あなたのお悩み解消します その2
Added 2022-02-02 11:49:57 +0000 UTC『エースになれない者の場合』 今日の相談者は体操着に身を包んだバレー部の彼。なんでもエースを目指して日夜練習に励んでいるんだそう。 「今年、チームに滅茶苦茶すごいやつが入ってきたんです」 彼は元々ここの男子バレー部のエースで、本人曰くその実力もエースの名に恥じないものだったらしい。県の選抜にも選ばれたことがあるそうで、男子バレー界隈じゃ知名度もわりとあるのだとか。 ところが今年現れた新人君が全国でも有数のスパイカーで、さしもの彼もその座を明け渡すことになってしまったのだそう。 「俺、バレーはもちろん好きだけど、やっぱりエースって肩書きが欲しい……そう思って、必死に努力を続けてきたんだけど……」 まあ色々あったけど結局彼の健闘は虚しく、どうしようもなくなってこんなところまで足を運んできたというわけだ。 「あいつは背も高いし才能だってある。それに人一倍の努力家だ。実力も折り紙付きだし、なのに他人を見下すこともなく、周りからの信頼も俺以上に勝ち取っている……そんなあいつを隣で見てると、自分で自分に嫌気が差すんだ」 彼自身、その子をしっかり認めてはいるんだろう。ただ、その背中ははるか遠く、比べると惨めな思いを抱いてしまう。 「なるほどなるほど」 そんなありふれた、けれど生々しい現実を聞かされた僕は、同情するよりも先にひとつの名案を思い浮かべた。 「ところでこの学校には女バレの部活もあったよね?」 「へ?あ、ああ。あるよ。実績もないし、そもそも部員数がギリギリ試合に出れるってくらいだから、この学校じゃ日陰者だけど」 「ならちょうどいい。今日から君は、女バレでエースを背負うんだ」 「は?」 そして今日も力の効果が相談者の身に降りかかる。 凛とした目はつぶらにくりっと愛らしく。取り巻く睫毛は高く立ち並び、彼の印象を大きく変える。 細く整った眉にすらりとした鼻筋。薄く開いた唇は皺を見せない張りのよさに、差された水気と桜色とが艶美な色気を醸し出す。 端正でよく引き締まっていた顔立ちは丸みを帯び始め、染みのない鮮麗な素肌を被るとそこには年相応のあどけなさと女子らしい柔和さとが形成された。 部活に励む青年によく似合っていた角刈りを形作る髪の毛たちはうねりをあげると一斉に膨張を始め、あっという間に彼の頭皮を覆い隠した。そして女子としてはやや短く、けれど男子としては明らかに長いショートボブへと姿を変え、やがて味気の無い黒色だったそれらは、自らお洒落を楽しむかのようにその色合いを歪ませていき、明るめの茶色になって固定された。まるで染色が施されたかのように見えるそれらはけれどまったく痛みらしいものを窺わせず、むしろ1本1本が絹糸のように麗しく繊細で、頭頂においては天使の輪を浮かべるほど綺麗に仕立てられていた。 彼の首が伸びたように見える。しかしそれはきっと目の錯覚で、実際のところは細く変わったからという理由に違いない。浮き彫りになっていたはずの突起物もすっかり収縮し切っていて、これからはもう鈴の音のような澄んだ声音しか発することができないだろう。 胴体の変容も著しい。 その強肩は狭まって、端をすとんと落として緩やかな曲線を描く。 半袖から伸びる腕は日々の鍛錬の面影こそ残してはいるが、それでも男子であれば貧相といえるほどに、脂肪を蓄え細みのあるものに成り代わっていた。手指も無骨さが消え失せて、繊麗な指々とちんまりとした手のひらはまるで男であることを思わせない。 ぷくりと胸部が浮かび出し、それらは体操着の薄生地程度では隠し切れないほどに盛り上がりを増していく。やがてふたつの膨らみはその下に影を生み出すにまで至り、まるで自らの女性らしさを他者に堂々と主張しているかのよう。 彼に備わった乳房が容赦なく衣服を圧迫し続けていると、じんわりと滲む汗と体操着の生地の薄さとが災いして、下に着付けるブラジャーの色を透けて見せるようになる。彼がもう社会的に男子たり得ないことがこれで判然とした。 全体的に女子になりゆくその身体の変化は当然外見に留まるものではない。彼の脳内は既に女性ホルモンの分泌を促して止まず、それはその身体にとって生まれた時から義務付けられていたものだ。 だから、男としての性的機能なんてもはや彼には存在しない。彼がその身に宿すのは、女性として精子を受け入れ、子を授かり、産み育てていく母体の役割のみである。 すなわちその下腹部ではすでに子宮が胎動し、精子たちの通り道もまた、ほどよく整備を行き届かせているだろう。 膣は主が男根の挿入に喘ぎよがれるよう性感帯を拵えて、差込み口である陰部には当然縦筋の亀裂を設け、そこにはかつての肉棒の面影ひとつ残されてなどいないはず。 どれだけ本人がスポーツにのめりこんでいようと、彼の身体は将来を女として生きていくために成長している。男に想いを寄せて、情事に耽り、赤子を孕んで、産み、その乳房をふんだんに用いて愛する我が子に傅く。 その健脚にも女性らしいむっちりとした太ももがありありとしていて、スパイクに跳ぶためでなく男を誘惑することをその本懐として存在しているように見えた。 「あれ……?」 変化は終わった。これで彼も彼女として、すっきり爽やかな気持ちでいることだろう。 なんて呑気なことを考えていた僕に、目を疑う展開が待っていた。 「お、俺……なんで女に!?」 彼女は自らの発声を確かめた後、自身の顔をぺたぺたと手で触れ、胸を揉み、そして股間を覗き込んだ。 様子から察するに、どうやら彼は男の頃の自我を残したままらしい。 「珍しいね」 ただ、慌てるほどのことでもない。こういったケースも、僕はすでに一回経験していた。 きっと彼女の意識には男の残滓がこびりついているのだ。なら、それを取り除いてさえしまえば彼女は新しい自分に…女の子に、染まり切れることになる。 どうするかって?要は意識をその身体に馴染ませるのだ。早い話、エッチなことをしてやればいい。 「……んぅっ!?」 彼女を優しく抱き締める。男の僕と抱擁を交わしているのだから、君は女の子だろう? 彼女と唇を重ね合わせる。男の僕とキスをしているのだから、君は女の子だろう? 彼女の膨らんだ胸を揉む。乳房を揉まれて感じることができるのだから、君は女の子だろう? 彼女の股間をさすってあげる。それで気持ちよくなって喘ぎだせるのだから、君は女の子だろう? くちゅくちゅと、彼女の女性器は淫猥な音を放ち始めた。ただ、それを奏でているのは僕じゃない。ーー彼女自身だ。 「あっ……はぁっ……んっ……」 自らの指をその隠部に抜き差しし、彼女はひとり自慰を続ける。 嬌声が漏れ、愛液が床に滴る。 女体の悦楽が、彼女の脳内を蹂躙していく。残された"男"を、容赦なく洗い流していく。 「あ、やっ……んっ!きゃんっ……♡」 そうして彼女の意識と身体は完全にシンクロしていく。 正直かなり刺激の強い眼福だ。元男とはいえ可愛い女の子のオナニーシーンが目の前で繰り広げられているわけだからね。年頃の男子として、これは相当美味しいし、けれど自制心を保つのもしんどい。 ただ、これで僕も紳士の端くれ。ここで彼女に襲いかかって強姦まがいのことをするつもりはない。盗撮なんかももちろんしない。ただ、目に焼き付けはする。そのくらいの役得は、あっても罪にならないだろう。 「っ〜〜あ"っ!!♡」 へんてこな喘ぎと一緒に大きく身体をのけぞらせた彼女。 そしてくたりと倒れた様子をよく見てみると、どうやらもう意識が途絶えているらしかった。女体の絶頂に耐えきれず力尽きてしまったのだろう。 「やれやれ」 この部活はアフターケアも万全だ。僕は汚れた床や彼女の身体を入念に拭き取って、さらにその衣服まで正してあげておいた。作業にあたってちょっと胸や股間に手が触れちゃったりもしたけど、それは仕方のないことだった。まったく、紳士な僕に感謝してほしいものだよ。 彼女は目が覚めると、もうすっかり以前の記憶も吹き飛んでしまったようで、その快活そうな顔に笑みを浮かべて、元気にお礼をして退室していった。 これからは女子バレー部のエースとして、気負うことのない楽しい部活ライフを送っていくことだろう。 「……ん?」 部室の片隅に、なにかピンク色の物体が落ちていた。 それは2つのお椀型に紐が括られた布だった。 「……どうしようかな、これ」 彼女はこれから部活だろう。あの胸の大きさからして、バレーなんてしようものなら体操着越しでも周りに気づかれてしまうのでは? スパイクに跳躍するたびに、あの胸がぶるんと……。 「……」 別にやましいことなんてない。ただ、女の子になったばかりの相談者のことが心配だから、ちょっと体育館まで様子を見に行ってみようかな。そのついでにこのブラジャーを更衣室前にでも投げ捨てておけば問題は万事解決だ。 そんなアフターケアの体で自分の中の節操を潰し、僕は部室を後にした。 『溜まっている者の場合』 部室の前に立ち、そのドアを開けると、もうひとりの自分がいつもの席を陣取っていた。 そんな彼の存在に疑問を抱くことはなく、僕は相談者として彼に悩みを打ち明けた。 「セックスをしてみたい」 簡潔明瞭。健全な男子高校生であれば誰しもが持ち得るだろう欲望を暴露した。 「セックスをするんなら、裸になるのが道理だろう?」 彼にそう返されて、僕は言われるがままに制服を、そして下着さえも脱ぎ捨てた。 「ところでここには君と僕…つまりは男しかいないわけだ」 含んだような言い方をするもうひとりの僕に、僕は首を縦に振って同意する。 「それじゃあセックスはできない……けれどもし君が女の子だったなら、なにも問題はないよね?」 だから、僕の身体は変化を始めた。 目は輪郭を広げ、大きくぱっちりとした愛らしいものに変わり、何の変哲もなかった瞳に琳琅な輝きが宿る。その周りに備わっていた睫毛もまた、庇護対象にあわせて長く伸びて女子らしくなった。 眉は細く薄く、どんな様相を浮かべても柔らかな印象を抱かせるような優しげなものに。 顔はこの歳にしてはやや童顔に、けれど顎先はよく締まりすっきりとした雰囲気に整えられ、小麦色の肌は染みのない透き通るような色白に染め上げられた。 鼻は面積を狭めた小顔においても悪目立ちしない小ぢんまりとしたものに。 目立たない程度に厚みを増して、けれど先ほどまでより明らかに小さく慎ましやかに変わったその唇は、水気を帯びた薄紅色を表層に張り、もはや息を吸い物を咀嚼するだけに留まらず、男を魅了しかねない妙齢の妖艶さを醸し出していた。 長くも短くもなかったやや癖毛気味の黒髪は髪型をそのままに何cmか伸び、そのボリュームを増していく。同時に手入れの行き届いていなかったはずのそれらは従来の光沢を取り戻し、どころか一層の輝きをその身に宿し、部屋の照明に天使の輪を浮かべるほど艶やかで綺麗な一品へと生まれ変わった。 そしてショートボブと呼べるまでに伸び切った髪の毛がうねりを落ち着かせた頃には、僕はすっかり男子と間違えられることはないと断言できるまでの可愛らしい女の子の顔になっていた。 当然、変化はそれだけじゃ終わらない。 一応男子として相応の体格を備えていたというのに、みるみるうちに全体が縮まり女性的な曲線を帯びていく。 細く柔らかみを増した腕。男子としては小柄な手指。なだらかに垂れていく肩。くびれのある腰回り。ややむっちりとした太ももは健康的な色艶を見せ、さらに膝、ふくらはぎ、くるぶしに至るまで一切手ぬかりのない、すらりとした綺麗な美脚を披露していた。 胸元がぐぐっと隆起を始め、風船のようにその体積を増していく。そして変化が収まった頃には、誰がどう見ても女性の乳房な双丘が出来上がっていた。それらは僕が身じろげばかすかに揺れ動き、手で下から掬い上げればなされるがままに形状を歪ませ、また脂肪の重みがどれほどのものかを僕に伝えてきた。そんな膨らみの頂点には鮮やかな桜色の蕾が添えられていて、より男のものとの存在意義の違いを明らかにさせているかのよう。 極めつけは股間部だ。僕が生まれたその時から生理活動に貢献してきてくれた男としての象徴が消え去り、その所在の根本は左右に裂かれ、そこには僕の体内への入り口が新たに形成されていた。 男の物を受け入れ、宿主に快楽をもたらし、その奥に懐胎の機能までこさえたそれが僕にあるということは、僕がもはや男ではないということの何よりの証左だった。 そうして僕が完全な女子になると、いよいよ彼が動き出す。 「あっ……」 もうひとりの僕のごつごつとした指が、僕の胸を優しく撫で、押し、揉み。 「きゃんっ……!」 さらに乳首をつねられて、僕は思わず苦鳴を漏らした。 いや、それは違う。 若干の痛みこそ伴いはしたものの、僕が感じたこれの主だったものは、甘美な刺激だった。 だからきっと、今のは嬌声というやつだろう。 彼が僕を抱きしめる。男の人の抱擁感に包まれて、暖かな気持ちが芽生える。そしてそれが、僕の心を解きほぐしていく。 瞳を閉じて唇を交わす。 彼が僕の頭を撫で、髪を梳いてくれている。 たったそれだけのことで、僕の下腹部はきゅんと疼いて止まなくなった。 我慢ができず、僕はその手を自らの股間へと伸ばした。目の前の彼に抱いたこの想いを、敏感になった隠部にぶつけてやりたくて仕方ない。 「んっ……ふっ……」 もじもじと太ももを擦り合わせながら、僕は膣を細くなった指先で刺激していく。やがて1番感度の高いスポットを確認し、集中的に攻撃を始める。 「ん、ふぁ……」 気持ちいい、気持ちいい……けど、足りない。物足りない。 ーーだったら、こんな紛い物なんかじゃなく、本物の肉棒を差し込んでもらえばいい。 「……おね、がい……」 媚びた声音で上目遣いに彼の男根を欲する。するとそれは太く逞く、荒くれた様相に変貌を遂げ、僕の股間へと迫った。 恐怖を感じないといえば嘘になる。けれど、それ以上に女としての快楽に溺れてみたい。そんな性欲が勝って、僕は進んで彼にこの女性器を差し出した。 「……んっ!」 異物の侵入はすんなりとしたものだった。それもそのはず。愛液がしとどに塗れた今の膣内にとって、それの存在は歓待の対象に違いなかった。 「くぅっ……♡」 彼の男根が乱雑に僕の体内を蹂躙し始める。間断のない悦楽に曝されて、脳が快哉を叫ぶ。 「あっ……はぁ……♡」 もっと……もっと欲しい! 僕の腰はより一層上下運動に励み、それに応えて膣は滂沱の快感を僕に届けてくれる。 「あぁ……ふぅっ……♡」 これはすっごくいいものだ♡意識が飛ぶ♡この身体、やっばい♡ 「あああぁぁっ〜〜♡」 口元はとうに決壊し、もはや喘ぎ声も憚ることを知らない。 そんな女の法悦に耽溺し、果てる寸前の僕に対し、しかし彼は容赦をしない。 嬲るようになお僕の膣内を暴れ回り、己の性欲に身を委ね続けている。 「やっ!も、まっ……♡」 そんな彼への制止の声も紡ぐこと叶わず、僕はなされるがままに男の持つ欲望の捌け口を強要される。 「あ♡いっ……ちょっ♡」 けれど、それが堪らなかった。まるで彼の物にでもされたかのような乱暴な扱いに、同時に自分が女として求められているという多幸感が混ざった。 「やあぁっ……!!」 そして、これまでの比じゃない量の精子が僕に送り込まれたのを感じた。あわせて、僕も絶頂が極まる。最高の快感に曝され、口角が上がって収まらない。 フィニッシュだ。お互い、もう立ち上がる気力すら残されていないだろう。 「♡」 避妊してないけどどうしようとか、部屋と身体を綺麗にしなくちゃとか、そもそもなんで僕は女の子なんだっけとか、色々なことが脳裏をよぎったけれど。 たまにくらい全部を後回しにして、悦びに包まれながら意識を手放しちゃっても、いいよね。 「……きもち、よかったぁ♡」 こうして、僕は念願だったセックスを果たして、自らの性欲を存分に発散させた。 ××× カーテンから漏れ出た朝日が煩わしくて、僕の意識は起き出した。 「……」 我ながらとんでもない夢を見た。自分が女子になって男の自分に……いや、これ以上はよそう。 ふと、股間の辺りにひんやりと、それでいてねっとりとした感触を覚えた。 「……」 嫌な予感がしてズボンと、それからパンツを下ろしてみると、案の定、男の生理現象がそこで惨状を晒していた。 『お洒落になりたい者の場合』 「うんうん。随分女子であふれるようになってきたな」 あまりの退屈さに窓からぼんやりと校庭を眺め、なんとなく思ったことをそのまま口に出してみた。 思春期である僕たち高校生においては悩みの種のひとつやふたつ、誰だって持っていて当たり前だ。だからこそ僕は小市民に似合わない慌ただしい毎日を送ってきた。 ただ、人の悩みというものは、なにも無制限に存在するわけじゃない。人間の欲望に際限がないのとは違って、他人に相談しようってなるほどの悩みはそのうち尽きるものなのだと僕は考えている。これに反論がある人には、今こうして暇を持て余す羽目になっている僕という何よりの証拠をどうにか覆してみてほしい。 ともあれ、要するにこの部活に、お役御免の時が近づいてきているのだ。 そりゃあ、また新しい悩みを抱えてこの部室に足を運ぶリピーターも時間を掛けて待っていれば現れはするのだろうけれど、現状で週に1人も来ればいいほうなわけだから、店仕舞いはもはや当然の選択ともいえる。 それに男子はもう粗方女子に変えちゃったから、以後僕自身に旨味が少ないというのもモチベーションが振るわない理由のひとつだ。結局最後に大事なのは自分。ここまで頑張ってきておいてなんだけど、相談部としての誇りなんてまったくもって身に付かなかった。 なんて物悲しいひとり語りをしていたら、部室のドアからノックの音が。 「どうぞー」 せめて、残り少ない相談部ライフを悔いのないよう満喫してみせよう。 僕はそんなことを考えながら、扉の向こうの相談者に応じた。 ××× 「お洒落になりたいんだ」 「はあ」 申し訳程度に制服を着崩しただけの、いかにも平々凡々そうな男子生徒が残り数少ない相談者のひとりらしい。 「けど、俺はお洒落にあまり関心がない」 「はあ?」 なんなんだこの人。 「どうしたらいいと思う?」 「出直してみては?」 「……」 「……」 「……俺の話、聞いてくれるか?」 彼の動機は省略する。ただ、とにかく彼は周りからよく思われたいのだという。すごくざっくりとした話だけれど、つまりはその一環でお洒落になることを目指しているとのことだ。 ただ、当の本人はお洒落に大して関心がない。いや、ないというよりは"なくなった"、が正しいかもしれない。 どんな服を着てみても平凡な容姿の彼は平凡な見た目にしかならず、その結果お洒落になんの面白みも見出せなくなって、途方に暮れてしまったということだ。 「こんな俺でも「お洒落って楽しいんだな」って思えるような、そんな抜群のファッションを教えてほしい」 それは……なんというか、相談相手を間違えてないかな。彼はこんなところで道草食ってないでファッション雑誌でも買いに走ったほうが有意義なんじゃないだろうか。 「……あ」 「!!浮かんだのか!?時代の最先端が!?」 やかましいなこの人。なんだよ時代の最先端って。 けど、名案が浮かんだのは事実だ。まったく、どんな時でも一筋の光を見つけ出せる自分の頭脳が恐ろしいね。 「あなたがお洒落に関心がないのは何故でしたか?」 「それは、面白みがないからで……」 「なぜ面白みがないのでしょう?」 「……いや、だから言っただろ?」 「そう、あなたの外見がつまらないからです。フツーすぎて、何の味もないからです」 「喧嘩売ってんのか」 「逆に言うと、あなた自身の容姿が魅力的になりさえすれば、どんな服でもよく映えて、自然とお洒落も楽しめるようになります」 「?よく分からんが、整形でもしろってのか?」 「とんでもない。これからあなたに施すのは、もっと素晴らしいことですよ」 お洒落を楽しいと思えるタイプの人間といったら、一般的にどんなイメージが思い浮かぶだろうか。 僕だったらそれは、『何を着ても様になる容姿端麗な人間』だ。 ところで、お洒落を楽しむ大前提として、多種多様な洋服が流通していることが挙げられると思う。色々と試せるほうが面白いに決まっているからね。 その点、彼はもったいない。なんせバリエーションに富んでいて、いろんな自分を楽しめるのは"メンズよりレディース"なのだから。 そしてこれらを踏まえた上で、僕はこう結論づけた。 「あなたがどんな服を着ても魅力的でいられる素敵な女子だったなら、お洒落にももっと関心を持てるはずですよ」 いつものとおり、彼の身に変化が訪れた。 目はぱっちりと大きく開かれ、同時に目じりはつり上がった。だというのにどことなく愛嬌を感じさせるのは、丸みのある童顔や柔らかに弧を描く眉によるものだろうか。さらに睫毛までボリュームを増し、しゃらんとした女の子らしさを膨れ上がらせた。 綺麗になった鼻筋は端正な顔の中心に立ち、他のパーツを整然とさせる役割を担っているよう。 唇はものやわらかで、年相応のあどけなさにどこか女性特有の艶美さを忍ばせた蠱惑的な膨らみを見せる。 髪の毛がその総量を増していく。短髪だったはずなのにすとんと肩にまで伸ばされたそれらには染色が施され、すっかり華やかな亜麻色に染まった。さらに髪染めを受けたにも関わらず一切の痛みを見せず、艶やかに照り輝いて頭頂に天使の輪まで浮かべていた。しまいには先端を緩めにカールさせ、自分らしさを適度に主張する仕上がりになった。 耳に覆い被さる横髪が窓からの風に靡けばさらさらとその所在を揺蕩わせ、美白なうなじがまるでもったいぶるかのようにその隙間からちらりと姿を現した。 そこらのアイドルにも負けないくらい可愛らしく、それでいて綺麗な顔を手にした彼。 けれど変化は、その身体にも及び始める。 美しくなだらかに伸びる弱々しい首に喉仏は窺えず、付け根にはこの学校の女子生徒であることを示す赤いリボンが結ばれる。 いつの間にかボタンの配置が上下で逆転していたワイシャツの、その目を置くべきところはやはり膨らんだ胸部にあるだろう。そして時期外れの暑さにあって汗ばむ彼のそのワイシャツはいくらかの水気を帯びて、白い生地の下に隠された、女体にとって重要な役割を有する乳房を庇護する水色のブラジャーを薄く、しかし明らかに可視化させてしまっていた。 そんなワイシャツを腰回りで締めるのは着用者の足元までを覆い包んでくれるズボンなんかではなく、膝丈ほどの、さらには筒状ゆえに外気を股関節にまで及ぼす衣服として心許ないプリーツスカート。そこから覗かせる彼の脚はまさに女子のそれで、紺のハイソックスと相まって生ずる女子ならではの絶対領域が眩しい。 スタイルも良く、目鼻立ちも良く、顔もしっかり整っている。この全体的にステータスの高い無欠の女子生徒が、あのお洒落に悩む平凡だった彼なのだ。 「見てごらん」 僕はそう言って部室の隅っこに置かれている埃の被った姿見を勧めた。 彼女は口を半開きにして、へーとかほーとか小言を漏らし、無意識そうに女子っぽい仕草まで見せてくれた。 髪の毛を掻き分けたり、手を胸元に寄せていたり、自然に内股になっていたり、スカートの端を軽く摘んで持ち上げてみせたり、そんな自分をいろんな角度から確認していく。 やがて短い鑑賞会を済ませて、彼女は僕にその満面の笑みを向けた。 「私、なんだかオシャレが楽しめそうですっ!」 すっかり可愛らしくなった彼女の声音で、その喜びが口にされた。 性別を変えられたというのに、そんなことも露知らず、彼女は悩みが晴れたことに舞い上がってしまっている。 「私、これからさっそくショッピングに行ってきます!ありがとうございましたっ!」 彼女にとって、もうお洒落は楽しくて仕方のないものなのだろう。 それもそのはず。今の彼女ならどんな衣服で着飾ったとしても、きっと見る人を魅了できる。もちろん自分自身だって。 多様な服装が見せる輝かしい自分の姿によって、彼女はもうすぐお洒落の虜だ。なんなら将来、勢い余ってコーディネーターやモデルの道を進んでいくかもしれない。 まあ、今の彼女であれば特に問題はないだろう。彼女はもう、平凡だった以前までの彼ではないのだから。 『相談部の場合』 僕の相談部での活躍といったら枚挙にいとまがないほどだった。 強豪野球部のガチ練習に嫌気がさした、野球好きだけどエンジョイ派だった男子生徒を女子マネージャーに転向させたり、空に憧れてパイロットを目指すも視力不足で夢の潰えた男子生徒を、CAを目指せるよう美人の素養溢れる女子に変えてあげたりしたこともあった。 さて、相談部である僕の目覚ましい貢献によって、この学校の生徒は晴れやかな気持ちで充実した日々を過ごしている。 僕自身も女子ばかりになったこの生活環境にとても満足している。そこらじゅうに眼福が存在しているわけだからね。 ただ、そんな僕にもひとつだけ悩みと呼べるものがあった。 「女子とお近づきになれない……」 そう。いくら僕に常人にない能力が宿っていても、いくら僕が人の悩みを解決し続けてきた聖人(諸説あり)であっても、こればかりはどうしようもない。 女子は星の数ほどいるけど、星には手が届かないのだ。 いや、解消させた悩みの中で、もしかしたらうまくこじつけることで誰かしらを僕の彼女に仕立て上げることもできたのかもしれない。 けれどそれももう後の祭り。この学校のみんなが持つ悩みは粗方解消し尽くして、このところ僕の元に足を運ぶ人もめっきり少なくなってしまった。 考えてもみてほしい。僕は頭こそすこぶる良いけど、特段モテるような特徴もない。さらに女子と親睦を深められるような機会も持ち合わせていない。 そうだな。もしこの部活に女子の誰かが加入してくれたなら、放課後は一緒にいられるわけだからワンチャンもあったんだろうけど。 「はあ……部員に、女子がいてくれたらなぁ」 ……。 ……。 ……。 なんてことを考えていたけど、気づけばそんな私の悩みは解消されていた。というか、私がそもそも女子なんだから、まったくおかしな話に違いなかった。 今日も相談部は平穏だ。言い換えると、何もすることがない。 だから私は仕方なく、もう何周目かになる手元の女性雑誌を手に取って、ぼんやりとしながらそのページをめくった。 ××× そして月日は流れて、私は大学生になった。 他人の悩みを解消させるあの不可思議な力は、いつの間にか私の元から消えてなくなってしまっていた。 「……」 あれははたして、本当に"私自身に備わっていた力"だったのだろうか。 その答えは、きっとあの部室に残されている。