【第五話】
☆☆☆
ジューダス事務所7番会議室
「そう……狂いそうなほどに美しかった………んだよねっ☆」
「す、す、すっげー! アツい展開じゃないですか!!」
思わぬバトル展開を耳にして、それまで時間と思考が停止していた兄さん(カイ)が目をキラキラとさせて元気を取り戻したのは、愁さん(過去のシュウ☆ゾー君のこと……)とロムさんのステージが69名のやんちゃミューモン集団に囲まれ、イヴさんがひとりでその集団に向かっていって、そしてアダムさんはイヴさんの心配ではなく、そのやんちゃミューモン集団に対して「どうなっても知らないぞ」と相手方の心配をしていた、それはつまりイヴさんが地上最強のミューモンだからってこと…?
という話のあたりからだ。
兄さんてば、シュウ☆ゾー君が話してくれるエピソードのかなり最初のほうでショックを受けて以来、ずっと固まっていたから……現実逃避してヒーローものの話とごっちゃになっているのかも。あとで誤解のないように説明してあげないと。
けど、今は兄さんの事は後回しにしよう。
僕(リクだよ)は、シュウ☆ゾー君が話してくれる衝撃エピソードの数々を必死にメモしていた。けれど……正直驚きの連続すぎて、気持ちが全く追いついていない。この時の僕の緊張感は、ライブ前のそれとは全く異質な別次元のもので……文字面だけでもなんとか平静を保つのがやっとだった。
(後日、このメモをまとめる作業に入った時に、当然ながら僕の感情はコントロール不可能な、シャカリキ☆ジェットコースター状態に陥ったことは言うまでも無い)
「あのう、シュウ☆ゾー君。ひとついいですか?」
「おや、ブレイク☆タイムが必要かな? そうだね、いっぺんに話しすぎたかもしれないね☆」
「いえ、そうじゃなくて……ここから先の話は、なんというか、結構バイオレ…いえ、暴れん坊な展開なんでしょうか?」
僕がその質問をした矢先、シュウ☆ゾー君は一瞬だけ夢銀河のほうへ視線を向けてから、ふたたび僕を見つめた。いつもの……僕達が知っている、優しいシュウ☆ゾー君の瞳で。
「ごめんよ。優しいリクには刺激が強すぎたよね…☆」
「そんな、謝らないでください! ただ僕は……」
僕が言い切るよりも前に、シュウ☆ゾー君が切り出した。
「イヴはね、とってもファンタジスタ☆ストロングボーイだったんだ。たくさんのやんちゃミューモン達を、流星が夜空を横切るくらいのほんの瞬きほどの間に、指先ひとつで夢の世界へお届けしてあげたのさ。あのときの彼の姿は今でもはっきりと覚えているよ☆」
僕がメモを書くにあたり表現に悩みそうなところを、シュウ☆ゾー君なりの夢銀河ふんわり☆テイストで解説してくれた。ああ、やっぱりシュウ☆ゾー君はとても優しい。そのシュウ☆ゾー君が、昔はとてもXXでXXでXXだったなんて……やっぱり、戸惑いを隠せない僕がいる。
シュウ☆ゾー君は再び窓の外を眺めて、しばらくの間無言だったのだけど……
「さて、少しブレイクしようかっ☆ カイ、リク。何か食べたいものはあるかい?」
振り向きざま、YUMEGINGA☆EATSのチラシを颯爽と取り出して、シュウ☆ゾー君はいつものとびっきりバツグン☆スマイルを見せてくれた。
その後、僕達はジューダス☆カフェの【夢銀河パン☆ケーキセット】をご馳走になって、兄さんが用意してくれた夢銀河☆サイダーをシェアしてから……
シュウ☆ゾー君のエピソードの続きをを聞かせてもらったんだ。
★ ★ ★ ★
―再び、X年前 春―
S-river Station カフェ
【S-riverバンババン!アマチュアバンドコンテスト】は騒動の末、一旦は中止となってしまった。やんちゃミューモン達はイヴの圧倒的な強さと、底抜けの気さくさに心を打たれた。そして、「2度とこんな事はしない」と誓いを立てた彼等は、夕陽の方向にある都立東MIDI工業高校へと、一列に連なって帰っていったそうだ。
それから。
愁、ロム、アダム、イヴの4人がどうなったかというと……
愁は、コンテストで壊してしまった店長のギターを弁償するため、ロムが働くカフェでバイトをする事になった。ロムが必死に店長に事情を説明し、
「コイツは集客で絶対に貢献するから働かせてください!!」と、一緒に頭を下げたのだ。
傲慢で精神的にキッズだった愁もこの時ばかりは、
「……償うよ」
と、店長に謝罪した(ロムには謝罪していない)。
愁なりに、楽器を壊した事は悪いと思っていたから。音楽が好きな気持ちだけは裏切りたくなかったから。店長も「まあ愁くんが居ればお客さん増えそうだし」と、許してくれた。
ロムは、やんちゃミューモン達とのトラブルから救ってくれたアダムとイヴをカフェへと誘った。そこで彼等2人もまたV系好きであることを知り、なおかつ楽器を持っていたことから、V系談義に花が咲き。ポジティブ思考のロムは、当然アダムとイヴにも「バンドやろうぜ」と勧誘したのだ。
「「断る」」
愁とアダム、ほぼ同時に出たのは、Noの返答だった。
メンバー候補が揃ったと喜んだのも束の間、全力で否定されてしまったロムは一瞬落胆したものの……ここで簡単に引き下がる男ではない。
「なんでだよ!? アダムはギター出来て、イヴはベース出来るんだろ? V系好きなんだったら、丁度いいじゃねえか!」
「「黙れ」」
またも同時に、否定の言葉が重なる、愁とアダム。
ハッとしてお互いを睨みつけたあと、黙りこんでしまう。
「……チッ」
アダムは、コンテスト冒頭のあの一瞬だけとはいえ、愁の歌に魅入られた自分が許せなかった。それに、出会ったばかりの愁とロムと仲良くバンドなんて、絶対に認めたくなかった。本心ではバンド活動には興味があったのだけど……
アダムは天邪鬼なロマンチストだったから。
いわゆる「運命的な出会いと出来事と段階を経て、晴れてバンド結成」なんてヒロイックなストーリーを夢見ていたわけで。こんな形で、なし崩しにバンド結成なんて、アダムにとってはありえない事だった。夢見がちで、けど自分から言い出す事は絶対にしない、意地っ張り。アダムはそんなヤツだった。
「まあまあ、今日は知り合ったばかりなんだしさ? それより、ボク達もTwilight黒光の曲やろうとしてたんだよね〜。いいよね〜、黒光〜♪」
イヴはそんなアダムの気持ちをなんとなく察していたのか、それともV系好きの本能がそうさせていたのか判らないけれど、自然とロムとはすぐに馴染んでいて。イヴとロム、2人の間では早い段階で「バンドやろうぜ」スイッチが入っていたのだろう。問題児であり、かつノリ気ではない愁とアダムをどうやってその気にさせるか、イヴとロムの共通の課題・目的が出来上がっていた。
それからしばらくして、アダムとイヴもS-river Stationのカフェにバイト入りする。
理由はいろいろあったのだけど、駅近くのハコ【S-river Hall】では著名なバンド達が頻繁にライブをしており、音楽が好きな2人にはなんだかんだ都合が良かったから。バイトの時給も、カフェのほうがちょっとだけ良かったこともあり。
その後……
音楽好きとバイトがキッカケで、何かとつるむようになる4人。
更衣室に楽器を持ち込んでヒマな時間に合わせてみたり。
S-river近くのラーメン店巡りをしてみたり。
駅前にある制服で有名なレストランにいってみたら、
危険人物と間違われてトラブルに巻き込まれたり。
意味もなく飛行機が見たいからとモノレールに乗ってみたり。
焼き鳥屋前の路上でだらだらと、くだらない話を続けたり。
愁とアダムはず〜〜っと反目しあっていたのだけど、
イヴが間に入ることで、気まずい空気は自然と和やかになり……
この頃にはロムも本気でバンド結成を考え始めていて。
「この4人でV系やれたら、すごいことが起こりそうじゃない?」
イヴがニコニコと無邪気な笑顔で言うと、
「だろ!? イヴもそう思うよな! やろうぜ、バンド!!」
ロムがここぞとばかりに本題に入り、
「「断る」」
愁とアダムはまたも同時拒絶。
更に追い打ちで、
「ふざけるな、誰がやるか」
目線をあわせず悪態をつくアダムと、
「黙れ、バカと筋肉がうつる」
いつもの傲慢な態度で罵る愁。
そんな会話が自然と生まれるようになって、
それが4人の中でのお決まりのパターンになりつつあった。
悪態をつきながらも、なんとなく悪い気はしない。
いつからか、愁はそう思い始めていた。
何か劇的なドラマがあったわけではない。
特別に気が合うわけでもない。むしろ仲は悪い。
ただそこに、俺と、あいつらがいて、やりたい音楽が一緒だったから。
不平等な世界だからこそ、表現したい事があったから。
それが、俺が生きる理由になると思ったから。
程なくして、MIDICITYに新たなV系バンドが誕生する。
★★★★
それからしばらくして……ある日の深夜。
愁、アダム、イヴ、ロムの4人は、
S-river Stationの閉店後のカフェに集合していた。
「曲を書いた」
愁は無愛想にそれだけ言うと、デモ曲の入ったメモリープレイヤーを取り出し、テーブルへ静かに置いた。
「お前が!? マジか……聞かせろよ!」
前のめりになるロム。バイトをサボってばかりの愁の埋め合わせのため、16連勤中のロムだったが、愁のひとことで疲れは吹き飛んでいた。これまで何度も愁に曲を作れと言ってきたものの、色よい返事は一切無かった。だからロムにとっては驚きの言葉だったのだ。
「愁が書いた曲なの? ボクも聞きたいな〜。そうだ、お店のスピーカーに繋げて聞こうよ〜♪」
目を輝かせながら、期待に胸を躍らせるイヴ。
「チッ……聞いてやるよ」
不機嫌そうな目つきをしながらも、愁のメモリープレイヤーから目を離せないアダム。天邪鬼だ。
『やるからにはコピバンじゃ意味がない、自分達の曲を作らないと。』
ある日の何気ない店長の一言。バイトをサボってばかりの愁がいつも考えていた事と同じだった。メンバー達(特にロム)にも言われていたことだけど、ヤツらに言われたから書いた、と思われるのが嫌で……中々自分から曲を書いたとは言い出せなかった。けれど、身近な大人で唯一の理解者でもあったカフェ店長の言葉が、愁の背中を突き動かしたのだ。
愁はバイトをサボっている間、
心に浮かんだメロディを綴り、曲を書いていた。
そして自らの内に秘めた想いを、言葉を、詞に紡いだ。
生まれて初めて、自分の為に、自ら書いて生み出した曲。
曲の出来に自信はあった。
今の自分の想いと魂をすべて注ぎ込んだ曲だから。
意を決して再生ボタンを押す。
有線で接続した店内のスピーカーから、イントロが流れ始める。
愁にとって、初めてのオリジナル曲。
かつてピアノに叩きつけた衝動まかせの旋律とは違う、ギターによる刹那的なメロディと、不平等な世界への叫びを込めた言霊が、スピーカーを通して響き渡る。
愁が作ったデモ曲はまだ1コーラス分の未完成曲で、2分程度の尺だった。メンバー達が曲を聞いている間、愁にとってはそれが一瞬のようにも、とても長い時間のようにも感じられた。
夢を失い、気力を失い、自暴自棄で街を彷徨っていた自分が、
未練がましくも曲を書き、それを他人に聞かせている。
まるで幽体離脱したかのように、客観的な視線で己を見ているかのような感覚。
かつての自分なら、くだらないと思っただろう。
だが今は違う。
この曲で世界を変えてやるのだと、本気で思えた。
あとはこいつらが、この曲を聞いてどう思うかだ。
背中に感じた事のない緊張が走る。
生まれて初めて本気で作った作品だから。
傲慢な愁といえども、この時ばかりは不安だったのかもしれない。
無言で聞く、メンバー達。
再生が終わり、誰ともなく口を開く。
「「「もう一度聞かせてくれ」」」
それから彼等は、愁の作った曲を聞き込んだ。
何度も、何度も、何度も。
いつのまにか更衣室から楽器を持ちだし、軽く合わせまで始めて。
何十回目だろうか。曲が終わるタイミングで、ロムが言った。
「タイトルは決まってるのかよ?」
「この不平等な世界に生まれ落ちた 最期の天照、Amatelast……」
愁は詞の一節をつぶやきながら、
レジ横にあったレシートを手に取り、
裏面に文字を綴った。
「…………Amatelastだ」
それを聞いたロムは、喜々として叫んだ。
「よーーし! ウッドボールだぜ!!!!」
突然のロムの雄叫びに、愁が睨む。
「は? 何言ってんだ、お前」
アダムとイヴも、
何かを決したように愁とロムを見つめた。
頷き、ニヤリと笑ってロムは言う。
「決まり、ってことだよ!」
バンド名:Amatelast
メンバー:愁(Vo+Gt)、アダム(Gt)、イヴ(Ba)、ロム(Dr)
デビュー曲タイトル:『Amatelast』
彼等4人の、終わりの始まりの物語。
その歯車が動きだした。
(つづく)
©2022 SANRIO CO., LTD. SHOWBYROCK!!製作委員会M