昼間でもすっかり風が冷たくなってきた12月のある日。
期末のテスト期間だということもあり、正午にはもう生徒の姿がない校内に寂しく足音が響く。
「…多部の奴、なんなんだいきなり。」
風紀委員の用事があった為1人残って作業をこなしていると、突然多部の奴からメールで呼び出された。
こっちは忙しいのになんなんだ、もう下校時刻は過ぎてるぞと、独り言で何度も不満を漏らしながら行く先は掃除用具室。
大掛かりな掃除に使うような専用の器具を保管する所で、もともとは普通の教室だったこともあり普通の用具室よりかなり広い。
僕にとってはただの倉庫ではなく…以前多部とちょっとした事が起きた場所でもである。
全く、どうしてこんな怪しい呼び出しに素直に従っているのか…まあ、見知った生徒を無視するのもどうかという話ではあるし仕方ないが。
――――。
多部の奴と鰻の件(何故鰻であんなことになるんだ)があってから半年ほど。
僕のような人間があんなに適当で奔放な女の相手をしている事は奇跡に近いが、何故かあれ以来多部とは妙な縁が続いている。
定期的に放課後の食べ歩きに付き合わされたり、風邪を引いたから看病しろと突然家に呼び出されたり(あの時は酷い目に遭った)と、多部の事を知る機会が増えた。
ぼけーっとしていても風紀委員として注意すれば嫌そうな顔はするがそれなりに話は聞くし、それなりに成績も良く、それなりに友人思い…と思ったよりも普通の生徒だった。
あの奔放さには風紀委員としてはほとほと困ってはいるが、普通に話す分には割と楽しい人間だとは思う。
多部が美味いものを口にした時の表情(かなりまずいものを口にした時の表情も)は面白いものがあるし、独特の表現で味がどうの食感がどうのと感想を述べるのも聞いていて興味深い。
最初こそは放課後に食べ歩きなんぞと渋ってはいたものの、多部と食を通じた会話を交わす内に不思議と口元を緩めている事が多くなった。
今ではそれこそ友人と言って良いくらいには交流があるだろうし、僕自身も多部が友人かと問われればまあ不本意ながら肯定するとは思う。
…事故や罠のような形で不純異性交遊に付き合わされることさえなければ、だが。
今の僕は多部のあの不純異性交遊への積極性のせいで非常に厄介な状況にある。
どうやら多部は僕の…何かを気に入ってしまったらしくこれまでに何度も誘われては断りと厳重な注意をしてきているが、不純異性交遊の点だけはいくら話をしても聞いている感じがしない。(全くそう言う時の多部のニヤニヤした顔と言ったら不愉快極まる)
用具室へ向かう僕の警戒心はそこにあった、多部のことだ、そんな所に呼び出すのは何か企んでいるに違いない…。
――――。
建て付けの悪くなった戸がガタガタと大きな音を立てる。
「あ、いいんちょ。」
用具室には暇そうに座って脚をブラブラとさせている多部がいた。
相変わらず気が抜けるような声で気が抜けるような呼び方をしてくる。
「いきなり呼び出してどうしたんだ?もう下校時刻だぞ。」
風紀委員としての注意は一応済ませておいて、こんな場所に呼び出された理由が気になって話を聞く。
「ん~、いや、いいんちょ最近風紀の当番頑張りすぎて疲れとるやろ?そんでちょっと心配なっただけ。ほら、これ。」
そう言った多部は相変わらず何を考えているのかわからない顔でラベルのない缶を差し出してくる。
「当番とか言うな。風紀委員だ。あと忙しいのは多部みたいな生徒に原因があるんだがな…って、なんなんだ、これ?」
「栄養剤なんやけど、よう効くらしいからあげる。ほら、2本あるし一緒に飲も。」
どう見ても怪しい感じだが、からかっているような様子もないので受け取ってみる。
「見たことないな、こういうの…。」
大口の蓋を回して開けてみると、確かに滋養強壮剤特有のあの匂い。
「お前はどうも怪しいもの好きだよな、どこで買ったんだこんなもの。」
「…んー?いや、これ雛ちゃんの家で貰ったやつなんよ。ウチはこういう味結構好きやけど、いいんちょはどう?」
多部に目をやるともう缶に口をつけており、こちらの感想を待っているようだった。
「……。」
多部と手元の缶を交互に見やる。
(まあ、多部の知り合いのものならおかしなことにはならないか…。)
「なに?ウチの飲みさしの方がええんやったらあげるけど?」
「なッ、何を言ってるんだそんな訳無いだろう!」
ニヤニヤしながら差し出される飲みかけを慌てて拒否し、手元の栄養剤を見る。
「…まあ、大丈夫だろう。」
あまり怪しんでばかりなのも悪いかと思い、小声でそう呟いてからぐいっと一気に流し込む。
「ん…。」
栄養剤の甘酸っぱい独特の風味が鼻から抜けて、やや粘度のある液体が胃に流れ込んでいく。
なんとなく高そうな感じがする口当たりで、生姜か何かが入っているのか身体が温まるような感じがする。
「ん…味は意外に普通…というか結構いいな。」
「なんよ意外って、まずいもんなんかウチが一番イヤやもん。」
「はは、まあそうだな。気持ちはありがたく受け取っておく。」
少し疑ったことを心の中で反省しつつ、缶の蓋を閉めながら礼を言う。
「…で?元気なってきた?」
いつの間にか立ち上がって側にいた多部がそう言いながら、ジロジロと観察するように僕の顔を覗き込んで来る。
「な、いやこういうのはそんなすぐには効かないだろうっ。」
息がかかるような近さに情けなく慌てる、多部の不意な距離感には未だに慣れない。
「こういうのはわかりやすく効果があるわけでもないだろう、し…ッ!?」
と、そう言い終わる前にドクン、と心臓が跳ねる。
「あ…、いいんちょ、来たんちゃう?」
あぁやはり、やはりか多部。
またかこの野郎という怒りと、いい加減学習しろよという自分への怒り。
「う…ッは、ぁ…っ」
通常であれば何かしらの疾患を疑う早さで心臓が鳴り続け、巡った血が全身に熱を伝えて回る。
「多部っ、お前、これ…っ」
「あ、やっぱり効いてきたなあ?ン…っウチも…ッ」
全身に広がった熱が股間に集中し始め、まるでそこに心臓が移動したのかと思うほどどくどくと脈打つ。
多部の奴はというと、こちらと同じような事になっているらしく僕を見ながらもじもじと股を擦り合わせて息を荒げていた。
「お前っ、これやっぱり、アレだろ…ッ!」
多部を睨みつけながらわかりきっていることへの確認をする。
「まあ、そやなあ?元気になるっての、まあ色んな意味で…な?」
そんな事を言いながら多部がストッキングと下着を下ろして、女子にしては背の高い多部が僕にのしかかるようにして体重を掛けて抱きついてくる。
「やめ、むぐ…っ」
控えめな胸が顔に押し当てられ、甘い匂いが鼻腔を満たす。
「んへへ…いいんちょ、今回はウチのゆーわく、我慢出来るかなあ?」
「ぐ…離…せ…ッ」
なんとか押し返そうとすると多部の身体に指が柔らかく沈み、その軽い感触すらも僕の下腹を熱く滾らせて止まらなくなる。
「ウチはいいんちょとまたシたいもん、離さへんよ…♪」
多部の体温、匂い、鼓動…そういったものが僕の中で混じり合って身体の内側から染めて行く感覚。
「う、うるさい…っ、不純異性交遊はやめろと、いつも…ッそれに、どうしてこんな罠みたいな事をッ…!?」
多部はんへへ、と笑うだけでこちらの話など少しも聞かず、細い指でパンパンに膨らんだズボンを撫でながら甘い挑発を繰り返す。
「なあ、前もここでしたやん、もう一回くらい…な?それにあの時いいんちょに思いっきり突かれたいなあって言うたの、覚えとるやろ?」
「このままいいんちょのちんちん挿入れて…ぱん、ぱんって腰ぶつけて…絶対気持ちええで…?」
(…くそ…っ)
甘えたような声と卑猥な誘いが連続して、それが全身に染みて思考が蕩けるような感覚。
ああまただ、心の中に「一度だけなら」という弱い自分が出てくるのを感じる。
僕の風紀の意志が砂糖菓子のように脆く崩れて、荒い呼吸が無意識に多部の匂いを多く吸う事を目的としたものに変わって…。
「お願い…ウチ、いいんちょに犯されたい…♪」
抱きつく腕に力を込め、多部が耳元でトドメの言葉を囁いて僕の耳を甘く噛む。
「―――…ッ」
僕は腐っても風紀委員だ、どうでも良い人間相手ならここまで流されてしまう前にめちゃくちゃに説教でもするか逃げ出している所だろう。
なのに多部と来たら、なんなんだこいつは、こんなに適当で奔放で何を考えているかわからない女なのに。
どうして僕はこんな…。
―――訂正だ、こいつはやはり友人なんかではない、僕の風紀を破壊する悪魔だ。
(本番に続く。)
――――――――――――――――――――――――
栄養剤(特製)(伏見向○春・○宵の影)
時間がないので今回の文と絵は少し粗めですが本番絵に続きます。
コミッションを間に挟みますがその後に描きますのでお楽しみに!
きつね(仮)@絵仕事募集中
2020-11-23 11:59:40 +0000 UTCもっちり
2020-11-23 11:12:52 +0000 UTCきつね(仮)@絵仕事募集中
2020-11-23 08:09:21 +0000 UTCsaga
2020-11-22 20:56:35 +0000 UTCきつね(仮)@絵仕事募集中
2020-11-22 12:13:11 +0000 UTC西中タニシ
2020-11-22 12:06:11 +0000 UTCきつね(仮)@絵仕事募集中
2020-11-22 07:16:09 +0000 UTC里の人
2020-11-22 07:11:52 +0000 UTC