栗山やんみさんが構成・文を、almaさんが絵を担当してくださった絵本『マリノア 世界をえがいた女の子』。
その原案となったのは、「ほしをみるひと」という歌の歌詞を西憂花さんと一緒に作るために僕が書き起こした物語です。
元々は世に出すつもりはなかったものだったのですが、色々あって今回、素敵な絵本に仕上がったので、せっかくだから原案の原文も公開しようと思います。
絵本のストーリーと見比べてみると、いかにやんみさんが絵本ナイズするために力を尽くしてくれたかがよく分かると思います。
その女神の名はマリノア・テラ・メガラニカ。
世界創造の神。
遥かな高み……空と大地の境界にいる、孤高の存在。
夢と挑戦の象徴。
「力への意志」に祝福を与える存在。
属性は氷と岩。
われわれ現人類が生まれるよりはるか以前。
世界を構成する大陸の形すら今とは大きく違う、原初の地球(約10億年前)に彼女は生まれた。
その地は今では南極と呼ばれる場所。世界創造の基点。
マリノアはまだ生命すらない地球に世界を創造するにあたって、地球を氷で覆い、真っ白なキャンパスとした。
そして、そこに黒い墨筆で大地を描いた。墨は大地の起伏(山と谷)を作り、その起伏が世界の形となった。
マリノアはその世界に、自分と対等に語り合え、共に歩める友を求め、「人類」を生み出した。
しかし、人類とマリノアは最終的に決別することになる。
マリノアは気高かった。凛として孤高で、そして苛烈な性格をしていた。
彼女には夢があった。それは、遥か高く遠い「外なる宇宙」を目指すこと。
しかし、そのためには生半可ではない力が必要だった。
宇宙は過酷な環境で、そこに到達するには考える限り全ての「力」が必要だった。
だから、マリノアは世界を創る際に、「人が高みを目指したくなる」ように作った。
より高みに達した者にこそ、マリノア神の祝福が与えられるように。
マリノア神の信仰の姿は、自然と山を登る行為となった。
氷を刺し、岩をよじり、はるか山の頂を目指す人々。
聖域となる高所は、「外なる宇宙」とよく似た死の世界だった。
空気は薄く、風は強く、天候は気まぐれで……何より、色がない世界だった。
聖域に入ると、青空はどんどん青が濃く深くなり、その色は黒に近づいていく。
草木も生えず、あるのは岩の黒と氷の白と深い青だけ。
長い時の中で、マリノアへの信仰心は失われていった。
多くの人類にとって、高所という環境は危険であり、苛烈すぎた。
マリノアの祝福を受けようと山を目指した多くの人々が死んだり傷ついたりした。
色のない高所世界に精神が耐えられず発狂するものもいた。
……それにそもそも、高みを目指し続け・勤勉で苛烈で崇高でいつづけるマリノアの姿に、人々は次第についていけなくなったのだ。
マリノアは「人を狂わせ、破滅に追いやる恐ろしき神」とされていった。
そして、人々は低き場所に、安全で守られた「街」を作り、便利に暮らせる「文明」を作り、そこで暮らすようになった。
いつしかマリノアの元を訪れる人類はいなくなった。
マリノアの祝福を受けなくとも、自分たちが作った科学と文明の力で安全に楽に生きていけると知り、人類は傲慢で怠慢になった。
そして、人類はその慢心が原因で滅びることになる。
マリノアの祝福と「力への意志」を失った人類は、ちょっとした環境の変化で一気に滅亡してしまった。
人が自分から離れていく様、そしてその結果、あっけなく滅亡してしまった様を見ていたマリノアは絶望する。
夢を叶えるため、せっかく創って長い時間をかけて育てた世界が、あっという間に瓦解し、彼女は全てを失ってしまった。
孤独になったマリノアは、永劫に近い長い時間の中で自問自答する。
自分は間違っていたのかと。
しかし、彼女は夢を諦めきれなかった。
それは彼女の存在意義そのものでもあった。彼女を突き動かすマグマのごとき熱い原動力だった。その名前のない衝動に理由や理屈などはなかった。
彼女は独りになっても、高みを目指し続けた。
彼女の聖域は隆起を続けた。天を劈くその山は、その先端がついに宇宙の端に触れるほどにまでたどり着いた。
だが、そこが限界だった。
マリノアひとりの力では、その限界を打ち破れないことが分かってしまった。
マリノアは、もう一度希望の種を世界に撒き、永き眠りにつくことにした。
自分と同じく、「力への意志」と「高みへの憧れ」をもつ生命を生み出し、彼らが育つまで……マリノアが待つ聖域にたどり着くその日まで。
そしてついに……数億年という永劫に近い時を経て、ついにその音が聞こえた。
氷を砕く音が。大地を踏みしめる足音が。岩を掴む掌の感触が。
それは、あまりにも小さくか弱き存在だった。
神がほんのひと撫でするだけで吹き飛ぶほどの矮小な存在だった。
だけれども、確かに彼らの瞳には、自分が生命に託した「力への意志」と「高みへの憧れ」が宿っていた。
目覚めたマリノアは、その瞳に灯る炎を見て喜びに打ち震えた。
ついにこの時が来たのだ、と。