01 港町の一角、その裏通りに近い大衆居酒屋、「よろこんで」で。 久しぶりにボクと姫は、へべれけまでは行かないけれど、だいぶ酔っ払ってなお、楽しく飲んでいた。 一国の王子が大衆居酒屋? そう思うかもしれない。でも、もうボクは国を後にしてきた身だもの。ここではただのニンゲン。 そう。姫と一緒に森の近くで暮らしている、ひとりの青年だ。 だけど、こうやって居酒屋とか入っていると、かつての国元で人々の意見を忌憚なく聴く。 そんな、自身で考えた政策をしているみたいで、ちょっとだけ懐かしい。 その意見を、国王である父はちゃんと聞いてくれないままに、ボクは出てきちゃったんだけどね。 少しだけ懐かしいや。 「真剣な顔してー」 向かい合って座っている姫が、緑茶ハイのジョッキ片手に言った。 「いかんね、足りてないんでしょお酒」 ごっきゅごっきゅ飲み干す寸前まで飲んで、姫が続ける。 「んー。たくさん飲んでるよ?」 事実だった。ふらふらはしていないけれど、だいぶ頭がぽんやりしている。 ボクは姫がぐちゃぐちゃに食べ散らかした、男爵コロッケをちょいっとつまみ、 「そろそろ出ようか?」 「えー」 「真っ赤じゃない」 「おーじもね」 うん。ほっぺたも耳も熱くなってるの、わかる。 「でじゃーとは?」 「帰りがてら、コンビニ寄ろうよ」 「はーげんだっちゅ?」 「あー。まあ、たまにはいいか」 と言うのも。 まだボクは定職に就いていないから、なんだ。 なりたい職業はある。この地方で重宝されている、「薬師(くすし)」と言う職だ。 ただそのためには、試験を突破して初級の資格を得ないと、営業することも募集されているところに応募することもできないから。 その、一次試験が昨日あってね。今はこうして、「ねぎらいパーティ(by姫)」をしてもらっている。 とは言え、お金出すのはボクなんだけどね。 ジョッキを大きくあおった姫は、 「んじゃ、いこー」 危なげもなく立ち上がって言った。やばい、ボクの方が酔っ払ってるなこれ。 椅子の背もたれにしっかりつかまって、ボクも席を立つ。 「わたしも出すよ」 「うん、ありがとう」 正直に言って、とても助かることだった。細かな面でも、姫はサポートしてくれる。 会計を済ませて、「よろこんで」の外に出た。夜気がとても気持ちいい。 姫がボクの左手を握ってきた。そしてぶんぶんと振り回す。 「ご機嫌だね、姫」 「んー。だって」 「だって?」 「こんなお外で飲むとか。めちゃくちゃ久しぶりだもん」 「節約の毎日だからねえ」 「でも、おーじが隣りにいるから。いいのだ」 「ありがと」 「だからちゅーしなさい」 「酔ってますよね姫」 「できないか」 ラチがあかなくなってきたので、ボクは立ち止まって。 そっと姫にキスをした。 とたんに、舌を思いっきり絡ませてくる姫。お酒の味がぷんぷんするキス。 ボクもそうとうに酔ってるから、これはスイッチ入るなって言う方が無理だ。 キスしていて、姫の鼻息が荒くなる。それはきっと、ボクもおんなじであって。 おっきくなり始めたおちんちんのせいで、ブリーフの中が”窮屈だよ!”と文句を言う。 気持ちいいキスなんだけど、どうにも眉根にシワのできてしまうキスでもある。 「ぷあ」 息が続かなくなって、口を離した。完全に姫の目がとろん状態。 (抱きたい) えっちはいつもしてるけど。こんな急激に、性欲に支配されたのは久々だった。 ちょっとだけボクは、首をかしげるように笑って、姫の手を取り直す。 「行こう?」 無言でうなずき答える姫。頬が赤いのは、お酒のせいなのか照れなのか。 ボクたちは帰宅方面から回れ右して、さらに裏通りに入っていった。