あなたのお悩み解消します その1
Added 2022-02-02 11:48:26 +0000 UTC「それで、どうにかできないかな?」 僕が籍を置くこの部活、『相談部』の活動内容は人の悩みを聞いて、それを"解消"してあげることだ。 まあ、部員は僕ひとりだし正式な部活動ってわけでもないんだけど、わりとそこそこな頻度で噂を聞きつけた相談者がやってくるあたり、評判も中々に良好なのだろう。 それもそのはず。 「なるほど。確かに君の声は低いから、ちょっと聞き取りにくいかもしれないね」 地声の低さで度々話を聞き返され、国語でする音読の際なんかにも教師から声を大きくするよう注意を受けていた彼。そんな彼の悩みを、僕は今すぐに解消してあげることができる。 「じゃあ、今日から君は女の子だ」 「へ?」 「君が女の子だったんなら声も今より高くて、聞き取りやすいものだったはずだろう?」 僕は汗臭い根性論を好まない。当然、苦手やコンプレックスを克服するための青春群像劇なんかもお断りだ。 僕の仕事は、"人の悩みを解消してあげる"こと。例えそれが、本人の望まない過程を辿ったとしても。 「ーーあ、たしかに!"私は女の子"だから、声は男の子のより高いよね!」 そうだった!ありがとう!と、すっかり俯くことのなくなった彼…いや、彼女を見送ってから、僕は読みかけの文庫本に手をつけた。 まったく。人助けの後に読む小説は最高だね。 『余る者の場合』 途中経過は割愛しよう。ともあれ、僕には人の悩み事を解消することのできる不思議な力が宿っている。 もっとも、それが元々の彼ら彼女らにとってベストな方法によるものなのかは、議論の余地があるだろうけれど。 なんせさっきの彼みたく、僕がした提案がどれだけ荒唐無稽であったとしても、僕の力はそれを叶える。彼はただ地声の低さに悩んでいただけだというのに、それを解消することのできる事柄であれば、それこそ相談者の性別を変えてしまうようなことだって現実に反映することができる。 彼は彼女になって自分の地声に悩まなくなった。そんな彼女はもはや自分が男だったことなんてすっかり忘れて、自分を女子だと思って疑わず、華の女子高生ライフを謳歌していることだろう。 ちなみに相談者の性別が変わっても家族や友人は、本人と同様にそのことに気づけない。相談者はこの世界で生まれたその時から女の子であり、これまで関わってきた他人の記憶も、戸籍みたいな公的書類も、すべて彼が彼女だったものとして差し替えられてしまうのだ。アフターケアも万全だろう? そういうわけで、僕は今日も部活に勤しむ。 これで僕も健全な男子高校生だから、やっぱり学校の女子比率が上がってくれるのはありがたいのだ。僕は男子を女子にする。元男子の相談者は悩みが晴れる。まさしくwin-winというやつだろう。 今日もカモ、もとい相談者がやってきた。 「う、うちのクラス、不登校のやつが、いて、だ、男子の人数、が、17人な、んだ……」 随分おどおどとした口調の男子だ。ぼさぼさに伸びた髪の毛に、黒縁の丸眼鏡が悪い意味で印象に残る。 「あの、オレ、友達、少ないから、体育の時、いっつも余って……」 なるほど。どうやら彼はその陰キャぶりが災いして準備体操なんかでペアを作れず、泣く泣く教師と組まされる現状が辛いらしい。 「なんとか、ならない、かな?」 おそらく彼の言うなんとかとは、彼自身の性格を矯正するなりして交友関係を広げ、脱余り物を図ることを意味しているのだろう。 ただ、残念ながらここは漫画の世界じゃない。そう都合よく望んだ自分に大変身なんてことはできないのだ。 「……よし」 まあそれはそれとして、学年でも有数の成績を誇る僕にとって、今回の件は朝飯前と言っても差し支えがない。 「ところで、女子って体育の時間に参加しないで見学に回る人、わりと多いよね?」 「え?あ、う、うん……?」 唐突な僕の問いかけに、彼は戸惑いを隠さない。 「理由はもちろん差し控えるけど、つまり女子側の体育は、その日ごとに参加人数が上下しやすいんだ」 「えっと、な、なにを……」 「その穴に、君の入り込む余地があるってことだよ」 すると僕の意図するところを察してか、力の効果が彼に襲いかかった。 ぼさついた髪は入念な手入れを窺わせるさらさらとした艶やかなストレートヘアになって、その先端は彼の肩にまで及んだ。かと思えば後ろ髪はシュシュで結われてポニーテールに、だらしなく垂れていた前髪はヘアピンで形を整えられ、見る者に清潔感を思わせるようになった。 どんよりとした顔色は活力を取り戻し、かさついていた肌は瑞々しく、染みひとつない色白のものに。 落ち込んでいた瞼はぱっちりと開かれ、目じりは垂れて愛嬌のあるものに変わった。そんな愛らしいふたつの珠を、萌え立つ睫毛がささやかに彩る。 眉は薄く細く弓形に、身嗜みに弁えのある年頃の女子らしいものに。鼻は小顔において悪目立ちをしない小ぶりですっきりとしたものに変わった。 唇には水気が差し込まれ、仄かに照り輝く桜色のそれは柔らかみを帯びてふっくらとした、男子学生のものとは思えない不相応な色気を放つ。 いつの間にかリボンにワイシャツ、そしてプリーツスカートという女子制服を着ていた彼のその身体も、やはり先ほどまでとは物が違う。 肩幅は狭くなだらかに落ちていく。その細首と相まって、華奢という言葉がよく当てはまる。 手指はいかにも繊細そうで、角張りも鳴りを潜めてしなやかな様相に。 胸は男子ではありえない膨らみを起こし、女子として性徴を遂げた成果である乳房のその大きさが、衣服越しでも十分に伝わるほどだった。 素足を曝け出すスカートのその下は、覗けばきっと女物のショーツが顔を見せ、その内にはもはやかつて彼が有していた男根は跡ひとつ残さず、まるで備わっていて当然かと言わんばかりに堂々と女性のあれが鎮座していることだろう。 そこから伸びる太ももはむっちりとしていて、けれど下がるにつれて凹凸の弱いすらりとしたものになっていた。その平坦なふくらはぎは紺のハイソックスに包まれて、スカートとの間に生じる柔肌の露出が絶対領域となって背徳的な魅力を醸す。 そして彼女が"完成"したことを確信し、僕は一言こう告げた。 「これからは女子として頑張ってね」 「……あ、は、はい?ありがとう、ございました……?」 おっと。悩みを払拭できたとはいえ、彼女のおどおどとしたところは直らずじまいかな? まあ、その辺は僕の知ったことではない。一応悩み自体は解消してあげたわけだし、僕も楽しい時間を過ごせた。男子が女子に変わっていくところって、なんだか見ていて飽きない。倒錯的というか、なんかこう、興奮してしまうのだ。いや、我ながら気持ち悪いね。 そんな自分のおかしな性癖から目を背けながら、僕は鞄から取り出した文庫本の頁をめくるのだった。 『魅力がない者の場合』 「俺、運動が昔っから駄目で……」 今日の相談者は、これまた陰気な男子だった。 「身長も低いし……ほんと、なんの取り柄もない……」 どうやら相当自分に自信がないらしく、この部室に入ってきてから僕と1回も目を合わせてこないほどだ。うーん、自信どうこうってよりコミュ障? まあ実際、僕も合同体育で彼がドジを踏むところをよく見かけているし、身長も160cmを超えているか分からないくらいの小ささだ。自信を無くすのも無理のないことなのかもしれない。 ただ、彼の悩み事はこの相談部の本懐としてはまさに打って付けといえるだろう。 「ドジで小さい?それ、君が女子だったらむしろ魅力になってたかもしれないよ?」 すると、彼に変化が訪れる。 短髪だった黒髪はみるみるうちに背中まで伸び、さらに若干の癖毛が頭の上でぴょこんと跳ねた。綺麗な濡羽色をしているが、間抜けなアホ毛もところどころに見え隠れしだす。けれどそんな雑然さは悪印象どころか彼のチャーミングさを一層高めることになる。 顔は小ぶりな童顔で、丸みを帯びた愛らしいものに。さらに地肌は色素が薄まり、いかにもインドアそうな乳白に包まれた。 瞳はとろんと眠たげで、けれどつぶらで大きくなったその目は瞼に伏せられがちな状態でもなお存在感を強く放つ。それらに付随するよく伸びた睫毛もまた、女子らしくよく映える。 一筆で書かれたような品のいい眉は、事態に困惑する彼の心境に合わせてハの字に形を歪めているが、そんな様相もまた愛らしい。 目鼻立ちもすっきりとして、それでいて端正というよりは幼げがあって、彼女の印象を邪魔しない調和のよさが見て取れる。 朱に染まる唇は小ぢんまりとしていて、けれどただ生理活動に用いるのみであれば不要なはずの艶美さを不相応に醸し、男を蠱惑しかねないものに変貌を遂げていた。 身長はぐんぐんと伸び…るどころか、むしろより縮こまって、もはや150cmを切っていそうなほどになった。それに合わせて、やはり体格もより華奢に、よりふくよかに形を修正させていき、ワイシャツの胸部を内から控えめに盛り上げる乳房も発達を続け、跳ねれば「ぽよん」と擬音でも付きそうなくらい立派なものへと成長した。 腕と脚は掴めば折れてしまいそうな細さへと変わり、袖口から顔を覗かせる手指もまた可憐。ズボンが変容し、いつの間にか露出させられていたその脚も筋肉らしいものを見せず、皓々として妙齢の女子らしいものに。 そんな彼ももうこの世界では女子高生。当然、この学校に通う上ではその性別に合った学生服を着用している。つまり、首元には赤のリボンが結ばれ、ブラウスの上にはやや時期外れのブレザーが羽織られ、膝丈ほどのプリーツスカートまで身につけて、彼女は僕の前でちょこんと座っているわけだ。 「男って生き物は庇護欲が強いらしくってね。君みたいな…その、言い方は悪いかもだけど、ドジで小さな女の子は、とても魅力的に映ってしまうみたいなんだ。だから、君のそれはむしろ長所なんだよ」 僕がそう言ってあげると、彼女は朗らかにはにかんでみせて、やっぱりお礼を残して帰っていった。相談者は女子にされてしまったというのに、みんな元凶の僕に恨みなんて抱けないのだ。 扉の向こうで、彼女が誰かに謝罪する声がした。きっとドジで他人から認識されにくいほど小さな彼女が人とぶつかることは珍しいことでもないのだろう。 けれど、今の彼女は男だった時とは違う。彼女はもう、愛くるしい女の子なのだ。だからぶつかった相手も怒りを露わにするどころか、倒れた彼女を心配し、手を差し伸べてくれていることだろう。そしてそれは、今後彼女が何かをしでかす度に見られる光景に違いない。 そんな彼女の微笑ましい日常を思い描きながら、僕は手元の文庫本を手に取った。 『底辺実況者の場合』 昨今において一大ブームを巻き起こしている実況動画。そしてそれらを生み出す実況者たちは僕ら視聴者にとって羨望の対象だ。 けれど光のあるところには影もある。一部実況者がミリオン再生で鎬を削っている中で、流行りのゲームを用いてなお100回再生にも満たない底辺実況者という者も少なからず存在する。 「半年前から実況動画を撮って投稿してるんですけど……」 そして今回の相談者が、まさしくそれだった。 「凄い撮れ高があった動画も、面白い実況ができたなって動画も、再生回数がてんで伸びなくて……」 「ちなみにチャンネルの登録者数は?」 「20人……」 「……」 とりあえず手にしたスマホでお情けのチャンネル登録を済ませてから、彼が投稿したものの中で見知ったゲームの動画をいくつか拝見してみることにした。 すると、意外な事実が判明した。 「思ってたよりマトモだ」 そう。彼の実況動画は普通に面白いのだ。最低限ではあるが観やすいように編集もされていて、ゲームの実力だってかなりある。僕の見立てでは、彼のチャンネルは真っ当な評価がされれば登録者数1万人は固い。 「自分の動画に自信がないわけじゃないんです。ただ、どうしても知名度が……」 今の動画投稿サイトはまさしく戦国乱世の時代。1分1秒という間に次から次へと新たなチャンネルが乱立し、そして夢敗れ消えていく。そこに残るのは天才的なセンスの持ち主のみだ。 すなわち、そこに入り込めなければ全員漏れなく底辺だ。彼のように中堅ポジ程度の実力を備えている者でも、日の目を見ることはなくなってしまう。 つまり何が問題かというと、新人はそもそも認知される機会に乏しいということだ。だから炎上商法なんて手でも使わない限り、ちゃんとした実力があっても中々成り上がることができない。 「なにか名案とか、ないですかね……?」 よろしい。この僕が知恵と力をお貸ししよう。 彼の場合は認知度があれば、つまりネットの世界で目立ててちやほやされるようになればいい。これはある条件を満たせば、容易くクリアできてしまうものだ。 「だったら君は、今日から女性実況者だ。女子高生っていう立場を利用すれば、バカな男たちが面白いように釣れるからね」 すると彼の身体が、その在り様を変えていく。 眉は細く弧を描き、しなやかな曲線を見せる。 鼻立ちはすっきりとして顔つきの硬さを柔らかくした。 やや荒れていた唇は艶を取り戻し、ぷっくりとした膨らみと鮮やかな桜色とが合わさって可愛らしいものに変容する。 目は線というより円に近づき、瞬きの度にぱちくりとはっきりその様相を大きく変えるようになった。垂れ下がった目じりと相まって、全体的にほんわかとした印象が強くなる。 そんな女子らしいパーツが整うと、それらをまとめていた顔の輪郭も引き締まり、それでいていかにも男受けしそうな丸みのある童顔へと成り代わった。 髪の毛は尋常じゃない速さで伸び進み、ついには肩まで掛かるほどになった。やがて後ろ髪は左右に分かれて浮き上がり、それぞれがヘアゴムで結ばれてあざといツインテールを生み出した。 青髭や腕の無駄毛などは縮まり、薄れ、そして跡形もなく消えていく。そこに残ったのは瑞々しくも張りのある年頃の女の子の柔肌だ。 その細首はもはや声音を低くする異物を有さず、これからは実況によく向いた明るく愛らしい美声を響かせることだろう。 ファンサービスという名の露出も欠かさないよう羞恥の感情も薄いと都合がいい。そんな僕の思惑を汲み取ってか新しく仕立てられた女子制服のブラウスを、彼は第二ボタンまで豪快に解放し、リボンの代わりに色っぽさを備え付けていた。もうわずかに胸元が開かれれば下着さえ姿を見せ得るそのはしたない状態に、けれど彼自身は至って無頓着なのだろう。 女子が胸部に下着を付けるのは、そこに男にはない庇護すべき乳房があるからだ。当然目の前の彼もその例に漏れず、胸に大きな乳房を宿し、ブラウス越しでもわずかに透けて見えるところ、それらをピンク色のブラジャーで覆っているようだった。 特筆すべきは、その尋常ならざる膨らみの大きさだ。元来の女子を相手にしても全く引けを取ることのない、クラスで1、2位を争えるサイズのたわわに実ったおっぱいが、いかにも窮屈そうに彼のブラウスを圧迫していた。 反してその他の箇所はどんどんスリムに、そして華奢になっていった。ただそれらの変化に共通しているのは、主の女子らしさの強調だ。 そうして完成した彼は、もう誰がどう見ても美少女で、顔出し配信でもしたらすぐに人気も爆発しそうなアイドル顔負けの容姿をしていた。 「あれぇ、わたし……?」 媚びるように甘ったるい声を自然と口にする彼女。どうやら今回もばっちり仕上がったみたいだ。 「さあ、さっそく動画を撮って投稿してみよう。タグには『女性実況』って付けて、プロフィールにも女子高生だってことを記入しておくといいよ。SNSで自撮り画像もアップすれば完璧」 「あ、はぁい!わたし、がんばりまーすっ」 かなり際どいミニスカートをふりふりと揺らしながら、彼女はにこぱーとこの上なく眩しい笑顔を浮かべた。敬礼までしてみせて、あざとさがとにかくすごかった。 るんるんとスキップで部室を出ていく彼女。後ろで束ねられたツインテールは「シェイクシェイク!」と言わんばかりに彼女のハイテンションぶりをこれでもかとばかりに体現していた。 そんな彼女を見送って、僕はほっと一息つく。これで彼女もそう遠くないうちに人気実況者の仲間入りだろう。 手元のスマホを開いてみると、僕が先ほど登録したチャンネルのページがそのまま表示されていた。 投稿動画のひとつを適当に選び、再生ボタンを押す。すると投稿主の可愛らしく耳心地のいい声が実況を始めた。 『強面教師の場合』 「せ、先生でも生徒に相談しにきたりするんですね……」 「すまん、他にアテがなかったんだ」 なるべく他言無用で頼むと付け加え、体育の先生は僕に軽く頭を下げた。 この人、30にも満たない年齢だというのにやたらと貫禄のある顔をしていて、実際授業もそこそこ厳しいために生徒からは恐れられ、人気もあまりよろしくない。僕もできれば近づきたくない。いや、嫌いってわけじゃないんだけどね? そんな厳つい体育の先生がこんなところにやってきて内密に相談事だなんて、並々ならぬ事情があるに違いない。正直言って僕なんかでは荷が重いのでは? 「相談というのは他でもない……お前も察しているだろうが、俺は生徒から怖がられ続けているのだ」 「あ、はい」 「俺のナリや口調を見て萎縮してしまう生徒も少なくない。流石にこのままではいけないと思っていたところに、この相談部の噂を聞きつけ……」 そして、藁にもすがる思いでやってきたと。 「……」 なんだ。そんなことか。神妙な面持ちをしていたから、一体どれだけの無理難題が飛び出してくるのかと身構えていたのに、なんてことはなかった。 「つまり生徒から怖がられない、親しみやすい教師になれたらいいんですよね?」 「あ、ああ。しかしできるのか?」 「当然」 ところで、この学校には女子生徒がやたらと多い。誰のせいかはさておいて。 生徒と先生の関係は上下関係だ。一般的に言えば、お互いが親密になることは珍しい。けれど"彼女らがもし同性であれば"、心の壁も多少は薄まるというものだ。 さらに女性という生き物は男と比べて威圧感がなく、見る者に安心感すら抱かせる。これを利用しない手はない。 そして先生のその性格を穏やかにして、顔付きも柔和なものへと変えてあげれば、みんな自然に先生との距離を縮めてくれるようになるだろう。 結論、 「先生は女性教師になればいいんじゃないでしょうかね」 「は?」 すると、彼のガタイのいい身体はみるみるうちに縮まり始めた。 筋肉にあふれていた腕や脚は細くしなやかに、さらに脂肪が充てがわれて柔らかそうな質感に。さらに男らしかった毛深さも鳴りを潜め、既に無駄毛の1本も見当たらない。そうして露出された肌は妙齢の瑞々しさを蓄え、濁りもない清廉なものに。けれど体育教師というだけあっていくらか健康的な日焼け跡は残されていて、それがどこか大人の色気を思わせるアンバランスさを生み出していた。 そこらじゃ見かけないくらいに雄大だった肩幅もきゅうきゅうと狭く小さく頼りなさげなものに変わり、さらにカジュアルなタンクトップは膨らんでいく先生の胸の形、その大きさを惜しげもなく露呈させ、あまりのぴっちりさに乳首が浮き立つほどになる。 短パンも臀部の変容に悲鳴を上げる。骨盤は自ら赤ちゃんを産むために幅広の仕上がりになり、その上部では女性特有のくびれまで見られる。足元は無意識なのか内股気味になっていて、男性が無意識で座っていられるような足幅ではなくなっていた。 幾度となく生徒を威圧してきた低くドスの効いた声音は、もうその喉仏のない喉から発することも叶わないだろう。 そしていよいよその強面にメスが入る。 細目は徐々に円弧を象り、ぱっちりとしたものに変わってその黒瞳を大きく見せる。それらが瞬きをする度に、萌え立った睫毛も上下に揺られ目にする者を惹きつける。 ゴツゴツとしていた顔立ちが丸みを帯び始め、全体的に柔らかな、女性のような作りに変容していく。 角刈りだった髪の毛がうねりだし、波打つほどまでに伸びていく。櫛を掛けずとも整然と伸び並ぶ、絹のように繊細で煌びやかなショートヘアはその色めきを増していき、明るめの茶髪へと変貌を遂げた。 あの厳つかった体育教師も、今やすっかり女性の色気を醸す妙齢の女教師になってしまった。 「さ、これで先生も溶け込みやすくなるでしょう」 僕がそう言うと、先生は朗らかな笑みを浮かべた。 「ええ。ありがとう。おかげで私、これから上手くやっていけそう」 退室時にはお茶目にウインクまでしてみせた彼女は、きっともう生徒から恐れられることのない親しみやすい先生として、その教鞭を振るっていけることだろう。 ただ、そんな彼女の人気の有するところは人格だとか教師としての能力だとかじゃなく、もっと別のところに依存しそうだなとも思った。 すなわち、 「見た目がエッチすぎる……」 あのいやらしい体つきでタンクトップにハーフパンツ。たしかにこの学校は規則だとか風紀だとかに相当ルーズ(僕がこんな胡散臭い活動を続けていられるくらいには)なわけだけど、あれはちょっと、教育的にマズくないだろうか。 「……」 僕はしばらくの間、ある部分がテントを張らないような座り方を余儀なくされた。 『学年2位の秀才の場合』 ※作者は大学受験の推薦入試制度に関しては無知と言っても過言ではなく、さらに今作を執筆するにあたって情報収集も行いませんでした。そのため現実の事情と乖離した状況を前提に話が進行している恐れがありますが、その場合は「この世界ではそういうものなんだな」と軽く流していただけますと幸いです。 以下本編↓ 「ああまったく忌々しい……」 そんな小言を吐き捨てる彼は、模試で常に学年3本指に入る超優等生君だ。まあ、こんな部室を訪ねてくるくらいだから、当然のごとく何かしら悩みを抱えこんでいるんだろうけれど。 「ええっと……たしか、君は前回のテストで学年2位だったよね」 彼がもたらしたどんより気味の空気に気を遣い、まず僕は彼の得意とする勉学に関係した雑談から入ることにした。 「馬鹿にするなっ!!」 「ええっ!?」 ところが、なぜかキレられた。なぜだ。 「僕は1位が欲しいんだ!それ以外は眼中にないのだよ!学年3位のキミぃっ!」 「いやばっちり眼中内じゃないか……」 そうでなきゃ順位がひとつ下の僕のことなんていちいち覚えていないはずだろう。 「いやいやでもさ?1位の彼が凄すぎるってだけで、君も十分すぎる実績をあげてると僕は思うんだよ」 一応は進学校として知られているこの学校で2番手を張れるというのは、実際かなり優秀な証だ。けれどそんな僕の賞賛を聞いてなお、彼は頑なにしかめっ面を浮かべ続けていた。 「……それでは駄目なんだ」 「?どうして?」 「あいつが望む推薦枠と、僕が望む推薦枠とが被った」 「……なるほど」 事情が読めた。 どうやら彼は推薦入試で大学を目指すそうで、しかし不幸にも学年1位の男子と志望校がバッティングし、推薦枠の定員がたった1名なために志望先を変えざるを得なくなったのだ。 「ああああああああああああ」 「いや悲観しすぎでしょ……ていうか、一般で受験すればいいだけじゃないか」 「一般!?一般だと!?それで万一落ちたらどうするんだ!?僕はどうしてもあの大学に入らないといけないんだっ!!」 「……」 この子、来るところ間違えてないかな。ここは精神科じゃないんだけどな。 「そもそも推薦枠の定員を男女で分けていることがナンセンスなのだ!時代錯誤なのだ!」 と、そんな彼の戯言の中に、ひとつ気になるところがあった。 「……へえ。僕は詳しく知らないんだけど、大学への推薦枠って男女ごとに割り振られてるんだ?」 「うむ、あそこの大学だと男女で1名ずつだ!だから余計に歯痒くて仕方ない!あいつがもし僕と同じ男でなければ、あの推薦枠は間違いなく僕のものになっていたのにっ!!」 なるほどなるほど。それはなんともありがたいことだ。 「逆に言えば、君がもし彼とは違って女子だったなら、問題なく推薦枠に入り込めたってことだよね?」 かくして、お約束の変貌が始まった。 角ばっていた顔つきは丸みを帯び始め、しかし顎先はすらりと締まって凛然さを窺わせるものに。 一文字に閉じられた唇は身持ちの固さを思わせる。けれどそこには女の子然としたあでやかさがはっきりと見て取れるようになった。 鼻筋はやや高くなり、それが彼女の風格をより際立たせ、きりっとした眉とよく似合う。 勉強のしすぎだろうか、人相を悪くさせていた鋭い目つきはより円形に押し広がっていき、ややつり目気味と言える程度に整えられるとより利発そうな印象を生み出した。その周りを男のそれとは異なった睫毛がささやかに彩り、彼の持つ雰囲気を華やかなものにさせる。 黒縁の眼鏡はレンズの面積を収縮させ、薄くなったフレームは鮮やかな赤色に染まった。勉学に専心する彼のような人間でも、女子であったなら年相応のおめかし心には抗えなくなるらしかった。 透き通るような色白の肌は彼が日に焼かれることのない日常を過ごしていることを判然とさせるのみならず、身体が有り得べからざるホルモンに支配されたことを物語っている。 彼の肩を撫でる濡羽色の髪の毛は見るからに毛並みが変わっていて、それらはやがて後ろで1本に括られて短めのポニーテールを形成した。 そして変化は頭部に留まることを知らない。 几帳面そうな彼の性分どおりに制服は模範的な着衣のされ方をしていた。ただしそれらは女子用の物だ。 スカートは座っていても膝を覆い隠せる程度に拵えられていて、ブレザーのボタンもきっちり前2つが留められていた。ぴちっと結ばれた首元のリボンは、いっそ初々しい印象さえ抱かせる。 そんな彼のブレザーの胸ポケットが男子では有り得ないくらいに盛り上がっているのは、何か小物でも仕舞われている、というわけではない。それは双丘とでも表現するのがおよそ適当な、それぞれ乳頭を先端に胸板から隆起したもので、間違いなく女性の乳房といって差し支えのないものだった。 服越しからでもはっきりと彼の身体が小さく、華奢に変容していくのが分かる。きっとスカートの裏に隠れたショーツの、その内にはもう男の象徴と呼べるものは存在していないのだろう。代わりに女性の象徴である陰部が形成され、いずれ来たる女性としての役割を果たせるよう性成熟に邁進しているに違いない。 スカートから伸びる脚はやはり運動量に乏しそうな、見るからにひ弱なナリをしている。それはおよそ彼女の両腕にも言えることだが、代わりに右手の中指先には日頃の弛まぬ努力を匂わせるペンだこが見て取れ、それは彼女の威厳というものをささやかに主張しているようだった。 そうしてすっかり生真面目そうな女子学生へと変身した彼女は、ほうと一息ついてから、 「そっか……これで"私"、第一志望の推薦入試に挑戦することができますね」 そう嫋やかに微笑む彼女からは以前のむさ苦しいガリ勉感が払拭されていた。落ち着きがあって淑やかそうで、大和撫子らしい柔和な笑顔がよく似合う女の子だ。 「ありがとうございました」 慇懃に頭を下げて部室から去る彼女。その胸中は来る前と違って晴れやかなものになっていることだろう。 これで1位君と2位さんは揃って同じ大学の推薦入試を受けることになる。もしかしたらそれを切っ掛けに彼女らは親交を深め、ゆくゆくは恋愛事にまで発展していったりしちゃうかもしれない。 それは元の彼であれば文字通り反吐が出る思いかもしれないが、そんなこと僕には関係ない。彼女が色恋沙汰に現を抜かして勉強を疎かにし、期せずして学年2位の座を僕が手にできたらとか、そんな邪な気持ちは一切ない。本当だよ? ともあれ、またひとつ悩める子羊を救ってしまった。今日もよく働いたなぁ。 僕はそんな達成感を胸に抱きながら、今話題の文庫本を鞄の中から取り出した。 ↓ その2 https://tsfnowana.fanbox.cc/posts/3361094