね。あ、コレ美味し…」 「イヤイヤ、300kgって流石にいきすぎじゃない?」 「早苗ちゃん、まず200kgに突っ込みましょ?一応、女として」 「いやー…だって、正直な話…ねえ?」 早苗の言外の同意に、彼女らは首を振ることが出来なかった。 結婚をして、幸せの渦中にいて、体重など一グラムたりとも減らず日々増え続けているのだ。あと30~40kg(心に至ってはあと20kg)程度、気づけば更に太っていてもなんの疑問もない。 「いえ、ダメよ早苗ちゃん。せめて現状維持しないと。ただでさえ色々怪しくなってるのに、もっと太ったらそれこそお風呂だけじゃ済まなくなるわ」 「お洋服もサイズを見つけるのが大変になっちゃいますね。……追加でオーダーしますけど、皆さんどうします?」 「楓ちゃん?言ってることが真逆よー?」 「アタシビールで!」 「はぁとも!あとなんか甘い物!」 「あ、でしたら私も、何かデザートを…」 「はーい♪瑞樹さんはどうしますか?」 「んー、もう。ズルいわよ皆。私もデザートお願い!」 舌の根の乾かぬ内に結局またオーダーをしてしまう。当然、現状維持など出来ようもない。 「ってかさ、お洋服くらいはぁとに頼んでくれれば安く作ってあげるのに☆」 「…心ちゃんの気持ちはありがたいけど」 「……デザインがねー」 「どういう意味だよ☆」 「っていうか、この状況で現状維持なんて、瑞樹ちゃんもよく言えるわよねー」 空の鍋、油のついた皿が何枚も重ねられ、焼き物の串は100を超えている。日本酒の瓶もビールのピッチャーも、一人一つのレベルだ。全員、スカートやパンツのホックを緩め、ベルとも完全に緩めている。最初に座った時より、明らかにテーブルが腹肉に食い込んでいた。 「……まあ、そうなんだけどね?でもほら、生活に支障が出るじゃない?お風呂だけじゃなくって他にも」 「他ですか?」 「紐靴が履けないとか?」 「あー、無理無理。あと立って靴下履くとかな。はぁと靴下とかしばらく自分で履いてない気がするわー。足の爪とかも切ってもらってるし」 「他だと…電車、とかでしょうか…?」 「そういえば最近、あまり電車に乗ってないですね…。やっぱり、どうしてもお尻が…」 「座んないとしんどいけど、座ると迷惑だしねー。アタシも最近は旦那の車ばっかだわ」 「はぁと達、余裕で二人分必要だもんなー。ああ、アレは?ファミレスとか、外食」 「あー、テーブルね!そうなのよ、あれもまー狭くって。こないだなんか出れなくなるかと思ったわよ」 「よかった…やっぱり皆さんもあるんですね…。私だけだったらどうしようかと…」 「大丈夫よ、私たち皆一緒だから」 「ああ、そういえば私、この間足元に落とした家の鍵が取れなくて…」 「あー、しゃがめないわよね。絶対転ぶ自信あるわ。逆に立つのとかも、最近は旦那に手を貸してもらってるし」 「そうそう、最近何するにしてもダーリンと一緒☆って感じ」 「体重計とかも、一人じゃ確認できませんし…」 「むしろ確認したがってる気もするのよね……」 「うちもそうですね、体重とかスリーサイズとか。計ってるときにこう…触り合ったりして…」 「どこも皆一緒だな☆」 「ま、あの旦那以外考えられないけどね。……っていうか、まあ支障は出てるかもしれないけど……あの旦那が満足しなくなりそうじゃない?痩せたら」 「……否定できないわね」 「ガッカリ、しちゃうかもしれないですね」 「なんなら、こうなったのもダーリンのせいだし。一生責任取ってもらわないとな☆」 「それに…主人に体を触られると、…気持ちいいですし…」 「…そう、なのよねぇ……」 「アタシらも立派に毒されてるのかもね」 「贅肉とか揺らされるの、癖になるんだよなー」 「ふふっ、皆さんもですか?私だけじゃなかったんですね」 「ま、考えても仕方ないわね!!……って、もうこんな時間じゃない」 「あら、ホント。心ちゃんも早苗ちゃんも平気?」 「一応今日は羽伸ばして来ていいって話だったけど、……旦那も心配だしそろそろお開きにしましょうか」 「だな☆うちの子も、はぁとが一緒じゃないとなかなか寝てくんないしさ♪」 「アタシら、娘のベッドだもんね。よっ…ふんっ……ふぅぅ……んっ…!」 「……早苗ちゃん?大丈夫?」 「…はぁ…待って……皆、抜けられる?」 腹肉を突っ返させながら、何度ももがく早苗がそう言う。全員、尻を揺らし、腹肉を震わせ、じたばたともがく。なんと、滑稽なことか。 大きなテーブルが、総体重800kg超えの女性たちの身動きで、ミシミシと鳴っている。 「んっ…っはぁ…私は…なんとか…」 一応、一番スリム(150kg越え)の楓が最初に掘りごたつから抜けた。部屋の暑さだけが理由ではない大量の汗をかいている。 「はぁ…楓ちゃん……ふぅ、ちょっと、手伝ってくれない…?」 太ももにテーブルを食い込ませ、腹肉と尻肉をぎゅむぎゅむと歪ませている瑞樹が、ぶるっと震える腕を伸ばした。 「ふぅ…ええ、いきますよ…よいっ…しょ……」 瑞樹の手を取って、楓が引っ張る。腕の力に加え、159kgの体重が引っ張る力に加わり、瑞樹の身体がずるっとテーブルと掘りごたつの間から抜けた。 「はぁ…っふぅ…やっぱり……これ以上、ふぅ、太ったら…まずいわね」 そう言いながら、瑞樹は汗を拭い、隣の早苗の腕を引っ張る。 「んふぅ…とりあえず、次からはお座敷にしましょ」 「それはそれで…立つのが大変そう…」 そんな話をしている間に、楓が美優を引っ張り出し、美優と楓の二人がかりで心を引っ張り出す。 全員、肩で息をする。服には濃い汗ジミがつき、テーブルはガタガタと揺れたせいか上の食器が少し乱れていた。 「はぁー…疲れた…次からはダーリンも呼ぼうぜ…」 「そうですね…ふぅ…その方がいいかも、知れません」 「ふぅ…さ、みんな平気……じゃないのは分かるけど、出ちゃいましょ…」 「やっぱり…臭ってる気が…」 「あー、もうしょうがないわよ。はぁっ…タクシー捕まえましょ」 「この全員載せるの…ふぅ…ワゴン車でも無理じゃない?」 「……私、主人に電話するわ」 「私も…そうします…ふぅ…」 「お会計…はぁ…済ませておきますね…」 たかだか席を離れるだけで、一苦労な面々だ。各々息を整えながら、上着を羽織り、バッグを手にする。 そして、どすどすと足音を鳴らしながら一人、また一人と部屋を出る。極一般的な居酒屋の通路では、二人同時には歩けない。 店員のギョッとした表情を受けながら、エレベーターへ向かう。 何故、この居酒屋を選んだのか。立地、味、値段も勿論だが、もう一つ、大きな理由があった。 「あ…ねえ、全員の旦那まで来たら、このエレベーター乗れなくない…?」 このビルに取り付けられている、定員15名、総積載量1000kgまでの大型エレベーター。彼女達が同時に乗れる、珍しい物だ。これのおかげだが。 「…………足りないわね」 平均的な男性が、ここに5人分追加されれば100kgを超える。各夫婦とも、総体重が200kgを下回ることは有り得ないのだから。 「……ま、次までに考えるって事で☆」 「いっそのこと、新しいお店を探すのも良いかもしれませんね」 そんな事を言いながら、ぞろぞろとエレベーターに乗り込む。広々としたはずの大型エレベーターがひどく狭い。そして、汗とアルコールの匂いが一気に充満する。乗り合わせた客がいないのはラッキー以外の何物でもない。 「それに、三人のうち誰かが子どもで来たら、飲みに来るってわけにもいかないしね」 「あら、早苗ちゃんか心ちゃんに二人目が出来るかもよ?」 「そうなったら…また皆さんでお祝い、贈りましょうね」 「とか言ってると、美優ちゃんから「子どもが出来ました」とか来るかもな☆」 女三人寄れば姦しいと言うが、仲の良い五人だ。話も尽きない。あっという間に、一階までエレベーターは降下し、少し涼しい空気とカゴの中のもわぁっとした空気が入れ替わる。 「……皆さん、締めにラーメンなんて、いかがですか?」 向かいのビルの一階で、煌々と明かりを灯すラーメン屋に目を付けた楓が、そんな事を言い出した。 「……良いわね」 「ちょっと、早苗ちゃん」 「……でも、やっぱ締めは欲しいじゃん?」 「心さんまで……」 「じゃあ、美優ちゃんはやめる?」 「……皆さんが、行くんでしたら、私も」 「では、あとは瑞樹さんだけですね♪」 「もー、楓ちゃんったら……行くわよ、行きますー!」 「アハハ、最初からそう言えばいいのにねえ?」 「もう、早苗ちゃんの意地悪~」 彼女達の宴は、もう少しだけ続く。