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孔明の罠
孔明の罠

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男子女性化推進法

「くそっ、篠田のやつ……!」  年季の入ったおんぼろアパート。その一角にある六畳一間の一室で、ひとり缶ビールを呷る赤ら顔の男。 「この僕にあんなにもナメた口をっ……」  彼の名前は井口達夫。大学を卒業してから15年もの間、高校を職場に教鞭を振るい続けてきたベテランの教師だ。 「配属されたばかりだっていうのに、いっちょまえに楯突いてくるなんて!」  そんな達夫にとって目の上のたんこぶにあたる存在が、愚痴の通り篠田秀樹という新人の男性教師だった。  『男子女性化推進法』。  性転換を望む男性を政府の支援で女性化することで女性人口の増加に努め、なにかと地位の低い彼女らに一層の民主主義的な恩恵を、という名目から施行された法律である。  元男性であっても出産することさえ可能なほど完全な女体に性転換できるようになった現代医学を用いれば、立法趣旨を実現することは生物学的には難しくない。  染色体レベルでの変貌を遂げた術後の身体はなぜか容姿端麗なものとなる傾向にあるため、実のところは草食系男子などというワードを耳にする昨今の少子化対策が裏の題目なのではないかとも噂されている。  しかし望んで女性になろうというのにみすぼらしさを求める者もそうはいないため、その辺りの事柄に関しては深く言及されないでいた。  ちなみに、女性化に要する当人の意思表示は10歳から可能だ。  ただし14歳を超えてから手術を受ける場合には、本来であれば思春期に養われるべき女性としての精神醸成や基礎知識が欠けているという観点から、術後に相当のカウンセリングやセミナーを受けることが義務付けられている。  さて、単なる一教師である達夫とこの法律とでは、一見するにまったくの無縁であるかのようにも思われる。  ところが先日、”在学中の男子生徒がこの法律に基づいた施策を利用するごとに、その学校教師には生徒の内心と真摯に向き合ったものとして奨励金を付与する”という県の指針が発表されたのだ。  そのため、達夫は校内において女性化制度の周知にとても前のめりとなった。  正直なところ、自分にとって受け持つ生徒などただの商売道具と変わらない。彼らがどうなろうと……すなわち女性化という選択が生徒らにとって一時の気の迷いで、後日その道を後悔することになろうと、達夫にとって所詮は単なる他人事でしかなく、それで自らの懐が潤うのなら喜んで、という教師にあるまじき無責任な思考を彼は持ち合わせていた。  ところが教師の全員が全員、達夫のように自分本位なわけもなく。  そんな彼に相対する第一の教師が、先に触れた篠田秀樹であった。  秀樹はジェンダー問題に対する政府の過度な介入や奨励金の存在に疑念を抱き、職場最年少にして制度の反対派、さらには校長を有する中立派までもをひとまとめにしてみせた。  結果、達夫率いる賛成派は厳しい立場に追いやられ、学内の方針決めに苦境を強いられることとなっている。 「あいつをなんとかしないと……不祥事でも捏造して飛ばせば……いや、相手は篠田だ」  篠田秀樹は正義感が強く、非常に生徒想いの教師だ。仮に職場から排除したところで、あの男の熱意が今後達夫の足元を掬わないとも限らない。なんなら学外でさえしつこく付き纏ってくる可能性すら否めない。 「やっぱり上手く説得してやらないと……だが、口論であれに勝つのは……」  聡明叡智とでも評するべきか、秀樹はとても優秀な人間である。さらに彼の持つ教育論は同職の者を瞬く間に魅了し、そのカリスマ性から生徒にもよく親しまれている。 「なにか、なにかないのか」  日頃から金遣いの荒い達夫にとって、奨励金が手に入るかどうかは大きな問題だった。無い知恵を絞り出し、なんとしてでも邪魔者である秀樹を陥れなければ……。 「…………あ」  そうして思案に耽る達夫の脳裏に、いよいよ一案が過る。 「これは……けど、どうなんだ……?」  それはあまりにも荒唐無稽で、達夫でさえ思わず思考を立ち止まらせるほどの解法。 「……」  長年この仕事に携わってきた達夫には、社会のアンダーグラウンドな部分と接する機会が幾度かあった。  そのうちのひとつがつい先日。そこで裏の人間から聞いた、あくまで噂話の類を出ない内容の会話を思い返す。 『女性化のカウンセリングなんざ、ただの名目よ。あれな、実際は制度を脳死で称賛して、自分をガキをこさえる機械だと信じ込ませる洗脳教育がされてんだぜ?人権無視の少子化対策なんだよ』 「……くひっ」  立ち上がる彼のその表情は微笑みを見せ、しかし醜く歪んでもいた。 ××× 「篠田先生、今日のジャンプ読みました?まだなら貸しますよ!今週のヒアロカはめっちゃ神回で……!」 「そりゃ楽しみだ。今すぐチェックしたいところだが、生徒から漫画を借りるのはさすがに教師の世間体が悪い。家に帰ってからゆっくり楽しむよ」 「先生、今日の数学でいまいち理解できなかったところがあるんですけど」 「教えてやれんこともないが、俺は一応現国の教師でだなぁ……」 「せんせー、時間あったらウチらの練習見てってよ!前にせんせーが教えてくれた殺人サーブ、やっと習得できたんだ!」 「おお、頑張ったな!けど今日はこれから用事があるんだ。あと、そのネーミングは恥ずかしいやめてくれ?」  放課後、代わる代わるに生徒らが話しかけてくる。 (上手くやれてる……のかな)  俺こと篠田秀樹は、今年からこの学校に赴任した新米教師だ。初めのうちは俺なんかに教職が務まるのだろうかと不安だったが、今ではみんなとも打ち解けて、なんとか毎日楽しくやれている。  話が合わない職場の上司もいたりするが、生徒たちのためなら粉骨砕身働こうと思えるのだから、やはり俺にとっての天職はこれだったのだろう。 「えーっ、用事ってなに?職員会議?」 「健康診断だよ」 「むぅ、それなら仕方ないか……」 「会議だったら食い下がるつもりだったのかお前は……」 「そりゃあ、優先順位ってものがあるからね!」 「会議が優先だ馬鹿野郎」  ひとしきり生徒と笑い合い、俺は学校を後にした。 「それにしても、井口先生が俺に健康診断を受けさせようだなんてなぁ」  多忙なこの時期に、俺の仕事を肩代わりしてまで時間を作ってくれて、しかも病院の予約まで済ませてくれた。 「井口先生は俺のこと、煙たがってるはずなのに」  彼とは日頃からなにかと不和が続き、中でも男子女性化推進法の件はその最たる例と言えるだろう。  成績不良を口実に生徒指導室に連れ込んだ生徒に内申点をちらつかせて女性化を図ったり、また朝会ではいかに制度が素晴らしいかを一方的に語るなどして不穏な空気を撒き散らしたりと、あれを男子生徒たちに普及させようとする井口先生のやり口はあまりにも強引で、俺には彼が奨励金に目が眩んだ汚い大人にしか見えなかった。  人間だから思想の違いこそあるだろうが、井口先生のそれは教職において品性の欠けたものと言わざるを得ない。  と、そんなこんなで敵対関係にある俺に対して、今回の話は彼の立場を考えてみれば随分と親切心のある提案だった。ので、ついお言葉に甘えてしまったわけである。 「もっとも、塩を送られたところで俺は考えを改めるつもりなんて微塵もないけどな」  生徒たちが健やかな青春を過ごせるよう、教師に恥じない指導を続けていくだけだ。  決意を新たに、俺は井口先生に指定された病院の扉を開いた。 ×××  受付の案内に従って検診衣に着替える。それから地下の待合室でしばらく待機していると、ようやく俺の名前が呼ばれた。 「篠田秀樹さん。23歳。身長は171㎝。体重60㎏。お仕事は高校の教師をされていると」  瘦せ細った中年の医者が、俺の個人情報を一通り確認してくる。 「ガタイがよく、筋肉もしっかりされている……スポーツなどのご趣味がおありかな?」 「はい。中学の頃からテニスが好きで、今でもよく遊んでいます」  長年親しんできたテニスの影響で日に焼けた肌は麦色にしては浅黒く、また、体格や筋力も相応の仕上がりだ。こと健康面に至っては、正直のところ心配事が思い浮かばない。 「なるほど……では次に性格の診断だ。このチェックシートを埋めていってください」  ところがそんな俺に医者から差し出された一枚の紙は、なぜか俺の性格を推し量るための問診票だった。 (性格?健康診断って、そういうものだったか……?)  若干の違和感を覚えながらも、俺は言われるがままに空欄を埋めていく。 「──ふむ、真面目で頑張り屋。他人と接することが好き。だが家事など自分に関することは二の次……男性らしい大雑把さもある、と」  なんだか失礼なことを言われている気がする。事実なので反論は控えるが、俺はつい唇を尖らせた。  体の異常を検査するのに、ここまで人の内面にまで踏み込む必要はないだろう。 「……よし、分かった。それではさっそく始めようか」  俺は訝しみながらも、彼の指示に従って周囲に見慣れない機械が並ぶベッドへと横たわった。 「力を抜いて楽にしなさい。少しチクっとするが我慢だ」  俺はそれを、当然のように採血の流れだと思った。 (……?)  ところがほどなくして、経験したことのない睡魔が俺に襲いかかってきた。 (これは……麻酔、か……?)  なぜ俺に麻酔なんて。そう問いかけようにも、俺の口はすでに麻酔の支配下に置かれていた。  そして意識を手放す直前、俺は医者から聞き逃せない一言を耳にする。 「──それでは、男子女性化推進法に則って患者、篠田秀樹の女体化手術を開始する」  外科手術の後、政府特注の女体培養カプセルにこの身体を投入する、と。そんな段取りを聞かされ、たまらず俺は身の毛がよだった。 (馬鹿な……!俺はただ、健康診断に来ただけで……!)  そう伝えようにも、すでに口は開かない。先ほどの注射針。やはりあれは採血のためのものではなく、手術に伴う麻酔処置だったのだろう。 (やめろ……俺は、女になんてなりたく……ない……のに……)  けれどそんな俺の意思に反して、虚しくも意識は暗闇へと引きずり込まれていった。 「…………」  ……。  ……。  ……。 ××× 「……うぅ、ん?」  光量の控えめな蛍光灯。見慣れない天井。  俺はベッドの上にいた。  周囲は白のカーテンに覆われていて……そして脇にひとり、白衣の女性が椅子に腰を掛けている。 「ああ、目が覚めました?初めまして。私は篠田さんのカウンセリングを任されました、三橋香織です」  俺と同年代だろうか。随分と若々しく、顔つきや口ぶりからして柔和な印象を抱かせる女性だった。 「カウンセリング……って、え?おれ、声が……」  現状の流れが理解できず、思わず呟いた自らの疑問が、さらに俺を困惑させていく。  口から発せられた声が、まるで女性のように甲高かったのだ。それはいわゆるソプラノと評して差支えのないもので、少なくとも馴染みのあるいつもの野太い声とは明らかに一線を画して異なったものだった。 「……そうだ……たしか俺、麻酔で眠らされて……それで……」 『それでは男子女性化推進法に則って患者、篠田秀樹の女体化手術を開始する』 「……っ!!」  反射的に飛び起きた。意識を手放す前の記憶が正しかったら、もしかして……!  両手を当てて顔の輪郭を確かめる。小さく、さらに丸みまで帯びたそれは明らかに以前のものとは違う!肌もすべすべとしていて、髭の剃り跡もまったく感じない! 「……これ、俺の手……?」  目に映るのは男らしい角ばったものから力仕事の似合いそうになくなった、しなやかでほっそりとした色白の手指。それらが自分の意思で動く現実に、俺は眩暈を覚えた。 「や、やっぱり……」  襟を持ち上げ、衣服の内を覗きこめば、鍛え抜かれて逞しかったはずの上半身はあられもなく、ほどほどに肉がついただけの、健康的かつ一般的な体つき。ただし、それは女性の枠内に限っての話。 「む、胸も……これ……」  さらに、胸部にはほんのりと膨らみ、その頂点を桃色に染めた柔らかげな存在がふたつ。まるで思春期を迎えたばかりの未成熟な状態で、けれど確かにそれらは男であればありえない、女子として相応の様相を見せていた。 「おめでとうございます、篠田秀樹さん。手術は成功です。今はまだ骨格などの大枠を整えたに過ぎませんが、染色体はすでに女性としてのものに置き換わってますので、1年もすれば誰がどう見ても立派な女性へと成長することでしょう。これからあなたはお望みの通り、女性として第二の人生を歩んでいくことになるのです」  そう言ってにこりと微笑む三橋というカウンセラーに、俺はたまらず激情をぶちまけた。 「ふ、ふざけるな!医療ミスだ!カルテを取り違えでもしたのか!?俺はただ健康診断を受けに来ただけで、女性化しようだなんて考えもしてなかったぞっ!!」 「……」  そんな俺の様子を見て、しかし三橋は至って平然としている。 「ですが篠田さん、あなたの女性化についての同意書は、たしかに私の手元にありますよ?」 「──は?」  おもむろに差し出された一枚の書類。それを彼女から受け取って、中身を確認した俺は、唖然とした。 『──以上の事項を確認し、患者 ”篠田秀樹” は女性化に至るすべての医療行為に同意する。』  俺の筆跡によく似た『篠田秀樹』という4文字が、そこには署名されていた。 「……これ、捏造ですよ。似てるっちゃあ似てますけど、俺の字じゃない」 「へ?しかし、いったいどなたがそんなことを?」 「……」  あいつしかいない。  井口達夫。あいつの罠に、俺はまんまと嵌められたのだ。 「あぁ、くそっ……」  一度女性化した男は、二度と元の身体には戻れない。井口がこれほど大々的な手口を用いてまで、俺に嫌がらせをしたかったとは。  しかしあいつがどれほど俺を憎んでいようと、事ここに至っては紛うことなき人権問題である。牢屋行きだって確定だろうに、そうまでして……いったい、どういう考えなのか。 「えっと、いいですか?」  と、俺がひとり思考を続けていると、三橋が声を掛けてきた。 「仮に今回の女性化が篠田さんの本意でなかったとしても、私どもとしましては、あなたに女性化処置後のカウンセリングを受けていただかなくてはならないのですが……」 「いえ、俺は男で、女になりたいわけではありません。そちらの立場では俺が契約に背いたような形なのかもしれませんが、すぐに同意書を偽造した犯人を突き止めますので、少しだけお待ちいただけ……え?」  俺は遅れて気がついた。  受け答えの最中、彼女の顔がひどく険しいものとなっていたことに。 「篠田さん……男性のままのつもりでいるというのであれば、なおさら看過はできません。身体的には女性であるという立場を悪用して、女性に猥褻を働こうという輩だっているわけですし、それになにより……」  ごそごそとズボンの内ポケットをまさぐる三橋。それから「あった」と小さく呟き微笑んだ。 「この制度の本当の目的は、少子化対策のため、あなたがた被験者に子を授かってもらうことなのです……その身体にはけっこうな大金を注ぎ込んでいるんです。なので、女性化した篠田さんには是が非でも心身ともに女性となっていただかなくてはと、私たちは考えているわけですよ」  三橋の取り出した物は、スプレー缶だった。彼女はそれを即座に俺の顔へと向けて、そして間髪入れずに噴射した。 「っ!な、なんだこれは……!」 「政府特注の”患者を落ち着かせるアロマ”です。なぁに、心配はいりません。あなたもすぐに現状を受け入れて、男子の女性化に賛同するメンバーのひとりになるのですから♪」 「なにを馬鹿な……うん?」  なんだか、頭がぼうっとしてきたような気がする。あのスプレーの影響か? 「ちっ……」  だとしたら、よくない。三橋が何を企んでいるのかは分からないが、今この場にいるのは危険だ。  覚束ない足取りで、俺は診療室から抜け出そうと試みる。 「はいはい。もともとカウンセリングは部屋を移るつもりでしたので、どうぞこちらに」  が、三橋は顔色ひとつ変えないで焦燥する俺の前に立ち、部屋のドアを自ら開けて、そして退室を促した。  逃げ出そうとする俺の行動を、まったく意にも介していないのだ。 「ふざけやがって……」 「ふざけるだなんてとんでもない。ささ、どうぞ篠田さん。今日の予定になりますが、まずは催眠音声による女性化セラピーを受けていただいて、それからブラジャーなど衣服の身に着け方や女子トイレにおける注意点、入浴する際の体の洗い方をマスター。最後に戸籍や身分証に記載するあなたの新しいお名前を考えましょう」 「そ、そんなこと……誰が……」 「あなたがするんですよ。しなくてはならないんです……なぜなら篠田さんは、もう私たちと同じなんですから」 「──ぁんっ!?」  ぴりり。経験したことのない刺激が下腹部を通じて脳へと到達した。  その根源は、どうやら股間にあるようだった。見下ろせば三橋は、その手で俺の男根を弄んで…… 「…………っ!」  違う。違った。  自分の身体だから分かってしまう。理解できてしまう。  男にとって馴染みのある亀頭とは近いようで、その位置がまるで異なっていた。  股間から突き出したその先に端を発するのであれば格別、今、俺が味わわされたこの魔性の刺激は明らかに── 「どうです?女の子のここ、気持ちがいいでしょう?」  気づかされた。自分はまだ、心のどこかで現実を受け止め切れていなかったのかもしれない。  俺の股間にあった男としての象徴はすでに消失していて、代わりに、女というセクシャルを俺に確定させる一筋の溝が、そこに根差していた。 「性行為を助長するために、感度は高めに調整されているはずですが……いかがですか?」  きゅんと疼いた下腹部は、なにかを求めているようだった。 「……ぁ……」  男の理性と女の本能。ちぐはぐになったそれらが、気づけば俺に太ももを擦り合わせるという折衷案を取らせていた。  焦れる。焦れる。こうしていないと、焦れてしまう。ただ、何に焦れているのかは分からない。分かりたく、ない。 「ひゃんっ……」  が、三橋が指先を秘部へ繰り出すただそれだけで、俺はついに這いつくばり、一歩も前へと進めなくなってしまった。 「んぅ……あはぁ……」  意図せず漏れ出る嬌声が、自分のものだとはとても信じられない。  それほどまでにこの口から発せられたそれらは艶めかしく、男に対して蠱惑的なものだった。 「もうそろそろ、お香も回って自制が効かなくなってくる頃じゃないですかね?認めちゃいましょうよ、あなたは女性なのですよ」 「お、れはぁ、おんなじゃ……ないって、ばぁっ……!」  気力を振り絞って、立ち上がる。  がくがくと震える脚。  すると、たらり。太ももを這ってくすぐる雫の感触。 「っ……!いや、ちがう!俺は、男なんだっ!!」 「あらあら……まあたしかに、今のあなたはまだ中性的な見た目をされています。だけどですよ?もし篠田さんが男性だとして、身長160にも満たない私に見下ろされているのは、おかしなことではありませんか?」 「……え?」  言われて初めて気がついた。目の前にいる彼女は、たしかに女性の中でも決して背が高い側ではないと一目で分かる。  そんな相手と目を合わせるのに顔を上げないといけない自分は……? 「あれ、あれっ……?」  ──自分は、女なのではないか。 「……あっ、そうだ!これは手術で骨を削られて、それで、縮まされて……!そうだよ!俺は、男なんだっ!」  疑念や違和感、反抗心までもが相手に押し流されていくこの感じ……かなり、まずい気がする。 「まったくもう、面倒ですね。でしたらほら、これでどうですか?」  言うが早いか、次に彼女は衣服を脱ぎ捨て、なんと自らその裸体をさらけ出してきた。 「なっ、なに、を……!」 「いえ、自慢ではありませんが、私もそれなりの容姿でしょう?どうです?ムラムラとしてきたんじゃないですか?」  まったくそういった関係にないのに突如見せられた彼女の痴態に、俺は場違いにも性的な興奮を覚えた気がした。それほど彼女の裸は男にとって理想的で、理性さえなければ今すぐにでも抱きしめたいほどだった。 「ところがあなたのアソコは勃たない」 「……ぁ」 「アソコを濡らすことしかできないあなたに、私を抱く権利なんて一ミリもないんですよ。あなたは私と同じで、おちんちんを受け入れる側なのですから」 「……」  身体は、もうほとんど動かなくなっていた。  それは先ほどのお香によるものなのか、あるいは俺の精神が彼女に屈服してしまったからなのか。  そして、ほとんど抵抗の叶わなくなった俺から、彼女は身ぐるみを剝いでいく。 「ま、社会復帰する頃には私のすっぽんぽんを見てもなにも感じなくなるくらいに牙を抜き取っておきますので、ご安心くださいね」  されるがまま、ただ唸ることしかできなくなった俺を、彼女は手際よく丸裸にしていく。 「お互い、生まれたままの姿になりましたね。それでも私はまったく恥ずかしくなりません。なぜならあなたは私と同性だからです。女性同士、裸を見ることになんのやましさもありませんから」  俺の身を引き寄せ、彼女はそのたわわに実った乳房を俺の胸板に押し付けた。そして、ぐにぐにと擦り合わせてくる。 「ふふっ、篠田さんの乳首、勃起してますよ。私のおっぱいに弱々しくも突き立って……まるで男としての性欲の、せめてもの反抗って感じで可愛い」  残された男の性欲は、しかし男にあるまじき生理現象に置き換わる。俺のアイデンティティが、警鐘を鳴らして止まない。  もっとも、既になにもかもが遅いのだろう。  俺はもう蜘蛛の巣に捕らわれた力ない昆虫と大差なく、あとはされるがまま、彼女に…あの忌々しい制度に蹂躙されていくだけなのだと悟った。 (あたまが、ふわふわする……)  難しいことを考えるのが、嫌になってきた。 (そもそも、どうしておれは、彼女に抵抗しないといけないんだっけ……?)  ぼうっと、目の焦点が合わなくなっていることに、今さらながらに気づいた。 (──これ、きもちい……もっと、ほしいな……)  時折り体が揺すられ、その度に甘い刺激が降りかかる。同時に聞こえる嬌声は、いったい誰のものなんだろう? 「──さて、そろそろ刷り込んでいきましょうか……まずはあなたの性別を聞きますね。あなたは男性?それとも女性?」  おれのせいべつ……せいべつは、たしか── 「だんせい、です……」 「違いますよ。たしかに少し男らしさの面影があるけど、今のあなたは女性です」 「……でも……」 「私と同じで赤ちゃんのためのおっぱいがあって、男性の欲望を満たせる肢体に恵まれて、彼らのおちんちんを受け入れるための穴が用意してあるのでしょう?だったら、あなたは女性として成り立っている。男性としては、成り立っていないの」 「……おれは、だんせいじゃ、ない……」 「そう。だからあなたは、女性なの」 「おれは、じょせい……」  おれは、じょせい。 「それじゃあ次に、あなたのお名前を教えてもらえるかしら?」  なまえ?なまえは── 「しのだ、ひでき……」 「そう。けど今日からあなたはもう少し、可愛らしい名前になります。女性のあなたに相応しい、素敵な名前は浮かばないかしら?」  ……おかあさんが、むかし……おんなのこだったらって、よういしていたなまえ。  おれが、おんなのこだったら── 「あ、やめ……しのだ、あやめ」 「ふふ、彩芽ちゃんね……素敵なお名前。今のあなたにぴったり」 「ありがとう、ございます……」  なまえをほめられて、うれしいきがする。おれは、しのだあやめなんだ。もう、ひできなんかじゃないんだ。 「彩芽ちゃんは、どうして女性化を希望したの?」 「のぞんでなんて、いない……じょうしが、かってに……」 「……じゃあ、女性化の制度について、どう考えてる?」 「わるいうわさもあるし、がっこうのせいとを……まきこみたく、ない」 「……」  だきしめられた。あたまをポンポンってされた。 「けどあなたは男子が女子になれること、心では素晴らしいことだって思ってる」 「そんな…こと……」 「あなたは今、気持ちがぽかぽかとして温かいの」  きもちが、ぽかぽか……あたた、かい……。 「女性化できて、あなたは嬉しいの。幸せなの」  うれしい……しあわせ……。 「自分は女性になれて幸せだって、言って?」 「はい……おれは、じょせいになれて、しあわせ、です……」 「あなたは本当は女の子として生まれてくるべきだったのよ。そんな篠田秀樹の在り方を正しくしてくれたこの女性化制度を、あなたは素晴らしく思っているはずよ」  そう……なのかな……そう、なのかも。  ……おれは、おんなのことして……うまれてくるべきで……だから……。 「もう一度聞くわ。彩芽ちゃん、あなたは女性化制度を、どう考えているの?」 「はい……おれを、このすがたにしてくれた、このせいどは、すばらしい、です……」 「うん、そのとおり」  じょせいかは、すばらしい……じょせいかは、まちがいじゃない……。 「さて、基本的な暗示は済んだし、あとは別室でゆっくりと仕込んでいきましょうか。仕草や言葉遣いも、きちんと女性らしく整えてあげるからね」 「はい……よろしく、おねがいします……」 ××× 「んぅ……?」  目を覚ませば、そこは馴染みの寝室……ではなく、診療室の一角。備え付けの簡易ベッドで、私は眠らされていたらしい。 「……この身体も、やっぱり夢じゃないんだ……私、たしか三橋さんにスプレーを吹きかけられて……」  意識を朦朧とさせた私に暗示を刷り込ませでもするかのようなやりとりが、あったような気がする。  それにしても、病院内ということは、私は依然、三橋さんのテリトリーに置かれているわけかな。 「でも、今は姿が見えない……チャンス、だよね……?」  周囲に警戒しながら、私はドアからの逃亡を試みた。 「──残念。あなたが目を覚ましたら、そこのセンサーで私に通知が来るようにしてあるのです」  と、聞き覚えのある声が響くや否や、たちまち目の前のドアが全開になり、そして向こう側から現れた彼女は笑顔で私にこう言った。 「外側からカギだって掛かってるし、逃げることなんてできませんよ……さて、おはよう彩芽さん」 「…………」 「そう露骨に残念そうな顔をしないでください。可愛いお顔が台無しですよ?それに、今日は頑張る彩芽さんにご褒美を持ってきたんですから」 「……私にご褒美って?」 「ジャーン、トレンドのお洒落なお洋服一式です。どれでも好きなものを選んでいいですよ」 「……」  馬鹿にするのも大概にしてほしい。個人の意思を蔑ろにして人体をやりたい放題、さらには監禁までしてお咎めが下りないほど、近代国家は無法じゃない。  いつまでこの生活を続けさせられるかは知らないけれど、私が外に出られたとき……そのときが、三橋さんや井口先生の社会的な最後だ。 「どうせ反抗的なことを考えてるんでしょうけど、無駄ですよ」 「……そっちこそ、おとなしく出頭したほうが身のためなんじゃないの?」 「──ご自分で、お気づきになられていないのですね」 「……?」  彼女のその微笑みが、私にはひどく不気味に思えてならない。 「彩芽さんもすぐに、こちら側ですよ」  そして三橋さんは、不安がる私の胸元を指さした。 「ほら。両手を重ねて胸に寄せるその仕草、まるで女の子みたいじゃないですか」  ……。 「脚だって自然と内股になってますし」  ……。 「それに彩芽さん、自分のことを『私』って言っちゃってることに気がついていないのですか?。気がつきもしないくらい、女性としての一人称が自然で、違和感なくなっちゃってるんでしょう?」  ……………………。 「……そ、そんな……え、うそっ……わたし……」  指摘されて、初めて自覚するに至った。  今の今まで、私は自分のことを『私』と言っていた。たしかに、いつもだったら『俺』を使っていたはずで……。   「私があなたを”彩芽さん”って呼ぶことにだってまったく嫌悪感を見せない。それは昨日の刷り込みが彩芽さんに滞りなく定着して、男としてのアイデンティティが無事に置き換わった何よりの証拠なのですよ」 「っ……!そ、そんなわけ……」 「ないと、言い切れますか?今の彩芽さんに」 「ぅ……」  ”彩芽”……それは私の本当の名前じゃない。だけど今日、何度か彼女にそう呼ばれて、微塵の違和感もなく、私はその名を受け入れちゃっていた。その名が自分を指しているんだって、当たり前に思えてまるで気にも留めていなかった。 「ふふっ……それでは2日目を始めましょうか。今日も私が彩芽さんを、しっかりと女の子に染めていってあげますので」 「……ぃ、いやっ……こないでっ!!」 「早ければ今日中にでも、あなたは女性であることに抵抗を覚えなくなりますよー」 ×××  ──あれから、半月。 ××× 「おはようございます」  慣れてきていたはずの職員室も半月ぶりとなるとどこかそっけなく思えて、自然と自分の背筋が伸びるのを感じた。 「おお。どうだい、調子は」  まだ当分は誰も登校してこないだろう朝一に、並び立つ男女。  一方は三十路を過ぎてしばらくの中肉中背な男。雑な剃り残しを見せるひげ跡に、よれたワイシャツ姿の彼は、端的に言ってだらしのない印象だ。 「ええ。手術も無事に終わって、とても晴れやかな気持ちです……今日からまたよろしくお願いします、井口先生」  他方は社会人として日の浅い若輩者。遊び心のないやや短めのショートボブに、教職に相応しいきっちりとしたレディーススーツはいかにも真面目な内面を表立たせていた。 「随分と行儀がいいじゃないか、篠田君。勝手に自分の性別を変えさせた元凶を前にして」 「……」  たしかに、たしかに”篠田秀樹であれば”、まず開口一番に怒鳴り込むか、あるいは弁護士を介しての刑事告訴でも進めていたほうが自然だっただろう。  だけど。 「おかげで私は女性でいるべきなんだって、気づくことができましたから」  篠田彩芽となった今の私は自らが不本意に女性化させられたこの現状を、むしろ好ましく思えている。  きっと三橋さんの”カウンセリング”によるものなんだろう。  私は洗脳されてしまったんだな……そうなんとなく理解できていて、それでもなおこの作り変えられた性別に甘んじることに躊躇いを覚えることはない。 「あははっ、そうかい!」  男子女性化推進法の傀儡となった私に、もはや井口先生を咎める術はない。  別に、私がこれまでの考えを改めたところで、彼を好ましく思えるようになったわけじゃない。 「ところで篠田君。先の男子女性化推進法、あれの利用を我が校の生徒らに勧めていくという話だが、君はいかがお考えかな?」  だからこれは、単なる呉越同舟だ。 「そんなの……”勧めていくべき”に決まっています──私が制度に反対されている皆さんを、説得してみせます」  生徒のことは大切。それは今も変わっていない。彼らのために教師として精一杯頑張ろうっていうこの気持ちは、まったく嘘じゃない。  ただ、優先順位は存在する。新しく植え付けられた価値観が、第一の座に就いたというだけの話。  もっとも、それが男子のみんなにとって最善の選択になるわけだから、結局私は教師として正しくあれているに違いない。 「井口先生の方針を、私は支持します」  動機に違いこそあれど、私たちの目的はひとつに重なっていた。彼とは誼を結んで、今後とも上手くやっていかなければ。 「……くくっ、噂話も真に受けてみるものだな」  かつての私のように、時代に取り残されてしまった頭のお固い教師方が、この職場にはたくさんいる。  女性化はとっても素晴らしいもの。だから男子生徒らを導いて、それを施してあげるのが私たち教師の務めなんだ。そのことを、私が頑張って説き伏せていかなきゃ。 「では、篠田君」  悠然と歩み寄る井口先生。 「……」  先ほどまでとは違って、その目は獣のように情動的に、そしていやらしく見えた。 「今日からお前は、僕の妻になれ」 「……はい、喜んで」  そして、私の唇は奪われた。 「……ぷはっ」  たった一瞬の短い接吻。それは男女の愛を確かめるためのものではなく、私が彼に従順たりうるかを示すだけの儀礼的なものだったのだと、私はすぐに理解した。 「謹んで、お受けします」  彼とは思想が合わない。  お世辞にも優秀な人物とは言い難いし、容姿だって客観的に見て平凡を下回るほどだろう。  それでも、私は彼の体を抱きしめる。  ”私は女性なんだから、男性からの求婚を断れるはずなんてなかった”。 「ですが、よいのですか?」  私のお尻を乱暴に揉みしだく井口先生の手は、止まることはなかった。 「私は今、体格や身なりこそ女性らしく整えているつもりですが……男だった頃の面影が、井口先生の興を削いでしまいませんか?」  私の性徴は未だ途上。女性として成熟するまで一年ほど要すると三橋さんは話していた。つまりしばらく、この男とも女とも見える半端な身体に、彼は付き合わされることになる。  さらにかつて井口先生に楯突いていた愚かだった自分を彷彿とさせるだけの面影が、きっと未来の私にも残り続ける。遺伝子自体は、変容しようがないから。 「ははっ、そんなことないさ」  ところがそんな私の心配をよそに、彼は自らの下半身を露出させていく。 「あの反抗的で一丁前に精悍だった若造を女として跪かせるに至ったんだ。これほど愉快なことはない」  さらに、お前も脱げ、と加えた。そんな彼の思いに、私は下腹部が疼くのを感じた。 「……くくっ、実に真っ当な女になったものだね。元男のくせに化粧までして、しかも下着まで女物を履いているとは」  井口先生の視姦は私の裸体に留まらず、その身嗜みや下着にまで及んだ。 「一応、社会的にも女性として暮らしていくことになるので」 「その桃色のブラとショーツは、君の趣味か?」  彼の指摘に、私はこくりと頷いた。 「ははっ、随分と乙女チックな感性をしていたものだね?それとも、カウンセリングで根付いたのかな?」 「……どうでしょうね」  どうやら彼は、ただ単に異性の裸体を拝めたから…というだけじゃなく、私が一切合切男であることを捨てさせられたという事実を再確認できて喜んでいるらしい。そんな彼の反応を受けて、私もまた、男性を喜ばせるに足る自らの特殊な存在価値を認識した。 「胸は、あまり大きくないな」  彼の視線の先には、私の慎ましい乳房があった。抑揚の薄いその一言に、私の心はきゅうと締め付けられた。 「……カウンセラーの方が仰るには、私のこの身体が女として成熟するには、まだあと一年ほど要するのだそうです」  どことなく、言い訳がましい伝え方になった気がする。だけど、実際のところ私は成長途上なんだから、来年はもっと豊満なおっぱいを彼に差し出すことができるようになっているはず。 「まあ、それまではその貧相な身体で我慢しておいてあげよう」 「はい、ありがとうございます」  そして大した盛り上がりもない私の双丘を、彼は荒々しく揉み始める。 「……んっ」  まるで程度を知らない彼の一方的な慰みに、それでもこの身体は悦びを覚える。  女性として子供を孕むべく存在する今の私は、性感帯の範囲も、刺激に対する感度も、普通の女体と一線を画す。情事において容易にピークに至れるよう調整が施されている。  何をされたって愛液を溢せて、本能のままに男の一物を求める雌に成り果てるように作り込まれている。  やがて私は惹きつけられるように彼へと体を摺り寄せて、そして今度はこちらから唇を重ね合わせた。 「……ぁ」  すると私の下腹部に、彼との密着を妨げるかのように棒状の何かが突き立った。  弾力のあるそれが、己の存在を私に強く主張していた。つまり、この身体は、それに認めてもらえたんだ。自らの番として相応しい相手だと、私を認識してくれているんだ。  妨げるだなんてとんでもない。私がそれに合わせて、自らの秘部を差し出せば、私と彼とはひとつになれる。そのことが、たまらなく嬉しい。 「ひゃっ……」  だというのに、その営みの終着点を、彼はその手で遮った。 「まだ、早いだろう?僕がもっと君を悦ばせてあげよう」 「……っ」  私たち元男性はあくまで赤子を授かることを第一に置いている。そのため、性交の前座として丁寧にコンディションを整えていくことを億劫にも感じない。  特にパートナーの男性には気持ちよくなってもらい、継続的な性行為を維持できるようにしておかないといけないって、三橋さんからも教わっている。 「……んぁ♡はぅっ……♡」  ただ、そんな自分の役割をはっきりと理解した上で、それでもなお、今の私は女体の悦楽に溺れかけていた。  とても紳士的とは言えない彼の施し。節くれ立ったその指先は、私の膣内を乱暴に刺激していく。  けれどその度に私の身体はいちいちわざとらしいほどの反応を見せる。時に痙攣し、時に反り返り……媚びへつらうかのような嬌声まで漏らしながら、気づけば私は誘うように彼の名前を呼び始めていた。 「いぐちっ♡せんせぇ♡」  存在しなかったはずの感情が、焚きつけられていく。  彼には異性としての魅力なんて感じていなかったのに、彼が異性だというだけで、私はその身体を求めてしまえる。 「舐めろ」  だらしなく弛んだ私の頬に、彼の男根が突き付けられた。 「はぁい♡……はむっ……」  一も二もなく、私はそれを受け入れた。  以前だったら男性のあそこを口に咥えるだなんて、気持ちが悪すぎて想像もできなかったかもしれない。 (だけど、今なら……)  彼の前に跪いて、恭しく、献身的にその肉棒をもてなしていく。  さらに白濁とした苦みある液体を口内に注ぎこまれる。自らの意思で、飲み込む。 「んくっ……ぷはっ♡」  紛うことなく、それは女性たる在り方だった。  明確に突き付けられた上下関係の図。女として屈服させられたかのようなこの一連のやりとりに、しかし私の歪んだ乙女心は満たされていった。 (これが、女の幸せ……♡)  互いに互いを弄り合い、やがて彼のあそこはまた固く、逞しくそそり立つ。 「答えろ──お前は、女か?」 「……はい。私は、女です」 「お前は、何者だ」 「私は篠田彩芽……井口達夫の、妻になる者です」 「お前は、男子生徒の女性化に反対か?」 「──いいえ。私は彼らの女性化に、賛同します」  身も心もすべて捧げたいと、そう思えるようになっていた。  これが例え彼でなくっても、男性が相手であれば誰にだって、私はこうなるんだろうけれど。 「なので、お願いします──私を、貴方の女にしてください♡」  それでも今はこれが正解なんだと、そう告げる女としての本能に、私はただ従った。  体内へと差し込まれていく男根を横目に捉えながら、同時に膣内から沸き立つ異物感に私は心を震わせた。  それはつい先日まで、私が交際中の彼女を相手に行っていたものとなにひとつ変わらない。  けれど今、私はあの時とは逆転した役割を担っている。与える側から与えられる側へと成り果てたのだという実感が、改めて脳裏に自らの性を刻み込んでいく。  先ほどまでの贋作とは違って、それは私という母体に種付けを迫る。そのことを喜ばしく思いながら、腰を振る彼になされるがまま、私は自らの本懐が成就することを歓待した。 (……私、女になるね……)  ──恩師の背中を見て育ち、一人前の教師になることを目指した俺。  ──時に優しく、時に厳しく寄り添い支え続けてくれた素敵な彼女との思い出。  ──若輩な自分を先生と慕い、共に学園生活を過ごしてくれた生徒たち。  篠田秀樹を形作ったすべての思いを、私は放棄した。  私は篠田彩芽だ。かつての自分とは決別して、これからは真っ当に、女性としてあるべき道を正しく歩んでいこう。 「── っ♡っ♡」  激しさを増すピストン運動。極限まで膨張された男根による蹂躙を受けて、私の女性器は滂沱の愛液で塗れた。  絶え間なく受信される快楽に思考は朧。乱れた呼吸はそのまま嬌声へと変わり、明滅する視界はこの身体の絶頂を合図しているのだと悟った。  主の限界を見越してか、情事の終わりを促すべく、無意識に締まりを強める自らの膣。挿入されている男根から、褒美を搾り取りに掛かる。 「ぅあっ♡……わたしっ♡わたしぃっ……♡」 「──出すぞっ……!」 「──ッ~~~!!!………………ぁ♡」  ……。  ……。  ……。 「………………………………んふふっ♡」  なるほど。これが、女の快感。  満足感と高揚感。女としての充足感。 「……♡」  すごい。すき。たまらなく、いい。  なによりも、この下腹部に注ぎ込まれた精液。そのいずれかが子宮へと至り、やがて胎児と成り得ることを考えるだけで、私の下腹部はきゅんきゅんと疼いて止まない。  ぬちゅりと、いくらかしなびた彼の肉棒が私の股間から抜き取られていく。  そして彼はすっきりとした表情で、私に言った。 「さて……これからは僕の手駒として、存分に働いてもらうよ」 ×××  私の職場はどこにでもある、ありふれた高校── 「この雑誌のファッション、先生にピッタリだと思いません?試しましょうよ!」 「ふふ、ありがと。けど、ユニセックスな服装は彼の趣味に合わないみたいなの」 「せんせー!今日のあたし、髪型バッチシきまってない!?」 「ええ、とってもよく似合ってる……だけどほら、リボンがずれてる。女の子なんだから、身嗜みはしっかりしないとね?」 「先生、半月ぶりです。今日からまた、よろしくお願いします」 「──おめでとう。改めてよろしくね……うんっ、すっかり可愛らしくなれたじゃない」  ……とは、少し言い難いかもしれない。  男女問わずに門をくぐれる共学校にも関わらず、人口比で見ればもはや女子校と遜色がないほどに、そこは女の花園と成り果てていた。  井口彩芽。24歳。私はここで、教師のお仕事をしている。  女子生徒の誰もが羨む、手入れの行き届いた濡れ羽色の黒髪。セミロングのそれが後ろに束ねられ、露出する艶めかしいうなじ。  弓形の眉。弧を描く長い睫毛。ぱっちりとした大きな目。整った鼻筋。口紅に彩られた瑞々しい唇。薄く化粧の施された色白の肌に、童顔寄りの愛くるしい顔つき。  服装はブラウスにタイトスカート。一年前と変わっていない。筋肉に乏しい華奢な体つき。これも、一年前のまま。  けれど歳月は節々に脂肪が宛てがい、私の身体をより曲線的に、より女性らしく変えていった。  中でも胸部の膨らみは際立ったものだった。それが遺伝によるものなのか、はたまた日頃の行い故か。何度私にブラを買い替えさせたか分からないほどに成長著しいこの乳房は、けれど彼との夜の営みに大きく貢献してくれている。最近では、密かに誇らしく思っている。 「さて、と……」  身嗜みの確認を済ませてから、私は生徒たちの利用する女子更衣室へと向かった。 「あれ?どうしたんですか、彩芽先生」 「ええ、ちょっと備品の整理にね」 「先生、あたし手伝いますよ!」  私を慕う生徒のみんなが、率先して手伝いを申し出てくれる。 「いいって、私は大丈夫だから。あなたたちも早く着替えなきゃ、授業に遅れちゃうでしょ?」  だから、そんな彼女らに微笑み返す私が、実は懐に忍ばせた小型のカメラで盗撮に手を染めているだなんて、きっと誰も思わないことだろう。 (ごめんね……だけどこれも、達夫さんのためだから)  私を嫁に迎えてから、達夫さんの欲望は日に日に増長していった。  やがて彼は強引な手口を用いてまで男子生徒らを次々と女性化していき、そして彼女たちにも自らの毒牙を掛けていった。  私は、そんな彼を裏から支える役割を担い続けている。  夫の欲望を満たすためなら、私は悪事を厭わない。  私は教師で、生徒のみんなは宝物。彼女たちのためなら、粉骨砕身働こうと思える。  ……それでもやっぱり、私は教師である前にひとりの女性で、妻だから。  達夫さんのためなら、私はこの宝物たちを捧げてしまえる。 (だけど、仕方ないよね?)  そうすることで、私はまた彼からの寵愛を受けることができるのだから。  妄想に浸る私の股間が、じわりと下着に染みを作った。


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