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孔明の罠
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憑依・催◯アプリ その2

 私が千春の身体に戻されてから、岩崎先生はさらに私にいくつかの催眠を施した。  言葉遣いや仕草、態度、振る舞いを常に水上千春本人のものにしなければならないという催眠。  岩崎先生を絶対的な存在として、この身この心のすべてを彼に捧げるつもりでご奉仕しなければならないという催眠。  そんな自分をこの上なく誇らしく思い、彼に尽くせるこの状況に最大級の幸福を感じてしまうという催眠。  これまでの私が持ち得た記憶や理性、男としての本能がどれだけ必死に拒絶しようと、もう今の私にはこの幸福から逃れることなど叶わない。私は既に彼と私が置かれたこの状況とに、完全に虜となってしまっていた。 「買ってきました」  開いたドアから未だ催眠の渦中にある麻耶ちゃんが顔を覗かせた。その手には岩崎先生に頼まれていたお遣いの品があり、いよいよ私は覚悟を決めなければならなかった。 「ま、生でやらないだけ感謝してくれよな」 「あ、んぁっ♡は、はひっ!あ、ありがとうございますぅんっ!ふぁっ……んゃうっ♡」  喘ぎ声に乱れただらしのないお礼は、当然『長瀬智和』の本心からの言葉ではない。  だというのに、彼と一言言葉を交わしたたったそれだけのことで、私の心の奥底は仄かな暖かみを宿し、そして私の表情を恍惚とさせるのだ。 「それと……おい、まだかよ西条」 「はい、只今……お待たせいたしました。こちらになります」  さらに追加で麻耶ちゃんが用意させられていたのは、どうやら姿見らしかった。埃の被ってそうな縁を丁寧に雑巾で拭き取ってから、彼女は先生の意を汲み取ってそれを私たちの少し手前に配置した。当然、その鏡には私と先生のありのままの姿が映る。  恥部を接合させあって、卑しく腰を前後に振り続ける、情欲に乱れ狂いながらも幸せそうでいる、そんな破廉恥な女体をした私自身の姿には、もう大して興奮できなくなっていた。むしろその手の劣情は、逞しく男の人らしい身体つきをした岩崎先生の裸体にこそ抱くことができた。男として持ち得た精神はすでに掠れ切り、代わりに私の中に居付いた乙女心が産声をあげて久しい。 (この人に……この方に、私の身体をご堪能いただけている……この男体と今、結ばれている!ああ、それってなんて!なんて素敵なことなんだろう!)  下腹部がきゅんと疼き、やや遅れて愛液がこぼれだす。心身ともに満たされゆく性欲に私の嬌声は一層艶かしく、女体は歓喜の声を上げながら彼の男根を受け入れ続ける。その間も私は先生を喜ばせるために彼の胸板にたわわに実った自慢のおっぱいを擦り付けることをやめない。時折り口づけを交わせばお互いの舌を絡ませ合い、離れた瞬間に漏れ出る吐息が劣情をまた刺激する。気づけば私の両脚は無意識に彼の両脚をホールドし、彼を、彼から賜る快楽を絶対に離さないと言わんばかりの姿勢でいた。  そんな自分達を余すことなくばっちりと捉えた姿見に目を向けて、彼はこう言った。 「幸せのお裾分けってやつだ。こんないい女の痴情を独り占めしてやらないなんて、ほんと俺って優しいダチ…いや、『彼氏』だな。なあ長瀬ぇ?」  先生は催眠の効用を正しく知らない。だから私を誤解した。  今の私にとってこの身体は、もう自分にとっての性欲の捌け口になんかならない。この身体も私の思考も、ただ先生を悦ばせるための道具なんだと、今なら理解できる。だから、そんな水上千春を鏡越しで目にできたところで、そのことに性的な興奮を抱けた男の私はもういない。 「さ、ラストスパートだ!俺の股間も、精液も !きっちりその可愛らしい腹の中に収めてくれよっ!」 「あっ!は、はいっ!♡ん、ふひゅっ!先生のっ、あっあっ、い、いっぱいっ!出しちゃってくだしゃいっ!♡」  ああ、私が先生を満足させないとなのに、私が先に果ててしまってどうする。そんな理性が一瞬私を快楽の渦から引き戻そうとして、けれど私の精神はもとより、この身体も、もう先生による怒涛の猛攻に陥落寸前の状態だった。 「ふっ、はぁっ!ん、ふぅっ!んあ、ぅやああああああぁぁぁ…………ぁ、はぁっ♡」  朦朧とする意識。行為直後の気怠い身体。しかし私は最後の気力を振り絞って、彼の胸元に顔を埋め、 「ぃわしゃき、せんせ♡……だぁいすきっ♡」  本心からそう呟いて、私は意識を手放した。  鳴り響くチャイムに跳ね起きると、先生も同様に身体を起こした。 「ちっ、もう下校時間か……仕方ねえ、おい長瀬」 「……すか?」 「あん?」 「今日、私の家、家族いませんけど、来ますか?」  『岩崎先生を絶対の存在としてご奉仕しなければならない』。それは可能な限りで私の行動方針となり、であればより岩崎先生に満足してもらえるよう、都合よく人のいない我が家に彼を誘うのは、至極当然のことと言えた。 ××× 「あの、私たちどこに向かってるんですか?」  ある日の休日、私と岩崎先生はとある街の集合住宅へと足を運んでいた。 「着いてからのお楽しみだ」  そして古びた一室、その前に立ち止まって先生はインターフォンを押した。 「……あ」  ふとその部屋の表札を見ると、なるほどいかにも嗜虐心の強い先生好みのシチュエーションだと気づいた。  私はスマホを取り出した。そこに住んでいる人は私たちにとってまさしくお誂え向きのターゲットだった。 「改変モード、さっそく使ってみたくってよぉ」  改変モードとは、私の持つ『憑依・催眠アプリ』に新しくアップデートされた機能のことだ。大雑把に説明すると、人のステータスを好き放題に弄れるというもので、そのことを先生にお伝えしたらすぐさま呼び出され、こうしてここまで連れてこられたわけだけど、ようやくその理由がはっきりとした。 「なるほど、『私』を実験体にするんですね?」 「おう。文句はないな?」 「もちろんですっ」 「はーい、どちらさま……ああ、岩崎か。ん?そっちの子は……」  久方ぶりの馴染み深い彼を見て、私は一歩前に出た。 「お久しぶりです長瀬さん!突然ですがあなたには、岩崎先生に見合うような、素敵な女性に生まれ変わってもらいますっ!」  そして私は、呆けた彼にカメラの照準を合わせてーー 了


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