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【TRPG】シナリオ集『不帰の峰より』あとがき公開

以下は2019年12月29日に発行したシナリオ集のあとがきです。

今よりちょうど1年前に綴った想いが、今より強く噛みしめるものとなったので、振り返りがてらここに公開してみようと思います。

(※ほんのちょっとですがシナリオ内容のネタバレを含みます)


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●なが~い著者独語

「TRPG シナリオの製作者にとって何よりの励みは、そのシナリオが遊ばれ、感想を貰えること」

 ……これは、僕が運営している投稿型TRPG シナリオ共有サイト(といっても『クトゥルフ神話TRPG』を取り扱ってはいませんが)にて記載した文面です。


 これはTRPG シナリオに限らず、なんらかの創作活動を行っている人にならば納得できるのではないかと思います。自分の作品にレスポンスが貰えることが創作活動の何よりの励みになることは、多くの創作者に共通のことだと思います。


 その点において僕は今回、本当に得難い経験をさせていただいたと思っています。

 シナリオを書いた当初の狙いや想像を遥かに超えた規模でシナリオが有名になり、本当に多くの人に遊んでもらえ、シナリオを愛してもらえた。こんな経験をできたTRPG シナリオライターはそう多くはないと思います。心の底から、自分は幸せものだと思います。




 そんな「狂気山脈」シリーズですが、製作の発端は(『狂気の峰へ』のあとがきにも軽く触れていますが)、どちらかというと「悔しさ」からの足掻きと、そして打算から生まれたものでした。


 4年前、ニコニコ超会議のTRPG即売会で僕が大惨敗した日の会場の光景と、そこで受けたショックのことは、今でも鮮明に覚えています。

 10 年ほどTRPG を遊び、丹精込めた(自画自賛になりますが)我ながら素晴らしい出来であったと思うTRPG同人誌が、ほぼ見向きもされず、対岸では人気動画投稿主たちによるサークルに、今までTRPG 即売会で見たこともないような長蛇の列ができ、まるでアイドルの握手会のような雰囲気を呈している光景を目の当たりにした時、あまりの現実感の無さから逆に笑えてきてしまった。


 そして……口に出すのも憚られるような性格の悪い話ではあるのですが、何より悔しかったのは、その「長蛇の列」を生み出していたサークルの出版物を手にとり、自分が作った「大惨敗」の作品と見比べて見たものの、自分の作品が見劣りするものであるとはどうしても思えなかったのです。


「ああ、時代が変わったんだな」


 ストンと納得が行きました。遊ばれるゲームが代わり、遊ぶ人が変わり、求められるものが変わった。それも一気に。動画が発端でTRPG ブームがなにやら起きているらしいという情報は知っていましたが、その実態をきちんと認識できたのはその時でした。


 幸運だったのは、僕自身がそこで「妬み」「恨み」みたいなものを持つのではなく、「このままじゃダメだぞ。自分もアッチ側に行かなければ」という、わりとポジティブ

な焦燥感に駆られたことだと思います。


 それまではほぼ毎年TRPG 同人誌を作っていましたが、その年からスッパリとやめ(今はまだその時ではない、と判断し)、今まで全く触れたことのない動画編集の勉強を始め、そして華やかなTRPG 業界に殴り込むというか、返り咲くというか、その為には何をするべきかというのをひたすらに考えていました。




 TRPG の動画文化の履修も始めたころ、事態は割と深刻であることに気づきました。

 “ ゆっくり動画” による初期TRPG 動画ブーム、それに続くビッグバンともいうべき、まにむ氏による「実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」の投稿、続く肉声TRPG 動画の興隆……。

 そういった黎明期を過ぎ、TRPG 動画文化がある種の安定(停滞)期を迎えてしまっていました。

 需要>供給だったころの「TRPG 動画なら検索して何でもとりあえず見る」の段階が終わり、供給>需要となった頃に訪れる「既に人気のものや、自分のフォローしている人の作品しか見ない」という時期に既に突入してしまっていた。


 コレはまずい。こうなってしまっては、並の作品を作っても埋もれてしまう。何か変わったこと、インパクトのあるものを……それも一発ネタで短期間に爆発して終わるものではなく、視聴を継続してもらえるような骨太の企画を……。


 この難題をどう解決するか、思案するのはだいたい登山中のことでした。山道を歩きながら、どう戦うべきか考え続ける日々。動画編集の練習のために登山動画を撮りながら、暇さえあればTRPG のことを考えていました。

 そんな時、ふと降ってきたのが、「登山とTRPG をかけ合わせちゃえば新しくないか?」というものでした。


 その着想から出来上がったものが動画「登山家たちのクトゥルフ神話TRPG」、そして『狂気山脈~邪神の山嶺~』というシナリオです。

 動画としての試みは、上記のシリーズを見ていただければ、どんな工夫をしたのかはだいたい伝わるかと思います。ある程度のインパクトを持って受け入れられるだろうと予想し、実際にそれは成功したといっていいと思っています。


 シナリオとしては、敢えてブームや時代に逆行する要素を取り入れています。それは目新しさというよりは、「風化しにくい」面白さを目指したいという気持ちでした。


 Youtubeでのシナリオ語り配信で語ったように、このシナリオでは過去のTRPG の進化の歴史の中で培われてきたメソッドを数多く取り入れています。

 また、物語的にも、『クトゥルフ神話TRPG』ならではの、もっと言うなら“ クトゥルフ神話” そのものの物語として成立するような、シェアードワールドの魅力を最大限盛り込めるような、原典に忠実に、そこから世界観的な説得力のあるアレンジ……過激な言い方をするならば、原典である『狂気の山脈にて』の、僕なりの「続編」を作るつもりで挑みました。


 最初は、リベンジというか、打算というか、そういった目的で企画した動画シリーズのためのシナリオでしたが、作っているうちに、長年TRPG を遊んだ中で得た経験や知識などを総動員した、自分の中での集大成といえるような作品となっていき、また、純粋にTRPG シナリオを作る楽しさに夢中になっていったのを覚えています。


 絶対に面白いシナリオに仕上がったという自信はありました。と同時に、やはりそれが「発見され」「受け入れられる」かどうかは、運の要素が強く、誰かに見つけてもらえることを祈るほかありませんでした。


 結果的に、当初期待していたよりも遥かにたくさんの人に受け入れられ、ご評価をいただくことができたというのは、冒頭に述べたとおりです。



●『カエラズノケン』というシナリオ

 亜続編『未知なる山嶺を夢に求めて』は、狂気山脈シリーズ人気の起爆剤となった、むつーさんやぱぱびっぷさんの配信、およびそこから広まったたくさんの卓でのプレイ風景や感想などを見て、「この方針ならいける!」と思った続編でした。

 これは言うならば、自分ひとりの力では絶対に生み出せなかった、「シナリオファンの方々のおかげで書かせてもらえた」内容でした。


 では、『カエラズノケン』はどうか。

 結論から言うと、これも、絶対に自分ひとりの力では生み出せないシナリオでした。


 そもそもこの『カエラズノケン』は、シナリオの構造だけでいうなら、「それぞれの卓が、面子やキャラクターに合わせてシナリオを改造・チューンアップする」という遊び方の末に生まれる、改造版シナリオのような内容です。

 つまり、シナリオ原作者がわざわざやるようなことではない。たとえば『邪神の山嶺』で探索者が全滅してしまった時、リベンジ用のシナリオとして、前回の設定を引き継いでKP が改造して作るシナリオ……そういう趣のものです。


 しかし、既に『カエラズノケン』の中身を知る方ならお分かりだと思いますが、本シナリオはそういう「卓に合わせてチューンした改造シナリオ」という枠に留まらない内容となっています。

 言ってしまえば、狂気山脈シリーズのファンであれば、どんな人でも絶対に遊ぶべきシナリオ、とまで言えるファンサービスシナリオに仕上がっていると思います。


 これは、むつーさんを始めとする「狂気山脈というシナリオを愛し、遊び、それでいてプレイヤーでのシナリオ体験をできていない人」という存在があって、初めて書けたシナリオでした。

 そういった人たちに(それも、追体験にとどまらない新鮮な気持ちで)楽しんでもらえる改造はどんなものだろう……そういう想像の果てに辿り着いたシナリオが、『カエラズノケン』です。


 僕がTRPG 業界に返り咲くことができたのは、僕の試みを受け入れ、見つけ出し、広めてくれた、そういった方々のおかげでした。

 だからこそ、改造前シナリオに増して殺意の高い難易度も、予想と違う展開も、最初に渡される裏ハンドアウトのしんどい設定も、全て、狂気山脈シリーズを愛してくれた方々への真の意味での恩返しとしてのカタルシスを生み出すための仕掛けです。


 上手くいったと思います。上手くいったのは僕の力というよりは、「恩返しがしたい」と思わせてくれた方々のおかげなわけです。

 山は手加減をしません。手加減をしないシナリオを愛してくれた方に、手加減したシナリオを返すのは失礼だと、そう本気で思わせてくれて、本当にありがとう。


 実際のところ今回のシナリオは、探索者の死亡率で言えば前作よりかなり低くなるはずです。

 それは、一度登った山に対しては準備がより的確になるように、プレイヤーたちが的確な準備をしてくるようになること。

 そして、純粋な難易度は上がったものの、助けてくれる仲間が増えたこと。


 そしてなにより、主人公ポジションとなるハンドアウト①探索者のミッションが、「全員を生還させる」であること。


 このシナリオを、一人でも多くの方に遊んでほしい。

 そして願わくば、その全員に生還してほしい。

 生還して、全員が最高の結末を迎えてほしい。


 それは、このシナリオが本質的には、僕からの「恩返し」だからです。

 あのミッションに、僕の願いというか、祈りのようなものが込められていると思って下さい。

【TRPG】シナリオ集『不帰の峰より』あとがき公開

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