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TAKO UNAGI
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短冊に願いごとを オンステージ

 そのまま、外に出てグリーティングをしながら、ステージ控え室へと移動した。キャラを知っている人も知らない人も、皆手を振ってくれる。ステラはその度に近寄って、丁寧にファンサしていく。小さい子には入念に、大きいお友だちには、シャッターチャンスをいくつかつくる。先輩のグリーティングは本当に細やかな気配りが行き届いていて好きだ。お客さんが羨ましくなるタイミングも多々あるのだが、仕事が終われば先輩を独占できる。自分に言い聞かせて心を落ち着けた。  ステージ横のテントに入る頃には、衣装まで汗が染みていた。ピンク色のチョーカーの生地が濡れて濃い色になっている。 「お疲れ様、ステラ。ステージの出番まで休んでようね。」  元気よく頷いて、私が用意したパイプ椅子に座る間もキャラとしての振る舞いは一切崩れない。扇風機をステラの方に向けてあげると、少し深く息をついたのが分かった。テントの中は蒸し暑い。いつもなら冷風機を持ち込んだりもするのだが、スタッフが私しかいないので、あまり荷物になるものは持ってこれなかった。  ステージではゲストでミニゲームに参加することになっている。七夕に因んだもの、ということで、たくさんの短冊が入った箱から三つの短冊を取り出して、組み合わせてできたお題にチャレンジする、というやつだ。地元局のアナウンサーと、ひかるさんが反対側のテントでスタンバイしているはずだ。しばらくは2人でステージを回すので、出番までは時間がある。私もパイプ椅子をステラの横に並べて座った。二の腕に先輩の熱を感じながら、扇風機の風が額の汗を乾かしていく。 「暑いね、ステラ。大丈夫?」  ステラは元気いっぱいといったポーズをとって頷くが、裏腹に肩や胸は苦しそうに上下している。私は無言で立ち上がって、ステラの後ろにまわって、ぎゅっと抱きしめた。プラスチックの匂いに混ざって、先輩のシャンプーの匂いがする。少しカビっぽい臭いもする。過去作のキャラだと長く放置されていたりするのだ。これでもまだ保存状態は良い方だろう。  ステラはじっとしていた。衣装は脇が大きく開いたデザインだ。指を脇の下に捩じ込むと、くすぐったそうにくねくねと悶えている。厚いタイツを貫通した汗が私の指を濡らしていく。漏れ聞こえてくる呼吸音は、指が蠢くたびに不規則に震えて、笑いを堪えているのが分かる。指を脇の下から滑らせて、胸の方へと這わせる。すると、分厚い衣装の上から撫でたというのに、切なそうに体がひくひくと反応している。衣装の隙間から手を入れて柔らかな膨らみを優しく揉みしだく。胸の下には汗が溜まるようで特に濡れている。それを掬って塗りつけるように指をさわさわと動かすと、中心部にコリっとした感触が当たった。やっぱりそうだ。鯉のぼりのイベントの時くらいからだろうか。先輩は、私と2人のイベントになると、お願いしなくても、自分から中に何も着ずにタイツを履くようになっていた。衣装が分厚いので透けることはまずないので安心だが、本人は気が気でないだろう。 「可愛いね、ここ、触って欲しいんだよね。ほら、なでなでー。」  硬くなったそこを優しく撫でる。震えながらステラは首を横に振る。そう。ステラなら嫌がる。でも、先輩はそうじゃない。 「誰か入ってきちゃっても、衣装直してるふりするから、安心して気持ちよくなっていいよ?」  軽く摘むと、バタバタと暴れてイヤイヤと首を振る。悪役に捕えられて責められているヒロインそのものだ。悩ましげな吐息は、マスクの中に籠って隠されている。 「ステージ、始まったみたいだよ?」  テントの外からアナウンサーとひかるさんの声が聞こえる。なかなか盛り上がっているみたいだ。先輩はステラの中で、ステージに向けて、体を鎮めなければならないと思っているのだろう。でもまだ少し時間はある。  ようやく私が指を止めた頃には、ステラから力が抜けてふにゃふにゃになってしまっていた。少しいじめすぎたかもしれない。 「大丈夫?そろそろ出番だよ?」  ぐったりしたまま、ステラは頷いて、よろよろと立ち上がった。外の声を聞くと、ステラがゲストで出るミニゲームの説明が始まっていた。手を握ってテントの出口にステラを連れていく。 「ほら、元気出して。頑張ったらあとでもっとしてあげるよ。」  髪に顔を埋めて囁くと、ステラはびくっと震えた。気合いを入れ直すようにポーズをとったら、もうちゃんとステラのキャラに戻っている。 「それでは特別ゲストに登場してもらいましょう。ピュアステラー!」  私がテントの出口のタープをバサっとあげると同時にステージへと駆け出していく。ステージ中央で立ち止まると、セリフの音声が流れて、名乗りのポーズを決めた。肩は上下しているが、動きのキレは問題ない。そのまま、流れ出したテーマソングに合わせて元気に踊ると、会場は手拍子で盛り上がる。見ているアナウンサーもひかるさんも楽しそうだ。激しいダンスから再び決めポーズをビシッと決め、またさっきまでの状態が嘘みたいに元気に動き回っている。  ちょっとしたMCを挟んで、すぐにミニゲームが始まった。全部で3回短冊のお題に挑戦する台本だ。とはいえ、全てがアドリブではなく、一回戦は練習みたいなものです、ひかるさんが挑戦することになっている。引いた短冊には、「まちだひかるが」、「持ちネタを」「3回全力でやる」とそれぞれ書いてあった。 「3回もやったら、滑りますやーん。」  などと言いながら、持ちネタを披露して笑いと拍手が湧く。 「ちゃいますねん。拍手やなくて、笑ってー!」  とぼけたように言ってオチをつけて、二回戦に移った。 「じゃあ、今回は私が引きますねー。」  アナウンサーが箱から短冊を取り出す。 「えっと、お、ピュアステラが!」  読み上げると、ステラがびっくりしたように両手を挙げた。次の箱を漁っている間、スタッフは後ろの壁に描かれた笹にさっきの短冊を貼っている。  二回戦のお題は、「ステラが ねこのモノマネで 決めポーズ」というものに決まった。 「うちもそういう可愛いんが良かった〜!」 「ひかるさん、そういうキャラじゃないでしょ!」 「なんでやねん!うちも可愛いやんな!?な、ステラちゃん?」  ステラはうんうんと頷いた。 「それではやってもらいましょう!ピュアステラ、お願いします!」  ステラが合図のチャイムに合わせて猫のポーズをとると、会場は拍手で盛り上がった。可愛い。先輩はステラの中で照れているに違いないが、それを知るのは私だけだ。 「やっぱりステラちゃんにはかなわんわぁ!」  と言った具合にひかるさんがまとめて、最後の3回戦のお題決めに入った。 「最後ですからね。ステラちゃんに引いてもらいましょうか。」  返事をするように手を挙げてから、ステラが元気に箱に手を突っ込む。 「おっと、良い勢いですねぇ。さて、最初の短冊は?『ひかるさんとステラが』ですね。おお、何をしてくれるんでしょう、次の短冊はー?『大縄跳びを』!これは大丈夫なのか?」  慌ただしくスタッフが縄の準備を始めていた。最後の短冊『10回』が読み上げられると、また会場が盛り上がる。普段のアクションを考えれば、先輩にとって難しいお題ではないだろう。  ひかるさんが何度かボケて転んだりしてなかなか10回まで跳べない。笑っているような演技で誤魔化しているが、ステラは苦しそうだ。ようやく5回目のトライで成功した頃には、息も絶え絶えになっている様子が、お腹の動きで分かるほどだった。遠目にも汗染みが見える。それでもステラは苦しさなど微塵も感じさせない笑顔だ。その裏側の先輩の表情を想像すると、お腹の下の方がきゅっとなる。 「さて、最後はお楽しみの抽選発表です。クリアした短冊の裏の番号が当選の方です。今回は全部クリアしたので、9名の方に豪華プレゼントが当たります!」  あれ?台本だと、ここでステラにお礼を行って降壇する流れだったような。慌てて手元の資料を見るが、やはりそうだ。アナウンサーがその段取りを完全に忘れている。スタッフも止める様子はない。タイミングを逃してしまったステラは、一瞬迷ったように見えたが、当選番号が読み上げられる間、跳ねたり拍手したり元気いっぱいに盛り上げていた。呼吸が整う暇もないだろう。


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