「食べると変な夢を見る」と噂されるチーズがあります。
それがこのスティルトンチーズ
成城石井で買えました。
wikiによれば、フランス産のロックフォール、イタリア産のゴルゴンゾーラとともに三大ブルーチーズと呼ばれているそうで、チーズのなかに見える青い模様はまさしく王道な青カビ系ブルーチーズといった様相です。
さて、冒頭でも記したとおり、このチーズはたびたび「食べると変な夢を見る」と言われており、2005年には英国チーズ委員会の調査が成されています。
それによると、就寝30分前に20gのスティルトンチーズを食べた被験者200人のうち、男性の75%が奇妙で鮮明な夢を、女性の85%が奇怪な夢を見たそうです。
なぜ奇妙と奇怪でわざわざ分けてるのかよく分かりませんが、とりあえずwikiに書いてあることそのまま鵜呑みにするのもアレなので、wikiで示されている元記事を確認してみましょう。
そもそも「チーズを食べると悪夢を見る」という俗説が、英国では(あるいはヨーロッパで?)あったようです。この俗説の起源は明確になっていませんが、チーズと一部(イミプラミンなど)抗うつ剤の組み合わせでチラミン中毒が起こるという問題が判明したときがあり、その頃の不安感から悪夢を見た可能性などが指摘されています。
実験のほうを見てみましょう。
記事によれば1週間の研究に参加した200人(男100人、女100人)のボランティアのうち、72%が毎晩ぐっすり眠り、67%が夢を覚えており、悪夢を見たという記録はなかったそうです。
この結果から、むしろチーズは安眠を助ける効果があると結論づけられています。
そのうえで、同数の参加者には6種類のチーズが配られており、そのチーズによって夢の有無や内容が異なることを示したデータが現れています。
(これについて、一日に一種類ずつ別のチーズが配られたのか、それとも一人一種類を7日間なのかイマイチ分からないのですが、たぶんスティルトンチーズの記述を見るに後者だと思われます。)
たとえば、レッド・レスターを食べた日の83%は学生時代や実家や故郷といった懐かしい記憶の夢を見て、ブリティッシュ・ブリーは男女で夢の内容が異なり、女性はビーチでリラックスしたり、イギリスで有名なシェフがキッチンで夕食を作るなどの楽しげな夢を見る一方、男性は戦艦に向かってドライブしたり、酔って犬と会話するなどの奇妙で不明瞭な夢を見るなど……
そのなかで、スティルトンチーズでは参加者の3ぶんの2以上が7日のうち5日ほど安眠を得てる一方で、男性の75%が"odd and vivid dreams(奇妙で鮮明な夢)"を、女性の85%が"most bizarre dreams of the whole study(研究全体で最も奇妙な夢)"を見たとされています。
内容としては、喋るぬいぐるみ、横に動くリフト、子供を食べれず怒るベジタリアンのワニ、ラクダと交換されるディナーパーティの客、銃ではなく子猫を抱えて戦う兵士、精神病院でパーティなど……
「odd」と「bizarre」の違いについて、oddは数学上で「奇数」を表したり「オッドアイ」などに使われるように、不規則感を感じさせられるものに使われがちなようです。つまり、規則性のあるものや正常・標準なもののベースがあるうえで、そこから外れたものを表す言葉といえるかもしれません。それこそ、うちの子の黄衣ちゃんなどは「odd」寄りなのかも……?
一方「bizarre」は「weird」と近いニュアンスで、説明のしがたい不気味さ、未知なもの、想定の外側にある感覚のものを表しています。Weirdが「気持ち悪い」とかネガティブな印象があるのに対して、こちらはより感情的にはフラットな感じ……?
ちなみに、実証実験だけではなく、一応科学的な仮説も立てられています。
チーズにはトリプトファンというアミノ酸が含まれており、これがセロトニンなどのホルモンの前駆体であるため、ストレスを軽減し、睡眠を誘発すると考えられております。また、スティルトンをはじめとするブルーチーズはほかのチーズに比べてビタミンB6が多く含まれており、このビタミンB6を接種すると夢を思い出しやすくなるという研究結果もあるため、普段意識しない夢の奇妙な部分もよく思い出せているのではないかと考えられています。
上記と自分の経験をふまえて、自分が食べるにあたっていろいろ考えてシチュエーションを練りました。
・食べる日
まず、スティルトンチーズを買った当日に食うことは控えました。「スティルトンチーズを食べると変な夢を見る」という結びつきがある状態で、そのチーズを買ったという経験が強い日に実験を行うと、そもそも夢として出やすくなるのではないかと思ったためです。なので、数日して、普段と変わらない日常が安定したタイミングで食べるようにしました。
・食べる時間と量
実験では寝る30分前に20gとしていました、これにどういう根拠があるのかは分かりませんが、とりあえずそれに従います。
口に入れたあと、効果が現れるまでの時間について、薬の場合は15~30分とされております。飲み物も30分程度、食べ物のエネルギーが吸収される場合は1時間~数時間ほどとかなり違うわけですが、チーズはまぁ柔らかいし、血糖値やトリプトファンなどが働き始め安眠を助ける時間などを加味して30分前なのかな~とか考えました。
そもそもブルーチーズ経験がほとんどなく、海外旅行のときの飛行機のなかでゴルゴンゾーラっぽいの食べたかな……くらいの記憶です。あとはたぶん4種のチーズなんとかに含まれたりとかしてない限りないです。
なのでこれで食えないくらい苦手だったらもう実験以前にもうアウトです。
おそるおそる開けると……
あれ?思ったより普通……?
匂い自体はかなり強いです。チーズ臭さの"臭さ"の要素を強めにした感じなので、チーズが好きであれば強烈だとは思っても嫌悪感にはなりません。
ただ、独特の刺激臭というか、なにか科学臭さがうっすら感じられます。これが青カビのニオイ……?という感じです。でもそんな気になりません。
とりあえず一口味見してみると、かなりしょっぱい。
これ単体でおつまみという感じです。酒好きな人にはたまらないんだろうなという感じ。サイゼのペコリーノチーズくらいしょっぱい気がします。いやそれは言い過ぎか……?
とはいえ、想像してたよりも全然食えるので拍子抜けというか、これならいくらでも食えるな~と思いざっくり20gほど切り取って食べ始め……
このとき、鼻で呼吸をしました。すると、胃に入ったチーズが鼻を通って外に向かって流れます。
瞬間、「え?粘土かパテでも食った?」と胃や喉が突如拒絶反応を示しました。
(ブルーチーズ好きな方、申し訳ありません。)
そう、このチーズは食べる前より、食べたあとのニオイのほうがかなり強烈だったのです。いや、強烈というか、ニオイが強いわけではなく、僅かに香る程度なのですが、その僅かな香りが「無機物」すぎるんですよね。「あ……これ無理だ」となりかけました。
とはいえ、味自体はいけるので、どうにか食べ進めたい。
そこで、海苔、はちみつ、コーンポタージュを用意して、味変をしまくりながら、コンポタや白湯で流すように食べ、鼻呼吸をできる限りしないで進めます。
20分ほどかけてようやく食べ終わりました。このとき時刻23:50程度。
そこから通話相手とパロディAVのタイトル(アーンイヤーンマンとかオッパイダーマンとか床ジョーズとかそういうやつ)の話をしながら、0時半ごろに歯磨きをして就寝をしました。「海外映画パロディAVの夢を見ちゃったらどうしよう」とあえて念じることで、その可能性を排除します。(経験則的に、自分の場合はわりかし効果がありますが、この方法は人によっては逆効果かもしれません。)
そんなこんなで寝たわけですが、ここで大きな問題が。
自分はそもそも夕飯を食べたあと、すぐに歯を磨き、そこからは水や白湯だけしか飲まないで寝るというライフスタイルで固定されてたので、就寝の数十分前に胃にものを入れるということをしたのがそうとう久々でした。
しかも、チーズ単体では無理だったので、ポタージュとかも追加してます。
そのため、胃腸がゴロゴロ働いてるのにかなり違和感が発生してしまい、滅茶苦茶に寝付きが悪くなってしまったのです。チーズは安眠を促すはずなのにまったくの逆効果になってしまいました。
結果、夜中になんども目が覚める羽目になりました。
ところで、このときはあまり夢を覚えていません。目が覚めたあと「夢を見なかったな、本格的に寝る前の、ウトウトした段階で起きちゃったかな」とか思ったのち、少しして「いや、確かになにか夢を見ていたはずだ」と思い出す……という流れを、2度、3度やりました。ここらへんの話はまたあとで。
その後、ようやくしっかり寝れて夢を無事見ることができました。ちなみに寝付きの悪さが理由で二度寝、三度寝、四度寝としたのでいろいろ夢を見てます。
以下、ツイートで夢日記を貼りました。
夢の本編は長くなるので詳しくはツリーをみていただきたい(あるいは長いので見なくてもいい)のですが、とりあえず一番「変な夢」に見えそうな、いちばん最初に記憶してた夢を最初のツイートに記しています。
これを見た皆さんは「なるほど、ソシャゲをパソコンでプレイしながら投網で漁をするなんて、なんて奇妙な夢だ!」と思うかもしれませんが、普段から夢日記をつけてる自分としては、これはありふれたよくある夢です。
そのためには、寝た日、一日何をしていたのかを話す必要があります。
起床して朝の諸々をしたあと、日課のFF14のルーレット回しを行い、そのあと野草や魚・昆虫を食べる「ホモサピ」さんのYoutube動画を見たりしつつ、夕方ごろにアークナイツの「導灯の試練」というサブイベントが最終日で且つ報酬があることを知って、駆け込みで急いでプレイ。夜、PCのDiscordで通話しながらどうにかアークナイツのプレイを終えて、スティルトンチーズを食べ、そしてパロディAVタイトルの話をしたりし、そして就寝……
こういった流れです。
なんとなく察しがつくと思いますが、「PCでアークナイツをプレイする」は、「Discordの通話をPCでしつつ、スマホでアークナイツをプレイしていた」状況が重なって現れています。それでは投網をして魚を取ったのは?これはホモサピさんの動画をいくつか見たうち「下水を泳ぐハクレンを投網で捕まえて調理する」ものがあり、それが夢の内容に影響を与えたものと言えます。
ちなみに、この動画もPCで視聴していました。
自分の夢日記の経験上、夢は多くの場合、その日の「何か」が現れます。フロイトなどは「必ずその日起こった出来事に由来する欲望が夢になる」と断定しており、自分にはさすがにそこまでの断定はできませんが、頻度として高いのは確かです。
(欲望は反映されるときもありますが関係ないと思います。)
また、夢の実践的研究家だったエルヴェ・ド・サン=ドニは夢の展開について「絵の重なった幻灯機」と表現していて、関連性のあることがらを連想していく特徴があると語っております。これは現代の研究でも「関連性はあるが薄いつながりのものをつなげることで、記憶を強化している」という実験に基づいた仮説があり、信憑性はそこそこあります。
ちなみに、ツリーにある「古書店を探す夢」については、通話しながらチーズを食べてるとき、当然夢の実験の話もしており、その流れで「夢のなかでよく行く、夢にしかない場所」の話題になり、それで「自分の場合、住宅地の十字路の角にある古書店の夢をよく見る」と話していたので、その影響と考えられます。
ウナギの夢はやはりホモサピさんの動画で、川に不法投棄されたパイプの中にひそむナマズをとり、それで蒲焼をつくる内容があったので、そこからと考えられます。
銃撃の夢や体育館の夢の内容にはそこまで思い当たるふしがありません。
ただ、体育館の夢自体には結構共通してこういうときに見やすいという特徴があります。
それは、覚醒しかけの状態に発生するということです。
体育館や何らかの講義中などの夢では、夢の中でまぶたが開けられないほど重くなり、眠くて眠くて仕方ないという状況に陥ることがよくあります。
これはつまり、現実では覚醒しかけていて、夢における「思考の視界」から、現実のまぶたの裏を見ている「眼球の視界」に移行してるから起こる現象です。
この夢は3度寝くらいのときに見たような気がするので、「まだ寝たい」と「起きなきゃ」のはざまでこういう状態になったのでしょう。
Live2Dの夢は、まさに今日、Live2D制作を仕事にしてる人と通話する予定があったため、もっとも直接的に反映された夢といえるでしょう。
以上のことから、見た夢の大多数はその日の内容が反映されている、普段見る夢と変わらないものであり、特別奇妙な夢と言い難いと考えられます。
それではなぜイギリスの研究で奇妙な夢が報告されたのかを考えていきたいのですが、その前に、そもそもイギリスの報告である奇妙な夢は本当に奇妙な夢なのか?という問題があります。
たとえば「銃ではなく子猫を抱えて戦う兵士」について、ネット上では、猫を銃のように抱える写真が回ったりします。googleで「猫 銃」と検索すれば、そのものズバリな写真がいくつもヒットします。
この被験者は、過去生きてきたなかでそうした写真を見たのかもしれません。このとき、視界に入ってさえいれば、それを認識しなくとも夢の材料にはなり得ます。そして、実験の日、たとえばどこかで猫を見たとか、兵士の話を聞いたとかしたとき、そこからの関連で現れてもおかしくありません。
夢が奇妙であるかどうかは、「夢の内容」よりも、「現実でどういう状態か」という前提をふまえたうえで「夢の現象や展開の続き方」に注目したほうがより良さそうなのですが、残念ながら研究の記事にはそうした仔細は記されていません。
とはいえ、「整った夢」と「支離滅裂な夢」という分け方はきちんと存在します。
現代の研究では「ノンレム睡眠の夢が整った夢」で「レム睡眠の夢が支離滅裂な夢」になりやすいと考えられています。
人間は通常、毎日夢を見ています(ごく稀に研究においても見ないとされてる人もいますが、夢は結局主観だけの世界なので断定はできません)。多くの人は「見ない日も多い」と感じると思いますが、大抵は起きてすぐ忘れているだけです。
一昔前までは「浅い眠りのレム睡眠中に夢を見ている、深い眠りのノンレム睡眠では夢を見ない」という考え方がありましたが、現在では否定されています。
実際にはノンレム睡眠中も夢を見てるのですが、ノンレム睡眠の夢は不明瞭で、しかも起きたあと覚えにくいという特徴があるため、ノンレム睡眠のあとに起きても「夢を見なかった」と思いがちになってしまいます。
そして、レム睡眠の夢とノンレム睡眠の夢では内容の特徴が異なります。
レム睡眠では、荒唐無稽で奇妙な内容の夢を見やすく、
ノンレム睡眠では、現実の記憶がそのまま出るような、ある程度整った、変化の乏しい内容であることが多いです。
(ただし、ノンレムは時間帯によって変化があり、朝方のノンレム睡眠の場合は奇妙な内容が増えると考えられています。)
ただ整った夢のほうが覚えにくいことを考えると、やはり夢というのはそもそも、たいていの場合は「変な内容であるもの」と考えるのが自然そうです。
これらの情報を加味すると、スティルトンチーズと奇妙な夢の関係性になんとなく理屈が見えてきます。
まず前提として、一般の人はそこまで夢を覚えようと躍起になりません。なので、よほど印象に残った夢や、気が向いて覚えたくなった夢以外は、たとえ覚えていても意識を向けず、やがて忘れてしまいます。
また、寝付きが悪いひとの場合、夜中のノンレム睡眠中などでも起きてしまったりします。ノンレム睡眠の夢は覚えにくいので、やはり夢を見なかったと感じやすいわけです。
ここで、チーズを接種してから寝た場合どうなるかというと、チーズの成分によって寝付きが良くなり、またブルーチーズのビタミンB6によって夢の記憶を覚えやすくもなっています。
すると、朝方まで安定した睡眠をとることができて、浅いレム睡眠から自然に起きることができます。レム睡眠の内容は荒唐無稽で且つ覚えやすいので、「奇妙な夢を見た」という記憶がはっきりするわけです。
「実験」という環境ももちろん無視できません。この実験ではおそらくプラセボなどは加味せず、「夢の内容に関する実験である」という前提で集められていると考えられます(実験内容を隠したりプラセボを加えるのならばそう明記するはずなので)。
"夢を覚えてるかどうかの実験"なわけですから、朝起きたら夢を思い出そうとするはずです。おそらく、この時点で普段の行動(毎日わざわざ夢を思い出そうとしない)と差異がでる気がします。
逆に私が挑戦した場合だと、そもそものライフスタイルと異なった結果寝付きが悪くなったので、ノンレム睡眠中に起きるなどして、夢を見たことを思い出せないタイミングが増えたと考えられます。
次やる機会があったら、ふつうに夕食のタイミングで食べてみる挑戦もしてみたいですね。
一方で、イギリスの実験における「チーズの種類によって見る夢が違う」についてはイマイチなぜなのか分からない。
スティルトン以外で言えばレッド・レスターが「懐かしい記憶の夢」を見るのは、例えば子供時代に与えられやすい(特定の世代で流行っていたとか、給食で出ていた)とかで関連がつけられてる可能性がありますが、こればかりはよほど英語に自信があって調査力に長けてるか、イギリス人でもなければなかなか調べにくい。
そもそも、調査に参加した人数が200人で、しかもチーズの種類ごとに人数を割り振っているとしたら、統計のサンプルとしてはあまりにも数が乏しい気もしますね。
今後、きちんとした夢の研究家の指導のもと、より大規模で無作為な調査が行われていったり……は、あまり望めなさそうですが、あったりしたら楽しそうです。
というわけで、「(スティルトン)チーズを食べると変な夢を見る」という話は、その噂話とともに、チーズ自体の快眠効果・記憶効果で単純に「夢を見やすくなる」ことで、普段夢に意識を割かないひとが意識を向けるきっかけになっているのではないかと考えられます。
日本においては、「初夢」の文化が近いですね。正月あたりではみんなが夢の内容を覚えようとするので、夢の内容に関する話がぐっと増えます。
ただ、日頃から夢を記録してるわけでもない限りは、正月にいきなり夢を思い出そうとしてもうまくいかないことも多いかと思います。
そんなときは、年越しそばのシメにスティルトンチーズを食べてみると良いかもしれません。