人形美術館 二部屋目
Added 2025-08-02 04:25:54 +0000 UTCまだ震えているミロのヴィーナスを後にして、次に行くことにした。メイド人形は、それを察して、次の部屋へと先導して歩いていく。 中に入ると、正面には、大きな絵画があった。いや、絵画と言って良いものか。モチーフになっている元の絵画は、ヴィーナスの誕生だ。描かれた人物は、皆デフォルメされているが、構図や背景から明らかだ。しかし、この作品には、奥行きがあった。二次元の上に表現された奥行きではなく、現実のものだ。壁に嵌め込まれた金の額縁の奥に、部屋のような空間があった。左側には、女性を抱きかかえたゼフュロスが描かれたパネルが、吊り下げられている。右側には、花柄の服を着た女性のパネルが立っている。このほかにも背景の木や、草花、奥の海も、壁の奥の空間で、元ネタの奥行きを再現している。 立体絵画、とでもいえばいいのだろうか。唯一、明らかに、ボッティチェリの絵画と違うところがある。主役のヴィーナスがいないのだ。真ん中で貝殻の上に立つべき女性は、そこにはいない。閉じた大きな二枚貝が鎮座している。 そういう作品として鑑賞すれば良いのか。あまりにも何も分からないまま、数字が書かれたパネルを発見し、リモコンのボタンを押す。もう馴染みのブーンというノイズが部屋に流れ始めた。 「‥こちらは、ボッティチェリ作 ヴィーナスの誕生を人形で再現した作品となっております。ルネサンス期を代表する作品の一つであるヴィーナスの誕生は、ギリシア神話をモチーフにしております。‥」 心なしか、ガイド人形も胸が上下しているような気がする。 「‥ルネサンスとは、再生の意であり、先ほどご覧いただいたミロのヴィーナスなどに見られたような、人間らしい美しさを描く美術の復興が‥」 改めて壁の中の絵の世界を覗き込むが、そこに人形はいない。 「‥実際に、絵の中に入ってじっくり鑑賞ください。動きのある絵画を完成させるのは、観客です。ヴィーナスを誕生させましょう。」 ノイズの名残が消えると、ガイド人形は、ほっとしたように動きを止めた。もはや驚かない。壁の中へと足を踏み入れようと、手に力がこもった拍子に、リモコンのボタンをもう一度押してしまった。先ほどの再現のようにノイズと音声が流れ始めた。さっきと違ったのは、人形が一緒ぴくりと慌てたように見えたことくらいだ。 虚しく説明を続ける人形を置き去りに、絵画の中に入ると、少し暑い。熱がこもりやすい構造なのかもしれない。閉じた巨大な二枚貝をよくみると、細いワイヤーが巻かれていて、開かないようになっているようだった。奥まで入って部屋の方を振り返ると、両脇の人物のパネルの裏側が見えた。その奥では相変わらずガイド人形が誰もいない部屋に向かって、作品の説明をしている。 ふと、ゼフュロスのパネルの裏に何かが取り付けられているのが目に入った。近づいてみると、ドライヤーがパネルに付いていた。確かに風の神だが、安易な仕掛けに過ぎるような気がする。そのドライヤーの向かう先を見てみると、ちょうど貝殻の蝶つがいのあたりに当たるようになっていた。丸く穴が開いていて、同じ色のメッシュで覆われている。ワイヤーの留め具もそこにあったのだが、何やら白い塊でコーティングされている。 ドライヤーのスイッチを入れると、強めの熱風が吹き出した。草や木を揺らしながら絵画の中の温度が上がっていく。貝殻が、ガタガタと揺れ始めた。 1分ほど経ったとき、蝶つがいの留め具を覆っていた白い塊がどろりと溶け落ちた。蝋で固めていたのか。それと同時に、ワイヤーがシュルシュルと巻き上げられた。 閉じていた貝が開く。中を覗き込むと、裸の女性が入っていた。いや、人形だ。体を胎児のように丸めていた人形が、起き上がる。貝殻の中で座ると、大きく伸びをした。露わになった脇の下は、濃い肌色に変色してシミになっていた。首元にも同じシミがある。 ゆったりとした動作で立ち上がると、手で股間と胸を隠すようなポーズをとって動かなくなった。なるほど、これで誕生というわけか。肩も腹も大きく動いているが、それ以上の動きは見えない。長い亜麻色の髪を一つにまとめたその姿は紛れもないボッティチェリのヴィーナスなのだが、顔はやはりアニメキャラクターのそれである。 隠しているようでほとんど隠れていないポーズは、原作がよく再現されている。がら空きの脇腹を指ですーっとなぞると、ぴくっと反応する。なぞる指を増やすと、プルプルと震えている。手を離すと、ふーっと息をつくような音がした。軽く爪を立てて、5本の指でこしょこしょと脇腹をくすぐると、逃げるように腰をくねらせるが、すぐに元の姿勢に戻って震えている。そのままくすぐり続けていると、悶えるように身体をくねらせる。動きのある絵画というのはこういうことかと、ひとり得心する。 空いた手で、閉じた脇の下に指を捩じ込んでくにくにと動かすと、これも効いているようで、体が大きく揺れる。指は暖かくて湿った布地を擦り続ける。そうしていると、隠せていなかった方の胸の先端が尖り始めたのが分かった。首筋や、鼠蹊部、太ももなど、くまなく撫でまわして反応を確かめていく。まるで人間みたいに悶える人形は、指をゆっくり動かせば、動きを堪えるように震え、激しく引っかき回せば、逃れようとするように身体をくねらせた。指を立てて脇腹をくすぐりながら、布地に浮き上がった突起を摘んでくりくりと左右に捻る。さっきの石膏像とは違って色がついているからか、生き物を触っている感覚が強い。だが、これは人形だ。触られれば震えるようにプログラムされているだけだ。 しかし、見えていないところまではどうなのだろう、とふと思った。もう片方の膨らみは手で乳首が隠れている。もしかしたら、そもそも乳首を作っていないかもしれない。試しに、腕を動かしてみると、思いのほかスムーズに、可動式のフィギュアみたいにポーズを変えた。果たして、隠されていたそこは、じめっと濡れていて、その真ん中につんと尖ったものがあった。そこも、爪でカリカリと引っ掻くと、しっかり震えるようになっている。 随分とディテールまで作り込まれている。それに、簡単にポーズまで変えられる。まるでデッサン人形だ。色々いじってみると、指先まで動かせるようだった。 ならばと、人形を座らせてみる。そして、膝を立てて両脚を大きく開かせた。M字開脚の状態だ。左手が長い髪を持って股間を隠したままだ。その手を動かすときだけ、少し力がいるようだ。両手をピースの形にして、顔の横に置くと、実に破廉恥なポーズが出来上がった。高校の美術の時間にデッサン人形をいじって遊んだことを思い出す。ぷるぷると震えている気がするのだが、仮に人が中に入っていたとしても、この暑さで震えることはない。まして人形なのだから羞恥心などあるはずもない。改めて見てみると、やはり全身のあちこちに液体が染みたようになっている。内部に何か仕込んでいるのか、脇の下を指でまさぐると、人形が脇を閉じようと一瞬動いて、それでも震えながら元のポーズに戻る。10本の指でこちょこちょと、脇の下から首筋へ、また脇の下を通って脇腹へと探るが、内側には柔らかい素材が詰まっているだけのようだ。身体を捩る仕組みも全く分からないが、どんなに激しくくすぐっても無防備なポーズに戻る。下半身を同じように触っていると、ちょうど股間のところが、少し他と違う濡れ方をしていた。何というか、ぬるぬるとしている。刺激を与えると、布の奥で何かが蠢いている気配がする。反応が面白くて、そこも激しくくすぐっていると、人形の脚が暴れて動いて何かに触れたのか、カチャリと固い音がした。音の方を見ると、貝殻の台のクッションから、玉のようなものがはみ出している。何だろうと、手を離すと、人形はまたM字開脚とダブルピースに、そっと戻った。白い玉だ。大きさはゴルフボールより一回り小さいくらいだ。引っ張ると、クッションの下から、同じ玉が連なって出てきた。真珠のネックレスのように、それは繋がっていた。一番最後に出てきた玉だけ少し違う素材のようで、ウレタンのように柔らかい。そこを握ってみると、真珠の玉がヴヴヴと振動を始めて、蛇のようにくねくねと動き回った。随分と色々なものを仕込むものだ。 しかし、そろそろ次に行こう。その前に、片付けなくては。このままのポーズをとらせておくこともまずい。そう思って、最初にヴィーナスが出てきたときの、体を丸めたポーズに戻す。真珠を置くところが見当たらないので、ヴィーナスの脚の間に挟み込んでおいた。くいくいっと引っ張ると、真珠が食い込んで、股間のところの布が少し皺になった。人形が身じろぎをする。端の玉を握ってスイッチを入れると、また振動を始めるが、しっかりと人形が挟み込んでいるから暴れる心配はない。そのまま貝殻を閉じた。完全に閉じる瞬間、人形が首を横に振ったような気がした。流石に入り込みすぎだ。人形が身悶えするたびに震える真珠は食い込むだろうが、人形だから別に気にすることもない。ワイヤーを留め直すことはできないようなので、軽く閉じたくらいだが、決して内側から開くことはあるまい。