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TAKO UNAGI
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ロボメイドカフェ後編

 ワカナは厨房からすぐに戻ってきた。 「お料理が出来上がるまでよかったらミニゲームで遊びませんか?」  客を飽きさせない仕組みは流石にエンタメ系に強いだけあって充実している。 「へえ!お願いします!なにができるの?」  アオが興奮気味に聞く。 「そうですね、では、神経衰弱はいかがでしょう?」 「いいね、コンもやるよな?!」  もうノリノリである。しかし、カードはどうするのだろう。そう思っていると、不意にワカナがテーブルに手をかざした。すると、テーブルの上に20枚くらいのカードの映像が浮かび上がった。僕たちは揃って感嘆の声をあげる。ワカナはそれを見てくすくすと笑っている。本当に人間みたいだ。 「それでは、順番を決めましょう。先手が不利ですから、私が一番はじめになりますね。アオ様、コン様、お手元の呼び出しスイッチをお持ちください。」 「あ、これ?」  テーブルに一つではなく一人一つ配置されているもののようだ。 「はい。これからこちらに数字のルーレットがでますので、よろしいタイミングでボタンを押して止めてください。数字が大きい方が2番手ということでいきましょう。」  ワカナは自分の胸を指さした。今は緑の光がゆっくりと点滅している。 「えっと、こんな感じ?」  アオがボタンを押すと、左の胸のライトが赤く速く点滅した。ピクっと反応してからワカナは頷いた。 「それでは回しますね。スタート!」  デジタルの数字が胸の中心に表示され、1から9の数字に次々に切り替わっている。意を決してスイッチを押すと、ワカナが小さく震えて数字が止まった。 「6だ。アオも早く押しなよ。」 「急かすなよ。目押しするから。」  ワカナの胸をじっと見つめるアオを頬杖をつきながら、ぼんやり眺めた。呼吸するように動いているワカナの肩は、何か不規則なリズムで動いているように思えた。自動で動きが変わるような設定なのかもしれない。 「はい!‥おー、1!」  アオがボタンを押した瞬間、今度ははっきりとびくっと体が硬直した。毎回違う反応をするようプログラムされているのか。 「わぁ、狙いどおり!すごいです、アオ様。それでは、私、コン様、アオ様の順ですね。負けませんよー。」  そう言うと、ワカナはテーブルの真ん中あたりのカードに手を伸ばしてタッチした。肩の装甲と蛇腹の腕のつなぎ目が僕の目の前を通った。首元の素材と同じくダークグレーの布のようなものでワイヤーや配線を覆っているようだ。  ワカナは少し悩むような仕草をしてから、もう一枚カードをめくる。表になったカードには、それぞれ違うメイドロボットの写真と数字が載っていた。 「あー。外れましたー。最初ですからこんなものですよね。さぁ、コン様の番です。」  僕の番か。一枚めくると、さっきのカードと同じだった。早速ペアができた。 「おお!幸先がいいですね!続けてどうぞ!」  促されるままに、もう一度めくるが、流石に当たらなかった。 「それではアオ様の番です。」 「よっしゃ、任せろ!」  アオは最初にワカナがめくったカードをめくった。当然ノーヒントで当たるはずもなく、ワカナの番に戻る。  ゲームはサクサクと進み、最後のペアを僕が取って終わった。 「わー。全然ダメでしたぁ。」  残念そうに言うワカナは一つしかペアを取れなかった。 「コン、強すぎるだろ。」  アオは完全に接待してくれたロボットに辛勝した。 「いや、アオが弱すぎるって。」 「さて、私に勝ったご主人様たちにはご褒美です。まずは、一位のコン様。ご褒美ルーレットスタートです。」  胸がまた数字を写してルーレットが回る。ワカナはソワソワと僕の様子を窺っている。呼び出しスイッチを押すと、数字は8で止まった。 「ぱんぱかぱーん。8はワカナがハグしてあげます!」 「えー!ずるいぞコン!」  ブーイングするアオは置いておいて、立ち上がり、両手を広げているワカナに近づく。 「どうぞ!」  顔が熱い。相手はロボットなのに照れてしまう。ワカナの体を抱きしめると、少し温かい。肩パッドの内側の継ぎ目、人間でいう脇の下に触れた腕は、機体の内側の熱を直に受け取った。少し湿っているような気がする。少し腕に力を込めて抱き寄せる。何処かから空気が漏れる音がした。 「はい。おめでとうございます!では、2位のアオ様の番です。ルーレットどうぞ!」  また、胸のルーレットが回る。一瞬、ワカナの体が小さく痙攣したみたいに見えた。アオはまた顔を目一杯近づけてタイミングを図っている。 「はい!」  数字は2だ。 「2ですね。では、ご褒美は、ワカナの投げキッスです!」  そう言ってワカナは可愛らしく両手でアオに投げキッスをした。 「ありがとう‥!」  アオは胸を押さえて天を仰いでいた。どうやら満足らしい。ワカナはそれを見てくすくすと笑っているように震えていた。不意にピコンと音が鳴って、ワカナが背筋をピンと伸ばした。 「お食事の用意ができたようです。運んでまいりますので、少々お待ちくださいませ。」  ワカナはそう言ってから、深々と頭を下げて、バックヤードへと滑っていった。  少しすると、再びワカナが姿を現した。お腹の前には、お盆のような板が水平に付いていて、その上でオムライスが湯気を立てている。慎重にゆっくりとこちらへ向かっている。不規則な進み方がカタカタと皿を揺らしている。 「お待たせいたしました。スペシャルオムライスセットのオムライスでございます。」  僕たちのテーブルに辿り着くと、ワカナは料理にぶつからないように丁寧にお辞儀をした。アオは、テーブルに料理を置いていくワカナを見ながら感嘆の声をあげている。目の前に運ばれたオムライスには、ケチャップで名前が書いてあり周りをたくさんのハートマークが囲んでいた。 「それでは美味しくなるおまじないをかけさせていただきますね!まずはコン様。」  お盆をパタンとたたむと、スカートの装甲とパチンと音を立てて一体になった。くるくると巻かれていたエナメル素材のエプロンがはらりと元に戻る。 「良かったらご一緒にお願いします。それではせーの!萌え萌えきゅん!」  恥ずかしいセリフを言いながら、ワカナは僕のオムライスに手で作ったハートを向けた。驚いたことにその瞬間キラキラと効果音が鳴った。ロボットメイドならではというところだろう。案の定、アオはノリノリで一緒におまじないをしていた。 「アオ様、お上手でした!ありがとうございます!それでは、お食事お楽しみくださいませ。この後の催し物の用意がありますので、一度下がらせていただきますね。」  バックヤードへと戻るワカナにまたコインをあげて、僕たちはオムライスを食べた。  オムライスを半分くらい食べ終えた頃、アナウンスが流れた。 「間も無く、メイドロボレースが始まります。ご主人様方は是非勝敗の予想をしてみてください。」  YouTubeなどでよく聞く自動音声だ。テーブルには、レースの説明画面が出てきた。さっきのロボメイドたちが、これから店内の周りのレーンの上で競争するらしい。説明によると、さっきのハートのコインを勝ちそうなメイドに賭けるのだという。 「やっぱり俺はワカナちゃんでいくわ。」  そう言うとアオは、デフォルメされた緑のメイドのアイコンの上にコインをいくつか重ねた。その下には数字で3と書いてある。ワカナが勝つと3倍になるということなのだろう。多分、機体の重さやバッテリー残量などからオッズを決めているのだろう。他のメイドのオッズは、2倍や6倍のものもあった。僕も、アオと同じくワカナのところに数枚のコインを置いた。  スタート地点には、続々とメイドロボが集まっている。ワカナがこっちを見ているような気がしたので小さく手を振ってみると、嬉しそうに手を振ってくれた。 「それではレーススタートです。よーい、どん!」  アナウンスとともにメイドロボたちは一斉に動き始めた。少しワカナが前に出ている。画面にはメイドロボたちに近いカメラの映像が映っている。 『呼び出しボタンを押して応援しよう!』  画面に表示された。試しに押してみると、ワカナの胸のライトが赤く光った。それと同時に肩がびくっと反応した。  コースはアップダウンがあったり、くねくねとカーブしていたりなかなか進みにくそうだ。そんな様子を見ながら僕たちは、呼び出しボタンを連打しまくった。ワカナは速くなっている。もうゴールも近い。  最後の直前に差し掛かって、次第にワカナは失速してきた。他の機体も追いついてくるが、皆のろのろとどんどん遅くなっていた。ついには、完全に止まってしまった。肩が大きく上下している。 「疲れちゃったのかな?そこまで再現するのすげぇな。」  アオがしみじみとつぶやいた。 「ボタンの押しすぎとかかなぁ。一回押すのやめてみる?」  アオに言って2人でボタンの連打をやめてみた。テーブルには相変わらず『呼び出しボタンを押して応援しよう!』と表示されていた。 「やっぱり変わんないな。もう一回押してみるか。」  僕は頷いて、ワカナを観察しながら、アオの『せーの』という声に合わせてボタンを押した。ワカナの体がびくんと反応した。それと同時にワカナが前に進み始めた。 「お、効いてるっぽい。」  アオの声に僕も頷いてまたボタンを繰り返し押す。他の機体も次第に動き始め、ワカナを追い始める。わずかな距離ながら熱いデッドヒートが繰り広げられていた。ワカナは先行していたリードをなんとか守り切って、一位でゴールインした。アオの歓声を聞きながら、激しく呼吸している様子のワカナを眺めた。ねぎらいの気持ちを込めてボタンをもう一度押してみると、びくっと反応して気づいたようだ。こっちを見て大きく手を振ってくれた。   「レースすごかったよ、お疲れ様。」  バックヤードに戻ったかと思うと、ワカナはすぐに、デザートとコーヒーカップを運んで僕たちのテーブルにやってきた。アオが声をかけてコインを渡すのに僕も倣った。ワカナが勝ったことで、テーブルに置いていたコインには、数字の3が浮かび上がっていた。3倍の価値ということだろう。渡すとワカナはとても喜んだ。 「レース頑張って良かったです!あ、それではコーヒーを注ぎますね!」  そう言うとワカナは、背中に手を伸ばし、リュックのような背中のパーツからノズルを伸ばしてきた。まさかと思ったが、そこから黒い液体がコーヒーカップへと注がれていく。 「おいしくなーれ。おいしくなーれ。はい、できました。お砂糖とミルクはどうなさいますか?」 「じゃあ一つずつお願い。」 「僕は大丈夫。」 「わぁ、コン様はブラックなんですね!かっこいいです!では、アオ様のコーヒーをあまーくしていきますね!まぜまぜーまぜまぜー。はい!できました!」  それから、ワカナはずっとテーブルに付きっきりだった。スペシャルセットのサービスで、デザートの最初の一口を食べさせてくれるときも、くだらない話で盛り上がってる最中も、ワカナの肩はずっと大きく動いていた。レースの疲れが取れていないと言う設定なのだろうか。  いくつかミニゲームをしたが、アオは弱すぎて話にならなかった。勝ったご褒美で、またハグをしたが、今度は装甲の隙間が濡れているのが明らかにわかった。そういえば胸のルーレットの時のワカナの反応もさっきよりも大きくなっていた気がする。    1時間はあっという間に過ぎて、帰る時間になった。 「えぇ、もうご出発ですか?寂しいです〜。」  ワカナは、アーモンド型の大きな目に手を当てて泣く仕草をしている。 「きっとまた来るからね!今日は楽しかったよ!」  アオがそう言って立ち上がる。すごく名残惜しそうだ。恥ずかしながら僕も同じ気持ちだった。ワカナは、カフェブースの出口まで見送ってくれた。最後にハイタッチした手は汗で濡れたみたいにびっしょりで、温かかった。 「またこような。」  アオの言葉に僕は無言で頷いて、秋風の中へと歩いて行った。


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